失業保険をもらうと扶養に入れない?
今回は、健康保険の扶養と失業等給付との関係についてお届けしたいと思います。
こちらの動画では、年収が130万円未満であった場合でも、健康保険の扶養に入れないケースをご紹介しています。
◆え!? 年収130万円未満でも扶養に入れない?
⇒ https://youtu.be/mT9e9JlyUUI
年収が130万円未満であっても、健康保険の扶養に入れないケースは、実は動画でご紹介した以外にもあります。
今回はその一つである、失業等給付を一定額以上受給した場合に、健康保険の扶養に入れないケースについてご説明したいと思います。
今回の内容は少し特別なケースですが、盲点となっていることが多いと言えます。
そのため、今回お話する内容を知らないで、誤って健康保険の扶養に入ってしまうケースも考えられます。
ですから、経営者や事務担当者の方はもちろん、労働者の方も、是非今回ご説明する内容を覚えておいていただければと思います。
失業等給付と健康保険の扶養との関係
最初に一つ用語についてお話させていただきたいと思います。
冒頭から使っています「失業等給付」という言葉ですが、よく皆さんが「退職後にハローワークに行って失業保険をもらう。」と言われることがあるかと思いますが、まさにそれです。
しかし、失業保険というのは正しい言い方ではなく、失業保険という言葉は、実は存在しません。
正しくは「失業等給付」と言います。
ですから、失業等給付は、失業保険のことを指すとご理解下さい。
それでは本題に入っていきたいと思います。
冒頭にもお話しましたように、健康保険の扶養に入るための年収条件が130万円未満であっても、失業等給付を一定額以上もらった場合には、健康保険の扶養に入れなくなります。
具体的には、日額3,612円以上をもらった場合です。
なお、60歳以上や一定の障害者の場合の年収条件が、緩和されているため、5,000円以上の失業等給付をもらった場合に健康保険の扶養に入れなくなります。
ただ、今回は、3,612円を基準にご説明させていただきますので、60歳以上や一定の障害者に該当する場合は、3,612円を5,000円に読み替え下さい。
今ご説明したように、失業等給付を1日3,612円以上受給する場合には、健康保険の扶養に入ることができません。
では、なぜ失業等給付を1日3,612円以上受給すると健康保険の扶養に入れないのか?についてご説明していきたいと思います。
まず、3,612円についてご説明したいと思います。
なぜ3,612円という数字が出てきたかというと、これは健康保険の年収条件130万円を360日で割った数字です。
130万円を360日で割ると、3,611円11銭となります。
つまり、健康保険の年収条件の130万円を1日当たりに換算した金額が、3,612円なのです。
ところで、なぜ130万円を360日で割るのか、疑問に思われたかと思います。
1年間は365日なので、1日当たりの金額を出すのであれば、130万円を365日で割るのが正しいと思われるかもしれません。
しかし、健康保険では、月給を日給に換算するなど保険金給付等の計算をする場合、1ヶ月30日という数字を使います。
そのため、1年間は、1ヶ月30日の12倍で360日と考えます。
いずれにしても、失業等給付を1日当たり3,612円以上受給している間は、健康保険の扶養に入ることができません。
では、失業等給付と健康保険の扶養との関係について、もう少し詳しくご説明していきたいと思います。
失業等給付を受給できる期間は、雇用保険に加入していた期間と退職理由によって決まります。
受給できる日数の最も一般的なパターンとしては、自己都合退職で雇用保険に入っている期間が10年未満で、その場合の失業等給付を受給できる日数は、90日となります。
ところで、もし1日あたり3,612円の失業等給付を90日分受給した場合、合計では32万5080円となります。
つまり、失業等給付を満額受給したとしても、130万円には届きません。
失業等給付の収入は、130万円未満なのに、なぜ1日あたり3,612円の失業等給付を受給すると健康保険の扶養に入れなくなってしまうのか?疑問に思われるかと思います。
実は、健康保険の扶養の年収の考え方は、現在の時点から今後1年間に得る収入を指します。
したがって、1日当たり3,612円の失業等給付を受給している間は、実際には130万円に達しないのですが、失業等給付をもらっている間は130万円以上の収入があるとみなされます。
これが健康保険の考え方です。
従って、失業等給付を1日当たり3,612円以上もらっている間は健康保険の扶養に入ることができません。
仮に健康保険の扶養に入っている人が失業等給付をもらい始め、その金額が3,612円以上になった場合には、健康保険の扶養から抜けなければいけません。
このルールをまず覚えていただければと思います。
次に、具体的にいつの時点で健康保険の扶養から抜ける、あるいは健康保険の扶養に入れないかについてお話します。
失業等給付は、退職する理由が解雇等の場合と自己都合の場合とで流れが異なります。
まず、解雇等で退職する場合の流れについてお話します。
解雇等で退職した労働者は、その後、会社から送られてくる離職票を持ってハローワークに行き、失業の認定を受けます。
ここで失業等給付の手続きを行います。
そして、待機期間の7日間があります。
この待機期間中は、失業等給付は、どのような場合でも支給されません。
そして、この待機期間の7日間が終わると、失業等給付の対象期間となります。
この間、ハローワーク等に行って職業を探すことになります。
職業を探しても就職先が見つからなかった場合、その期間は、失業していたことになるため、失業等給付が支給されます。
その失業等給付を支給することを認定する日が認定日となります。
この期間中、失業していたことが認定されると、一定期間後に失業等給付が指定された銀行口座に振込まれます。
では、1日当たり3,612円以上の失業等給付を受給する場合に、どの時点で健康保険の扶養から抜ける必要があるのか?ですが、失業等給付の対象期間自体は、待機期間の7日が終わった翌日からとなります。
先程ご説明したように、実際に失業等給付が降り込まれるのは、認定日の数日後となりますが、対象期間に失業していた時点で、失業等給付は発生していると考えます。
ですから、健康保険の考え方としては、1日当たり3,612円以上の失業等給付を受給する場合には、待機期間が終わった翌日から健康保険の扶養に入ることができなくなります。
逆に言えば、待機期間の7日間が終了するまでは、健康保険の扶養に入ることができることとなります。
つまり、退職後、一旦健康保険の扶養に入り、失業等給付の手続きをして、待機が終わった翌日から健康保険の扶養を抜ける形となります。
最初の認定日が終わった後、その後は、基本的に28日間ごとに失業の認定を行うこととなります。
そして、どこかの段階で最後の認定日を迎えることとなります。
先程も触れましたが、実際に失業等給付のお金が振り込まれるのは、認定日の一定期間後です。
しかし、失業等給付というのは、あくまで対象期間のうち失業をしている期間ですので、対象期間が終わった時点で、失業等給付の受給は終わっていると考えられますので、健康保険の扶養の考え方としては、実際に失業等給付を受給する前でも、失業等給付の対象期間が終わり、条件を満たしていれば、扶養に入ることができるようになります。
いずれにしても注意していただきたいのは、健康保険の扶養に入ることができなくなるのは、実際にお金が振り込まれた時からではなく、待機期間が終わった翌日からとなります。
次に自己都合退職の場合ですが、自己都合退職の場合は、待機期間の7日が終わった後に、さらに失業等給付は支給されない給付制限の期間が一定期間あります。
この給付制限期間中は、失業等給付は支給されないこととなりますので、健康保険の扶養に入ることが可能となります。
ですから、自己都合退職場合、退職後ハローワークで失業等給付の手続きをしても、給付制限期間が終了するまでは、健康保険の扶養に入ることができることとなります。
以上のように失業等給付を、1日当たり3,612円以上受給することとなると、一定期間、健康保険の扶養に入ることができなくなります。
ただし、これは実務面では非常に難しいところがあります。
というのは、健康保険の扶養に入る、抜けるの手続きは、扶養に入っている人の判断で行う必要があります。
そして、実際の手続きは、健康保険の加入者が勤務している会社となります。
例えば、夫が健康保険の加入者で、妻が夫の健康保険の扶養に入る場合、扶養の手続きを行うのは、夫の会社となります。
ですから、会社は、夫の収入は把握することはできますが、その妻は夫の会社とは雇用関係が無ければ、収入に関しては全く関与することはできません。
従って、夫の会社は、妻が失業等給付の金額に関して、全く把握することができないのです。
ですから、失業等給付受給の扶養に関する手続きは、扶養に入っている人の判断が、とても重要となります。
ここで、経営者、事務担当者の方には、是非覚えておいていただきたいのですが、従業員の親族が、健康保険の扶養に入る場合には、会社を辞める等、扶養に入る理由はある程度わかるかと思います。
ですから、もし従業員の親族が、会社を辞めて従業員の健康保険の扶養に入る場合には、失業等給付を受給する可能性が考えられますので、経営者や事務担当者は、その従業員に、扶養に入る親族が、失業等給付を1日3,612円以上受給する場合には、健康保険の扶養にはいれないことをアドバイスするようにしていただければと思います。
傷病手当金 出産手当金との関係
これまで、雇用保険の失業等給付を1日当たり3,612円以上受給する場合は、健康保険の扶養に入ることができないことについてご説明させていただきました。
実は、これと似たようなケースが、他にもあります。
それが、健康保険の傷病手当金や出産手当金を受給している場合です。
傷病手当金や出産手当金は、通常は健康保険の加入中に受給するものですので、扶養との問題は起こらないのですが、退傷病手当金や出産手当金は、実は退職後も一定の条件を満たしている場合には、継続して受給することができるわけです。
となってくると、傷病手当金や出産手当金を1日3,612円以上受給している労働者が、退職後も傷病手当金や出産手当金を受給し続けると、受給中は健康保険の扶養に入ることができない、こういう形となってきます。
特に注意が必要なのが、出産手当金です。
出産手当金について、少しご説明させていただくと、産前42日間(多胎妊娠の場合は98日間)、産後56日間受給できます。
そして、退職後も出産手当金を継続して受給するには、退職日に出産手当金を受給している必要があります。
つまり、通常妊娠の場合で、産前42日以上前に退職してしまうと、退職日に出産手当金を受給することが不可能となるので、退職後は出産手当金を継続して受給することはできなくなります。
退職後42日以内に、(多胎児の場合は98日となりますけど)出産した場合は出産手当金をもらうことができます。
いずれにしても、失業等給付と同じように、出産手当金の1日当たりの金額が、3,612円以上となると、出産手当金受給中は、健康保険の扶養に入ることができなくなります。
退職後の出産手当金と健康保険の扶養との関係で、重要となってくるのが、ここからなのですが、退職時に出産手当金の支給対象期間であって、1日当たりの金額が3,612円以上であれば、退職後は健康保険の扶養には入れないこととなります。
ところで、出産手当金は、産後56日まで支給の対象となっています。
ですから、請求するのは多くの場合、産後56日が過ぎてから請求します。
つまり、出産手当金を請求するのは、退職してから一定期間経過後となります。
ところで、失業等給付の場合は、手続きを行う過程で、1日当たりの金額を労働者は知ることができます。
しかし、出産手当金の場合は、申請書を提出するだけで、申請の過程で金額を知ることはありません。
もちろん、法律で計算方法が定められているので、それに基づいて自分で計算すれば、金額を知ることは可能ですが、ほとんどの労働者は、その知識を有していないのが実情です。
つまり、ほとんどの労働者は、退職後一定期間経過後に出産手当金を申請して実際に出産手当金が支給されて初めて金額を知ることとなるのです。
そして、その金額が1日当たり3612円以上で、もし退職した後に健康保険の扶養に入っていたとなると、それは間違いという形になります。
もしそれが健康保険協会等に知られることとなったら、さかのぼって扶養が取り消されることとなります。
ですから、傷病手当金や出産手当金を退職後にもらう場合には、1日当たりの金額が3,612円以上になる場合は、健康保険の扶養に入ることができなくなることも是非覚えておいていただきたいと思います。
ところで、このようなケースも、労働者の判断がやはり主になってきます。
しかし、先程も言いましたように、労働者の方が、これを判断するのは正直難しいです。
ですから、経営者、あるいは事務担当者の方が、傷病手当金や出産手当金を受給している人が退職する場合、1日当たりの金額を少し調べてあげて、もし3,612円以上であれば、退職後健康保険の扶養に入れないということをアドバイスしてあげればと思います。
そのようなところまでアドバイスしてあげれば、一段進んだ労務管理を行うことができるかと思いますので、是非今後のご参考になさっていただければと思います。
まとめ
今回は、失業等給付、あるいは傷病手当金や出産手当金を1日当たり3,612円以上受給する場合には、健康保険の扶養に入ることができなくなるというお話をさせていただきました。
今回お話した内容は、非常に難しいところがあります。
しかし、冒頭にもお話しましたように、これは盲点となりがちです。
今回お話した内容は、健康保険の法律で決まっているものですので、万が一間違って健康保険の扶養に入ってしまうと、最悪の場合、遡って取り消されるケースも考えられますので、経営者、事務担当者の方はもちろん、労働者の方も覚えておいていただければと思います。
そして、経営者や事務担当者は、なるべく今回の内容を労働者にアドバイスしてあげるようにしていただければと思います。