健康診断の追加検査費用の個人負担分を給料から控除できますか?

【質問】
先日、健康診断を行ったのですが、その際に、従業員の中に、個人的な検査を合わせて受けた者がいました。
それはそれで構わないのですが、その費用が、通常の健康診断の費用と合算で当社に請求がきました。
個人的な検査費用は、従業員個人が負担するものかと思いますので、その費用を給料から控除したいと思うのですが、法律的に問題ありますでしょうか?
【回答】
健康診断時の追加検査料を給料から控除するには、従業員代表との書面による協定が必要となってきます。
【解説】
含まれると考えられますので、労使間での控除に関する書面協定を結べば、追加検査費用を給料から控除しても問題りません。
ご存知のように、事業主は、常時雇用する労働者に対して、1年に1回、健康診断を行う必要があります。
事業主が行うべき健康診断の内容は法律で定められていて、基本的な検診が中心となります。
ですから、事業主の方は、法律で定められた内容検診だけを、労働者に受けさせれば法律上は良いこととなります。
しかし、この法律で定められた、検診内容には、胃や肺、女性の場合の子宮などのがん検診等は含まれていません。
このような検査には、市町村からの補助等もあるので、労働者としては、会社が行う健康診断と同時に検診を受けることを希望するのは至極当然と言えます。
ただし、ここで問題となってくるのが、ご質問のような基本的な検診以外の追加検診の費用です。
先程、書きましたように、法律では、事業主は、法律で定められた内容の健康診断を労働者に受診させれば良いので、健康診断の費用も、法律で定められた検査の分だけ負担すれば良いこととなります。
追加検診の費用については、労働者個人に負担させても問題ありません。
と言うより、本来は、労働者が自分の意思で検査を受けるわけですから労働者が支払うべきものです。
しかし、病院側が、基本的な検査費用と追加検査の費用とを会社と労働者個人にそれぞれ請求してくれれば良いのですが、実際には、そんな面倒なことはしてくれる病院は、少ないのが現状でしょう。
通常は、ご質問のように会社に全額請求がきます。
となると、冒頭の質問に戻りますが、追加検査の費用は、給料から控除したい、とほとんどの事業主は、考えるかと思います。
実際に、多くの会社で当然のようにこのようなことは行われているかと思います。
しかし、この問題には、「賃金の全額払い」という法律の制限を受けることとなります。
つまり、無条件で今回取上げた健康診断における追加検査費用を労働者の給料から控除することは出来ないのです。
労働者個人が、本来負担すべき費用を、労働者が支払って何がいけないの?と思われかと思います。
もちろん、労働者が費用を負担することは、問題ありません。
仮に、追加検査費用を労働者から直接集金すれば全く問題はありません。
問題なのは、「給料から控除」するということなのです。
労働基準法には、「賃金の全額払い」という法律があります。
これは文字通り、労働者に給料を全額支払う、という意味です。
でも、ほとんどの方が、給料をもらったことがあると思いますが、実際には、社会保険料や税金等様々な控除額があります。
これは、厳密に「給料の全額払い」を適用してしまうと、使用者だけでなく労働者にも不都合が生じてしまうので、一部、例外を認めています。しかし、基本は、「全額払い」なのです。
ところで、その例外についてですが、まず、「法令に別段の定めがある場合」があります。
たとえば、社会保険料や所得税については、健康保険法や所得税法で保険料や税金を給料から控除できる旨の規定を定めています。
このように法令に別段の定めがあれば、給料から控除することができます。
つまり、今回、取上げている、追加検査費用も何らかの法令等で給料から控除できる、という規定があれば、給料から追加検査費用を控除しても法律的に全く問題ないのですが、そのよう法令は、存在しません。
では、法令に別段の定めがないものは、絶対に給料から控除できないか?というとそうではありません。
実際に、労働者側も、その都度、現金を支払うより、給料から控除してもらった方が、手間が省け良い場合も当然あります。
今回、ご質問の追加検査費用など、まさにそうです。
つまり、会社が一方的に控除できるのではなく、労働者側と控除することについて合意する必要があります。
ですから、労働基準法では、そのような場合にも給料から控除できる例外を規定しています。
ただし、2つ条件があります。
まず、労使間において書面による協定がある場合です。
さらに、控除できるのは、社宅費、組合費、購買代金等事理明白なものに限られています。
ここは重要な点で、労使間の書面協定があれば、どのようなものでも控除できるわけでなないのです。
さて、今回の例で言えば、健康診断の追加検査費用は、事理明白なものに
たかが、健康診断の追加検査費用を控除するにも、背後には、このような法律の制限があります。
是非、ご参考になさって下さい。
【まとめ】
事業主は、労働者に法律で定められた基本的な健康診断を実施する義務があり、その費用は事業主が負担します。
ただし、がん検診など追加検診の費用については、労働者が自己負担するのが原則です。
しかし、病院が基本検診費用と追加費用を分けて請求しない場合、事業主がいったん全額を支払い、後で労働者の給料から控除するケースが多く見られます。
この場合、労働基準法の「賃金の全額払いの原則」に抵触する可能性があります。
例外として、法令に基づく控除(社会保険料や所得税など)や、労使間の書面協定があれば控除が認められます。
ただし、控除できるのは事理明白なものに限られます。
健康診断の追加検査費用は、事理明白なものに該当しますが、健康診断の追加検査費用を給料から控除するには、労使間で書面による事前合意を結ぶ必要があります。
このように、健康診断費用の負担に関しては法律の制限があるため、適切な手続きが必要となりますのでご注意下さい。