社会保険適用拡大!どう取り組む?
令和4年10月に社会保険の法律改正が行われ、社会保険の加入基準が従来より緩和されました。
さらに、令和6年の10月には、一層の加入基準の緩和と適用拡大が予定されています。
そのため、今後は多くの企業が、現在社会保険に加入させる必要がないパートタイムやアルバイトの労働者を社会保険に加入させなければなりません。
このような状況を踏まえ、企業は社会保険の法律改正に対して何らかの対応策を考える必要があります。
今回のブログでは、その法律改正に対する対応策を三つご紹介したいと思います。
社会保険の適用拡大に対する対応は、今後の企業経営において重要な事項となってきますので、是非最後までお読みいただければと思います。
法律改正に対する3つの対策とは?
それでは早速本題に入りたいと思います。
冒頭にもお話しましたように、法律改正によって社会保険の加入基準が緩和されます。
それに対してどのような対応をするかについてお話しする前に、まず一つご了解いただきたいことがあります。
本来であれば、法律改正の内容についてもご説明しなければならないのですが、今回はあくまでも法律改正に対する対応策をどのようにするかというご説明がメインとなります。
そのため、法律改正の内容については、今回のブログでは説明を割愛させていただきます。
ただ、法律改正についてはこちらの動画で詳しくお話していますので、最初にこちらの動画を是非ご覧いただければと思います。
◆令和4年10月から何が変わる?いよいよパートタイマーアルバイトも社会保険加入へ
⇒ https://youtu.be/K-q4vxYpoD0
法律改正にどのように対応するか、これまで社会保険に加入させる必要がなかったパートタイマーやアルバイトといった労働者を社会保険に加入させる必要が出てきます。
企業はどうするかということですが、私は対応策を三つ考えています。
それぞれ一つずつご紹介していきたいと思います。
対策① 労働時間 労働日数の減少
最初の対応策ですが、令和4年10月からは、加入基準の緩和の対象企業は、社会保険の原則的な加入基準に該当する労働者が101人以上の会社が対象となっています。
そして、令和6年10月からは、この101人以上が51人以上にさらに緩和されます。
法律改正の対象となる企業では、以下の条件で雇用している労働者を社会保険に加入させなければなりません。
・1週間の労働時間が20時間以上
・雇用見込みが2ヶ月以上
・月収88,000円以上
・昼間学生でないこと
一つ目の対応策ですが、上記の条件に該当しないように労働条件を変更するという方法が考えられます。
令和4年10月からの法律改正の対象となるのは、この四つの条件全てに該当する労働者です。
つまり、どれか一つでも条件に該当しなければ社会保険に加入させる必要はありません。
例えば、1週間の労働時間を20時間未満に変更するというのが最も一般的な対応策ではないかと思います。
1週間の労働時間を20時間未満に変更すれば、法律改正が行われても社会保険に加入させる必要はなくなります。
ただし、この場合、一つ注意することがあります。
会社側としては、現在雇用しているパートタイマーやアルバイトを社会保険に加入させると保険料の負担が大きくなるため、労働時間を減らしたいと考える気持ちは理解できます。
しかし、労働時間を減らすということは、労働者にとって不利益な変更となります。
元々雇用契約や労働契約で労働時間は決められており、労働者にはその時間働く権利があります。
労働時間が減少することで収入が減るため、労働時間を減らすことは労働者にとって不利益な変更となります。
そのため、労働時間を減らして基準に該当しないようにするには、労働者の同意が必要です。
会社が一方的に行うことはできません。
ここは、非常に注意すべき点です。
対策② 社会保険への通常加入
そして二番目の対応策ですが、現在雇用している労働者にこの条件に該当する者がいる場合、現在の労働条件のまま社会保険に加入させるという方法です。
多くの企業が、対策としてこの方法を選択するのではないかと思います。
ただし、その場合も注意する必要があります。
仮に法律改正によって、新たに社会保険に加入することとなるパートタイマーやアルバイトが30人いた場合には、保険料が当然発生してきます。
1人当たりの保険料を仮に2万円とした場合、会社は労働者と同じ金額を負担する形となりますので、1人2万円で30人の場合は60万円になります。
つまり、令和4年10月から保険料の負担が毎月60万円増える形となります。
これは非常に会社にとって大きな問題となりますので、もし現状の労働条件で社会保険に加入させるのであれば、あらかじめ増える保険料のシミュレーションをして、資金繰りの対応をしておくことが重要です。
特に加入することとなるパートタイマーやアルバイトの数が多い会社は、ここは是非やっていただければと思います。
パートタイマー アルバイトの積極的活用
それでは、三つ目の対応策についてお話したいと思います。
三つ目の対応策は、現在雇用しているパートタイマーやアルバイトを積極的に活用して、正社員、フルタイムの労働者に転換するという考え方です。
実はこの対策は、国も進めています。
なぜ国が進めているかといいますと、パートタイマーやアルバイトが、フルタイムの正社員になれば、当然労働時間が増えて収入が増えます。
その結果、健康保険の保障額も増えますし、将来の年金額も増えます。
ですから、福利厚生の充実に繋がるという考えもあります。
さらに、国は現在、非正規労働者の問題を抱えています。
この法律改正を一つの契機として、パートタイマーやアルバイトといった契約期間の定めがある非正規労働者を、正社員、フルタイムといった雇用期間の定めがない正規労働者に転換することができれば、非正規労働者の問題も解決に向かっていく可能性があります。
国としてもこの法律改正を機に、積極的にパートタイマーやアルバイトを正社員フルタイムといった正規労働者に転換することを進めているわけです。
確かにそれは正しいです。
私も、パートタイマーやアルバイトの積極的活用を、今回の法律改正を一つの機会として進めることをおすすめします。
深刻な労働人口不足対策としてのパートタイマー等の積極的活用
しかし、私は全く別の理由からもパートタイマーやアルバイトの積極的な活用をお勧めします。
今回はそこをお話していきたいと思います。
下記の図を見ていただきたいのですが、この図は、景気変動と労働人口数との関係を表した図となります。
黒い線が景気の変動、景気の変動に伴う企業の求人の数を表しています。
そして、この赤い線は労働人口の推移を表しています。
ただここで一つご了解いただきたいのは、この図は統計の数字をもとに作っているわけではなく、これからお話しする内容を理解していただくために、私がイメージとして作った図であることですので、正確性は、かける所があります。
あくまでもイメージしていただくために作った図ですので、そこはご了解いただければと思います。
景気というのは、このように波を打って動いていきます。
そして、ここを大体10年ぐらい前のリーマンショック以降、景気は著しく後退していきました。
そして、長い低迷期がありましたが、今から3年か4年ぐらい前に回復の兆しを見せ始めました。
しかし、ご存知の通り、新型コロナウイルスの感染拡大で再び日本の景気は低迷している状況にあります。
それに対して、労働人口は、少子高齢化の影響で緩やかに減少しており、リーマンショックから数年後、団塊の世代が定年を迎えたことにより、急激に労働人口は減少しました。
リーマンショック以前は、景気が良くなった場合でも、企業の求人数より労働人口の方が多かったため、求人を出せば人が集まっていました。
それが一般的な常識として考えられていました。
しかし、リーマンショック以降、企業は、求人数を減らしていたため、気が付かなったのですが、その間労働人口が急激に減少していたのです。
そのため、リーマンショックの長い不況を抜け、ようやく景気が回復してきた時には、図のように、労働人口より求人数の方が多くなっていました。
つまり、企業は求人を出しても人が集まらないという状況に直面しました。
求人を出しても人が集まらないことを、多くの経営者の方が、初めて実感したと思います。
私も多くの経営者の方から、求人を出しても人が集まらないという話をよく聞きました。
しかし、突然の新型コロナウイルス感染拡大で再び景気は低迷したため、多くの企業が労働力不足の問題を深刻に実感できる期間がなかったまま、コロナの不況よりまた求人数を減少させてしまいました。
そのため多くの経営者の方が、労働人口の減少により、人手不足が深刻な問題であることを実感できずに今日まできている感があります。
コロナ不況が落ち着けば、景気は再び回復する可能性があります。
しかし、労働人口は減少していますので、近い将来、再び人手不足が深刻な問題となる可能性があります。
いや、可能性どころか、必ず来ると言っても、良いと思います。
ですから、企業は、必ず人手不足の問題に対応策を考えなければいけないわけです。
もちろん、外国人労働者を活用するというのも一つの方策です。
しかし、外国人の労働力が日本人の労働力と同じような状況になるのは、私はもう少し先だと思います。
ですから、それ以外の方策を企業は考えなければいけないのです。
今は、まだ不況ですから、そういうことを考える余裕もないし、それが実感できないのかもしれません。
しかし近い将来、必ずそういった時が来ると思います。
そのときに有効な対策の一つとして考えられるのが、先程からお話しているパートタイム、アルバイトの積極的な活用です。
労働時間が短いパートタイマーやアルバイトを正社員に活用すれば、それだけ労働力を確保することができます。
しかも、この考え方は、会社、そして労働者にとってもメリットがあるのです。
なぜなら、会社が新たな労働力を確保しようとして、新たに人材を雇用すれば、ミスマッチが起こる可能性があります。
雇用したけど、思ったほど能力がなかったとか、あるいは問題行動を起こしてしまったとか、こういう問題はどうしても可能性として否定できないです。
しかし、今現在雇用しているパートタイマーやアルバイトを正社員にするということは、既に雇っているわけですから、その労働者の能力や資質は、会社がわかっているわけです。
ですから、新たに労働者を雇用するよりも、リスクが低いわけです。
そして、労働者側も、今は介護や育児といった理由で長く働けないけど、そのような理由がなくなって、正社員で働こうと思って別の会社に就職した場合、そこで人間関係がうまくいくとは限りません。
やはり新たに会社に就職するということは、それだけ労働者にとってもリスクがあるわけです。
しかし、今勤めている会社で正社員になれば、当然人間関係がある程度構築されているわけですから、新たな会社のようなことはないわけです。
ですから、労働者にとっても安心して長く働くことができます。
このように、パートタイマー、アルバイトを積極的に正社員に活用するという考え方は、会社にとっても労働者にとってもメリットがある考え方と言えますので、是非今回の法律改正を一つの契機として、積極的にパートタイマー、アルバイトを活用していただければと思います。
それは今後必ず来る労働力不足に備えるという意味でも、私は検討に値する対策だと思いますので、ぜひご参考になさっていただければと思います。
キャリアアップ助成金について
最後に助成金についてご説明したいと思います。
助成金制度では、パートタイマーやアルバイトといった雇用期間の定めがある非正規労働者を、雇用期間の定めがない正社員に転換した場合に助成金を支給する制度を設けています。
それがキャリアアップ助成金の正社員化コースです。
キャリアアップ助成金というのは非正規労働者の待遇を改善するための助成金で、いくつかコースがありますが、その中に正社員化コースがあります。
この助成金は非常に使い勝手がよく、企業にとって取り組みやすい助成金です。
ですからこういった制度も定められていますので、ぜひパートタイマーやアルバイトの積極的な活用をご検討いただければと思います。
ここで、助成金制度について少しご説明したいと思います。
助成金の名前は聞いたことがある方も多いと思いますが、詳しくはわからない方もいらっしゃると思います。
助成金は。雇用保険で行っている制度で、雇用の維持や増大に努めた企業に支給されるものです。
非正規労働者は、雇用期間の定めがあるために非常に不安定な地位にいます。
しかし、それを雇用期間の定めがない正社員やフルタイムに変えることによって、雇用の維持や安定に繋がるわけです。
ですから、助成金を出しますという考えに基づいているのです。
助成金は、企業にとって非常に魅力的な制度と言えます。
なぜなら、多くの経営者の方が、勘違いされていますが、助成金は借り入れではないので、一度もらった助成金は返す必要がないのです。
しかも、助成金は使用目的が限定されていません。
助成金が支給される理由は、今ご説明しましたように、非正規労働者を正社員に転換することですが、支給された助成金をその正社員ために使わなければならないという制限はありません。
つまり、何に使ってもいいのです。
借入金の返済に回しても全く構いません。
このように助成金というのは、会社にとって非常に魅力的な制度です。
しかし、以前に比べて多くの企業が助成金を使うようになっていますが、まだまだ一部の企業しか助成金を利用できていないのが現状だと思います。
なぜそうなっているかというと、一つの理由として、多くの経営者が助成金に対して誤解を持っているのです。
「助成金なんて。うちには関係ないよ。」と思っている経営者の方が本当に多いのです。
しかし、助成金は経営者の身近なところにあります。
こちらの動画では、経営者の方が持っている助成金に対する誤解について解説していますので、是非ご覧になっていただければと思います。
◆実は意外と身近!助成金8つの誤解
⇒ https://youtu.be/FYCJGrvPFYo
また、多くの企業の方に助成金を利用していただきたいと思っていますので、当事務所では助成金の無料相談を行っています。
キャリアアップ助成金の正社員化コースはもちろんですが、他の助成金につきましても、可能な限りご相談に応じておりますので、お気軽にご利用いただければと思います。
なお、助成金無料相談のご説明、そして申し込みフォームを記載したサイトはこちらとなっていますので、是非お気軽にご活用いただければと思います。
◆助成金無料相談
⇒ http://keieinoanshinantei.com/muryousoudan.html
まとめ
今回は、社会保険の法律改正に対しての三つの対応策をご紹介させていただきました。
最初の対応策については、労働条件を変更する場合には必ず労働者の同意をもらうことが注意すべきポイントとなります。
そして、二つ目の対応策は、現状のまま社会保険に加入させる場合です。
この場合には、新たな社会保険料の負担が発生しますので、そこのところをあらかじめよく把握しておく必要がありますので、その点をご注意いただければと思います。
そして三つ目にご紹介したパートタイマーやアルバイトといった非正規労働者の積極的活用については、助成金制度も利用できますので、ぜひ前向きにご検討していただければと思います。