勤務時間中の怪我でも労災保険が使えないのですか・・・?
【質問】
先日、同業者が、従業員が、勤務時間中に怪我をしたのに、労災保険を使うことがでできなかった、と言っていたのですが、勤務時間中の怪我でも労災保険を使うことが出来ない場合があるのですか?
【回答】
業務災害に認定されるためには、勤務時間中に怪我等するだけでなく、怪我等の原因となる事故が、業務との間に相当因果関係が有る必要があります。
【解説】
ご存知のように、従業員が、業務災害により、怪我等した場合には、労災保険(労働者災害補償法)より保険給付を受けることができます。
逆な見方をすれば、労災保険から保険給付を受けるには、怪我等の原因となった事故が、業務災害である必要があります。
労災保険法(労働者災害補償保険法)では、業務災害に該当するか否かは、業務遂行性の有無、及び業務起因性の有無によって判断されます。
業務遂行性とは、従業員が事業主の支配下(=管理下又は指揮命令下)にいたか否かで判断されます。
勤務時間中は、通常、業務遂行性があると判断されます。
それに対して業務起因性は、その怪我等の原因となった事故と業務との間に相当因果関係が有ったか否かで判断されます。
ですから、業務災害に該当するには、単に勤務時間中の事故だけでなく、その事故の原因が、業務と相当因果関係が有る必要があるのです。
例えば、勤務時間中に従業員との私的な喧嘩で怪我した場合、勤務時間中であるので、業務遂行性はあるのですが、事故の原因が、あくまで私的な喧嘩の場合、業務とは因果関係が無いと判断されますので、業務起因性が無いこととなり、業務災害とは認められず、労災保険から保険給付を受けることはできません。
ちなみに、喧嘩の原因が、業務に関する感情の縺れからであれば、業務起因性が有ると判断される可能性が出てきます。
後、よくあるケースですが、介護事業所等で、利用者をベッドから降ろす際に、腰を痛めてしまった場合等も、業務災害と認められない場合があります。
意外に思われる方も多いかと思いますが、腰の負傷の場合、元々ヘルニア等の腰痛の持病を持っている場合には、負傷の原因が、業務ではなく、元々の持病が原因と判断される場合があります。
つまり、腰が痛くなったのが、たまたま勤務時間中であった、という解釈をされるのです。
ただ、持病があっても、予想外の負荷がかかった場合や想定外の事が起こってしまい、腰に負担がかかり腰を負傷してしまった場合には、当然、業務災害と認定される場合もあります。(腰痛の場合には、診断書に記載される病名が大きな判断要因となります。)
このように、業務災害と認定されるには、勤務時間中(業務遂行性)であるとということだけでなく、業務と相当因果関係があるという、業務起因性が認められる必要があります。
業務起因性については、少し判断が難しい場合もあるので、そのような時は、管轄の労働基準監督署に問い合わせるのが良いでしょう。
なお、業務遂行性についてですが、休憩時間は、労働から離れることが保障され自由利用が原則ですので、本来は、事業主の支配下にあるとは言えないのですが、休憩時間中の事故であっても、事業所内の施設(設備)の不備に起因する事故の場合は、業務を行なっていた訳ではありませんが、事業主の支配下での事故として、業務遂行性が有る、と判断されます。
また、事業所外にいた場合でも、業務命令による出張中の事故は、明らかな私的行為中(例えば、パチンコ等のギャンブルをやっていた場合、業務以外の理由で友人と会っていた場合や飲食店等で酒を飲んでいた場合など)を除き、当然「業務遂行性有り」と判断されます。
【まとめ】
労災保険から保険給付を受けるためには、事故が業務災害である必要があります。
業務災害と認定されるには、「業務遂行性」(従業員が事業主の支配下にあること)と「業務起因性」(事故の原因が業務と相当因果関係にあること)の両方が必要です。
業務遂行性は、勤務時間中であれば通常認められますが、業務起因性は、事故の原因が業務に関連している場合に認定されます。
例えば、私的な喧嘩による怪我は業務起因性がないと判断されます。
また、腰痛などの持病がある場合、その負傷が業務によるものではなく持病が原因と判断されることもあります。
ただし、業務中に予想外の負荷がかかるなどした場合は、業務災害と認定される場合もあります。
さらに、休憩時間中の事故であっても、施設の不備が原因の場合や、業務命令による出張中の事故であれば業務遂行性が認められることがありますが、明らかに私的行為中の事故は除外されます。
業務災害の判断は難しい場合が多々ありますので、判断に迷ったら労働基準監督署に相談することをお勧めします。