106万円の壁は正しくない?

今回は、106万円の壁についてお話したいと思います。

 

平成28年に社会保険の加入基準の緩和が行われ、そのときから「106万円の壁」という言葉が使われるようになりました。

 

この106万円の壁とは、一体何を意味するのでしょうか?

 

 

 

経営者だけでなく、労働者も、この106万円の意味を誤って理解している方が非常に多いのです。

 

なぜなら、106万円の壁という言い方自体が、正確性に欠けるからです。

 

そして、この106万円の壁を誤って理解してしまうと、雇用契約に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

ですから、経営者の方だけでなく、労働者の方も106万円の壁が意味するものを正しく理解することが重要です。

 

今回、106万円の壁についてわかりやすくご説明していきたいと思いますので、是非最後までお読みいただければと思います。

 

社会保険の加入基準について

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それでは、早速本題に入りたいと思います。

 

そもそも、どうしてこの106万円という数字が出てきたのか、まずここからお話していきたいと思います。

 

この数字を理解するためには、社会保険の加入基準をまずご説明する必要があります。

 

ただ、今回は社会保険の加入基準については、簡単な説明とどめさせていただき、詳しい説明は割愛させていただきます。

 

 


なお、社会保険の加入基準につきましてはこちらの動画で詳しくご説明していますので、是非ご覧になっていただければと思います。

 

◆令和4年10月から何が変わる?いよいよパートタイマーアルバイトも社会保険加入へ


https://youtu.be/K-q4vxYpoD0

 

 


まず、社会保険には原則的な加入基準というものがありまして、これは全ての企業が対象となるものです。

 

通常の労働者の1ヶ月の労働日数、1週間の労働時間、それぞれ4分の3以上ある労働者は、社会保険に加入させないといけない、このような決まりとなっています。

 

 

 

例えば、通常の労働者(通常の労働者というのは正社員、あるいは正社員と同じだけ働くフルタイムの労働者と思っていただければ結構です。)の1ヶ月の労働日数が20日、1週間の労働時間が40時間とすると、それぞれ4分の3というのは、15日と30時間となります。

 

従って、1ヶ月15日以上そして1週間30時間以上働く労働者は、たとえパートタイマーアルバイトであったとしても、社会保険に加入させなければいけない、これが原則的な加入基準となってきます。

 

 


しかし、平成28年に法律改正がありまして、加入基準が緩和、つまり、社会保険の適用が拡大され、現在(2024年7月)では、以下のように加入基準が緩和されています。


まず対象となる企業は、労働者数が101人以上です。

 

ただし、この労働者というのは、雇用している全ての労働者ではなく、今ご説明した原則的加入基準に該当する労働者の人数です。

 

つまり、現在社会保険に加入している労働者の数です。

 

その人数が101人以上の企業が対象となります。

 

 

 

そして、個々の労働者の条件として、雇用見込みが2ヶ月以上、1週間の労働時間が20時間以上、月収88,000円以上、そして学生ではないこと(この学生は昼間の学生を指します)が求められます。

 

これらの条件に該当する労働者は、社会保険に強制加入となります。

 

例えば、雇用している労働者数が200人で、この原則的加入の条件で社会保険に加入中の労働者が80人、そしてそれ以外の労働者が120人いる場合、この会社は、原則的加入基準に該当する労働者数が101人以上ではないため、現在ではたとえこの80人の中に緩和基準に該当する労働者がいても、社会保険に加入させる必要はありません。

 

 

 

しかし、令和6年の10月に法律が改正され、加入基準がさらに緩和されます。

 

労働者101人以上が労働者51人以上に基準が緩和されます。

 

したがって、先ほど紹介した会社では、現在社会保険に加入中の労働者が80人ですので、今度は労働者51人以上に該当します。

 

このような会社では、令和6年の10月から、現在社会保険に加入していない労働者の中に緩和基準に該当する労働者がいた場合、社会保険に加入させなければならないことになります。

 

 

 

ちなみに、雇用している労働者数が現在120人で、社会保険に加入中の労働者が40人、それ以外の労働者が80人の場合、この会社は、労働者51人以上の基準に該当しないため、たとえ現在社会保険に加入していない80人の労働者の中に緩和基準に該当する労働者がいたとしても、令和6年10月以降も社会保険に加入させる必要はありません。

 

106万円が持つ意味とは?

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それでは、なぜ106万円という数字が出てきたのか、ここについてご説明したいとおもいます。

 

実は106万円の数字の根拠は、緩和基準の中の、「月収88,000円以上」です。

 

 

 

この月収88,000円を12倍、つまり年収に換算すると105万6000円になります。

 

つまり約106万円です。

 

ですから、月収88,000円以上という基準が106万円の壁に繋がってくるわけです。

 

 

 

どういうことかというと、年収が106万円を超えてしまうと、社会保険に加入しなければならず、社会保険に加入すれば当然保険料の負担が発生するので、手取り収入が減ってしまうため、106万円を超えないように働く、つまり年収の壁ができるわけです。

 

このような理由で106万円の壁という言葉が使われるようになりました。

 

この106万円の壁という言葉は、初めて社会保険の緩和基準の法律が施行された平成28年頃から使われるようになりました。

 

 

 

しかし、冒頭でもお話しましたように、106万円の壁という言い方は、必ずしも正確ではありません。

 

なぜなら、適用拡大において社会保険に加入しなければならない基準は、年収106万円以上(月収88,000円以上)だけではなく、他の基準を全て満たした場合に社会保険に加入しなければならないからです。

 

ですから、どれか一つでも基準に合わなければ、社会保険に加入する必要はないのです。

 

 

 

例えば、時給1,300円の労働者が、週18時間働く労働契約の場合で考えてみたいと思います。

 

1ヶ月は、約4週となります(正確には4.2週ですが、ここでは4週で計算してみます。)

 

時給1,300円の労働者が、週18時間働く場合、月収は、約93,600円(1,300円×18時間×4週)になります。ですから、この月収8万8000円以上、つまり年収106万円を超える形となります。

 

 

 

しかし、この労働者の週の労働時間は18時間ですので、1週間の労働時間が20時間以上の基準に該当しません。

 

従って、この労働者は、年収が106万円以上であっても、社会保険の緩和基準に該当しないことになります。

 

つまり、労働者の年収が106万円以上であっても、必ずしも社会保険に加入する必要がないケースが存在するわけです。

 

ですから、「106万円の壁」という言い方は、正確性に欠けるのです。

 

 

 

では、なぜ今回、106万円の壁は正確性に欠けるというテーマを取り上げたかと言いますと、106万円の壁という言い方をすると、106万円だけに意識が向いてしまい、その結果、雇用契約や労働契約に悪影響を及ぼす可能性があるからです。


例えば、このような労働条件の労働者が、先程ご紹介した企業(社会保険に加入している労働者が80人でそしてそれ以外の労働者が120人)に勤務していたとします。

 

 

 

先程ご説明しましたように、この会社は、令和6年10月の法律改正による労働者数51人以上に該当しますから、この120人の労働者の中に緩和基準を満たしている労働者がいれば、令和6年の10月から社会保険に加入させなければなりません。

 

しかし、この労働者は、週の労働時間が18時間ですから、緩和基準に該当しません。

 

従って、令和6年10月に法律が改正されても、この労働者を社会保険に加入する必要はないのです。

 

 


しかし、106万円の壁という言葉を誤って理解し、106万円を超えてはいけない、ここだけに意識してしまうと、「私の会社は令和6年10月から社会保険の適用拡大の対象となるから、今度私も年収106万円以上だから、社会保険に加入しなければいけない。社会保険に入ると保険料が発生するし、今は配偶者の扶養で保険料がかからないから、社会保険には入りたくない。だから、労働時間を減らして106万円を超えないようにしよう、あるいは社会保険の適用拡大の対象とならない会社に転職しよう。」という考えを持ってしまうケースも考えられます。

 

時給1,300円の労働者は都市部では決して珍しくありません。

 

ですから、誤った理解をして、雇用契約や労働契約に悪影響を及ぼしてしまうケースが考えられるのです。

 

 

 

さらに経営者側も、「令和6年10月からうちの会社は社会保険の適用拡大対象となるから、年収106万円を超えている労働者は労働時間を短くしなければならない、あるいは労働日数を減らさなければならない」と考えてしまうケースも考えられます。

 

仮に労働時間を減らすとなれば、その分の穴埋めをしなければなりません。

 

新たに人を雇えば当然経費がかかります。

 

 

 

さらに、労働者が、転職という誤った考えを持ってしまうと、せっかくの労働力が流出してしまうこととなってしまいます。


これは、会社にとっては決していいことではありません。

 

 

 

ですから、この106万円の壁の106万円を誤って理解してしまうと、雇用契約に悪影響を及ぼす可能性がありますので、ぜひ経営者だけでなく労働者の方も、「106万円の壁」という言い方は、必ずしも正確ではないことを理解していただきたいと思います。

 

年収が、106万円を超えるイコール100%社会保険に加入するわけではありません。

 

この106万円の意味を正しく理解するというよりも、社会保険への加入基準を正しく理解していただければと思いますので、是非ご参考になさって下さい。
 

130万円の壁も正しくない?

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今回は106万円の壁についてお話をさせていただきました。

 

実は、労務管理においては「いくらいくらの壁」という言い方をするものが他にもあります。

 

よく聞くのが103万円の壁、130万円の壁、このような言い方をします。

 

しかし、実はこれらも正確性に欠けるのです。

 

 

 

ここでは、「いくらいくらの壁」というものがいかに正確性に欠けるかをより理解していただくために、もう一つ事例をお話したいと思います。

 

これからお話する内容は、社会保険の加入基準の緩和とは、直接関係はないのですが、より今回の内容を理解していただくためにお話したいと思います。

 

ここでは、「130万円の壁」についてご説明したいと思います。

 

 

 

「130万円の壁」の130万円とは、健康保険の扶養に入るときの年収の条件です。

 

健康保険の扶養に入る場合は、年収が130万円未満でなければいけない、130万円以上になってはいけないと一般的に理解されているかと思います。

 

しかし、健康保険の扶養に入るには、年収が130万円以上になってはいけないという考え方は、正確性に欠けるのです。

 

 

 

どういうことかというと、健康保険の扶養に入るには、年収が130万円以上になってはいけないという考え方は、逆に言えば、年収が130万円未満であれば、健康保険の扶養に入れると解釈できます。


しかし、実は、年収が130万円未満であっても、健康保険の扶養に入れないケースがあります。

 

今回はそこをお話していきたいと思います。

 

 

 

実は年収が130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースは、二つのケースが考えられるのです。

 

ただ、今回は、そのうちの一つをご紹介したいと思います。

なお、もう一つの事例につきましては、近いうちに健康保険の扶養を特集したシリーズのブログをお届けしますので、その中でもう一つケースにつきましては、ご紹介したいと思います。

 

 

 

では、年収が130万円未満であっても、健康保険の扶養に入れないケースをご紹介したいと思います。

 

ここでは、妻が夫の健康保険の扶養に入るという前提でご説明したいと思います。

 

妻が夫の健康保険の扶養に入るためには、妻の年収が130万未満でなければならない、これ自体は正しいのです。

 

 

 

では、何が問題かと言いますと、健康保険の扶養に入るには、年収が130万未満であるという条件以外に、実はもう一つ条件を満たしている必要があるのです。


それは、どのような条件かと言いますと、妻が夫と同居している場合には、妻の年収が、夫の年収の2分の1以下である必要があります。

 

 

 

例えば、妻の年収が120万とします。

 

しかし、夫の年収が200万とすると、夫の年収の2分の1は、100万ですから、妻の年収は120万、つまり、夫の年収の2分の1を上回っている形となります。

 

このケースですと、妻は夫の健康保険の扶養に入ることはできません。

 

ですから、年収が130万未満であったとしても、健康保険の扶養に入れないケースがあるわけです。

 

 

 

ところで、今のケースは、扶養に入る人が、健康保険の加入者と同居している場合ですが、例えば、子供が大学生で地方に下宿していて、加入者と別居している場合もあります。

 

別居している場合で、健康保険の加入者の扶養に入る場合ということは、加入者から仕送りがされていることとなります。

 

そして、健康保険の扶養に入るための条件は、その仕送りの額が、扶養に入る人の収入より多い必要があります。

 

 

例えば、大学生で下宿している子供に、父親が毎月8万円仕送りをしているとします。

 

そして、この子供が、アルバイト等で毎月9万円の収入がある場合、年収では130万円未満となります。

 

しかし、父親からの仕送りの額より、自らの収入の方が多いので、このようなケースでは、年収130万円未満であっても、子供は父親の健康保険の扶養には入れないこととなります。

 

 

 

「130万の壁」と言った時に、当然、健康保険の扶養に入るために年収を130万未満に抑えるということを考えます。

 

ですから壁になるわけです。

 

しかし、年収130万円未満だけを考えても、健康保険の扶養に入れないケースが、実際に存在するわけです。

 

ですから、130万円の壁というのは、正確性に欠けるところがあるのです。

 

このように、健康保険の扶養に入るには、年収を130万円未満に抑えるだけでなく、それ以外にも条件もあるということを、ぜひ経営者の方だけでなく労働者の方も是非覚えておいていただきたいと思います。

 

まとめ

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今回は、106万円の壁、そして130万円の壁についてお話させていただきました。

 

いくらいくらの壁というのは、数字が独り歩きしているところがあります。

 

 

 

正直、これはマスコミ等も責任があると私は思います。

 

マスコミの雇用に関する討論の番組等で、司会者やコメンテーターも「106万円の壁」とか「130万円の壁」といった言葉を安易に使っています。

 

見ている側からすれば、「106万円、130万円が大切で、そこさえ守れば良い。」というふうに思ってしまうところがあります。

 

 

 

しかし、実際の法律は、106万円、130万円といった数字以外にも規定があります。

 

ですから、社会保険の加入に関しては、正しい加入基準、健康保険の扶養に関しては正しい扶養の条件をしっかりと理解するということが重要となりますので、是非今後のご参考になさっていただければと思います。