労務管理用語シリーズ⑦ 普通解雇と懲戒解雇について

今回は 普通解雇と懲戒解雇についてお話したいと思います。

 

普通解雇も懲戒解雇もどちらも解雇の一種となります。

 

解雇は、労務管理において最も重大な労働トラブルに発展する可能性が高い事項となります。

 

ですから、経営において解雇について正しく理解することは、非常に重要となります。

 

今回は 普通解雇と懲戒解雇の違いについて、わかりやすく解説するとともに、解雇についての注意点についてもお話していきたいと思います。

 

 

そもそも解雇とは?

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冒頭で、「普通解雇も懲戒解雇も解雇の一種です。」 と言いました。

 

ですから、普通解雇 懲戒解雇の違いを理解する前提として、「解雇」そのものをまず正しく理解していただく必要があります。

 

では 解雇とはどのようなことを言うのでしょうか?

 

 

解雇とは、会社が労働者との雇用を会社側から止める行為を言います。

 

解雇をより理解していただくために、前段階である「労働者を雇用する」とは一体どういうことか?

 

まず ここから考えていきたいと思います。

 

 

多くの経営者の方が、あまり意識されていないのですが、会社が労働者を雇用するということは、労働者との間で「契約」を結ぶということです。

 

契約ですから、当然 権利と義務が発生します。

 

では 会社と労働者との間にどのような権利や義務が発生するのでしょうか?

 

 

まず、労働者側から考えてみると、分かりやすいかと思います。

 

労働者は、会社から雇用された場合には、適正な労働力の提供をする義務を負います。

 

それに対して労働者側の権利は、その提供した労働力に対する対価を受け取る権利、つまり 給料を受け取る権利があります。

 

 

一方、使用者の義務と権利ですが、使用者の権利とは、雇用した労働者から適正な労働力の提供を受ける権利です。

 

そして 義務は、その受取った労働力に対する対価を労働者に支払う義務、つまり、給料を払う義務です。

 

 

このように、会社が労働者を雇用するというのは、 言った権利と義務に基づく契約を結ぶということとなります。

 

その契約のことを一般的に、労働契約または雇用契約と言います。

 

つまり、会社が労働者を雇用するということは、この労働契約を結ぶことなのです。

 

 

では、解雇についてご説明したいと思います。

 

解雇というのは、今ご説明した労働契約を、使用者が、一方的に解除する行為のことを言います。

 

ちなみに、労働者側から雇用契約を解除することを、退職届の提出となります。

 

ただ、労働者の場合は、一方的に労働契約を解除することは法的にはできず、使用者の同意が必要となります。

 

 

ところで、この解雇について注意すべき点があります。

 

労働者が もし解雇されてしまうと、労働者は突然生活の糧を失ってしまいます。

 

ですから、労働基準法では、労働者保護のための規定を設けています。

 

使用者が、労働者を解雇する場合には、必ず30日以上前に解雇の予告をするか、あるいは即日解雇する場合には、平均賃金の30日以上の支払いが必要となります。(一般的に解雇予告手当と言われるものです。)

 

会社は労働者を解雇する場合は、「少なくとも1ヶ月分の生活の保障をしなさい」という労働者保護の考えとして、労働基準法にこのような規定を設けています。

 

 

ここで、もう一度整理しますと、労働者を雇用することは、労働者との間で労働契約を結ぶことで、その(労働)契約を使用者が、一方的に解除する行為を解雇と言います。

 

 

普通解雇と懲戒解雇について

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では、今回の本題である普通解雇と懲戒解雇の違いについてご説明していきたいと思います。

 

労働者を解雇するには、当然 理由があります。

 

実は、その解雇理由によって、解雇の種類を分けていて、それぞれに名称が付けられています。

 

それが 、「普通解雇」「懲戒解雇」と呼ばれるものです。

 

 

ところで、これから「普通解雇」「懲戒解雇」についてご説明していきますが、実は、法律で「普通解雇」「懲戒解雇」の定義が定められているわけではありません。

 

これまでの様々な事例を基に、その概念が形成されているのです。

 

ですから、これからお話する内容は、法律の定義ではなく、あくまで一般論であることをご理解いただきたいと思います。

 

 

普通解雇は、一般的に使用者が、やむを得ない事由により労働契約を解除することを言います。

 

先程も言いましたように、労働者は、適正な労働力を提供する義務を負います。

 

 

しかし 適正な労働力の提供が困難となる場合が考えられます。

 

例えば、雇用した労働者の能力が不足していたため、 本来、求めてられている労働力が提供されないケースが考えられます。

 

そうしますと、適正な労働力が提供されないのであれば、労働契約の前提が崩れることとなります。

 

そのため、使用者としては、「この契約は無しにしましょう。」という、つまり労働契約の解除と言う考えに至ります。

 

 

また、能力は素晴らしいけど、健康に問題があって、ほとんど会社に来ることができない。

 

このようなケースも、労働力を提供する労働者の義務が果たされないこととなります。

 

このように普通解雇とは、労働者が適正な労働力を提供しない等のやむを得ない事由により、使用者が、労働契約を解約することを、一般的に普通解雇と呼びます。

 

 

 

それに対して懲戒解雇は、労働者が極めて悪質な行為や非行を行った時に、懲戒処分として労働契約を解除する行為をいいます。

 

「労働契約をこれ以上維持することができない。」という根本の考えは、普通解雇の場合と同じですが、懲戒解雇の場合は、労働者が重大な問題を起こしてしまい、労働者との信頼関係が崩れてしまい、その結果、これ以上の労働契約の維持は難しい、という考えが根底にあります。

 

 

ところで、通常会社は、就業規則等で様々な懲戒処分を規定します。

 

訓告、減給、出勤停止等が挙げられますが、懲戒解雇は、それらと同様、懲戒処分の1つとなります。

 

つまり、懲戒解雇は、就業規則等の懲戒規定に基づいて、懲戒処分として労働契約を解除する行為となります。

 

 

ここで1つ注意していただきたいことがあります。

 

先程も言いましたように、普通解雇も懲戒解雇も法律上の定義があるわけではありませんので、どちらも法律上は解雇となります。

 

従って、普通解雇でも懲戒解雇でも、先程お話しました、30日以上の予告期間または平均賃金の30日以上の支払いが必要となります。

 

ですから、懲戒解雇だから、解雇予告手当の支払は必要ない、というような規定はありません。

 

 

ただし、懲戒解雇に関しては、労働者が重大な問題を起こした場合等で、労働基準監督署の認定を受ければ、解雇予告手当を払わなくて解雇できる規定がありますが、それは、あくまでも例外であって、原則は懲戒解雇であったとしても30日以上の予告期間を設けるか、解雇予告手の支払が必要となります。

 

ここは、本当にご注意していただければと思います。

 

 

なお、解雇の種類としては、普通解雇、懲戒解雇以外に整理解雇と呼ばれる解雇があります。

 

整理解雇は、会社の業績が芳しくなく、これ以上今いる従業員全員を雇用し続けることが困難な場合に、一部の労働者を解雇することを一般的に整理解雇と言われています。

 

解雇のついて正しい知識を持つ

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解雇は、労務管理において重大な労働トラブルに発展する可能性が非常に高い行為です。

 

ですから、できれば労働者を解雇することは避けたいものです。

 

 

しかし、長い経営活動の間には、どうしても 労働者を解雇しなければいけないケースが出てくる場合があります。

 

そのため、経営者の方には、解雇について正しい知識を持っていただくことが、非常に重要となってきます。

 

ですから、これからお話することは非常に重要なポイントとなりますので、経営者の方には是非、正しくご理解していただきたいです。

 

 

実は 解雇そのものは、違法行為ではありません。

 

ですから、労働者を解雇したからといって、法律違反に問われることは基本的にはありません。

 

ただし、先程も言いましたように、労働者保護の観点から、労働者を解雇する場合には、30日以上の予告期間を設けるか、解雇予告手当の支払いが法律上必要となります。

 

ですから、この法律の規定に則って解雇が行われれば、法律違反には全く問われないわけです。

 

 

ところで、経営者の方に、このようなお話をすると

 

「労働者を解雇する場合に、30日前に予告をするか、解雇予告手当を支払えば、それで問題は、無いのですね。」と思われる経営者の方が非常に多いのです。

 

しかし、それは間違いです。

 

 

確かに 今言ったように、法律の規定に則って行う解雇は、法律上全く問題ありませんが、解雇された労働者が、自分にされた解雇が不当であるということを裁判等で訴えてくる可能性があります。

 

もし、労働者が訴えを起こした場合には、裁判等で、その解雇が正しいかどうかを判断することとなります。

 

 

先程も書きましたが、解雇するには当然理由があります。

 

裁判等では、その解雇の理由に合理性 妥当性があるかを判断するのです。

 

つまり、その解雇の理由が、解雇に値するだけの理由なのかを判断するわけです。

 

 

もし 裁判等の結果、会社が行った解雇の理由について、合理性 妥当性が無いと判断された場合、不当解雇となってしまいます。

 

不当解雇と判断された場合には、解雇自体が取り消されますから、労働者としての地位が戻ることとなります。

 

 

しかし、一度解雇された労働者からすれば、その会社で再度働くことは望まないケースが多いので、金銭的な解決が図られる場合が多いのです。

 

つまり、和解金 賠償金といった名目の金銭で、「今回の不当解雇を清算します。」という形となります。

 

ただし、その金額は、経営者の方が想像する以上の金額となるケースが非常に多いのです。

 

 

ここで何を言いたいかと言いますと、労働者を労働基準法の定めに則って解雇した場合でも、労働者が訴えるリスクが必ず残るわけです。

 

ですから、労働者を解雇するということは、法律上の手続きだけをすれば良いわけでなく、解雇するには合理的、妥当的な理由が必要となってくることを必ず覚えておいていただきたいのです。

 

 

ところで、労働者を解雇した場合に、その理由が、合理的、妥当的と認められるには、非常にハードルが高いのです。

 

ですから、安易に労働者を解雇してしまうと、本当に大きな労働トラブルに発展してしまいます。

 

 

では、どうすれば裁判等で解雇の理由に合理性、妥当性があると判断されるか?というところですが、実は、ここは非常に難しいのです。

 

というのは、解雇は、個々のケースによって事情が全く違ってきますので、解雇理由に合理性、妥当性が認められる、明確な基準がないのです。

 

例えば、同じ日数による無断欠勤による解雇でも、ある会社では解雇理由の合理性、妥当性が認められても、別の会社では、否認されています場合もあります。

 

ここのところを掘り下げてしまうと、非常に説明が長く複雑になってしまうので、今回の説明は、ここまでとさせていただきますが、ただ1つ言えることは、解雇理由に合理性、妥当性が認められるには、経営者の方が想像している以上に、はるかにハードルが高いのです。

 

まとめ

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今回は、普通解雇と懲戒解雇についてご説明させていただきました。

 

普通解雇は、一般的に使用者が、やむを得ない事由により労働契約を解除することを言い、懲戒解雇は、労働者が極めて悪質な行為や非行を行った時に、懲戒処分として労働契約を解除する行為をいいます。

 

どちらも、労働基準法の解雇予告の規程の制限を受けることとなります。

 

また、繰り返しになりますが、労働者を解雇する場合には、法律に則って、解雇予告等の手続きだけを行えば問題が無いわけでなく、労働者を解雇するということは、不当解雇と訴えられるリスクがあるということをご注意下さい。

 

 

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