労災保険を使うと翌年の保険料が上がると聞いたのですが・・・?

【質問】

 

先日、労災事故が発生してしまい、従業員が大怪我をしてしまいました。

 

労災保険で処理をしたのですが、先日、同業者の方から「労災保険を使うと、翌年の保険料が上がりますよ。」と言われたのですが、本当でしょうか?

 

当社では、これまで労災事故は無く、労災保険を使うのが今回が初めてなので心配しています。

 

ちなみに、当社は、従業員数が15人で、小売業を営んでいます。

 


【回答】

 

従業員数が15人の事業場であれば、労災保険を使っても、翌年の労災保険料が上がることはありません。

 

 

【解説】

 

労災保険は、正式名称は、労働者災害補償保険と言いますが、労働者が、業務又は通勤中に怪我等を負った場合に、必要な給付を行う制度です。

 

具体的には、治療費や休業補償が給付されます。また、労災保険の保険料は、労働者に支払った賃金と業種ごとに決められている労災保険料率を基に決められます。

 

ですから、労働者の数が増え支払う賃金の額が増えれば、当然、保険料が上がりますし、危険度が高い業種の方が、保険料が高くなります。

 


 
 ところで、自動車保険のように一部の保険では、保険を使うと、翌年の保険料が上がる保険があります。

 

ですから、ご質問者様のように、労災保険も同じように、保険の給付を受けると翌年の保険料が上がってしまうのでは?と思われる方も多いのではないでしょうか?

 

実際、このご質問は、よく受けます。

 

 

 

確かに、労災保険の給付の有無が、保険料に反映しないとしたら>保険料負担の公平性に欠けると言えます。

 

また、労働災害防止意識も希薄となってしまいます。

 

ですから、労災保険においても、給付された保険金の額を保険料に反映させる制度があります。

 

これをメリット制と言います。
 
 


メリット制は、非常に複雑な制度ですので、ここでは、概要についてのみお話ししたいと思い

 

ますが、メリット制は、自動車保険等の保険と決定的に違う点が1つあります。

 

自動車保険等の場合は、保険金の給付を受ければ、全ての契約者は、翌年の保険料に影響を受けることとなります。
 
 


しかし、労災保険の場合は、先程、書きました保険給付の額に応じて保険料が変動するメリット制の対象となるのは、少なくとも従業員数が20人以上の事業所なのです。


つまり、従業員数が20人未満の事業場では、どんなに保険金の給付を受けても、翌年の保険料が上がることはありません。

 

逆に言えば、何十年も無事故で、全く労災保険を使わなくても、保険料が下がることは無いのです。
 
ですから、ご質問者様の事業場は、従業員が15人ということですので、労災保険を使っても、翌年の保険料が上がることはありませんので、ご安心下さい。
 
 


ちなみに、従業員数が20人以上の場合でも、純粋に保険給付の額が、保険料に影響してくるのは、従業員数が100人以上からとなります。

 

従業員数が、20人から100人までの場合では、給付金が一定額以上支払われた場合に保険料の増減が行われます。
 

 

 

ところで、「労災保険を使うと労災保険料が上がってしまう」と誤解されている経営者の方は、非常に多いと言えます。

 

これは個人的な見解ですが、この誤解が、「労災隠し」や「健康保険の不正受給」に繋がっていると言えます。

 

労災事故にも関わらず、健康保険で受診させたり、労働基準監督署に必要な報告をしないと、後々、大きなトラブルになってしまう可能性が非常に高いと言えます。

 

ですから、労災保険に関しては、制度を正しく理解することは、非常に重要なってくると言えます。
 

 

 
最後に労災隠しと死傷病報告書について触れたいと思います。

 

労働安全衛生法という法律により、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷等により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない、とされています。

 

この様式第23号が、「死傷病報告書」と呼ばれている書類です。

 

つまり、経営者は、労働災害等により、労働者が休業又は死亡した場合には、この死傷病報告書を労働基準監督署へ提出することが、法的に必要となってきます。

 

逆に言えば、この死傷病報告書を提出しなければ、法律違反となり、いわゆる「労災隠し」となります。
 
 


ところで、労災隠しは、立派な犯罪となります。

 

昨今、労災隠しの多発により、労働基準監督署は、労災隠しに対して、非常に厳しい対応を取っており、書類送検されるケースも決して珍しくありません。

 

もし、書類送検されれば、企業のイメージダウンは、甚大なものとなってしまいます。
 

 


「労災隠し」が行われる理由には、様々な理由があるかもしれません。

 

しかし、どんな理由であれ、書類送検されて結果的に刑事罰を受けることとなること以上に優先される理由があるのでしょうか?

 

その視点から考えれば、「労災隠し」が、いかに割りが合わないものであるということが自ずからわかるのではないでしょうか?

 

 

【まとめ】

 

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労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、労働者が業務中や通勤中に負った怪我などに対し、治療費や休業補償を給付する制度です。

 

保険料は、事業主が支払う労働者の賃金額や業種ごとの危険度に応じて決定されます。

 

労災保険の保険料には「メリット制」という仕組みがあり、給付された保険金の額によって保険料が増減します。

 

ただし、この制度の対象は従業員20人以上の事業所であり、特に従業員100人以上の事業所で顕著に影響します。

 

従業員20人未満の事業所では、給付があっても保険料は変動しません。

 

 

 

「労災保険を使うと保険料が上がる」との誤解から、労災隠しや健康保険の不正利用が発生することがあります。

 

しかし、労災事故を隠すことは法律違反であり、企業イメージを損ねるだけでなく、刑事罰の対象となってしまいます。

 

経営者は、労災制度を正しく理解し、必要な報告書(死傷病報告書)を提出することが重要です。