え⁉年収130万円未満でも健康保険の扶養に入れない?

今回は、年収130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースについてご説明したいと思います。

 

「130万円の壁」という言葉をよく耳にするかと思います。

 

これは、年収が130万円を超えると健康保険の扶養に入れなくなるため、年収を130万円未満に抑えて働くという考え方です。

 

このようにして「壁」ができるわけです。

 

 

 

しかし、私は「年収130万円の壁」という言い方は正確ではないと思っています。

 

なぜなら、年収が130万円未満であっても健康保険の扶養に入れないケースが存在するからです。

 

今回は、年収が130万円未満であっても健康保険の扶養に入れないケースについて説明します。

 

今回お話しする内容は、健康保険の扶養手続きを行う上で非常に重要なテーマとなりますので、是非最後までご覧ください。

 

 

 

最初に二つお断りさせていただきます。

 

これからお話しする内容は、全国健康保険協会、一般に協会けんぽと呼ばれる制度に基づいてご説明の方をさせていただきます。

 

各企業などが設立する健康保険組合については、各健康保険組合が独自の制度を定めている場合がありますので、今回お話しする内容と異なる場合がありますので、その点はご了承下さい。

 

 

 

もう一点、健康保険の扶養に入るための年収条件として130万円未満という基準がありますが、60歳以上および一定の障害者の場合は、180万円未満に緩和されています。

 

ただし、今回は「130万円未満」という言葉を使用して説明を進めます。

 

60歳以上または一定の障害者に該当する場合は、130万円を180万円と読み替えてください。

 

「年収130万円の壁」はなぜ正しくないのか?

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冒頭に述べたように、「年収130万円の壁」という表現は、正確性に欠けると私は考えています。

 

なぜ「年収130万円の壁」が正確でないのかというと、年収が130万円未満であれば健康保険の扶養に入れると考えられていますが、実際には、年収が130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースが存在します。

 

年収が130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースが存在する以上、「年収が130万円の壁」という表現は、正しくない、正確性に欠けると言えます。

 

 


では、年収が130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースとは、具体的にどのようなケースなのか?ここについてご説明していきたいと思います。

 

年収が130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースは、二つのケースが考えられます。

 

それぞれについてご説明します。

 

 

 

最初のケースですが、健康保険の扶養に入るための年収条件として、年収が130万円未満であることはその通りです。

 

しかし、法律では、これに加えてもう一つの条件が存在します。

 

つまり、二つの条件を満たして初めて健康保険の扶養に入れるという形になります。

 

では、そのもう一つの条件についてですが、これは健康保険の扶養に入る人が、健康保険の加入者と同居している場合と別居している場合とで、条件が異なってきます。

 

 


まず、同居している場合について説明します。

 

健康保険の加入者が夫で、その配偶者である妻が夫と同居していて、夫の健康保険の扶養に入るケースでご説明します。

 

今回のケースのように、健康保険の扶養に入る人が、加入者と同居している場合には、加入者の月収の2分の1の金額が、扶養に入る人の月収より多い必要があります。

 

つまり、逆に言えば、扶養に入る人の月収は、加入者の月収の2分の1より少ない必要があります。

 

 

 

例えば、今回のケースで妻の月収が10万円で、夫の月収が18万円の場合、夫の月収の2分の1は9万円となります。

 

ですから、妻の月収の金額は、加入者の月収の2分の1の金額より多いこととなります。

 

従って、このようなケースでは、妻の年収が、130万円未満(10万円×12ヶ月=120万円)であっても、夫の月収の2分の1より多いため、基本的には健康保険の扶養に入ることができないこととなります。

 

 

 

ちなみに、もし妻が夫の健康保険の扶養に入りたいのであれば、月収を夫の月収の2分の1の金額、9万円より少なくする必要があります。

 

ただし、扶養に入る人の月収が、加入者の月収の2分の1より多い場合であっても、何らかの理由で扶養に入る人の収入の全額を家計に入れることができない等の特別なケースにおいては、健康保険の扶養に入れる場合もありますが、基本的なルールは今ご説明した通りです。

 

 

 

では、次に健康保険の扶養に入る人が、健康保険の加入者と別居している場合をご説明したいと思います。

 

ここでは、子供が、大学生で下宿していて、両親と別居していて、加入者である父親の健康保険の扶養に入るケースでご説明したいと思います。

 

今回のケースのように、加入者(父)と健康保険の扶養に入る人(子供)が、別居している場合には、父が子供に送っている仕送り額が、子供の月収より多い必要があります。

 

 

 

例えば、子供がアルバイトをしていて、月に9万円の収入を得ているとします。

 

そして、父が子供に送っている仕送り額が、毎月8万円だとすると、子供の収入の方が多くなります。

 

ですから、このようなケースでは、子供は、父親の健康保険の扶養には入れないこととなります。

 

 

 

ところで、子供の収入が月々9万円ということは、年収ベースでは108万円となり、130万円未満に該当します。

 

しかし、今ご説明したように、たとえ年収130万円未満であっても、仕送り額との関係で健康保険の扶養に入れないこととなります。

 

 


以上にご説明したように、年収が130万円未満だからといって、必ずしも健康保険の扶養に入れるわけではありません。

 

健康保険の扶養に入るには、130万円未満以外にも収入の条件が存在しますので、ここは正しく理解しておいていただければと思います。

 

なお、年収130万円については、こちらの動画で詳しくお話していますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

◆年収130万円未満の年収は一体!いつからいつまで?
https://youtu.be/z6EV_uOXwAo

 

 


それでは次に、年収が130万円未満であっても、健康保険の扶養に入れないもう一つのケースについてご説明します。

 

これは、扶養に入りたい人自身が健康保険に加入しなければならないケースです。

 

 

 

健康保険の加入条件としては、一般的に1ヶ月でおおよそ16日勤務し、1週間で30時間働くことが一つの目安とされています。

 

なお、今回は健康保険の加入条件についての詳細は省略させていただきますが、詳細についてはこちらの動画で詳しく解説していますので、是非ご覧下さい。

 

◆シリーズ ブラック企業にならないための労務管理⑫ 福利厚生の基本!労働保険社会保険Part1
https://youtu.be/HZdzXCRP_BY

 

 

ところで、今述べました社会保険への加入条件(以下、原則的加入基準と言います。)は、全ての企業が対象となりますが、現在この加入基準が緩和されています。

 

令和6年10月以降は、原則的加入基準で社会保険に加入している労働者数が、51人以上の企業で、下記の条件に該当する労働者は社会保険に加入しなければなりません。

 

① 2ヶ月以上の雇用見込み
② 週20時間以上の労働
③ 月収88,000円以上
④ 昼間学生でない

 

ここで③の月収88,000円以上に注意していただきたいのですが、月収88,000円を年収に換算すると、約106万円と130万円未満となります。

 

 

 

しかし、月収88,000円で他の緩和基準にも該当している労働者は、社会保険に加入しなければなりません。

 

社会保険に加入するということは、当然健康保険の扶養に入ることはできないこととなります。

 

このような場合も、年収130万円未満であっても健康保険の扶養に入れないこととなります。

 

 


以上のように年収130万円未満でも健康保険の扶養に入れないケースというのが存在します。

 

ですから、「年収130万円の壁」という言い方は必ずしも正確ではないということです。

 

重要なことは、単に数字だけに意識を向けるのではなく、規定全体を正しく理解することですので、是非ご参考になさって下さい。

 

103万円の壁も正しくない?

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これからお話する内容は、健康保険の扶養とは直接関係ありませんが、「年収130万円の壁」という言い方がいかに正確性に欠けるか、ここをより理解していただくために、一つ事例をご紹介したいと思います。

 

今回お話するのは、「103万円の壁」についてです。

 

よく聞く言葉だと思います。

 

この「103万円の壁」という言い方がされる理由は、年収を103万円以下に抑えることによって、配偶者控除や扶養控除といった税制の優遇措置を受けることができるからです。

 

このために「103万円の壁」という言い方がよく使われるのですが、私はこれも正確性に欠けると思っています。

 

 

 

なぜ正確性に欠けるかというと、多くの方が、年収を103万円以下に抑えることによって、得をするからと考えています。

 

したがって、多くの人がこの数字を意識しますが、必ずしも得するとは限らないのです。

 

ですから、正確性に欠けると言えるのです。

 

この点について具体的にご説明していきたいと思います。

 

 

 

ここでは、妻が年収を103万円以下に抑えることで、配偶者控除の適用を受けるという前提でご説明していきたいと思います。

 

配偶者控除を受けるためには、妻の収入が給与収入のみの場合には、103万円以下である必要があります。

 

妻の給与収入が103万円以下の場合、夫は、配偶者控除の適用を受けることができます。

 

 

 

ここで重要なのは、妻の収入を103万円以下にした場合、税金の優遇を受けるのは、あくまで夫であるという点です。

 

妻の税金が安くなるわけではありません。

 

税金が安くなるのは、夫の税金です。

 

では、夫の税金がどれくらい安くなるかということですが、これは夫の収入によって変わりますが、標準的なケースでは、配偶者控除を適用することで夫の税金が約4万円から6万円安くなります。

 

確かに、4万円から6万円税金が安くなるのは大きな得です。

 

この意味で言えば、妻の収入を103万円以下にすることで得をする形になります。

 

 

 

しかし、これからご紹介するケースも考えられます。

 

仮に夫の税金が5万円安くなるということは、元々夫が払うべき税金が5万円以上あることが必要となります。

 

しかし、夫が住宅ローンを組んでいて、住宅ローン控除を受けていた場合、払うべき税金がゼロの場合というのも考えられます。


元々払うべき税金がゼロの場合には、いくら妻が頑張って年収を103万円以下に抑えて配偶者控除の適用になるようにしても、配偶者控除分の税金が返ってくることはありません。

 

 

もし夫が納めるべき税金がないのであれば、配偶者控除を適用しても税金は安くならないこととなります。

 

もしこの妻が103万円以上の収入を得るチャンスがあれば、そちらを生かした方が世帯の収入は多くなります。

 

つまり、収入を103万円以下に抑えることは必ずしも得にならないこととなります。

 

ですから、「103万円の壁」と言えば、どんな場合でも年収を103万円以下に抑えることが得だと思われがちですが、このように、必ずしも得にならないケースが存在します。

 

 

 

ここで言いたいのは、いくらいくらの壁というのは、その数字だけに意識を向けると、必ずしも労働者にとって有利になるケースばかりではないということです。

 

そこを理解していただきたいです。

 

私が、ここで言いたいのは、この数字だけに意識を向けるのではなく、制度そのものを正しく理解することを心がけていただきたいということです。

 

 

 

なお、先ほど少しお話しました106万円の壁につきましては、こちらの動画で106万円の壁も必ずしも正しい言い方ではないということをご説明していますので、ぜひご覧になっていただければと思います。


◆◎106万円の壁とは?パートタイマー アルバイト社会保険加入拡大へ!
https://youtu.be/cqacylHYHEM

 

まとめ

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今回は、年収130万円未満であっても健康保険の扶養に入ることができないケースをご説明しました。

 

健康保険の扶養に入る年収条件は年収130万円未満だけではなく、他にも条件があります。

 

そして、扶養に入ることを希望する人自身が健康保険に加入しなければいけないケースも考えられますので、必ずしも年収130万円未満だけを満たせばいいというものではありません。そこを正しくご理解いただければと思います。

 

 

 

労務管理においては、いくらいくらの壁という言い方をするものがいくつかあります。

 

しかし、いくらいくらの壁だけに意識を向けるのではなく、その制度全体を正しく理解することが、重要なポイントですので、是非今後の参考になさっていただければと思います。