労災保険 ~第3者行為災害~

【説明】


保険給付の原因の事故が第3者の行為によって生じた場合には、第3者とので調整が行われます。 

 


【ここがポイント!】


保険給付の原因の事故が第3者の行為によって生じる場合があります。


例えば、業務中の交通事故が代表的な例と言えます。


また、業務中に取引先で犬に噛まれて負傷した場合も第3者行為災害に該当します。(犬は、第3者ではありませんので、この場合、飼い主が第3者となります。)


このような第3者の行為によって事故が生じた場合であっても、「業務遂行性」「業務因果性」が認められれば、業務災害と認定されますし、通勤の要件を満たしていれば、通勤災害と認定されますので労災保険からの保険給付を受けることができます。

 

 

ところで、たとえ業務災害や通期災害であっても、事故の原因である第3者の負傷者に対する賠償義務はなくなりません。


となると、治療費等が第3者と労災保険から二重に支払われてしまう事態が発生してしまいます。

 

治療費が二重に支払われるのは、不合理と言えます。


このような事態を防ぐために、第3者との間で調整が行われます。

 

 

仮に、被災者に対して第3者より先に保険給付が行われた場合には、被災者が有する第3者への損害賠償の請求権を政府が代位取得し、被災者に代わって政府が第3者に対して損害賠償の請求を行うこととなります。


つまり、第3者が本来支払うべき治療費等が10万円とした場合、労災保険から10万円が先に支払われた場合には、政府が第3者に対して10万円を請求することとなります。

 

 

これを「求償」と呼びます。

 

つまり、たとえ労災保険から治療費等が支払われても、第3者が損害賠償を免れることは無いこととなります。

 

 

また、第3者行為災害の場合、保険給付より先に第3者からの損害賠償が先に支払われる場合もあります。


このような場合、本来保険給付から支払われるべき金額については、保険給付されません。


従って、被災者は、二重に治療費等を受け取ることがなくなります。

 

 

ところで、ここで注意すべき点は、保険給付されない金額は、「保険給付と同一の事由について損害賠償された場合」です。


つまり、保険給付されないのは、本来、保険給付されるであった金額についてのみとなります。


労災保険から保険給付されるものは、治療費や休業補償や障害が残った場合に支給される障害補償等です。


つまり、労災保険では、精神的苦痛に対する慰謝料や見舞金、香典等は給付の対象となっていないので、第3者からの損害賠償の中に慰謝料や見舞金等が含まれている場合には、それらは調整の対象とはなりません。

 

 

ところで、第3者行為災害において、政府が、このような調整を行うためには、第3者の情報が必要となってきます。


そのため、保険給付の原因となる事故が、第3者による場合に発生した場合には、被災者は、「第3者行為災害届」を労働基準監督署に提出する義務を負います。


「第3者行為災害届」については、内容が少し複雑なので詳細についての説明は、ここでは割愛させていただきますが、実は「第3者行為災害」は、交通事故を始め、実際に発生するケースは頻繁にありますので、労災事故で第3者が絡んだ事故の場合には、「第3者行為災害届」を提出する必要があるということを是非覚えておいて下さい。

 

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ところで、自動車及び原動機付自転車を使用する場合には、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)への加入が義務付けられています。


従って、労災事故が交通事故の場合には、自賠責保険と労災保険の2つの制度からの給付が考えられます。


しかし、これまでお話してきましたように、同じ目的について2つの保険給付がされることはありません。

 

 

交通事故であってもこれまでお話してきた原則が適用されます。


つまり、先に労災保険の給付がされた場合には、その価額を限度に国が自賠責保険に「求償」を行います。

 

 

逆に、自賠責保険が先行した場合には、本来労災保険が給付すべき金額については給付されないこととなります。


では、自賠責保険と労災保険のどちらを優先させるかが問題となります。


これについては、一般的には自賠責保険を優先させる、とされています。

 

 

しかし、必ずしも自賠責保険を優先させる必要はなく、どちらを優先させるかは、被災者の選択に任されています。


自賠責保険を優先させた場合の方が、被災者にとってメリットが大きい場合もありますし、その逆もあります。


労災事故で交通事故が絡む場合は、非常に複雑になりますので、専門家等のアドバイスをよく聞きながら、手続きを進めると良いと思います。

 

 

最後に私の経験で1つ注意することを挙げておきます。


先程書きましたように、自賠責保険か労災保険を優先させるかは、被災者の選択に任させれていますが、一般的には自賠責保険が優先されます。


病院等によっては、これを「自賠責保険を優先させるのが法律であると」誤解している場合があります。


事故状況によっては、自賠責保険を優先させることが、困難な場合もあります。


このような場合、感情的にならずにまず専門家や労働基準監督署に相談してみて下さい。そして場合によっては、病院等へ直接説明してもらうと良いかと思います。

 

 

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