シリーズブラック企業にならないための労務管理⑨ 雇用契約書 労働条件通知書 退職届

今回は、労働トラブルを防ぐ雇用契約書、労働条件通知書、退職届についてお話したいと思います。
ブラック企業の特徴として、労働トラブルが多発が挙げられます。
そのため、ブラック企業にならないためには、適正な労務管理を行うことはもちろん重要ですが、それと同時に労働トラブルを防止することも非常に重要なポイントとなります。
今回お話する雇用契約書、労働条件通知書、退職届は、経営者にとって身近なものですが、実はこれらが労働トラブルを防ぐ上で非常に重要な役割を果たすのです。
今回は、これらの書類が労働トラブル防止にいかに有効かという点についてお話しします。
そして、ブログの後半では、雇用契約書、労働条件通知書に関して、労働トラブルを防ぐためのテクニック的なポイントもお話ししますので、是非最後までお読み下さい。
労働条件通知書、雇用契約書について
まず雇用契約書、労働条件通知書についてご説明したいと思います。
労働基準法では、労働者を雇用した場合に労働条件を明示しなければならないと定められています。
ここで「明示」という言葉についてですが、これは通知するとか伝えるという意味で考えていただければ結構です。
ですから、労働者を雇用した場合には労働条件を通知、あるいは伝えなければならないというのが法律です。
ここに関してもう少し具体的にご説明したいと思います。
明示する労働条件ですが、必ず明示しなければならない事項が決められています。
それが、絶対的明示事項と呼ばれるものです。
具体的には、雇用期間や賃金、就業場所等が挙げられます。
具体的には以下の事項となります。
● 雇用期間に関する事項
● 期間の定めがある労働契約の場合、契約更新するときの基準に関する事項
● 就業する場所および業務内容に関する事項
● 始業および終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日などに関する事項
● 賃金の決定および計算方法、支払時期、昇給などに関する事項
● 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
それに対して、定めがある場合に明示する事項が、相対的明示事項と呼ばれます。
具体的には以下の事項となります。
● 退職手当の対象労働者や支払方法などに関する事項
● 賞与などに関する事項
● 食費、作業用品など労働者の負担に関する事項
● 安全や衛生に関する事項
● 職業訓練に関する事項
● 災害補償などに関する事項
● 表彰や制裁に関する事項
● 休職に関する事項
労働者を雇用した場合には、上記の絶対的明示事項および相対的明示事項を明示しなければならないこととなります。
そして、絶対的明示事項に関しては、昇給に関する事項を除き、全て書面で明示しなければならないとされています。
従って、雇用期間に関する事項や就業場所、賃金に関する事項などは、必ず書面で明示する必要があります。
つまり、雇用期間に関する事項や就業場所、賃金に関する事項に関して、口頭での明示は法律違反となります。
ただし、相対的明示事項や昇給に関する事項については、口頭で明示しても、法的に問題ありません。
しかし、書雇用期間に関する事項や就業場所、賃金に関する事項を書面で明示して、相対的明示事項あるいは昇給に関する事項だけを口頭で明示するということは、通常は行われないため、基本的には絶対的明示事項、相対的明示事項どちらも、書面で明示されることとなります。
次に労働契約書と労働条件通知書の違いについてもお話ししたいと思います。
法律上、労働条件の明示が求められますが、この明示は通知または伝達することを意味しますので、一方的に明示すれば良いこととなります。
労働条件通知書とは、文字通り労働条件を通知する書類ですので、この労働条件通知書を労働者に渡しさえすれば法律上の基準をクリアすることとなります。
それに対して雇用契約書は、一方的に書類を渡すのではなく、労働者および会社双方の署名、押印等が必要となります。
当然のことですが、雇用契約書には明示しなければならない労働条件を記載する必要があります。
なお、今回は、いかに労働トラブルを防ぐか?という視点でご説明していきたいと思いますので、労働条件通知書および雇用契約書の具体的な内容についてのご説明は割愛させていただきます。
雇用契約書と労働条件通知書につきましては、こちらの動画で詳しくご説明していますので、是非ご覧になって下さい。
◆労務管理用語シリーズ③ 労働条件通知書と雇用契約書
⇒ https://youtu.be/pVSCzy1BTTc
労働トラブルを防ぐ視点から考えた場合、労働条件通知書よりも雇用契約書の形式の方が望ましいと言えます。
なぜなら、労働条件通知書は一方的に渡されるだけですので、もし後でトラブルが起こった場合に、労働者が「そんな書類をもらっていない」と主張することがあり得ます。
一方、雇用契約書では労働条件が明確に記載され、それに労働者が、署名するわけですから、後で「そんな労働条件は知らなかった。」とは言えないこととなります。
ですから、労働条件の明示は、雇用契約書の形式を取った方が、労働トラブル防止の効果が高まります。
私の経験から言えば、労働条件の不一致が労働トラブルの主な原因でありますので、書面で通知されていれば証拠が残ります。
逆に書面がない場合、「言った言わない」の世界になってしまい、トラブル解決が困難なものとなってしまいます。
従って、労働トラブルを防止するためには、労働条件を書面で通知することが本当に重要です。
ところで、先程ご説明しましたように、昇給以外の事項についても書面で明示することが法律上求められていますが、多くの場合、口頭での明示で済まされてしまっています。
私は、社会保険労務士として20年以上活動してきましたが、これまでに数多くの労働トラブルに遭遇してきました。
経営者から、労働者からこういう訴えがあったという相談を何回も何回も受けました
過去を振り返ってみると、実はしっかりと書面で労働条件を明示していれば、こんな労働トラブルは起きなかっただろうと思ったことが本当に何回もありました。
私の個人的な感覚ですが、法律に則り労働条件をきちんと書面で通知していれば、労働トラブルの7割は防げるのではないかと思います。
仮に労働トラブルが発生しても、しっかりと書類が残っていればスムーズに解決できます。
労働トラブルを防止する上で、労働条件を書面で通知することは、本当に重要だと思います。
実は、これは私だけが言っていることではありません。
以前、私が所属している社会保険労務士会で研修会が行われ、労働基準監督署の署長を講師に招いたことがあります。
労働基準監督署には、数多くの労働相談が寄せられます。
その労働基準監督署の署長も、労働トラブルの原因は、労働条件を書面ではなく口頭で通知していることが一番の原因だとおっしゃっていました。
また、同じ社会保険労務士会の研修会で、今度は地元の労働組合の方を講師に招きました。
私達社会保険労務士は、経営者の立場に立つことが多いため、労働組合とは対立することが多いので、労働組合の方が社会保険労務士の研修会に来ていただいたということで、びっくりしたのをよく覚えているんですが、その労働組合の方も労働トラブルの原因は労働条件を口頭で済ましていることだとおっしゃっていました。
ですから、労働トラブルを防止ために、労働者を雇用した場合には、労働条件は必ず書面、できれば雇用契約書の形を取って明示するよう徹底していただければと思います。
退職届について
次に、退職届についてお話したいと思います。
退職届は、労働者が退職する際、つまり会社と結んでいる雇用契約を労働者側から解約する時に提出する書類です。
労働者を雇用する際には、会社は労働条件を一定のものについて書面で明示しなければならないという法律がありますが、退職届の提出は、法律上の義務ではありません。
退職の申し出は口頭でも成立します。
しかし、私は経営者の方に、必ず退職届をもらうようにお伝えしています。
ところが、経営者から「退職届を出すということは、労働者の都合で辞めるわけだから、特段トラブルは起こらないのではないか」と質問されることがあります。
確かにその通りなのですが、実は労働者が、退職届を提出して退職した後に、労働基準監督署やハローワークに「会社から辞めさせられた」「嫌がらせを受けた」といった申し出をすることが意外に多いのです。
私も労働者から直接相談を受けたこともあります。
労働者が、労働基準監督署やハローワークなどの行政機関に申し出をした場合、行政機関は、会社側に確認します。
そのような場合、退職届がなければ、結局「言った言わない」の世界になってしまい、労働トラブルを解決するのが難しくなります。
さらに、行政機関が介入すると経営者にとって負担が大きくなります。
労働者保護の風潮もありますので、経営者がトラブルに巻き込まれると精神的にも不安になり、解決には時間と労力がかかります。
ですから、退職届を必ず提出させれば、仮に訴えがあった場合でも、退職届があることで反論ができます。
このように退職届も労働トラブルを防ぐ上で重要なポイントとなります。
実は、「退職届をもらっていればこんなトラブルは起きなかったのに。」と思った回数も本当に多いのです。
退職届は、経営者の方が想像している以上に重要なものです。
労働者が退職する際には、必ず退職届をもらうことを、会社の制度としてしっかり確立していただければと思います。
なお、退職届につきましては、こちらの動画で詳しくお話していますので、是非ご覧になっていただければと思います。
◆シリーズ労働トラブル防止④ 退職届について
⇒ https://youtu.be/6uqZaTz6ymY
労働条件通知書 雇用契約書の有効活用について
次に、雇用契約書や労働条件通知書をより有効に活用して、労働トラブルを防ぐためのテクニックについてご説明したいと思います。
繰り返しになりますが、労働者を雇用する際には、絶対的明示事項および相対的明示事項を労働者に明示しなければなりません。
そして、一定の事項に関しては、書面での明示が必要となります。
これが法律となります。
ここに関して視点を変えて考えてみたいと思います。
労働者を雇用するときには、法律的な面から考えれば、労働者に必要な労働条件を明示、一定の事項については書面で明示すれば、それで法律の基準を守ることとなります。
となると、労働条件通知書または雇用契約書に必要な事項が記載さえされていれば、あとは何を記載していても別に構わないこととなります。
ここで私が顧問先の経営者におすすめしているのは、労働条件通知書や雇用契約書に法律上必要な事項に加えて、就業規則の服務規程や懲戒解雇規定、それ以外にも会社として必ずここは守ってもらいたいもの、ここは労働者に知っておいてもらいたいルール等を別紙として雇用契約書や労働条件通知書に添付し、労働者の署名捺印をもらっておくことです。
このようにすることで、労働者が就業規則を読んでいなくても、別紙に署名、捺印があることで内容を理解しているとみなされ、労働トラブルの解決がスムーズになります。
また、労働者にとっても会社のルールを理解しやすくなり、安心して働くことができる環境が整います。
このような別紙を活用することは、上場企業では一般的ですが、中小零細企業では少ないかもしれません。
しかし、非常に効果が高いので、ぜひ参考にしていただければと思います。
まとめ
今回は、労働条件通知書、雇用契約書、退職届ついてご説明いたしました。
労働条件通知書、雇用契約書は、労働者と雇用者の双方にとって重要な文書であり、労働関係の円滑な運営やトラブル防止、法的保護のために欠かせないものです。企業は適切な雇用契約書を作成し、労働者に交付することを徹底するべきです。
労働者を雇用する際に、労働条件を書面で明示すれば、多くの労働トラブルを防止することができます。
また退職届は、法的効力の確保、労働トラブル防止、退職手続きの円滑化、記録の保持など、退職届を提出することで多くのリスクを回避し、スムーズな退職を実現できます。
従って、退職する際には必ず労働者に退職届を提出することが重要です。
雇用契約書、労働条件通知書、退職届の重要性を正しく理解して、今後の労務管理に取り入れていただければと思います。