国保か?任意継続か?徹底解説!
今回は、退職後、保険加入はどうする?というテーマでお届けしたいと思います。
会社を退職して健康保険から脱退した場合、その後、何らかの保険制度に加入する必要があります。
その時に、健康保険の扶養に入ることができれば、それが一番得ですが、健康保険の扶養に入ることができないケースも多々あります。
その場合、国民健康保険か任意継続被保険者のどちらかを選択するのが一般的ですが、これまではどちらを選択するかで非常に悩む方が多かったのです。
しかし、2022年に法律が改正され、任意継続被保険者と国民健康保険のどちらを選ぶかが非常にシンプルでわかりやすくなりました。
国民健康保険と任意継続被保険者との選択は、労働者にとって非常に関心の高い事項であり、経営者や事務担当者の方も退職する労働者から相談を受けることが多いと思いますので、今回の動画を是非最後までご覧いただき、今後に役立てていただければと思います。
なお、一つお断りしておきたいことがありますが、これからお話する内容については、健康保険の任意継続被保険者に関して、全国健康保険協会(一般的に協会けんぽと呼ばれています)の制度を基にご説明させていただきます。
従って、企業などが設立する健康保険組合については、それぞれ独自の制度を設けている場合がありますので、今回ご説明する内容とは異なる部分があるかもしれません。その点についてはご理解いただければと思います。
健康保険の扶養について
退職後に健康保険を抜けた場合にどのような保険制度に入るかですが、最初に検討していただきたいのは、扶養への加入です。
健康保険では、健康保険の加入者の3親等内の親族まで健康保険の扶養に入ることが可能です。
ですから、退職後に配偶者、子供、あるいは両親、兄弟姉妹で健康保険に加入している人がいれば、その人の扶養に入ることができるかを検討するのが最善かと思います。
健康保険の扶養に入ると、保険料を払うことなく健康保険を利用して治療を受けたり、薬をもらったりすることができます。ですから、非常にメリットが大きいです。
なお、健康保険の扶養に入れる範囲等つきましては、こちらの動画で詳しくご説明していますので、是非ご覧下さい。
◆そもそも健康保険の扶養に入るメリットと扶養に入れる範囲は?
⇒ https://youtu.be/Ylc8qA-TTuQ
任意継続被保険者と国民健康保険の概要について
今ご説明したように、退職後は親族の健康保険の扶養に入ることが一番得なのですが、実際は配偶者が、健康保険の扶養に入っていたり、子供が、まだ小さいという場合もあります。
また、両親や兄弟は別に暮らしていて、健康保険の扶養に入れないケースも多々あるかと思います。
その場合、どのような保険制度に入るかということですが、通常は、任意継続被保険者か国民健康保険のどちらかを選択する形となります。
ここではまず、それぞれの制度について簡単にお話していきたいと思います。
任意継続被保険者は、退職前に健康保険に2ヶ月間加入していると、最大で2年間、退職前に加入していた健康保険に引き続き加入することができる制度です。
ただし、任意継続被保険者は、退職後20日を経過してしまうと、その時点で任意継続被保険者になる資格を失ってしまうのでご注意下さい。
それに対して、国民健康保険は、元々自営業者やフリーター等を対象としている保険制度であり、加入の条件はありません。
基本的に誰でも入ることが可能です。
では、任意継続被保険者か国民健康保険のどちらを選ぶのが良いのか?ということですが、現時点では、任意継続被保険者も国民健康保険も制度の内容はほとんど変わりません。
自己負担割合もどちらも基本的には3割ですし、保障の内容もほぼ同じです。
そうなると、どちらを選ぶかの最大の要因は保険料になります。
どちらの保険料が安いのか?によって任意継続被保険者か国民健康保険かを選択するのがほとんどかと思います。
では、国民健康保険と任意継続被保険者の保険料についてご説明したいと思います。
まず、国民健康保険の保険料についてですが、国民健康保険は、基本的に前年度の収入と加入人数によって保険料が決まります。
ただし、国民健康保険は市区町村で運営されているため、保険料は市区町村ごとに制度が異なり、保険料も異なるので、前年の収入および加入人数以外の事項によって、保険料を決定する市町村があるかもしれませんが、基本的な保険料の決定事項は、前年度の収入と加入人数となります。
それに対して、任意継続被保険者の保険料は少し複雑となります。
任意継続被保険者の保険料の仕組みを理解するには、健康保険の保険料の仕組みを理解する必要があるので、最初に健康保険の保険料についてご説明させていただきます。
健康保険の保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出されます。
標準報酬月額という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、健康保険に加入している全ての人には、この標準報酬月額が決まっています。
標準報酬月額とは、会社に入社して健康保険に加入する際に、おおよその給料額を基にして決定され、その後、毎年4月、5月、6月に支払われる給料を基に見直されます。
健康保険に加入している方は、必ずこの標準報酬月額が決められていて、この標準報酬月額に保険料率を掛けたものが健康保険の保険料となります。
なお、保険料率は都道府県によって異なるため、健康保険の保険料も都道府県ごとに異なります。
これが健康保険料の算出方法です。
では、任意継続被保険者の保険料についてご説明したいと思います。
任意継続被保険者の保険料は、退職時の標準報酬月額を基に算出され、退職時の保険料の倍額が基本的な考え方です。
なぜ、倍額かと言いますと、在職中の健康保険料は、会社が半分を負担してくれているため、退職後は会社負担分がなくなるので、任意継続被保険者になった場合、退職時の保険料の倍額を支払うのが基本となります。
ただし、任意継続被保険者の保険料算出には、退職時の標準報酬月額に上限が設けられています。
その上限は、現時点(令和6年3月)では30万円となっています
これはどういうことかというと、例えば、退職時の標準報酬月額が50万円だった人が、任意継続被保険者になった場合には、標準報酬月額30万円を基に保険料が計算されるということです。
ですから、退職時の標準報酬月額が30万円以下の人であれば、任意継続被保険者になった場合の保険料は、単純に倍額してもらえれば結構ですが、30万円より大きい方は30万円の保険料になります。
従って、退職時の標準報酬月額が高額だった人は、任意継続被保険者になった場合、保険料が在職中よりも安くなるケースが考えられるます。
ただし、ここで一つ注意していただきたいのですが、冒頭にもお話ししたように、この30万円の上限は全国健康保険協会の制度に基づくものです。各企業等が設立する健康保険組合については、これ以上の金額を定めている場合もあるため、健康保険組合に加入していた労働者が任意継続被保険者になる場合、この金額には注意が必要です。
ちなみに、標準報酬月額30万円の人が、任継続被保険者になった場合に保険料がいくらになるかについて、東京都と大阪府の例をご紹介します。
なお、保険料は、令和6年3月のものです。
また、健康保険は、40歳以上65歳未満の場合、介護保険料が加算されます。
東京都の場合、40歳未満の健康保険料は29,940円です。
そして、介護保険の対象となる40歳以上65歳未満の場合は、34,740円となります。
一方、大阪府の場合、40歳未満の保険料は31,020円で、40歳以上65歳未満の場合は35,820円となります。
なお、先程、健康保険の保険料は都道府県によって異なると言いましたが、実際には、それほどの大差はありません。
ですから、任意継続被保険者の保険料の上限は、40歳未満で介護保険の対象にならない場合はおおよそ30,000円前後、介護保険の対象となる場合はおおよそ35,000円程度と考えていただければ良いと思います。
いずれにしても、国民健康保険の任意継続被保険者の保険料はこのようになります。
ただし、自分で計算することも可能ですが、なかなか難しいところがあるかと思います。
ですから、保険料を調べる場合、国民健康保険については各市区町村の国民健康保険の窓口で身分証明書を提示すれば、現在の国民健康保険の保険料を教えてもらえます。
任意継続被保険者については、会社の人事総務等で給与を計算している方に聞けば保険料を教えてもらえますし、健康保険協会に確認すれば、任意継続被保険者になった場合の保険料を教えてもらえます。
基本的にはご自身で調べる必要はなく、それぞれの役所で確認するのが一番早いと思います。
ただし、一点だけ注意していただきたいことがあります。
先程国民健康保険に関して、加入者の人数によって保険料が決まるとお伝えしましたが、これはどういうことかと言いますと、国民健康保険には「扶養」という概念がありません。
一方、任意継続被保険者の場合、これは健康保険の制度ですので、「扶養」という概念があります。
ですから、例えば退職時に配偶者や子供が自分の健康保険の扶養に入っていた場合、任意継続被保険者を選択するのであれば、そのまま扶養に入ることが可能です。
しかし、国民健康保険を選んだ場合には、配偶者や子供の分の保険料がかかることになります。
そのため、国民健康保険の保険料を調べる際には、加入する人数、つまり自分以外に配偶者や子供も国民健康保険に加入することを伝えていただきたいです。
その上で、保険料を比較する際の注意点として覚えておいていただければと思います。
国民健康保険か任意継続被保険者どちらを選択するか?
ここまで任意継続被保険者と国民健康保険の保険料の仕組みについてお話させていただきました。
では、どちらの制度を選択するのが良いのか?ということですが、これは、これまでは非常に悩ましいところでした。
しかし、冒頭にもお話ししましたように、2022年に健康保険の法律が改正されたため、現在では非常にシンプルでわかりやすい制度になりました。
これからは、任意継続被保険者と国民健康保険をどのような視点で選べば良いのかについてお話ししていきたいと思います。
ここで、保険料についてもう少し説明させていただきます。
通常健康保険に加入している人の保険料は、年1回見直しが行われますが、任意継続被保険者の場合は、退職時の標準報酬月額をもとに保険料が決定され、その決定された保険料は、変わりません。
先程も言いましたように、任意継続被保険者として最大で2年間加入することができます。
ですから、もし2年間任意継続被保険者となった場合には、2年間保険料は変わらないこととなります。
例えば、令和6年9月1日に任意継続被保険者となった場合、2年後の令和8年8月31日まで保険料は変わりません。
一方で、国民健康保険は、先ほどお話ししたように、主に前年の収入を基に保険料が決定されます。
ですから、令和6年9月1日に国民健康保険に加入した場合は、令和5年12月31日までの1年間の収入をもとに保険料が決まります。
しかし、退職後に国民健康保険に加入し、その後就職しなかった場合、当然、収入がなくなることになります。
そのため、令和6年1月1日から令和6年12月31日までの1年間の収入は、前年と比べて減る可能性が高いです。
そして、国民健康保険の保険料は毎年6月に改定されるため、令和7年の6月には保険料が下がる可能性があります。
国民健康保険はこのような保険料の仕組みになっています。
このような保険料の仕組みを踏まえて、任意継続と国民健康保険のどちらを選ぶべきかについて、三つのパターンを考えてみました。
最初のパターンは、退職時に国民健康保険の保険料の方が安い場合です。
このケースは非常にシンプルです。
先ほども言いましたように、国民健康保険の場合、退職後に収入がなければ、保険料が上がることはありません。
そのため、最初に国民健康保険の保険料が安ければ、国民健康保険を選ぶ方が得です。
一方、任意継続被保険者の場合は、保険料がずっと変わりません。
二つ目のパターンは、退職時に国民健康保険の保険料が、任意継続被保険者の保険料より高く、しかも、元々の所得が高額で任意継続被保険者の保険料よりかなり差があり、翌年の6月1日以降も国民健康保険の保険料が高額になり、任意継続被保険者の保険料より高くなることが予想されるケースです。
このようなケースでは、当然任意継続被保険者を選んだ方が得だと考えられます。
最後に三つ目のケースですが、国民健康保険の保険料の方が、任意継続被保険者の保険料より退職時には高いものの、元々の所得がそれほど高額でないため、任意継続被保険者とそれほど差がない、ケースです。
この場合、退職後に収入がなくなると、国民健康保険の保険料は下がる傾向がありますので、翌年の6月以降には、国民健康保険の保険料の方が、任意継続被保険者の保険料より下がる可能性が高いと言えます。
このようなケースでは、最初は国民健康保険の保険料が高くても、2年間を通して比較すると、結果的に国民健康保険を選んだ方が安くなる可能性が高いと言えます。
ただし、現実には、今ご説明した通りに行かないケースがあります。
それは、先程も言いましたように、国民健康保険は世帯単位で加入するという考え方があるからです。
例えば、三つ目のケースで、退職後、配偶者が就職し、収入を得るようになった場合には、翌年の国民健康保険の保険料が、想定に反して任意継続被保険者の保険料より安くならないケースも考えられます。
また、同じケースで、翌年の国民健康保険の保険料が安くなる前に就職して新たに健康保険に加入することになれば、任意継続被保険者を選んだ方が絶対に得となります。
しかし、予定通りに就職できない場合もあります。
このように、将来が必ずしも想定通りに行くとは限らないわけです。
そして、任意継続被保険者の制度が、一度加入すると、自分から任意継続被保険者を止めることができなかったため、国民健康保険か任意継続被保険者かの選択で多くの方が、頭を悩ませてきました。
例えば、退職時の保険料が、任意継続被保険者の方が安く、翌年以降も任意継続被保険者の保険料の方が安くなると思い、任意継続被保険者を選択したところ、予想に反して国民健康保険料の方が安くなるケースが考えられます。
また、先程も少しお話ししましたが、退職時の保険料が、任意継続被保険者の方が安く、翌年の国民健康保険の保険料が下がる前に、就職する予定が就職できず、結局、国民健康保険の保険料の方が安くなってしまうケースも考えられます。
以前は、上記のケースのように、国民健康保険の保険料が安くなったからといって、途中で任意継続被保険者を止めることはできなかったのです。
しかし、2022年1月から健康保険の法律が改正され、任意継続被保険者も自分の意思で止めることができるようになりました。
ですから、退職時に任意継続被保険者の保険料が国民健康保険の保険料より安ければ、単純に任意継続被保険者を選んだ方が得です。
そして、国民健康保険の保険料が改定されて、もし国民健康保険の保険料が安くなるのであれば、その時点で任意継続被保険者をやめて国民健康保険に切り替えるという方法を取れば良いのです。
これで非常にシンプルな考え方になりました。
ですから、ここまでいろいろお話ししてきましたが、任意継続被保険者か国民健康保険かを選ぶのであれば、ほとんどの場合、単純に退職時の保険料が安い方を選べば解決するという形になっています。
ただし、1つ注意していただきたいケースがあります。
それは、退職時国民健康保険を選択した場合、通常は翌年の保険料は下がりますが、先程ご説明したように、配偶者が就職する等の理由で、翌年の国民健康保険の保険料が上がってしまい、結果的に退職時の任意継続被保険者の保険料より高くなってしまう場合です。
任意継続被保険者の概要でご説明したように、任意継続被保険者は、退職後20日を経過してしまうと、任意継続被保険者になることはできません。
ですから、このようなケースでは、国民健康保険に加入し続けることとなります。
ただ、正直このようなケースは稀で、そこまでのことを予想するのは、非常に困難ですので、もしこのようなケースに遭遇してしまったら、それはそれで諦めていただくしかないかと思います。
さらにもう1つ覚えておいていただければと思いますが、国民健康保険を選ぶのであれば、そのまま国民健康保険に加入することとなりますが、もし任意継続被保険者を選んだ場合には、翌年の6月以降に国民健康保険の保険料が安くなり国民健康保険に切り替えた方が得となります。
しかし、任意継続被保険者である限り、国民健康保険の保険料のお知らせは当然自分のところには来ません。
ですから、年度が変わり、5月頃には、その年度の保険料がいくらになるかわかるかと思いますので、ご自身で確認することを忘れないでいただきたいと思います。
国民健康保険の保険料の減免
最後にもう一つ、国民健康保険についてぜひお伝えしたいポイントがあります。
先程ご説明したように、国民健康保険の保険料の決め方は前年の収入と加入する人数によって決まりますが、減免制度というものがあります。
これは、退職の理由が会社の倒産やリストラ、あるいは有期雇用労働者として一定期間以上雇用された後の雇い止めなどの場合には、国民健康保険料が減免される、つまり安くなる制度です。
ただし、この制度の内容は市区町村によって異なります。
ですので、もし退職理由が先ほど挙げたような会社の倒産やリストラなどに該当する場合は、市区町村の国民健康保険の窓口にお問い合わせいただくことをお勧めします。
まとめ
今回は、退職後の保険加入についてお話しさせていただきました。
会社を退職して健康保険を抜けた場合、その後の保険加入について最も得するパターンは、健康保険の扶養に入ることです。
しかし、健康保険の扶養に入る親族がいない場合は、任意継続被保険者か国民健康保険のどちらかを選択することになります。
そのどちらを選ぶかについては、今回お話ししたように、2022年に健康保険の法律が改正されたこともあり、基本的には単純に保険料が安い方を選ぶのが良いと思います。
ただし、任意継続被保険者を選んだ場合、翌年には国民健康保険の保険料が下がる可能性がありますので、その時点で再度国民健康保険の保険料を調べることを忘れないでください。
また、国民健康保険には退職理由によって減免制度がありますので、この点もぜひ覚えておいていただければと思います。