就業規則と労働トラブル防止について

就業規則を作成する大きな目的の1つに労働トラブル防止があります。

 

労働トラブル防止に効果的な就業規則を作成すれば、多くの労働トラブルを未然に防ぐことができます。

 

本ブログでは、就業規則を作成することで、実際にどのような労働トラブルを防ぐことができるか、いくつか事例をご紹介していきたいと思います。

 

 

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就業規則と労働トラブル防止① 飲酒運転について

昨今、飲酒運転については、非常に社会の目が厳しくなっています。

 

従業員が、業務中に飲酒運転をしたら、会社の責任はもちろん避けられませんが、業務時間以外での飲酒運転や酒気帯び運転についても、会社の道義的責任が求められています。

ですから、会社は、従業員の飲酒運転や酒気帯び運転の防止について、対策を講じておく必要が強く求められます。

 

その1つの方策として、飲酒運転や酒気帯び運転をした場合、懲戒解雇処分とする規定を就業規則に盛り込むと良いでしょう。

 

懲戒解雇規定は、労働基準法などの法律の制限を受けないので、基本的には、どのような定めをしても問題ありません。


少し話しがそれますが、懲戒解雇規定は、どのような内容にしても良いのですが、ただ、就業規則等に定めれば、どんな場合でも解雇の正当性が認められるわけではありません。

 

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ただ、視点を変えれば、解雇の正当性が認められるかどうかわからないけど、就業規則等に記載するのは自由と言えます。


実際、飲酒運転や酒気帯び運転を起こしただけでは、懲戒解雇の正当性が認められない場合もあります。

 

しかし、それは、裁判等で争って初めてわかることであって、懲戒解雇の理由として、飲酒運転や酒気帯び運転を記載することは、会社の任意と言えます。


懲戒解雇規定に、飲酒運転や酒気帯び運転が懲戒解雇の理由に記載されていれば、当然、抑止力の効果が期待できます。

重要な事は、飲酒運転や酒気帯び運転を起こした従業員をいかに解雇するではなく、いかにして従業員に対して飲酒運転や酒気帯び運転を起こさせないかです。

 

就業規則作成又は変更時には、是非、ご参考にして下さい。

 

就業規則と労働トラブル防止② 割増賃金について

現在、労働基準監督署等の寄せられる労働相談の中で、最も相談件数が多いのが、解雇と残業代不払いだそうです。

ところで、解雇については、労働者保護の立場から、経営者にとって非常に厳しい立場に置かれているのは事実ですが、トラブルを起こさせない対策を講じることはできます。

しかし、残業代や休日割増、深夜割増については、法律の定め通りに払うか、払わないかですので、本来は、労働トラブルではなく、法律違反かどうかの問題と言えるのかもしれませんが、相談に来る人が多いので、労働トラブルの1つとされてしまうのでしょう。


ところで、今、書きましたように、割増賃金は、法律の基準通りに払うのが基本ですので、割増賃金不払いのトラブルを防止するには、法律通りに割増賃金を支払うしか他に方法が無いと言えます。

 

ですから、就業規則においても、正しい割増賃金の支払い方を記載する必要があります。

 

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割増賃金の計算については、割増率と家族手当や住宅手当等の時間外割増単価を計算する際に不算入となる手当の取扱いに注意する必要があります。

 

割増率については、法定休日と法定外休日との違いと深夜労働の場合に注意する必要があります。

いずれにしても、割増賃金の不払いは、明らかな労働基準法違反となってしまいますので、無条件に労働基準監督署の支払い命令を受けることとなってしまいます

割増賃金につきましては、確実に法律の基準通りに支払うことが重要であると認識して下さい。

 

就業規則と労働トラブル防止③ 無断欠勤による懲戒解雇について

事業経営を長い間行っていると、突然、無断欠勤を続ける、従業員が出てくる場合があります。

 

ところで、極端な話し、健康保険や厚生年金保険、雇用保険に加入していないアルバイトのような従業員であれば、働いた分だけの給料さえ払えば、突然、会社に来なくなっても、さほど問題は生じないと言えます。

 

もちろん、人員不足の問題はありますが、それは、会社側で解決することが可能です。

しかし、健康保険や厚生年金保険に加入している従業員の場合、加入している保険をどうするか、あるいは住民税の支払い等手続き処理が必要となってきますが、従業員との雇用の関係を終了させるには、何らかの根拠が必要となってきます。

 

ところで、無断欠勤がある一定の期間が続きけば、当然に懲戒解雇の対象となります。

 

通常、就業規則を作成する場合には、懲戒解雇事由に、無断欠勤を記載します。


ただし、無断欠勤による懲戒解雇規定を定める場合に、その定め方に注意する必要があります。

一般に市販されているモデル就業規則等では、「無断欠勤が2週間に及んだ場合に、懲戒解雇とする」といった定め方がされている場合があるのですが、確かに、無断欠勤が2週間に及べば、解雇の正当性が、認められる確率は非常に高いと言えます。

 

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しかし、現在、解雇の正当性を判断する場合、その根拠が非常に重要視されます。


つまり、「無断欠勤が2週間に及んだ場合に、懲戒解雇とする」という規定が、解雇の正当性の判断に大きく影響を及ぼすという事です。

この規定の何が問題であるかというと、「無断欠勤が2週間に及んだ」の部分です。

この部分を文字通り解釈すると、2週間に及べば懲戒解雇できるが、無断欠勤の日数が10日では、懲戒解雇できなくなります。

極端な話し、10日無断欠勤し、数日出社して、また、10日無断欠勤しても、懲戒解雇出来ないこととなってしまいます。


もちろん、このようなことをあまりに繰り返せば、適正な労働力を提供しているとは言えないので、その意味で懲戒解雇はできるのでしょうが、そこに至るまでには、多くの時間を要してしまいます。

つまり、単に「無断欠勤が2週間に及んだ」と書いてしまうと、連続して2週間と解釈されてしまうので、例えば、「1ヶ月の間で、無断欠勤が連続、断続を問わず、14日に及んだ場合は、懲戒解雇とする」といった定めにすれば、より柔軟に対応できると言えます。

ほんのわずか数文字の違いですが、それによって取扱いの方法が大きく変わってしまうことありますので、是非、ご参考になさって下さい。

 

 

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就業規則と労働トラブル防止④ 入社時の必要書類の提出期限について

従業員を雇用する場合、面接等の採用試験時に履歴書等の一定の書類を提出させ、採用の可否を判断します。

 

そして、採用することとなったら、入社後、一定の期間内にさらに必要な書類を提出させるケースが通常かと思います。


入社後に提出させる書類は、各種保険関係書類の他に誓約書や身元保証書等重要な書類が含まれる場合も多々あります。


さて、就業規則等で、入社後に提出させる必要書類に関しての定めを規定するわけですが、ここで注意しなければならないのは、提出期限です。

モデル就業規則等では、この期間を「入社後2週間以内」としている場合が、非常に多いと言えます。

 

しかし、労働トラブル防止の視点から考えると、提出期限を「入社後2週間以内」と定めるのは、危険が大きいと言えます。

と言うのは、先程も書きましたように、提出書類の中には、誓約書や身元保証書等、今後の雇用関係に重大な影響を及ぼす書類も含まれています。

もし、仮にそのような書類の内容が、採用段階で把握していた内容と異なった場合、最悪、解雇に発展するケースもあります。

 

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ところで、労働基準法では、従業員を解雇する場合には、解雇予告手当として、1ヶ月分の給料を支払うか30日以上に予告しなければならない、と定められています。


しかし、この解雇予告手当の規定には、例外の規定が定められていて、14日以内に従業員を解雇する場合には、この解雇予告手当が不要となります。(ただし、解雇する理由の正当性の問題は別となります。)

ですから、入社後の必要書類の提出期限を、入社後2週間以内と定めてしまうと、2週間後に提出された書類により、経歴詐称等の重大な問題が発覚して、解雇しなければならない場合でも、解雇予告手当の支払いが必要となってきてしまうのです。

ですから、この危険性を考慮すると、入社時の必要書類の提出期限は、入社後、5日から1週間以内程度とすることをお勧めします。

 

就業規則と労働トラブル防止⑤ 管理監督者について

労働基準法において、従業員に対して法定労働時間を超えて働かせた場合には、時間外割増賃金の支払いが必要となります。

 

また、働く時間の長さによって、一定の休憩時間が必要なります。

 

さらに、1週間に1日以上の休日を与える必要があります。

これら時間外労働、休憩、休日に関しての法律は、パートタイマーやアルバイトも含めた、全ての従業員に適用されます。


しかし、労働基準法では、これら時間外労働、休憩、休日の規定について、一部例外を設けています。

その1つが、いわゆる「管理監督者」と言われる、労働者です。

 

管理監督者とは、一般の従業員を監督する立場で、経営者に近い立場の従業員と位置付けられています。

 

経営者の立場に近く、一般の従業員を監督する立場であれば、労働時間に関して、ある程度の自由が利くため、労働基準法では、管理監督者については、時間外労働、休憩、休日に関しての法律の適用から除外しています。

 

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ところで、この管理監督署ですが、役職名や肩書等で判断されるのではなく、あくまで実態で判断されます。


つまり、管理監督者と認められるには、ある程度の権限が与えられていて、給料等でそれなりの待遇を受けている必要があります。

ですから、単に「部長」「店長」といった名前を付ければ、管理監督者となるわけでは無いのです。

ここで注意しなければならないのは、たとえ会社が、管理監督者とみなしていても、法律上、管理監督者と判断されなければ、通常の従業員となります。

 

となると、当然、時間外労働、休憩、休日についての法律の適用を受けることとなります。

その結果、時間外割増賃金や休日手当等の不払いが生じてしまうことなります。


実際、管理監督者の認定基準は、想像以上に厳しいものです。

ですから、たとえ就業規則に、管理監督者に関して、時間外労働、休憩、休日に関して、労働基準法の適用から外す旨の記載をしても、実態が伴っていなければ、大きな労働トラブルに発展してしまう可能性があるので十分な注意が必要となってきます。

 

 

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就業規則と労働トラブル防止⑥ 減給について

従業員が不祥事を起こしたり、就業規則の服務規程に反する行為を行った場合には、会社としては、懲戒処分を行う必要が出てきます。

懲戒処分の最も重いものが懲戒解雇となります。

しかし、場合によっては、「懲戒解雇ではあまりに厳しすぎる」というケースも当然出てきます。

 

そのため、就業規則には、懲戒解雇より軽い、懲戒処分も記載する必要があります。

 

具体的には、「始末書の提出」「減給」「降格」「出勤停止」などが考えられます。


ところで、「始末書の提出」についてはその方法や、また「出勤停止」については、その日数等に関しては、法律で特別の定めというものはありません。

ですから、始末書は、何枚提出させても、また、出勤停止日数が、何日に及んでも、それ自体が、違反行為となることはありません。


しかし、先程、挙げた懲戒処分例の中で、「減給」だけは、労働基準法によって制限が定められています。

 

つまり、減給を行う場合、無制限に行うことはできないのです。

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具体的には、1回の減給処分において、平均賃金の半分、そして減給処分が複数回に及ぶ場合には、1回の給料総額の10分1が限度となります。


平均賃金については、説明が少し複雑になるので、詳しい解説は、割愛させていただきますが、イメージとしては、1日分の給料と思っていただければ良いでしょう。

ですから、月給制度、1ヶ月間の給料が、30万円とすると、1日は約1万円となります。

 

例えば、上記のような、1ヶ月間の給料が、30万円の従業員がある問題を起こしたために減給処分を行おうとした場合、減給できる上限金額は、1日分の給料である1万円の半額、5,000円が上限となります。

この従業員が、また別の問題を起こし、再び減給処分を行う場合にも、5,000円が上限となります。


では、この従業員が、問題を起こし続けた場合、永遠に5,000円を減給し続けれるかというと、もう1つの法律である、「減給処分が複数回に及ぶ場合には、1回の給料総額の10分1が限度」によって制限を受けます。

減給処分が複数回に及んだ場合でも、1回の給料総額の10分の1、この場合では、30万円の10分の1、つまり、3万円が減給総額の上限となってしまいます。

つまり、減給処分を行うことができるのは、6回(5,000円×6回=30,000円)までで、仮に7回目の問題を起こしても、もう、減給処分は出来ないこととなります。

このように減給については、労働基準法で定めがありますので、その範囲内で就業規則に記載する必要があります。

 

まとめ

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今回のブログでは、就業規則と労働トラブルについて、具体的な事例をいくつかご紹介しました。

 

今回、お話ししたように、就業規則を整備することにより、多くの労働トラブルを防止することができます。

 

労働トラブルは、経営者にとって大きな精神的な負担となり、解決するには多大な時間と労力が必要となります。

 

ですから、労働トラブルを防止することは、経営的にみても重要なことと言えますので、就業規則の整備又は定期的な見直しを行っていただければと思います。

なお、上記の内容は、法律をわかりやすく解説してありますので、実際の法律とは合致していない部分ありますが、ご了承下さい。

 

 

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