既に収入が130万円以上あっても健康保険の扶養に入れる?

【質問】

 

従業員の妻が、勤務していた会社を退職したので、健康保険の扶養に入れて欲しいと言ってきたのですが、その妻は、既に収入が130万円以上ありますが、健康保険の扶養に入れるのでしょうか?

 


【回答】

 

はい。健康保険の扶養の収入基準は、過去の収入ではなく、今後の収入で判断されますので、今後の収入が、130万円未満等の基準を満たせば、健康保険の扶養に入ることはできます。

 

 

【解説】

 

健康保険に加入している従業員の妻や子供等の一定の親族は、従業員の扶養(被扶養者)となることができます。

 

被扶養者となると、健康保険料を支払うこととなく、一定の給付を受けることができます。

 

 

 

ただし、健康保険の扶養に入るには、いくつかの条件があり、その中の1つに収入基準が定められています。

 

具体的には、まず、被扶養者の年収が、130万円未満であることが条件となります。(被扶養者が、60歳以上の場合は、180万円未満となります。)

 

 

 

ところで、この130万円という額は、扶養に入る時点で、既にもらっている収入額ではなく、今後、もらうであろう収入の額で判断されます。

 

ですから、年収2,000万円の人であっても、会社を辞めた時点で、次の就職先等が決まっていなければ、今後、もらうであろう金額は、ゼロですから、その時点で健康保険の扶養に入ることが可能となります。

 

 

 

しかし、逆に考えると、何十年も専業主婦で、無収入であった妻が、月給15万円で就職すると、就職した時点では、まだ、給料を実際にはもらっていなくても、今後、もらうと考えられる金額は、15万円×12ヶ月=180万円となり、130万円を超えることとなりますので、実際には、130万円の収入を得てはいないのですが、就職した時点で、健康保険の扶養から外れなければならなくなります。

 

 

 

このように、所得税の配偶者控除は、実際に配偶者が得た収入で判断されますが、健康保険の扶養の際の収入の基準は、過去に得た収入ではなく、今後の得るであろうと思われる金額で判断されます。

 

ですから、ご質問の回答としては、現在、130万円以上の収入があっても、現時点から今後見込まれる収入が130万円未満であれば、健康保険の扶養に入ることは可能です。

 

ただし、今回は、説明を割愛しますが、健康保険の扶養の判断基準は、他にもありますので、ご注意下さい。

 

 

 

ところで、今回のご質問のように、会社を辞めた時点で、年収が130万円以上あっても、今後の見込まれる年収が、130万円未満であれば、扶養に入ることは可能ですが、1点注意すべき点があります。

 

それは、今回のご質問で言えば、ご質問者様の従業員の奥様が、失業等給付をもらう場合です。

 

失業等給付の1日の受給額が、3,562円以上となると、計算上は、3,562円×365日=1,332,980円となり、130万円を超えます。

 

しかし、実際には、失業等給付の給付日数が、365日を超えることは稀で、通常は、100日前後が最も多くなります。

 

ですから、実際に、受給する金額は、130万円未満となります。

 

 

 

ところが、健康保険では、失業等給付の1日の額が、3,562円以上の場合、給付を受けている期間中は、年収130万円以上とみなします。

 

ですから、1日の給付額が、3,562円以上の場合には、失業等給付の受給期間中は、健康保険の扶養に入ることができなくなります。

 

 


ところで、退職理由が自己都合の場合には、失業等給付は、原則2ヶ月間の給付制限がかかり、実際に失業等給付が支給されるのは、退職後2ヶ月以上経過後となります。

 

この場合の、健康保険の扶養の取り扱いですが、いったん会社を退職した時点で、扶養に入ることができ、そして、給付制限が終わり、失業等給付をもらい始め、その1日の額が、3,562円以上の場合には、そこで健康保険の扶養から外れなければなりません。

 

そして、失業等給付をもらい終え、その時点で、まだ無職等で、今後、見込まれる年収が130万円未満であれば、再度、その時点で扶養に入ることとなります。

 

 

 

ですから、ご質問者様の従業員の奥様が、退職後、失業等保険の給付を受けることとなり、その1日の額が、3,562円を超える場合には、扶養から外れのなければならない、ということを十分説明しておく必要があります。

 

ちなみに、年齢が、60歳以上の場合には、180万円÷365日=4,932円となりますので、失業給付等の1日額が、4,932円以上の場合には、健康保険の扶養には入れないこととなります。

 

 

 

最後に扶養の問題に関して必ずと言って良いほど出てくる数字に103万円と130万円があります。

 

今回、触れていますように130万円は、健康保険の扶養認可の収入基準です。それに対して、103万円は、所得税の配偶者控除の適用基準となります。

 

今回、ご説明しましたように、健康保険の扶養認可の収入基準である130万円は、将来にわたっての見込み金額ですが、配偶者控除適用基準の103万円は、1月1日から12月31日までの収入となります。

 

つまり、103万円と130万円とでは、金額そのものに対する概念が全く違うこととなります。

 

 

 

よく、「扶養の範囲で働きたい」という言葉を耳にしますが、「扶養」の意味をどう捉えるのか?、つまり、配偶者控除の適用を受けたいのか?あるいは、健康保険の扶養の入りたいのか?によって、働き方が変わってくると言えます。

 

ただ、多くの方が、103万円と130万円とを混同して使っているのが実情と言えるようです。

 

 

【まとめ】

 

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健康保険の被扶養者となるためには、収入基準やその他の条件があり、特に収入基準は将来の見込み収入で判断されます。

 

具体的には、扶養に入るには、一般的に年収130万円未満であることが求められます(60歳以上の場合は180万円未満)。

 

この基準は、実際の収入ではなく、今後得るであろう収入で判断される点が特徴です。

 

例えば、会社を辞めて無職となれば、将来の収入見込みがゼロと判断されるため扶養に入ることができます。

 

一方で、就職して月給15万円を得る場合は、年間見込み収入が180万円となり、扶養から外れる必要があります。

 

 

 

また、失業給付を受ける場合、1日の給付額が3,562円以上(60歳以上の場合は4,932円以上)だと扶養から外れる必要があります。

 

ただし、給付制限期間中や給付終了後に収入見込みが130万円未満であれば、再度扶養に入ることが可能です。

 

 

 

さらに、健康保険の扶養認定基準である130万円と、所得税の配偶者控除基準である103万円は異なる概念であり、混同されることが多いものの注意が必要です。

 

健康保険の基準は将来の収入見込みで判断されるのに対し、配偶者控除は実際の年間収入で判断されます。

 

この違いを理解することで、働き方や扶養の範囲を正確に計画することが重要です。