従業員から有給休暇の買取を請求された場合は?
【質問】
従業員から、消化できなかった有給休暇の買取を請求されましたが、どのように対応すればよいでしょうか?
【回答】
有給休暇の買取は、原則禁止されています。
【解説】
有給休暇は、労働基準法で定められた、労働者に与えられた権利で、入社後、一定の条件を満たせば、6ヶ月を経過した時点で、10日間付与されます。
その後は、1年経過ごとに付与され、付与日数も、11日、12日、14日、16日、18日、20日と増加していきます。(パートタイマー等の労働時間や労働日数が、通常の従業員より一定以下の場合には、その労働時間や労働日数に応じた日数が付与されます。これを比例付与と言います。)
ところで、有給休暇は、労働者に与えられた権利ですが、結果として、労働者が全ての有給休暇を取得できないで場合も当然考えられます。
国も有給休暇の取得を推進しているのですが、
まだまだ、わが国の有給休暇の取得率は、決して高くないのが現状です。
さて、労働基準法では、取得することができなかった有給休暇については、翌年に限り繰り越すことができるとされています。
これはどういうことかと言いますと、先に説明しましたように、有給休暇は、入社後、一定の条件を満たせば、6ヶ月経過後に10日間付与されます。
例えば、ある従業員が、令和6年4月1日に入社した場合、令和6年年10月1日に10日間の有給休暇が付与されます。
さらに、10月1日から1年経過後の令和6年年10月1日に11日有給休暇が付与されます。
入社後、6ヶ月経過後に付与された10日間のうち、取得できなかった分については、翌年に限り繰り越すことができるので、仮に、全く有給休暇を取得しなかったとすると、令和6年年10月1日には、繰り越した10日間と新たに付与された11日間との合計で21日間の有給休暇を取得する権利が発生することとなります。
そして、さらに、1年が経過後の、令和7年10月1日に新たに12日間が付与されます。
しかし、令和5年10月1日に付与された10日間については、翌々年には繰り越すことができないので、令和7年10月1日で取得する権利は消滅してしまいます。
ただし、前年の令和6年10月1日に付与された11日間が繰り越されるので、令和7年10月1日の時点では、23日間の有給休暇を取得する権利が発生します。
有給休暇は、このような形で新たな付与と権利の消滅が行われていきます。
ところで、ご存知のように有給休暇は、働かなくても、通常の給料が支給されます。
ですから、従業員の側からしてみても、働かなくても給料をもらえる権利があるわけですから、実際に、有給休暇を取得する代わりに、会社が買取っても、会社の負担は同じ、と考えても不思議ではないと言えます。
ですから、有給休暇の買取請求という考え方が出てくると言えます。
ところで、この買取り請求ですが、労働基準法等の法律では、定めがないのですが、そもそも、この制度の趣旨は、仕事から離れ、実際に心身を休めてリフレッシュすることが本来の目的であるわけですから、有給休暇の買取は、その取得の促進を阻害し、本来の趣旨から外れてしまうため、買取りは禁止されています。(昭和48年の最高裁判決)
ですから、たとえ、従業員から、消化できなかった分についての買取の請求があっても、そもそも買取自体が禁止されている行為ですので、当然に応じる必要ないこととなります。
ただし、従業員が退職する場合に、消化することができなかった分等を買取る場合は、取得の促進を阻害することとはならず、本来の趣旨から外れてしまうものではないので、有給休暇の買取の請求に応じても差支えないとされています。
ただ、あくまで「差し支えない」ですので、会社は、退職時であっても、買取の請求に必ず応じなければならないというものではありません。
【まとめ】
有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利で、入社6ヶ月後に10日間付与され、以後1年ごとに日数が増加し(最大20日)、パートタイマーには、労働条件に応じた比例付与が適用されます。
有給休暇の未取得分は翌年に限り繰り越し可能ですが、翌々年には消滅することとなります。
有給休暇の買取は、身体のリフレッシュ目的に反するため法律で禁止されています。
ただし、退職時の未取得分の買取は例外的に認められるが、企業に応じる義務はありません。