シリーズブラック企業にならないための労務管理⑧ 割増賃金トラブルを防ぐ

割増賃金に関するトラブルは日本全国で多数発生しています。

 

割増賃金に関係するトラブルが起こる原因はいくつか考えられますが、今回はその中でも特に重要なものを3つ取り上げてお話ししたいと思います。

 

 

 

具体的には、時間外労働の申告制、管理監督者、そして固定残業制度です。

 

これらは誤った運用をしてしまうと多額の損害が会社に発生してしまう可能性があるため、正しい知識を持って正しい運用を行う必要があります。

 

今回のブログでは、これらの事項について分かりやすく解説していきたいと思いますので、ぜひ動画の方を最後までご覧いただければと思います。

 

時間外労働の申告制

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まず最初に、時間外労働の申告制についてお話ししたいと思います。

 

「労働時間を管理する場合に何分単位で管理すれば良いのでしょうか。5分単位、15分単位、30分単位、どれが良いのでしょうか?」

 

このような質問を経営者から受けることがあります。

 

 

 

労働時間の管理は、経営者の責任となります。

 

実際、労働時間を管理して給料を計算し、時間外労働の割増賃金を計算する場合に労働時間の合計を計算する必要があります。

 

その場合に何分単位で計算するかというのは、なかなか頭を悩ますところかと思います。

 

 

 

実はこの点に関しては、労働基準監督署の調査等では、労働基準監督署は基本的に労働時間はタイムカード等に打刻された時間を基本と考えます

 

ですから、先ほどの答えは、1分単位で計算するというのが正しい答えとなってくるのかもしれません。

 

 

 

しかし、現実問題としてタイムカードを押す直前まで仕事をしているというのは、考えにくいという面もあります。

 

従って、労働時間を管理する場合に、5分単位、15分単位くらいまででしたら、ある程度妥当性があるのかもしれません。

 

 

 

しかし、ここに関しては法律で明確な規定がありません。

 

あくまでも「労働した時間に対して賃金を払ってください」というのが法律ですので、実際、5分単位で計算するのが良いのか、15分単位あるいは30分単位で計算するのが良いのかというのは、それぞれの事情によって異なってくるものですから、正直どれが正しいかというのは分からないのです。

 

 

 

ただし、ここでは何分単位で計算するのが正しいということをお話ししたいわけではありません。

 

ここで何を言いたいかというと、先ほど述べたように、労働基準監督署等の考えでは、タイムカードに打刻された時間が労働時間の基本とされています。

 

となると、例えば労働者が終業時刻を過ぎてからタイムカードを押すまでの間に、同僚とお喋りをしていて、終業時刻から1時間後にタイムカードを打刻する、このようなことが現実に起こり得ます。

 

 

 

この場合、タイムカードの打刻時間を基本とすると、実際には仕事をしていない時間に対しても賃金が発生してしまうことになります。

 

これは適正な労務管理という視点から考えると好ましくありません。

 

 

 

このような問題を解決する方法の一つとして、業務が終了したら速やかにタイムカードを押すことを労働者に周知徹底させることが考えられます。

 

しかし、これが有効であるとは限りません。

 

そのため、時間外労働をする場合には、あらかじめ許可をもらう制度を取り入れることが一番良い方法です。

 

 

 

これにより、タイムカードの打刻時間と実際の労働時間との乖離を防ぐことができます。

 

タイムカードの時刻は、会社に来てから出るまでの時間の管理であり、実際の時間外労働の管理は時間外労働の申告によって行い、時間外労働の割増賃金を計算するという方法が有効です。

 

 

 

ただし、事前の許可が一番良いのかもしれませんが、現実問題として、時間外労働が必要なときに上司が不在の場合もあります。

 

そのため、後から「このような理由で時間外労働をした」という申告をする制度の方が現実的で使いやすいと言えます。

 

 

 

ただし、その場合に1つ注意が必要です。

 

これは制度ですから、当然に根拠が必要となります。

 

その根拠となるのが、就業規則です。

 

 

 

ですから、就業規則で時間外労働を行う場合、または行った場合には、申告をすること、そして適正なものについて割増賃金を支払うという規定をしておく必要があります。

 

もし規定がないと、いくら時間外労働を申告制で行っているとしても、それが否認されてしまう可能性がありますので、必ず就業規則で規定をすることが非常に重要なポイントとなります。

 

 

 

そして、これは割増賃金の話から少しそれるかもしれませんが、この時間外労働の申告制の導入に関して是非覚えておいて欲しいことがあります。

 

制度はそれを導入するだけでは、うまく機能するものではありません。

 

労働者が時間外労働を申告した場合に、経営者や上司がその内容を全く把握せずに、ただ認印だけをしているのであれば、結局意味がありません。

 

 

 

ですから、この時間外労働の申告制を有効に運用するには、経営者や上司が、申告された時間外労働の内容が適切かどうかを判断できなければいけません。

 

つまり、経営者や上司は部下がどのような仕事をしていて、何が必要かを把握しておく必要があります。

 

結局、このような制度は導入するだけでは決してうまくいかず、経営者や上司が積極的に関わる姿勢が必要となります。

 

 

 

今回のテーマから少しそれますが、時間外労働の申告制を導入する場合に、ここは重要なポイントとなりますので、あえてお話させていただきました。

 

いずれにしても、時間外労働の申告制を導入する場合には、就業規則で規定をすることが必要です。

 

 

 

なお、従業員が10人未満の会社で就業規則の作成義務がない場合であっても、制度の根拠が必要となるのは同じですので、時間外労働の申告制度を導入する場合には、就業規則を作成する必要がありますのでご注意下さい。

 

管理監督者について

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それでは次に、管理監督者についてお話ししたいと思います。

 

労働基準法では、労働者を保護するために様々な規定を設けています。

 

その中で特に重要なのが、法定労働時間、そして休日、休憩です。

 

これらの事項が特に重要な規定となります。

 

 

 

法定労働時間については、1日8時間、1週間40時間が原則です。

 

そして、法定労働時間を超えて労働者に労働させた場合には、一定の割増賃金を支払う必要があります。

 

 

 

また、休日については、労働者に最低でも1週間に1日または4週間に4日与えなければいけません。

 

 

 

そして、その休日に労働者に労働させた場合にも、一定の休日労働割増賃金を支払わなければいけません。

 

休憩に関しては、労働時間が6時間を超えた場合には最低でも45分、8時間を超えた場合には最低でも1時間与えなければいけないという規定があります。

 

 

 

ところで、労働基準法第41条では、一定の労働者に対してこれらの法律を適用しない規定があります。

 

それに該当する労働者はいくつか決められていますが、その中でも特に代表的なのが「管理監督者」と呼ばれる労働者です。

 

 

 

つまり、管理監督者と認められる労働者には、法定労働時間、休日、休憩の法律規定が適用されないこととなります。

 

従って、管理監督者に法定労働時間を超えて労働させても割増賃金を支払う必要はなく、休日に労働させた場合も割増賃金の支払いは要りません。

 

また、休憩時間を与えなくても法律違反とはなりません。

 

 

 

では、管理監督者とはどのような労働者のことを言うのでしょうか?

 

一般的には、「労働条件の決定その他労務管理において、経営者と一体的なもの」が管理監督者とされています。

 

ただ、これだけではよくわからないかと思いますので、管理監督者として適正かどうかの判断にはいくつかポイントがありますので、簡単にご説明したいと思います。

 

 

 

まず、職務内容です。

 

実際に従事している業務が他の労働者と同じ仕事であれば、これは管理監督者にはなりません。

 

従事している業務が、予算の管理や部や課の方針の決定を行う、このような業務である必要があります。

 

 

 

次に、責任と権限です。

 

管理監督者は、一定の人事権を有していて、労働者を採用したり、労働者の労働条件を決めることができる権利が必要となります。

 

ですから、例えば採用や労働条件の決定に関して、自分より上の役職者にその都度指示を仰いでいるのであれば、責任と権限はないということになります。

 

 

 

次にポイントとなるのが、労働時間の裁量性です。

 

管理監督者とは、イメージとしては取締役に近い形になります。

 

つまり、いつ出勤していつ退勤しても構わないが、結果さえ出してくれれば良いということです。

 

 

 

ですから、労働時間に関してはある程度自由、つまり裁量性があるということがポイントとなります。

 

実際の労働時間について、例えば「朝何時に来て、終わりは何時いてくれ」というように指示を受けているのであれば、労働時間に関して裁量性がないことになります。

 

 

 

そして、4番目のポイントは待遇です。

 

管理監督者である以上、責任が通常の労働者よりも重いことになります。

 

そのため、それに見合う対価、すなわち通常の労働者よりも高い待遇が必要となります。

 

 

 

管理監督者かどうかを判断するには、これらの4つの事項を総合的に考慮する必要があります。

 

ただし、管理監督者に関して難しい点は、法律には管理監督者に関する規定があるものの、その基準が明確に定められていません。

 

 

 

実際に管理監督者が適正かどうかは、労働者が「自分は管理監督者としての取り扱いを受けているが、それが不当である」として訴えを起こした場合に、初めて裁判所が判断することになります。

 

つまり、ケースごとに判断されるのです。

 

このため、非常に分かりにくい部分があります。

 

 

 

しかし、1つ覚えておいていただきたい点があります。

 

そしてそれが、多くの経営者が誤解している点でもあります。

 

管理監督者とは、先ほど述べた条件を総合的に判断して適正かどうかを決めるものであり、課長や工場長といった役職に就ければ自動的に管理監督者になるわけではありません。

 

 

 

多くの経営者は、労働者を課長や工場長といった役職に就ければ管理監督者となり、時間外労働の割増賃金も必要なく、休憩も与えなくてよいと誤解しているケースが非常に多いのです。

 

繰り返しになりますが、管理監督者というのは実態で判断されますので、名称だけで管理監督者になるわけではありません。

 

 

 

もし、名称だけで管理監督者として労働者を扱ってしまい、先ほども述べましたように労働者から訴えを起こされ、その結果、管理監督者として認められないと判断された場合にはどうなるかというと、管理監督者ではないわけですから、通常の労働者と同じ扱いになります。

 

つまり、労働基準法などの法律が当然適用されることとなります。

 

となると、労働者が、過去に時間外労働をしていたけれども、会社は、管理監督者と考えていたために時間外労働の割増賃金を支払っていなかった場合には、割増賃金の不払いとして法律違反状態であったこととなります。

 

 

 

ここで覚えておいていただきたいのは、賃金の請求に関する事項は2020年4月の法律改正により5年となっています。

 

ただし、当分の間は3年と据え置かれており、このブログを書いている時点(2022年1月)では、まだ5年にはなっていないため、労働者は、過去3年間にさかのぼって賃金を請求することができることとなります。

 

つまり、現時点では、もし時間外労働の割増賃金の不足や不払いがあった場合には、労働者は、過去3年間にさかのぼってその不足や不払いを請求することができます。

 

 

 

ですから、もし仮に管理監督者としての身分が否認され、過去に毎月5万円の時間外労働の割増賃金が発生していたとすると、1年間で60万円、3年間で180万円、これだけの割増賃金の不足を会社は支払わなければならないことになります。

 

したがって、安易に管理監督者制度を利用するのは非常にリスクが高いのです。

 

 

 

実際、管理監督者に関してはトラブルが多発しているため、厚生労働省は注意喚起の目的で管理監督者についてのパンフレットを公開しています。

 

そのパンフレットのアドレスは、こちらとなりますので、是非ご覧いただければと思います。

 

◆労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf

 

また、こちらのパンフレットには、裁判事例もいくつか記載されていますが、それを読むと、管理監督者のハードルが非常に高いことがわかると思います。

 

 

いずれにしても、管理監督者は実態で判断されるという点、課長や工場長といった名称だけでは管理監督者にはならないという点を、是非正しく覚えておいていただければと思います。

 

 

 

なお、管理監督者につきましては、こちらの動画で詳しくお話していますので、是非ご覧になっていただければと思います。

 

◆課長になると残業代は無し?でもちょっと待って!(管理監督者について)

https://youtu.be/JeZKQ0tMuNs

 

固定残業制度

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最後に、固定残業制についてお話ししたいと思います。

 

固定残業制とは、時間外労働の割増賃金をあらかじめ一定額支払う制度のことを言います。

 

 

 

これは多くの会社で採用されている制度です。

 

特に、営業社員を雇っている会社では、その営業社員に対して営業手当を時間外労働の割増賃金の代わりに支払う形で、固定残業制度を用いているところも多いかと思います。

 

 

 

時間外労働の割増賃金をあらかじめ定額で支払う方法は、即座に法律違反になるわけではありません。

 

ただし、法律違反ではないものの、適法、つまり法律的に正しいと認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。その条件を満たして初めて適法となるのです。

 

 

 

逆に言えば、その条件を満たしていなければ、固定残業制度は違法となります。

 

従って、固定残業制度を行う場合には、それらの条件を正しく理解する必要があります。

 

では、固定残業制度が適法となるための条件についてご説明していきたいと思います。

 

 

 

まず第一に、就業規則への明記が、最も重要なポイントとなります。

 

固定残業制度を導入する場合、例えば基本給の中に一定額の時間外労働の割増賃金を含んでいるとした場合、いくらが時間外労働の割増賃金であるかを就業規則に明記しなければなりません。

 

 

 

また、営業手当として時間外労働の割増賃金を支払っているのであれば、その営業手当が定額の時間外労働の割増賃金であることを就業規則に明記しなければなりません。

 

もし就業規則に明記がない場合、経営者が「営業手当が定額の時間外労働の割増賃金として支払われている」または「一定額の時間外労働の割増賃金が基本給に含まれている」と主張しても、それは絶対に認められません。

 

 

 

実際、この固定残業制度に関しては多くの裁判が起こされており、私もいくつか裁判事例を読んだことがありますが、私が読んだ範囲では、就業規則に明記されていない場合は100%否認されてしまいます。

 

そのため、就業規則の明記というのは固定残業制度において非常に重要なポイントとなってきます。

 

 

 

ここで注意していただきたいのは、就業規則というのは、常時雇用している労働者の人数が10人未満の会社の場合には作成義務がありません。

 

就業規則の作成義務がない会社が、もし固定残業制度を導入していて、就業規則がない場合には、どのように取り扱われるかと言いますと、たとえ法律的に就業規則の作成義務がなくても、就業規則に明記がないのであれば、固定残業制度は否認されてしまいます。

 

ですから、どんな会社でも固定残業制度を導入する場合には、必ず就業規則へ明記することが必要となってきます。

 

 

 

次のポイントが、不足額の支給です。

 

固定残業制度について多くの経営者が誤解している点があります。

 

固定残業制度を導入すれば、それで時間外労働の割増賃金は払わなくてよいと考えている経営者の方が結構多いのですが、それは間違いです。

 

 

 

たとえ固定残業制度を導入したとしても、毎月、時間外労働の管理をして、実際に時間外労働の割増賃金の計算をしなければなりません。

 

そして、実際の時間外労働の割増賃金額が、支給されている固定残業代より多い場合には、その不足額を支給しなければなりません。

 

つまり、固定残業制度を導入していても、不足額が出たらそれを支払う必要があります。

 

 

 

もし不足額が発生している場合に、その不足額を支給していないと、固定残業制度は否認されてしまいます。

 

ですから、不足額の支給も非常に重要なポイントとなります。

 

 

 

次に逆のパターンについてご説明したいと思います。

 

固定残業代の額が、実際の割増賃金の額より多かった場合や、時間外労働が全くなかった場合には、実際の割増賃金の額あるいは固定残業代を支払わなくて良いと思われるかもしれませんが、それはできません。

 

仮に時間外労働が全く行われなかった、あるいは想定していた時間より少なかった場合でも、あらかじめ約束した固定残業代の額は必ず払わなければなりません。

 

 

 

固定残業制度は、これまでご説明した以上条件の基準を満たして、初めて適法となります。

 

この考え方は、固定残業制度においては、非常に重要なポイントとなりますので、是非正しくご理解下さい。

 

 

 

そして、これからお話する内容は、あくまでも個人的な考えとなりますが、固定残業制度が適法と認められるためには、もう1つ重要な条件があると考えています。

 

これからその条件についてご説明したいと思います。

 

 

 

2019年の4月から労働基準法が改正され、時間外労働の上限時間が定められています。週休2日の労働者の場合は、1ヶ月45時間が、時間外労働の限度時間となります。

 

もちろん、特別条項を付帯すれば、年6回まで45時間を超えることができますが、少なくとも年6回は45時間が上限となります。

 

そのため、固定残業制度を用いた場合において、その固定残業代の金額が、時間外労働の上限時間以上の金額となると、整合性が取れなくなります。

 

 

 

例えば、実際に支払われている固定残業代の金額が15万円だとします。

 

もし割増単価を1万円とすると、固定残業代15万円は、時間外労働100時間分に相当することとなります。

 

 

 

先程言いましたように、時間外労働の上限は、年6回は45時間となりますので、毎月時間外労働100時間分に相当する固定残業代を支払うということは、法律の適合性から考えると不適切となります。

 

法律の適合性から考えた場合に不適切な内容となっていれば、固定残業制度が否認される可能性が高まると言えます。

 

 

 

ですから、固定残業制度を導入する場合には、固定残業代の金額の設定についても注意して下さい。

 

なお、固定残業制度については、こちらの動画で詳しく説明していますので、是非ご覧ください。

 

◆シリーズ労働トラブル防止⑤ 固定残業制について

https://youtu.be/bje7005oeyE

 

固定残業制度が否認された場合の損害額について

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ところで、先程管理監督者の身分が否認された場合の損害について説明しましたが、固定残業の場合も同様なことが言えます。

 

ここでは、固定残業制度が否認された場合にどれほどの損害が発生するか、1つの事例を紹介します。

 

 

 

前提条件として、基本給が月額20万円、営業手当が5万円とします。

 

そして、営業手当を時間外労働の定額の割増賃金として支払っていたと仮定します。(営業手当5万円は、時間外労働の時間に換算した場合35時間分に相当することとします。)

 

 

 

しかし、固定残業が適法と認められるための条件を満たしていなかったため、この営業手当が、固定残業代としてみなされなかった場合の時間外労働割増賃金不足額を計算したいと思います。

 

営業手当が、固定残業代として適法とみなされなかったということは、時間外労働の割増賃金が全く支払われていなかったことになります。

 

つまり、営業手当は単なる手当に過ぎなくなります。

 

 

 

ところで、時間外労働の割増賃金を計算する際、営業手当も含めて計算する必要があります。

 

従って、時間外労働の割増賃金の計算は、基本給20万円と営業手当5万円の合計25万円を月の平均労働時間(ここでは173.3時間を使用します)で割ります。

 

1時間当たりの金額は、1,442円58銭となります。

 

端数処理のため、50銭以上は切り上げとなり、1時間当たりの金額は1,443円となります。

 

 

 

時間外労働の割増賃金の割増率を2割5分(25%)とすると、これに1.25を掛けるため、1,443円×1.25=1,803円75銭となります。

 

端数処理により、1時間当たり1,804円が割増単価となります。

 

仮に毎月35時間の時間外労働をしていた場合には、毎月1,804円×35時間=63,140円の割増賃金の不足が発生していたこととなります。

 

 

 

そして、現時点(令和6年6月)では3年間さかのぼって時間外労働の割増賃金を請求することができるため、労働者は、36ヶ月分を請求することができます。

 

つまり、63,140円×36ヶ月≒227万円、会社はこれだけの金額を支払わなければならないことになります。

 

 

 

ところで、先程管理監督者としての身分が否認された場合の損害額を計算しました。

 

もちろん、管理監督者に関するリスクも高いです。

 

しかし、管理監督者は会社内で人数が限られており、役職に就く労働者は限られています。

 

 

 

それに対して固定残業制度の場合、今回の事例のように営業手当を営業社員に支払っているケースでは、営業社員は一般の労働者です。

 

10人の営業社員を雇用しているケースも決して珍しくないかと思います。

 

 

 

もし、10人の営業社員を雇用していて、その10人が訴えを起こした場合、時間外労働の割増賃金の不足は2,700万円(227万円×10人)となってしまいます。

 

会社は、2,700万円もの金額を支払わなければならなくなります。

 

もし営業社員が20人や30人だった場合、考えただけでもぞっとするかと思います。

 

 

 

このように、固定残業制度を誤って運用してしまうと、会社に多額の損害が発生する可能性があります。

 

そのため、固定残業制度を導入する場合には、就業規則への明記や不足額が生じた場合の支払い、月の時間外労働の管理などを必ず行う必要があります。

 

是非、今後の参考になさって下さい。

 

まとめ

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今回は、割増賃金トラブルを防ぐために、時間外労働の深刻性、管理監督者、固定残業制度についてお話しました。

 

繰り返しになりますが、これらの事項を誤って取り扱い、誤った運用をしてしまうと、本当に大きな損害が発生する可能性がありますので、正しい知識を持ち、正しい運用を行うようにしてください。

 

特に固定残業制度につきましては、損害額が多額となってしまう可能性が十分考えられますので、十分ご注意下さい。