日常業務から法律を学ぶ 健康診断の追加検査の支払いは?  

賃金は、労働者にとっても最も重要な労働条件であるため、労働基準法等により様々な規定が定められています。

 

賃金に関する規定は、こちらのブログでお話ししています。

 

>>賃金には意外に知られていない法律の制限が・・・

 

 

賃金に関する規定の中で、「賃金の全額払い」という規定があります。

 

この法律は、非常に重要であるため、今回は、身近な事例を基に具体的に説明してみたいと思います。

 

 

追加検査料は、当然労働者が負担するものなのですが・・・

 

s_dc74246babafedb74d54ff1a65ea8b1c_s.jpg

 

先日、ある社長様からこんなご質問を受けました。

 

「先日、会社で健康診断をやったのですが、さっきその請求書が届いたのですが、追加の検査料もその中に含まれているのですが、この分は、従業員の給料から控除してもいいですか?」

 

このようなことは、日常業務においてはごく当たり前に起こるかと思います。

 

 

 

実は、この質問は、とても大切な法律の定めが関係してきます。

 

法律は、それ自体を直接、覚えようとするとなかなか難しいところがありますよね。

 

ですから、日常業務で起こり得る事例から、法律を考える方が、理解しやすいのではないかと思いますので、今回は、日常業務の事例から法律を考えてみたいと思います。

 

 

 

さて、冒頭のある社長様からのご質問ですが、まず事業主の方は、常時雇用する労働者に対して、1年に1回、健康診断を行う必要があります。

事業主が行うべき健康診断の内容は法律で定められていて、基本的な検診が中心となります。

 

ですから、事業主の方は、法律で定められた内容検診だけを、労働者に受けさせれば法律上は良いこととなります。

 

 

 

しかし、この法律で定められた、検診内容には、胃や肺、女性の場合の子宮などのがん検診等は含まれていません。

 

このような検査には、市町村からの補助等もあるので、労働者としては、会社が行う健康診断と同時に検診を受けることを希望するのは、至極当然と言えます。

 

ただし、ここで問題となってくるのが、基本的な検診以外の追加検診の検査料です。

 

 

 

先程、書きましたように、法律では、事業主の方は、法律で定められた内容の健康診断を労働者に受診させれば良いので、健康診断の費用も、法律で定められた検査の分だけ負担すれば良いこととなります。

 

追加検診については、労働者に負担させても問題ありません。と言うより、本来は、労働者が自分の意思で検査を受けるわけですから労働者が支払うべきものです。

 

しかし、病院側が、基本的な検査料と追加検査の費用とを会社と労働者にそれぞれ請求してくれれば良いのですが、実際には、そんな面倒なことはしてくれいないですよね。

 

通常は、会社に全額請求がきます。

 

 

 

となると、冒頭の質問に戻りますが、「追加検査の費用は、給料から控除したい」とどの事業主の方も思いますよね。

 

実際に、多くの会社で当然のようにこのようなことは行われているかと思います。

 

しかし、この問題は、「賃金の全額払い」という法律の受けることとなります。

 

 

 

つまり、無条件で今回取上げた健康診断における追加検査料を労働者の給料から控除することは出来ないのです。

 

労働者が、本来負担すべき費用を、労働者が支払って何がいけないの?と思われかと思います。

 

もちろん、労働者が費用を負担するのは問題ありません。

 

仮に、追加検査料を労働者から直接集金すれば全く問題はありません。

 

問題なのは、「給料から控除」するということなんです。

 

 

賃金は、「全額払い」が原則です

 

s_062f5acaf954f91c7a6cb8b9d388248e_s.jpg

 

労働基準法には、「賃金の全額払い」という法律があります。

 

これは文字通り、労働者に給料を全額支払う、という意味です。

 

 

 

でも、ほとんどの方が、給料をもらったことがあると思いますが、実際には、社会保険料や税金等様々な控除額があります。

 

これは、厳格にに「給料の全額払い」を適用してしまうと、使用者だけでなく労働者にも不都合が生じてしまうので、一部、例外を認めています。

 

しかし、基本は、「全額払い」なのです。

 

 

 

ところで、その例外についてですが、

 

まず、「法令に別段の定めがある場合」があります。

 

たとえば、社会保険料や所得税については、健康保険法や所得税法で保険料や税金を給料から控除できる旨の規定を定めています。

 

このように法令に別段の定めがあれば、給料から控除することができます。

 

つまり、今回、取上げている、追加検査費用も何らかの法令等で給料から控除できる、という規定があれば、給料から追加検査費用を控除しても法律的に全く問題ないのですが、残念ながら、そのよう法令は存在しません。

 

 

 

では、法令に別段の定めがないものは、絶対に給料から控除できないか?と言うと、そうではありません。

 

実際に、労働者側も、その都度、現金を支払うより、給料から控除してもらった方が、手間が省け、良い場合も当然あります。

 

追加検査費用などまさにそうですよね。

 

 

 

つまり、会社が一方的に控除できるのではなく、労働者側と控除することについて合意する必要があります。

 

ですから、労働基準法では、そのような場合にも給料から控除できる例外を規定しています。

 

ただし、2つ条件があります。

 

 

まず、労使間において書面による協定がある場合です。

 

さらに、控除できるのは、社宅費、組合費、購買代金等事理明白なものに限られています。

 

ここは重要な点で、労使間の書面協定があれば、どのようなものでも控除できるわけでなないのです。

 

 

 

さて、今回の例で言えば、健康診断の追加検査費用は、事理明白なものに含まれると考えられますので、労使間での控除に関する書面協定を結べば、追加検査費用を給料か控除しても問題ありません。

 

たかが、追加検査費用を控除するにも、背後には、このような法律の制限があります。

 

 

まとめ

 

3676605_s.jpg

 

賃金は労働者にとって重要な労働条件であり、労働基準法などで様々な規定が定められています。

 

その中の一つに「賃金の全額払い」の原則があります。

 

 

 

例えば、健康診断の追加検査費用を従業員の給与から控除できるかという質問がありました。

 

事業主は法律で定められた健康診断の費用を負担する義務がありますが、追加検査費用は労働者の自己負担となります。

 

しかし、これを給与から自動的に控除することは「賃金の全額払い」の原則に反するため、無条件での控除は認められません。

 

 

 

ただし、例外として、①法令で控除が認められている場合、②労使間で書面による協定があり、控除内容が明確な場合は、給与から控除することが可能です。

 

健康診断の追加検査費用は「事理明白なもの」と考えられるため、書面による協定を結べば控除が認められます。

 

このように、給与からの控除には法律上の制約があるため、適切な手続きを踏むことが重要です。