健康保険 扶養 年収130万円 質問にお答えします①
今回は、健康保険の扶養に入るための条件である、年収130万円未満についてお話ししたいと思います。
実は、この年収130万円未満につきましては、非常にわかりづらく、誤解されている方が多くいます。
そのため、この年収130万円未満に関しては、多くの方からご質問をいただきます。
ところで、いただく質問なのですが、大きく2つにわけることができます。
つまり、この2つの質問の回答に関して、正しい知識を持てば、年収130万円未満に関して正しく理解することができることとなります。
今回のブログでは、まず1つ目の質問について解説していきたいと思います。
健康保険の扶養に入る条件である、年収130万円未満に関しては、労務管理においては、非常に重要なポイントとなりますので、是非最後までお読みいただければと思います。
なお、本題に入る前にいくつかご了承していただきたい点があります。
まず、健康保険の扶養の条件である、年収130万円未満ですが、実はこの年収条件は、60歳以上または一定の障害者の場合には180万円に緩和されます。
従って、今回の内容を正確にお伝えするには、「年収130万円未満。ただし、60歳以上または一定の障害者の場合は180万円未満」と記載するのが本来の形です。
しかし、それでは、文章が長くなり少し複雑になってしまいますので、今回は、年収130万円未満という言葉を使わせていただきたいと思います。
ですから、60歳以上また一定の障害者に該当する方は、130万円を180万円に読み替えて下さい。
そして、もう一点ですが、健康保険の扶養に入るには、年収130万円未満以外にもいくつか条件があります。
今回のブログの中で、「扶養に入ることができる」という表現を使用する場合がありますが、その場合には、年収130万円未満以外の条件はすでに満たしているという前提とさせていただきますので、その点もご理解いただければと思います。
年収130万円未満の年間とは?
それでは早速本題に入っていきたいと思います。
まず、この年収130万円未満に対して、多くの方が疑問に思われる点が、年収130万円未満の年間とはいつからいつまので1年間を意味するかです。
実は、健康保険の扶養の年収条件でいう年収130万円未満の年間というのは、現時点から向こう1年間のことを指します。
つまり、現時点から向こう1年間に得る収入が130万円未満である必要があるということです。
具体的にご説明しますと、仮に現在を令和6年1月9日とすると、令和5年1月9日に健康保険の扶養に入るためには、令和6年1月9日から向こう1年間、すなわち令和7年1月8日までに得る収入が130万円未満である必要がある、という意味です。
そして、翌日の令和6年1月10日に健康保険の扶養に入るための年収条件を満たす場合には、令和6年1月10日から向こう1年間、すなわち令和7年1月9日までの間に得る収入が130万円未満である必要がある、という考え方です。
ですから、健康保険の年収条件における「1年間」とは、常に現時点から向こう1年間のことを指し、1月1日から12月31日、あるいは4月1日から翌年の3月31日までの1年間でありません。
まず、この点を押さえていただければと思います。
では次に、年収130万円未満の130万円という金額について考えてみたいと思います。
この130万円とは具体的にどの金額を基に考えるのかですが、給与所得者の場合、130万円という金額は労働条件が基準になります。
労働条件に定められた給与額を基に、130万円を超えているかどうかを判断します。
もう少し具体的に言いますと、130万円を12ヶ月で割ると、1ヶ月あたり10万8334円となります。
つまり、毎月10万8334円以上の収入が得られる労働条件である場合、年収130万円を超える、ということになります。
例えば、毎月12万円の給与を得る労働条件の場合には、これから向こう1年間に得る収入は、12万円×12ヶ月で144万円となります。
ですから、このような場合には、現時点から向こう1年間の収入が130万円を超えることとなるため、健康保険の扶養の年収条件を満たさない、という考え方となります。
ところで、先程多くの方が、年収130万円未満の年間について誤解していると言いました。
具体的には、多くの方が1月から12月までの1年間の収入を指していると考えている方が非常に多いのです。
しかし、先ほどもお話ししたように、それは誤りです。
では、この1月から12月までの1年間という考えが誤りであるということを、少し具体的にご説明したいと思います。
AさんとBさんという2人の女性がいたとします。
まずAさんですが、Aさんは、大企業に勤務していて、約1,000万円の収入がある方です。
このAさんが9月いっぱいで現在勤めている会社を辞め、結婚して10月1日から専業主婦になる、こういうケースを考えてみます。
Aさんは年収1,000万円ですから、9月までの収入は、大体750万円となります。
ですから、130万円をはるかに超えています。
しかし、このAさんが9月で退職し、10月から専業主婦になるということは、10月以降収入がなくなります。
つまり、10月1日時点では収入がなく、その後も専業主婦を続けるのであれば、10月1日から向こう1年間の収入はゼロと見なされるわけです。
従って、Aさんは9月までに750万円の収入があったとしても、10月1日からご主人の健康保険の扶養に入ることができる、という考えになります。
一方、Bさんですが、Bさんは長い間専業主婦で、ご主人の扶養に入っていました。
しかし、お子さんが大きくなったのでそろそろ働こうと考え、10月1日にある会社に就職したとします。
その就職先の労働条件では、基本給が月額12万円だったとします。
毎月12万円をもらうと1年間で144万円の収入を得ることになります。
つまり、この10月1日からの向こう1年間でBさんは、144万円の収入があると見なされます。
従って、Bさんは9月までは収入がゼロでしたが、10月1日から就職した時点で、向こう1年間で年収130万円を超える収入があると見なされるため、実際に給与をもらっていなくても、10月1日からはご主人の健康保険の扶養から抜けなければならない、ということになります。
ちなみに、もし10月1日に就職した会社の労働条件が基本給月額8万円であったなら、年間96万円の収入となります。
この場合、10月1日から向こう1年間の収入が96万円であるため、これは130万円未満となり、Bさんは10月1日以降もご主人の健康保険の扶養に入り続けることができる、という考え方になります。
このように健康保険の扶養の年収条件における年間というのは、1月から12月までの特定の期間を指すのではなく、あくまで現時点から向こう1年間を指します。
この点を正しくご理解いただきたいと思います。
配偶者控除との混同
では、なぜ多くの方が、年収130万円未満の年間を、1月から12月と誤解してしまうのでしょうか?
これは、所得税における配偶者控除や扶養控除と混同していることが考えられます。
配偶者控除や扶養控除の適用を受けるためには、配偶者や扶養者の収入が、給与収入の場合、基本的には103万円以下であるひつようがあります。
この103万円が130万円と非常に似ているため、多くの方が、健康保険の扶養の年収条件における年間を1月から12月の期間と混同されるのです。
そのため、たとえば11月の時点で130万円を超えてしまった場合に「健康保険の扶養から抜けなければならないのか」という質問を受けることがあります。
しかし、これまでご説明したように、健康保険の年収条件における「年間」というのは、現時点から向こう1年間を指します。
従って、現時点から向こう1年間にいくら稼ぐかが基準となり、過去の収入は基本的には考慮されません。
ですから、想定外残業等により、11月の時点で130万円を超えてしまった場合でも、今後は、労働時間が減少し、年間の収入が130万円未満となるなら、必ずしも扶養から抜ける必要はありません。
それに対して、配偶者控除や扶養控除に該当するかどうかの年収は、先程言いましたように、1月から12月と明確に定められています。
ですから、たとえば昨年は収入が103万円を超えたために配偶者控除や扶養控除の対象とならなかったとしても、今年の1月から12月の収入が130万円以下であれば対象となる可能性があります。その逆も同様です。
つまり、配偶者控除や扶養控除は1月から12月の収入で判断され、毎年その該当性が見直されるわけです。繰り返しになりますが、これに対して健康保険の扶養の年収条件は、常に現時点から向こう1年間で判断します。
健康保険の年収条件と所得税の配偶者控除、扶養控除とは基本的な考え方が全く違いますので、是非正しくご理解下さい。
まとめ
今回は、多方が疑問に思われている、健康保険の扶養における条件である、年収130万円未満の年間についてご説明させていただきました。
健康保険の扶養の年収に関する「年間」というのは、現時点から向こう1年間を指します。
そして、具体的な金額の考え方は、毎月10万8334円以上の収入があると、年収130万円を超えることになります。
また、所得税の配偶者控除や扶養控除とは別の制度で、考え方が全く異なりますので、この点も正しく理解していただければと思います。