シリーズブラック企業にならないための労務管理⑥ 割増賃金 手当と支給形態別の計算方法

今回は、割増賃金を計算する際の手当の取扱いにと、賃金の支給形態別の割増賃金の計算についてご説明したいとおもいます。

 

割増賃金を計算する際に、手当について誤った取扱いをしてしまうと、割増賃金の不足が生じてしまう場合があります。

 

実際、手当について誤った認識を持っている経営者が、結構いらっしゃいます。

 

今回のブログの前半では、割増賃金を計算する際に注意すべき手当についてお話していきたいと思います。

 

ブログの後半で、割増賃金を計算する際に、時給、日給、月給といった賃金の支給形態別によって、割増賃金の計算方法が違ってきますので、賃金の支給形態別の割増賃金の計算方法について、分かりやすく解説していきたいと思います。

手当についての注意点

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割増賃金を計算する場合には、賃金の総額を基に計算するのが基本となります。

 

従って、基本給以外に手当が払われている場合には、その手当も含めた額で、割増賃金を計算します。

 

例えば、基本給と資格手当が支給されているのであれば、資格手当の額も含めて割増賃金を計算する形となります。

 

 

しかし、労働基準法では割増賃金を計算する際に、賃金の総額から控除できる手当等を定めています。

 

具体的には、家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われる賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金などが該当します。

 

 

最初に臨時に支払われる賃金と1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金について少しご説明したいと思います。

 

まず臨時に支払われる賃金ですが、代表的なものが、賞与(ボーナス)です

 

ただ賞与を割増賃金に入れて計算するという概念は、ほとんどの経営者が持っていないかと思いますので、ここは問題ないかと思います。

 

次に1ヶ月を超える期間ごとに支給される賃金についてですが、例えば、能力手当等を2ヶ月間の期間によって支給する場合が、これに該当します。

 

この場合も、考え方が明確なので、増賃金を計算する際に誤解をすることはないかと思います。

 

 

問題となってくるのが、家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当の手当です。

 

家族手当、住宅手当、通勤手当については、よく使われている手当ですので、手当の趣旨はお分かりかと思いますが、別居手当、子女教育手当は、馴染みが薄いかと思いますので、少しご説明したいと思います。

 

別居手当は、労働者が転勤する際に、介護等の理由で、労働者が単身赴任するケースが考えられます。

 

そのような場合、家族が2つに分かれますから、当然、生活費が多く必要となります。

 

その費用を補助する意味で支払われるのが別居手当です。

 

子女教育手当は、労働者の子供が、海外に留学に行く場合等に、教育費の補助を目的として支給される手当とされています。

 

 

労働基準法では、家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当については、割増賃金を計算する際に賃金の総額から控除できると規定されています。

 

ですから、例えば、給料が、基本給意外に資格手当と家族手当が支給されている場合には、家族手当を控除して、基本給と資格手当で割増賃金を計算する形となります。

 

 

ところで、このようなお話をすると、「給料を家族手当や住宅手当、通勤手当で支給すれば、割増賃金の金額が少なくなるのか。だったら、今払っている給料を少し見直して、基本給を最低賃金ギリギリの額にして、残りの金額を家族手当とか住宅手当で支給すれば、割増賃金を減らすことができる。」と思われる方もいるかと思います。

 

しかし、その点に関しては、労働基準法で定めがあります。

 

家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当は、割増賃金を計算する場合に賃金総額から控除できますが、ただし条件が定められているのです。

 

家族手当であれば、家族の人数等によって支給基準が定められている必要があります。

 

住宅手当であれば、住宅ローンの残高やあるいは家賃によって、通勤手当であれば通勤距離や通勤の手段によって支給基準が決められている必要があります。

 

ですから、たとえ家族手当という名称であったとしても、家族の人数等に関係なく労働者に一律に払われている場合や住宅手当という名称でも、住宅ローンの残高や家賃に関係なく、また通勤手当という名称でも、通勤距離や通勤の手段に関係なく一律に支給されている場合には、賃金総額から控除することができないのです。

 

つまり、家族手当や住宅手当といった名称だけ付ければ、割増賃金を計算する場合に賃金の総額から控除できるわけではないのです。

 

もし支給基準を定めずに、手当に家族手当や住宅手当といった名称だけ付けて、割増賃金を計算する場合に、その手当の額を控除してしまうと割増賃金の不払いが生じてしまうこととなります。

 

 

労働基準監督署の調査では、割増賃金を計算する際に、賃金総額に含めるべき手当について正しく含めているかどうかについては、シビアに調査します。

 

例えば、家族手当が支給されているが、労働者一律に同じ金額が支給されていれば、家族の人数等に関係なく支給されているのが、一目瞭然で分かります。

 

当然、そのような場合には、割増賃金の不足を指摘されることとなります。

 

ですから、家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当を支給し、割増賃金を計算する際に、賃金総額から控除するのであれば、支給基準を明確に定めることが必要となりますので、この点は割増賃金の計算において重要なポイントとなりますので、是非正しくご理解下さい。

 

支給形態別の割増賃金の計算方法

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労働者に支払う賃金の形態は、一般的には、時給、日給、月給等の支給形態があると思います。

 

それぞれの支給形態によって、割増賃金の計算方法の考え方が違いますので、ここでは支給形態ごとの割増賃金の計算方法についてご説明していきたいと思います。

 

なお、今回ご説明する以外にも歩合給や年俸制の割増賃金の計算方法の考え方もありますが、歩合給や年俸制については、全ての会社で導入されているとは限らないので、今回のブログでは、説明を割愛させていただきます。

 

 

まず割増賃金を計算する場合には、1つ重要な前提があります。

 

どのような形で賃金が支払われていたとしても、割増賃金を計算する場合には、市支給額を時給額に換算する、これが割増賃金を計算する場合の重要な前提となります。

 

この前提を基に、支給形態別の割増賃金の計算方法についてご説明していきたいと思います。

 

時給性の割増賃金

まず賃金が、時給で支払われている場合です。

 

賃金が、時給で支給されている場合は、今ご説明したように割増賃金の計算方法の前提が、支給額を時給額に換算するわけですから、時給制の場合は、その時給額をそのまま使えば良いこととなります。

 

法定労働時間を超えての時間外労働の割増率につきましては、最低でも2割5分増(法定労働時間を超えての時間外労働と法定外休日労働との合計が60時間を超える場合は5割増し)とされていますので、仮に2割5分増の割増賃金を払うのであれば、時給1,000円の労働者が、法定労働時間を超えて1時間労働した場合の割増賃金の額は、1,000円×1時間×1.25=1,250円となります。

 

日給性の割増賃金

次に日給制の場合についてご説明します。

 

日給制の場合は、日給額を1日の労働時間で割って時給額に換算する形となります。

 

例えば、日給額が8,000円で1日の労働時間が 8時間の場合には、8,000円÷8時間=1,000円が、時給額となります。

 

ですから、法定労働時間を超えて1時間、時間外労働した場合には、1,000円×1時間×1.25=1,250円となり、最低でも1,250円の割増賃金を支払わなければいけないこととなります。

 

月給制の割増賃金

時給、日給の場合の割増賃金の計算方法の考え方は、さほど難しくないかと思います。

 

問題となるのは、月給制の場合です。

 

月給制の場合、月を単位に賃金額が決められています。

 

ですから、月給額を時給額に換算する場合、その月に支給された賃金額を、その月の労働時間で割れば良いのですが、休日の関係で、月の労働時間は月によって異なってきます。

 

従って、月給額を時給額に換算する場合には、月の平均労働時間という考え方を用います。

 

月の平均労働時間は、少し分かりにくいのですが、割増賃金を計算する際には、非常に重要なポイントとなりますので、具体的な数字を使ってわかりやすく解説したいと思います。

 

1日の労働時間が8時間で年間の休日が105日、月の基本給が20万円(手当等の支給無し)の労働者の場合で、割増賃金を計算していきたいと思います。

 

 

月給として支払われている額が20万円ですので、この20万円を時給額に換算するわけですが、その場合に使うものが先程お話ししました、月の平均労働時間となります。

 

ですから、まず月の平均労働時間を算出したいと思います。

 

月の平均労働時間を算出するには、まず年間の総労働時間を算出します。

 

年間休日が105日ということは、年間の労働日は、365日-105日=260日となります。

 

1日の労働時間が8時間ですから、年間の総労働時間は、260日×8時間=2,080時間となります。

 

これを12ヶ月で割って得た時間、2,080時間÷12ヶ月≒173.33・・・時間が、月の平均労働時間となります。

 

実際には、月の労働時間が、この時間より多い月もあるし、少ない月もあります。

 

しかし、割増賃金を計算する場合には、どの月であったとしても、この月の平均労働時間、173.33・・・時間を用いて計算する形となります。

 

 

ここで端数処理についてご説明したいと思います。

 

今計算しましたように、2,080時間を12ヶ月で割ると、173.33333333・・・と割り切れずに永遠に小数点以下が続くこととなります。

 

では、どのように端数処理すれば良いのか?ということですが、月の平均労働時間の端数処理は、考え方が重要となります。

 

月給額を時給額に換算する場合には、月給額÷月の平均労働時間という計算式になり、月の平均労働時間が分母にきます。

 

ですから、分母の数字が大きくなれば、時給額は少なくなります。

 

173.3333・・・時間は、絶対に174時間や173.4時間にはなりません。

 

ですから、173.3333・・・時間を切り上げて、例えば、174時間や173.4時間で計算してしまうと、結果的に不払いが生じてしまうこととなります。

 

 

つまり、月の平均労働時間の端数処理は、小数点以下どこで端数処理しても良いのですが、必ず切り捨てで端数処理する必要があります。

 

従って、173時間や173.3時間等を用いて計算すれば良いこととなります。

 

月の平均労働時間を173時間として、法定労働時間を超えて時間外労働を1時間した場合の割増賃金を計算すると、20万円÷173時間×1時間×1.25≒1,446円となります。

 

 

ここで再度、端数処理についてご説明します。

 

上記の計算式では、割増賃金の額が、1,445.086・・・円となります。

 

この場合、小数点以下を切り捨ててしまうと、不払いが生じてしまうこととなります。

 

ですから、割増賃金を計算する際に、支給額に関しての端数処理は、切り上げる必要があります。

 

ここも重要なポイントとなりますので、正しくご理解下さい。

 

 

ところで、今ご説明したように、月給制の割増賃金を計算する場合には、月の平均労働時間を算出する必要があります。

 

そして、月の平均労働時間を算出するには、1日の労働時間と年間の休日日数が、明確になっている必要があります。

 

以前のブログでも書きましたが、労働時間に関しては、上限時間である法定労働時間が定められていますし、年間の休日日数につきましても、法定労働時間の関係で必要な日数が決められています。

 

つまり、割増賃金を正しく計算するには、法定労働時間や休日に関して正しく理解して、法律の基準にあった労働条件を定め、1日の労働時間と年間休日日数を正しく規定する必要があります。

 

逆に言えば、1日の労働時間と休日日数を正しく規定できないと、割増賃金の不足が発生してしまう可能性がありますので、法定労働時間と1日の労働時間、そして年間休日日数についても正しくご理解下さい。

 

まとめ

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今回は、割増賃金に関して、手当と賃金の支給形態ごとの割増賃金の計算方法についてご説明しました。

 

手当に関しては、家族手当、住宅手当、通勤手当等の手当は、割増賃金を計算する場合に賃金総額から控除することができますが、控除するには、支給基準が明確に定められている必要があります。

 

 

また、賃金の支給形態別の割増賃金の計算方法については特に注意するのは月給制の場合です。

 

月の平均労働時間という考え方が、重要なポイントとなってきますので、月の平均労働時間の算出方法を正しくご理解下さい。

 

 

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