シリーズブラック企業にならないための労務管理⑩ 有給休暇 年間5日取得義務

今回は有給休暇、年間5日取得義務について、ご説明したいと思います。
2019年4月より、給休暇の年間5日取得義務の法律が施行されています。
有給休暇の年間5日取得義務について、正しく理解することは、現在の経営者に強く求められています。
これは法律で定められた規定であり、正しく運用しない場合、法律違反やコンプライアンス違反の状態となってしまいます。
さらに、有給休暇は、労働者にとって賃金や休日と並んで非常に関心の高い事項です。
例えば、経営者が有給休暇に対して無理解であり、正しく運用されていない職場に勤めている労働者は、どのように感じるでしょうか?
そのような環境では、この会社で一生懸命働こうとは決して思わないでしょう。
逆に、有給休暇を正しく運用すれば、労働者の労働意欲は必ず高まると考えられます。
今回は、有給休暇の年間5日取得義務について、このブログをお読みの貴方様が正しく理解できるように、具体的な数字を交えながら、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。
是非、最後までお読みいただければと思います。
なぜ有給休暇 年間5日取得義務の法律がつくられたのか?
それでは本題に入っていきたいと思いますが、その前に一つご了解いただきたい事項があります。
今回は、有給休暇についての話となりますが、有給休暇に関しては労働基準法で様々な規定が定められています。
ただし、今回はそれぞれの規定ついての詳しい説明は割愛させていただきます。
なお、有給休暇については、私がいくつか動画を上げていますので、是非そちらをご覧いただければと思います。
◆無断欠勤でも有給休暇使える?
⇒ https://youtu.be/KtfeKI8yV9s
◆有給休暇 申請できない日がある?
⇒ https://youtu.be/fVNOiTBxtpk
◆パートタイマー、アルバイトの有給休暇の日数の計算方法
⇒ https://youtu.be/gMrOzrrsd9g
それでは本題に入っていきたいと思います。
まず、冒頭にも書きましたが、2019年の4月1日より労働者に年間で5日有給休暇を取得させなければならないという法律が施行されています。
最初になぜこの法律が施行されたかについて少しお話しします。
有給休暇は労働者の権利として付与されます。
付与されるというのは与えられるという意味ですが、実はその付与された有給休暇を使うか使わないかは、これまでは労働者の自由でした。
ですから、2019年4月1日以前は、付与された有給休暇を使わなくても法律上全く問題はありませんでした。
極端な例を言うと、入社してから40年間、45年間、退職するまで一日も有給休暇を取得しなくても法律上問題はなかったのです。
しかし、ご存知の通り、日本の有給休暇の取得率は非常に低いものです。
それに関連して、日本では長時間労働が社会的問題となっています。
国は、長時間労働を是正するために様々な方策を打ち出しています。
その中の一つが今回ご紹介する有給休暇の年間5日取得義務です。
ですから、2019年の4月1日より、労働者は1年間に最低でも5日有給休暇を必ず取得しなければなりません。
もし有給休暇を5日取得できなければ、それは会社の責任となります。
このような規定となっております。
有給休暇 年間5日取得義務の3つのポイント
それでは、有給休暇の年間5日取得義務について詳しくお話ししたいと思います。
有給休暇の年間5日取得義務については、ポイントを3つ押さえていただければ、正しく運用できるかと思います。
ただし、その3つのポイントをご説明する前に、まず有給休暇の仕組みについて簡単にご説明したいと思います。
有給休暇の仕組み
有給休暇とは、労働者が入社後半年経過した時点で、一定の条件を満たしていると付与されます。
例えば、ある労働者が2019年4月1日に雇用され、半年後の2019年10月1日に一定の条件を満たしている場合、原則10日の有給休暇が付与されることとなります。
そして、その後は、1年経過ごとに新たな有給休暇が付与されます。
付与される日数は、11日、12日、14日、16日、18日と増えていき、入社後6年6ヶ月経過した時点で20日となり、20日が付与日数の上限となります。
ですから、入社後6年6ヶ月経過後は、何年在籍しても新たに付与される有給休暇の日数は、20日となります。
そして、付与された有給休暇は、向こう1年間取得する権利があります。
しかし、この1年間に消化できなかった有給休暇につきましては、さらに1年間繰り越すことができるとされています。
つまり有給休暇というのは、2年間使うことができる権利があることとなります。
以上が有給休暇の基本的な仕組みです。
なお今ご説明した有給休暇の繰越と有給休暇の付与日数につきましては、後で少し関連してきますので、是非正しくご理解いただければと思います。
また、有給休暇の繰り越しにつきましては、こちらの動画で詳しくお話していますので、是非ご覧になっていただければと思います。
◆有給休暇の繰越の計算方法は・・・?
⇒ https://youtu.be/9JlMCWNRJrA
有給休暇の年間5日取得義務のポイント① 年間の起算日
それでは、有給休暇の年間5日取得義務について最初のポイントをお話していきたいと思います。
まず、もう一度法律の規定を読んでいただきたいのですが、労働者に年間5日有給休暇を取得させなければならないということです。
ここでポイントとなってくるのが、この「年間」です。
1年間というのは、どこからどこまでを指すかということですが、1月1日から12月31日、あるいは4月1日から翌年の3月31日、または入社してから1年間など、いろいろ考えられますが、全て違います。
この法律の1年間というのは、新たに有給休暇が付与された日から1年間となります。
ですから、2019年4月1日に入社した労働者の場合は、最初に有給休暇が付与されるのは2019年の10月1日ですから、ここから2020年9月30日までの1年間の間に5日の有給休暇を取得しなければいけないこととなります。
そして、さらに次の年、2020年の10月1日から1年間の間に5日有給休暇を取得しなければいけないこととなります。
このように有給休暇が新たに付与される日を基準日といいます。
つまり、有給休暇の年間5日取得義務の年間というのは、労働者に新たに有給休暇が付与される基準日から1年間という考え方をします。
労働者は様々な日に入社するわけですから、その結果、有給休暇が付与される基準日が違ってきます。
ですから、この法律において、年間の起算日は、労働者ごとに違ってくることとなります。
まず、1つ目のポイントである、年間の考え方について正しくご理解して下さい。
有給休暇の年間5日取得義務のポイント② 対象労働者
それでは、次のポイントについてお話ししていきたいと思います。
繰り返しになりますが、有給休暇の年間5日取得義務の法律規定は、「労働者に年間5日有給休暇を取得させなければならない。」と書いてあります。
この規定を読むと、雇用している全ての労働者に有給休暇を年間5日取得させなければいけないというふうに読めるかと思います。
しかし、それは間違いです。
この法律の対象となる労働者は、新たに付与される有給休暇の日数が10日以上の労働者となっています。
先ほどご説明しましたが、有給休暇の原則的な付与日数は、10日、11日、12日、14日、16日、18日、20日となります。
しかし、労働基準法では、労働時間や労働日数が少ない労働者に対して、この原則的な日数より少ない有給休暇の日数を与えるという規定があります。
それが比例付与と呼ばれるものです。
比例付与というのは、1週間の労働時間が30時間未満かつ1週間の労働日数が4日以下、または年間の労働日数が216日以下の労働者が対象となります。
なお、本来であれば、比例付与についてここで詳しくお話すべきですが、今回のブログのテーマは有給休暇の年間5日取得義務ですので、比例付与についての説明は割愛させていただきます。
有給休暇の比例付与につきましてはこちらの動画で詳しくお話していますので、是非ご覧になっていただければと思います。
◆正社員からパートタイマーになった場合の有給休暇の日数は?(比例付与)
⇒ https://youtu.be/wVru7TNWxRU
また、比例付与に該当する労働者の有給休暇の付与日数はこちらのサイトをご覧下さい。
◆比例付与の表(厚生労働省)
⇒ https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
比例付与の表をご覧いただければわかるかと思いますが、比例付与に該当する労働者の付与日数は、週の労働日数または年間の労働日数に応じて4段階に区分されています。
そして、比例付与の表、一番上の週の労働日数が4日または1年間の所定労働日数が169日から216日の労働者を見ていただきたいのですが、有給休暇が、新たに10日付与されるのは入社してから3年6ヶ月経過した時点となります。
つまり、比例付与に該当して週の労働日数が4日または1年間の所定労働日数が169日から216日の労働者は、有給休暇の年間5日取得義務の対象となるのは、3年6ヶ月経過した時点からとなります。
それまでは、法律の対象とはなりません。
従って、比例付与に該当して週の労働日数が4日または1年間の所定労働日数が169日から216日の労働者に対しては、入社してから3年6ヶ月経過するまでは1日も有給休暇を取得させなくても法律違反にはならないという形になります。
さらに、表の下の二つの区分の労働者(週の労働日数が2日または1年間の所定労働日数が73日から120日および週の労働日数が1日または1年間の所定労働日数が48日から72日)を見ていただきたいと思います。
先程有給休暇の日数は入社してから6年6ヶ月経過すると付与される日数が上限に達すると言いましたが、それは比例付与の場合も同じです。
ですから、表の下の二つの区分の労働者は、何年勤務しても10日以上の有給休暇が付与されることはありません。
つまり、表の下の二つの区分の労働者には法律が適用されないこととなり、1日も有給休暇を取得させなくても法律違反とはならないこととなります。
ここで一つ注意すべきケースをご紹介したいと思います。
今言いましたように、この法律が適用される労働者は新たに有給休暇が10日以上付与される労働者です。
ところで、先程ご説明しましたが、有給休暇は1年に限り繰り越すことができます。
ここで、もう一度比例付与の表を見ていただきたいのですが、一番上の区分の労働者(週の労働日数が4日または1年間の所定労働日数が169日から216日)は、入社後6ヶ月経過した時点で7日の有給休暇が付与されます。
そして、さらに1年経過後に8日付与される形となります。
この労働者が最初に付与された7日の有給休暇を翌年までに1日も使わなかった場合、入社後1年6ヶ月経過した時点で新たに付与された8日の有給休暇と合わせて、向こう1年間に15日の有給休暇を使う権利があることになります。
しかし、この法律が適用されるのは、あくまでも新たに有給休暇が10日以上付与される労働者であって有給休暇を取得することができる日数が10日以上いうことではありません。
ですから、一番上の区分の労働者が、入社後1年6ヶ月経過した時点で、向こう1年間に15日間の有給休暇を使う権利があったとしても、この時点では法律の対象とはなりません。
法律の対象となるのは、新たに10日有給休暇が付与される、入社後3年6ヶ月後からとなりますので、ご注意いただければと思います。
有給休暇の年間5日取得義務のポイント③ 取得日指定の権利
それでは、有給休暇の年間5日取得義務の三つ目のポイントについてご説明したいと思います。
再度法律の規定を読んでいただきたいのですが、「労働者に年間に5日有給休暇を取得させなければならない。」とあります。
この文章を読むと、有給休暇を労働者が取れるように会社はその有給休暇を取得する日を指定できるように読み取れることも可能かと思います。
実際そのような趣旨に近いインターネットのサイトやチラシを見たことがあるのですが、それは間違いです。
この法律が施行されても、有給休暇を取得する日を指定する権利があるのはあくまでも労働者です。
その権利が会社側に移ることはありません。
この法律が施行されても、会社は、有給休暇の取得日を指定することはできないのです。
では、どのように運用していくかということですが、会社が労働者に有給休暇を取れるように働きかける、あるいはそういう制度作りをする、このようなイメージとなります。
例えば、2019年の10月1日に10日有給休暇が付与された労働者に対して、例えば2ヶ月に1回は必ず有給休暇を取って下さいとお願いし、いつ有給休暇を取得するか計画を何月何日までに出して下さいと依頼します。
そして出されたその計画に基づいて、会社は、「あなたはこの日に有給休暇を取ってください」というこのような流れとなります。
ですから、あくまでも有給休暇の取得日を決めるのは労働者が主体です。
ここで注意していただきたいのは、会社が、一生懸命労働者が有給休暇を取得できるように働きかけ、アナウンスしたとしても、「仕事が忙しいから有給休暇なんか取っていられない。」という労働者も出てくる可能性があるということです。
しかし、どんなに会社が頑張って労働者に有給休暇を取らせるように働きかけたとしても、結果的に労働者が有給休暇を取らなかった場合、会社がその責任を免れることはできません。
会社が頑張っても結果的に労働者が年間有給休暇5日を取得しなければ、それは会社の責任となります。
ですから、ここは個人的な考えになりますが、会社が頑張って有給休暇取得を促しても、労働者が有給休暇を取らず、1年間の期限が近づいてきた場合には、半強制的に取得してもらうケースも出てくるかもしれません。
しかし、そのような場合でも有給休暇の取得日を指定する権利は、労働者にあります。
その前提で対応していただきたいと思います。
ですから、例えば、この1週間の間のどこで週休休暇を取るか、この3日間の間のどこで取るかなど、なるべく労働者に選択権を持たせることが重要です。
あくまでも有給休暇の取得日を指定できるのは労働者であることを前提に対応してください。
これまでご説明しましたように、有給休暇が年間5日取得義務について注意すべき点として三つ挙げられます。
まず、年間の考え方ですが、この年間の起算日は、労働者に新たに有給休暇が付与される日が起算日となります。
そして、この法律は、雇用している全ての労働者が対象となるわけではなく、新たに付与される有給休暇の日数が10日以上の労働者が対象となります。
そして三つ目は、このような法律ができたとしても、有給休暇の取得日を指定する権利はあくまでも労働者にあります。
以上三つのポイントを正しくご理解いただければ、有給休暇年間5日取得義務は、正しく運用していただけると思います。
罰則規定について
この法律には罰則規定が設けられています。
労働者1人当たり30万円以下の罰金となっています。
ですから、仮に雇用している労働者が10人いて、10人全ての労働者がこの法律に反した場合には、300万円の罰金が科せられる可能性があります。
罰則規定について是非覚えておいていただきたい点があります。
有給休暇年間5日取得義務に関しては、法律違反の状態になってしまったら、それを是正することはできません。
例えば、割増賃金の不払いであったら、過去に遡って割増賃金を支給すれば、違反状態は、解消されます。
しかし、有給休暇年間5日取得義務の関しては、1年間に5日の有給休暇を取得させるこができなかったら、その時点で法律違反が確定してしまいます。
たとえ、翌年不足分の有給休暇を取得させても、法律違反が解消されることはありません。
ですから、この法律の罰則規定は、経営者にとっては非常に厳しいものであると言えますので、その点もご注意していただければと思います。
有給休暇の管理簿について
ここでは、有給休暇の管理簿についてご説明したいと思います。
先にもお話しましたが、この法律ができる以前は、有給休暇は権利として労働者に付与されますが、その権利を使うかどうかは労働者の自由でした。
ですから、会社側も労働者が有給休暇を何日使うかを把握する義務はありませんでした。
しかし、この法律が施行されたため、会社は、最低でも労働者が年間5日有給休暇を取得しているかどうかを管理する義務があるわけです。
それに伴って会社は有給休暇の管理簿を作成し、そして、その管理簿を3年間保存する必要があります。
労働基準監督署の調査が行われた場合、以前は有給休暇の管理について会社に責任がなかったため、取得状況を調査することはありませんでした。
しかし、現在はこの法律が施行されていますので、労働基準監督署の調査が行われた場合には、必ずこの法律通りに労働者が年間5日有給休暇を取得しているかを調べます。
その際に必要となるのが有給休暇の管理簿ですので、必ず管理簿を作成してください。
なお、フォーマットについては特段の定めがありませんので、労働者の名前や基準日、年間の期間、取得日などの必要な事項がわかるものであれば、どのような形式でも構いません。
フォーマットについては、インターネット等でいくつか公開されていますので、そちらを参考になさって下さい。
まとめ
今回は、有給休暇の年間5日取得義務についてご説明させていただきました。
繰り返しになりますが、有給休暇の年間5日取得義務について正しく理解することは、今、経営者に強く求められています。
有給休暇の年間5日取得義務は、法律です。
法律を守らなければ、コンプライアンス違反となり、罰金刑が科せられる可能性もあります。
そして、ブラック企業の特徴として、有給休暇が取得できないという話もよく聞きます。
有給休暇が正しく運用されていない企業に勤めている労働者の労働意欲が上がることは決してないと思います。
ですから、有給休暇の年間5日取得義務を経営者の方は正しく理解して、正しい運用をしていただければと思います。
今回は、有給休暇の年間5日取得義務について、なるべくわかりやすく解説しました。ぜひ今後の労務管理の向上にお役立ていただければと思います。
なお、最後に一点だけ付け加えさせて下さい。
有給休暇の年間5日取得義務の法律を守ることはもちろん重要ですが、有給休暇の年間5日取得というのは、あくまで最低基準です。
労働者に、有給休暇を年間5日取得させればそれで良いというものではありません。
会社は、労働者に付与されている有休休暇を全て取得できるだけの職場環境をつくる努力が必要です。
この点は誤解しないでいただきたいと思います。