試用期間中の雇用保険の加入について

従業員を雇用する場合、一定期間の試用期間を設ける場合があります。
「従業員は、雇ってみないとわからないところがあるから、試しに使ってみないと・・・」と思われる社長さんも多いと思います。
経営者の方のこんなお気持ちはよくわかりますし、決して間違いではないと思います。
しかし、多くの経営者の方が、この試用期間について勘違いしている方が多いんです。
今回は、試用期間中の雇用保険の加入おける勘違いについてお話ししていきたいと思います。
雇用保険に限ったことではないのですが、「うちの会社では、試用期間中は、見習のようなものだから、試用期間が終わって、正社員になってから保険に加入させているんですよ。雇用保険とかに加入させて、すぐ辞めてしまったら、保険料ももったいないし・・・。」
このように試用期間中には、保険に加入させない会社が、実際にはあるが事実でしょう。
ところで、雇用保険に限らず、健康保険や厚生年金保険等の各保険の加入条件は、労働時間と労働日数、雇用期間の長さ等によって判断されます。
ちなみに、雇用保険の加入条件は、
① 31日以上の雇用の見込み
② 1週間20時間以上の労働
この2点です。
つまり、上記の2つの条件を満たしていれば、従業員の名称や区分に関係なく、雇用保険に加入しなければなりません。
ですから、当然、試用期間中であっても、31日以上の雇用の見込みがあり、1週間20時間以上労働する場合には、雇用保険に加入しなければならなくなります。
目先の得は、結局は大きな損失となってしまいます
経営者の方が、従業員を雇用しても試用期間中は雇用保険に加入させない理由は、先にも少し書きましたが、雇用保険等に加入させても、万一、すぐ辞めてしまうと保険料がもったいない、というのが大きな理由の1つであると言えます。
確かに経営者の方のお気持ちもわかりますが、ただ、特に雇用保険の場合、加入日を遅らせることで大きなトラブルが起こってしまう可能性があるのです。
現在の制度では、労働者が退職する際、その退職理由が自己都合の場合には、失業等給付をもらうためには、雇用保険に12ヶ月間以上加入している必要があります。
例えば、従業員を8月1日に雇用して、3ヶ月間の試用期間を設けるとして、試用期間が終わった11月1日から雇用保険に加入させたとします。
この場合、11月1日以降で雇用保険の加入期間で失業等給付を受給することができれば、結果論ですが、試用期間終了後に雇用保険に加入させたとしても問題はないのかもしれません。
しかし、もし、従業員が、翌年の9月30日に自己都合の理由で退職退社したらどうなるでしょう?
11月1日から雇用保険に加入しているので、加入期間は、11ヶ月間となり、当然ですが、失業等給付をもらうことはできません。
しかし、法律通り8月1日から雇用保険に加入していたら、雇用保険の加入期間は、14ヶ月間となり、失業等給付をもらえることができました。(他の要件が満たされていると仮定します。)
失業等給付は、雇用保険の加入期間が10年未満場合は、通常、90日間支給されます。
1日に受給できる金額を5,000円とすると、90日×5,000円=450,000円となります。
本来であれば、45万円ものお金をもらえたはずのお金が、もらえなくなってしまいます。
従業員は、まず納得しないでしょう。
当然、ハローワーク等の行政官庁へ訴える可能性が高くなります。
ところで、従業員の手元には給料明細があるので、本来の入社日より雇用保険の加入要件を満たしていたことは容易に証明できます。
もちろん、溯って8月1日を雇用保険の加入日に変更することは可能な場合もありますが、その場合でも、8月1日より加入条件を満たしていたという書類を添付して変更を行うという、余分な業務を行う必要があります。
つまり、加入日を遅らせれば、確かに金銭的に得をする場合もあるかもしれません。
しかし、万一、トラブルが起こってしまえば、それ以上の損失を被ってしまうこととなってしまいます。
無用なトラブルを避けるためには、目先の損得にとらわれずに、雇用保険に限らず各保険については、法律通り加入させることが重要となります。
まとめ
従業員を雇用する際に試用期間を設ける会社は多いですが、試用期間中だからといって雇用保険に加入させないのは誤りです。
雇用保険は「31日以上の雇用見込み」と「週20時間以上の労働」があれば、試用期間中であっても加入が義務づけられています。
「すぐ辞めたら保険料がもったいない」と考えて加入を遅らせると、将来的に従業員が失業給付を受けられないなどのトラブルに発展する可能性があります。
結果として、従業員との信頼関係を損ない、行政機関に訴えられるリスクもあります。
余計なトラブルを避けるためにも、試用期間中であっても法律に従って雇用保険を適正に加入させることが大切です。