Q 夫婦で住宅手当をもらうようになった場合には?

【質問】

 

当社では、社員が賃貸住宅を借りている場合、一定額まで家賃全額を補助する住宅手当を支給しています。

 

実は、家賃が全額補助されている社員の妻が就職し、その会社でも住宅手当が支給されるようになったとのことです。

 

住宅手当は、家賃を補助する目的で支給するのであって、1つの世帯で家賃以上に住宅手当を受け取るのは不条理に思えます。

 

このような場合、住宅手当の支給を停止又は減額することは可能でしょうか?

 

 

【回答】

 

貴社の就業規則に配偶者が住宅手当を受給する場合における支給停止及び減額規定が無ければ、住宅手当の支給を停止することはできません。

 

 

【解説】

 

意外に思われるかもしれませんが、手当に関する特段の法律はありません。

 

従って、会社はどのような手当てをどのような条件でいくら支給するかは、会社が任意に決めることができます。

 

しかし、一度、就業規則等に決めた手当に関する規定は、労働者の既得権となり、会社は、その規定内容によって手当を支給する必要があります。

 

従って、今回のご質問の場合、就業規則等で例えば、「住宅手当は、配偶者が勤務先において住宅手当が支給される場合には、その支給額に応じて、当住宅手当を減額又は不支給にする場合がある。」等の規定があれば、減額又は不支給にすることが可能ですが、もし、このような規定が無いのであれば、例えば、夫婦で家賃以上の住宅手当が支給されていても、それをもって不支給にすることはできないこととなります。

 

 

 

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【ここがポイント】

 

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では、現時点で就業規則に減額又は不支給規定が無いのであれば、追加すれば良いのではないか?と思われるかもしれません。

 

先程もお話ししましたが、手当の支給に関しては特段の法律がないため、例えば、今回のご質問にある住宅手当も、支給するかしないはか、会社が任意に決めることができます。

 

ですから、住宅手当を支給しなくても法律的に何の問題もありません。

 

しかし、一旦就業規則等で住宅手当を支給する旨の規定をすると、労働基準法で定める賃金に該当します。

 

 

賃金は労働者にとって、最も重要な労働条件であるため、就業規則を変更して、住宅手当の減額又は不支給規定を追加することは、労働者にとって不利益な変更となるため、基本的には会社が一方的に変更することはできません。

 

もし、就業規則を変更する場合には、社員全員の同意が必要となってきます。

 

 

ところで、不利益な変更であっても、その変更理由に合理性がある場合には、社員の同意が無くても就業規則の変更が認められる場合はあります。

 

ただし、合理性の有無は、法律によって基準が明確に定められているのではなく、裁判等によって個別に判断されることとなります。

 

なお、労働契約法第10条に合理性の有無を判断する以下事項に照らし合わせて判断されると規定があり、裁判等でも同様の考え方をとっているものが多くあります。

 

① 労働者の受ける不利益の程度

② 労働条件の変更の必要性

③ 変更後の就業規則の内容の相当性

④ 労働組合等との交渉の状況

⑤ その他の就業規則の変更にかかる事情

 

しかし、上記の事項あくまで合理性の有無を判断するためのものであり、具体的な数値等が規定されていません。

 

ですから、会社が上記の事項を基に合理性があると考えても、裁判等で合理性が否認される場合もあります。

 

従って、就業規則の不利益な変更を行う場合には、社員にその必要性を丁寧に説明して、全員の合意を取る方法をまずは選択する方が良いかと言えます。

 

 

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