シリーズブラック企業にならないための労務管理③ 法定労働時間と休日
ブラック企業にならないための労務管理、今回は、法定労働時間と休日についてご説明したいと思います。
実は、私は、法定労働時間と休日について正しく理解することが、適正な労務管理を実現する上で最も重要なポイントと考えています。
企業が、ブラック企業の状態となってしまうのは、経営者が、法定労働時間と休日について誤った認識を持っていることが大きな原因となっていると言えます。
法定労働時間と休日は、それぞれの意味を正しく理解することはもちろん重要ですが、法定労働時間と休日は、密接な関係にあるため、その関連性を正しく理解することが非常に重要となってきます。
今回は 法定労働時間と休日の意味、そしてそれぞれの関係性についてわかりやすく解説していきたいと思います。
また、ブログの後半では、法定労働時間と休日に関連する用語の解説をしていきたいと思います。
経営者が、労務管理に関する法律知識を難しく感じるのは、用語が複雑で、そしてまぎらわしいこの理由が挙げられます。
ですから、労務管理に関する用語について正しく理解することは、適正な労務管理を行っていく上でも非常に重要なポイントとなりますので、是非最後までお読みいただければと思います。
法定労働時間とは?
それでは最初に法定労働時間についてご説明したいと思います。
冒頭で適正な労務管理を実現する上で、法定労働時間と休日の正しい理解が、非常に重要とお話しましたが、その中でも特に法定労働時間は、労務管理の基本中の基本と言えます。
労働基準法の多くの規定が、この法定労働時間と関連性を持っているのです。
その代表が、今回ご説明する休日なのですが、それ以外にも割増賃金の計算方法や変形労働時間制、有給休暇といった重要な法律は、全て法定労働時間と関連性を持っています。
ですから、適正な労務管理を実現する上において、まず法定労働時間を正しく理解することが重要なポイントとなります。
法定労働時間とは、どのような労働時間かと言いますと、労働基準法で定められている。使用者が(使用者とは、会社 経営者と思っていただければ結構です。)、労働者を働かせることができる上限時間のことを言います。
具体的には、1日が8時間、1週間が40時間、これが原則的な時間とされています。
従って、使用者は、労働者を1日8時間、1週間40時間を超えて労働させることはできないわけです。
もし法定労働時間を超えて労働させれば、それは法律違反となります。
ところで、法定労働時間の説明をすると、「実際多くの企業で、1日8時間、1週間40時間を超えて労働させていますが、これはどういうことですか?」といった質問を受けます。
確かに、現実多くの労働者が、法定労働時間を超えて労働しています。
ただし、これは次回のブログでご説明する、36協定(正式には、時間外労働及び休日労働に関する協定届と言います。)というしかるべき手続きを取っての上でのこととなります。
つまり、36協定の手続きを取ることによって、初めて法定労働時間を超えて労働者を労働させることができることとなります。
逆に言えば、36協定の手続きを取らなければ、労働者に法定労働時間を超えて労働させることはできないこととなり、もし労働させれば、労働基準法違反となります。
また、36協定の手続きを取ることによって、労働者に法定労働時間を超えて労働させることは、あくまで法律の例外となりますので、労働者と労働契約(雇用契約)を結ぶ場合に、労働時間に関しては、法律の基準を満たす内容、つまり法定労働時間内の労働時間で契約する必要があります。
ですから、「私は、もっと稼ぎが欲しいから、1日12時間働いても良いです。だから、そのような契約でも構いません。」と仮に労働者が言ったとしても、そのような労働時間で、労働契約を締結することは、法律上出来ないこととなります。
法定労働時間は、使用者が、労働者を働かせることができる上限時間、限度時間のことを言います。
まず、ここを正しくご理解いただければと思います。
ところで、法定労働時間に関してですが、例外規定が設けられています。
具体的には、常時10人未満の労働者を使用する、商業、映画(映画の製作は除かれます。)・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業に該当する事業場では、1週間の法定労働時間が、44時間となります。
ただし、1日の法定労働時間は、8時とする原則は変わりません。
ところで、この例外規定に関して注意すべき点があります。
それは、「常時10人未満の労働者」の労働者には、パートタイマーやアルバイ等の正社員以外の労働者も含まれます。
ですから、正社員は8人だけど、パートタイマーが5人いる事業場は、労働者数13人になりますので、例外規定の対象にはならないこととなります。
ここは、盲点と言えますのでご注意下さい。
休日について
では、次に休日についてご説明したいと思います。
休日は、労働者にとって非常に関心が高い労働条件となります。
関心が高いということは、それだけ労働トラブルが起きやすいと言えます。
ですから、休日について正しく理解するも適正な労務管理においては重要なポイントとなります。
労働基準法では、使用者は、労働者に最低でも1週間に1日または4週間に4日休日を与えなければいけないとされています。
なお、4週間に4日というのは、平均すれば 1週間に1日と考えられますので、今回のブログでは休日に関しての規定は、1週間に1日という表現をさせていただきたいと思います。
実は、労働基準法では、休日に関する規定は、これだけなのです。
では、使用者は、労働者に1週間に1日だけ休日を与えれば、それで法律上全て問題ないかと言うと、それは間違いで、先程ご説明した法定労働時間との関係を考える必要があります。
これはどういうことかと言いますと、先程ご説明したように、法定労働時間の原則は、1日8時間、1週間40時間です。
もし、1日の労働時間を法定労働時間上限の8時間とした場合に、月曜日から金曜日、週5日労働すると、その時点で1週間の労働時間は、法定労働時間の40時間となります。
となると、先程ご説明した、労働基準法の規定通りに、週に1日だけ休日(仮に日曜日を休日とします。)を与えることとすると、土曜日は労働日となり、週の労働時間は48時間となり、法定労働時間を超えてしまいます。
ですから、法律上は、休日は労働者に1週間に1日だけ与えれば良いのですが、法定労働時間との関係で日曜日以外にもう1日休日与えなければいけないこととなります。
つまり、1日の労働時間が8時間の会社は、完全週休2日制を導入する必要が出てきます。
このように、休日の日数を設定する時には、必ず法定労働時間との関係を考えなければいけないわけです。
ですから、法定労働時間と休日は、密接な関係にあると言えます。
変形労働時間制について
ところで、大企業や上場企業ならともかく、中小零細企業の場合には、なかなか完全週休2日制を導入することができないケースが考えられます。
その場合はどうすれば良いか?ということですが、1つの考え方としては、1日の労働時間を減らすことが考えらえます。
仮に1日の労働時間を6時間すれば、月曜日から土曜日まで、週6日働いても合計で36時間ですから、法定労働時間の40時間以内に収まります。
しかし、1日の労働時間が6時間では、なかなか会社が回らないことも考えられます。
そのため、労働基準法では、完全週休2日制度の導入が難しい場合を想定して、変形労働時間制度という規定を設けています。
もし完全週休2日制度が、難しい会社の場合には、変形労働時間制を用いて、法定労働時間の法律の基準を満たす形となります。
変形労働時間制とは、特定の日又は週が法定労働時間を超えても、一定期間を通して週の平均労働時間を法定労働時間以内にする制度となります。
具体的には、1ヶ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制の3つがあります。
ただし、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、業種や労働者の人数に制限があるものですから、ここでは 1ヶ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制について、お話していきたいと思います。
まず、1ヶ月単位の変形労働時間制についてご説明したいと思います。
1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月間を通じて週の平均労働時間40時間以内に収める
制度となります。
ここではわかりやすく、1ヶ月を4週間で考えてみたいと思います。
例えば、月末と月初が繁忙期で、その代わり月の半ばは、比較的時間に余裕がある会社があったとします。
第1週目と第4週目の休日を日曜日の1日だけとして、労働時間を月曜日から金曜日までは9時間、土曜日は7時間とします。
それに対して、第2週と第3週については、休日を金曜日、土曜日、日曜日の3日間として、さらに 1日の労働時間を7時間すると、第1週と第4週の労働時間は、それぞれ52時間、第2週と第3週は28時間となります。
合計すると160時間になりますので、週の平均労働時間は40時間となります。(160時間÷4週)
このような場合、第1週と第4週において、月曜日から金曜日には1日の労働時間が、法定労働時間の8時間を超えていますし、1週間の労働時間も法定労働時間を超えています。
しかし、先程ご説明したように、変形労働時間制では、特定の日又は特定の週が法定労働時間を超えても、週の平均労働時間が法定労働時間以内に収まっていれば、法律の基準を満たしているこのような考え方をします。
ですから、今回のケースは、第1週と第4週で1日および週の法定労働時間を超えていますが、1ヶ月(4週間)を通じて週の平均労働時間が、40時間以内に収まっていますので、法律違反にはならないこととなります。
1年単位の変形労働時間制も基本的な考え方は同じで、1年間を通して週の平均労働時間を40時間以内に収める制度です。
詳しい説明につきましては、ここでは割愛させていただきますが、1日の労働時間が8時間の会社の場合、年間休日の日数を105日以上設けると週の労働時間が平均で40時間以内となります。
もし、年間の休日を105日以上取れない会社の場合には、1日の労働時間を減らすこととなります。
1日の労働時間が 7時間30分の場合ですと、年間の休日日数が87日以上(閏年は88日以上)で週の労働時間の平均が、法定労働時間の40時間を下回ることとなります。
以上のように、完全週休2日制を導入することができない会社の場合には、変形労働時間制等を使って、週の平均の労働時間を法定労働時間内に収める必要があります。
となりますと、労働時間に関して正しい労務管理を行うためには、1日の労働時間と休日の日数を正しく決める必要があります。
その結果、法定労働時間を遵守できるようになります。
用語解説
最後に、用語について少し解説したいと思います。
経営者が、労務管理を難しく感じる理由の1つに用語が難しいというのがあります。
確かに労務管理の用語は難しく、さらにまぎらわしいものが多数あります。
ですから、正しい労務管理を実現するには、用語が持つ意味を正しく理解することも非常に重要となってきます。
実は、法定労働時間と休日についても、まぎらわしい用語が存在します。
今回は、法定労働時間と休日に関係するまぎらわしい用語をご説明したいと思います。
まずお話したいのが、所定労働時間です。
法定労働時間と所定労働時間、よく似ているかと思います。
実際、法定労働時間と所定労働時間を混同して使用している経営者も多くいます。
しかし、所定労働時間は、法定労働時間とは全く持つ意味が違います。
所定労働時間は、どのような時間かと言いますと、「働くべき時間」というふうに解釈しています。
例えば、正社員の1日の労働時間は、その会社の始業時間から終業時間までです。
もし始業から終業までの労働時間が8時間であれば、その正社員の働くべき時間は、8時間となります。
この8時間が、その正社員にとっての所定労働時間となります。
また、所定労働時間は、「労働者の所定労働時間」だけではなく、「会社の所定労働時間」というような言い方もします。
例えば、ある会社では、1日の労働時間を8時間としていますが、別の会社では、7時間45分と定めている場合もあります。
このような場合、先の会社の所定労働時間は8時間ですが、後の会社の所定労働時間は7時間45分となります。
また、所定労働時間は、同じ会社内の労働者でも、労働者の区分によっても違う場合もあります。
正社員とパートタイマーでは、1日の労働時間が違う場合があります。
正社員は、労働時間が8時間だけど、あるパートタイマーは、5時間しか働かない契約で入社している場合、正社員の所定労働時間は、8時間ですが、そのパートタイマーの所定労働時間は、5時間となります。
このように所定労働時間は、「働くべき時間」という意味であって、法定労働時間とは、全く意味が違うこととなります。
次に休日に関連して、法定休日と法定外休日についてご説明したいと思います。
今回ご説明しましたように、労働基準法で、休日は、労働者に最低でも1週間に1日または4週間に4日与える必要があると定められています。
この労働基準法で定めている、最低でも1週間に1日または4週間に4日、労働者に与えなければいけない休日のことを法定休日と言います。
しかし、法定労働時間との関係で、1週間に1日または4週間に4日以上の休日を設けなければいけないケースも出てきます。
今回ご説明したように、1日の労働時間が8時間の場合、週休2日制を導入すれば、法律の基準を満たすこととなります。
上記のケースで、例えば、土曜日と日曜日を休日とします。
そして、日曜日を労働基準法で定めた、労働者に最低与えるべき休日、法定休日とした場合、土曜日の休日を法定外休日と言います。
なぜこのように法定休日と法定外休日とを区分しているかと言いますと、実は、割増賃金との関係なのです。
労働基準法では、「労働者に休日労働させた場合には、3割5分増以上の割増賃金を支払わなければならない。」このような規定を定めています。
労働基準法のこの規定の休日とは、法定休日のことを言います。
仮に、1日の労働時間が4時間で、月曜日から土曜日までが労働日で、日曜日が休日の場合に、日曜日に休日労働をすれば、法定休日に労働したこととなりますので、日曜日の労働については、3割5分増以上の割増賃金の支払いが必要となってきます。
しかし、先の例のように土曜日と日曜日が休日で、土曜日には休日出勤したが、日曜日は休んだというケースがあります。
この場合、日曜日に、1週間に1日の休日を取っているので、土曜日の労働は、法定外休日の労働となります。
結果的に週の法定労働時間を超えていることとなりますので、法律的には、2割5分増以上の割増賃金の支払いをすれば良いこととなります。
このように法定休日と法定外休日とでは、割増賃金の計算方法が違ってくるため同じ休日でも名称を区分しています。
法定休日と法定外休日、非常にまぎらわしいですが、正しくご理解していただければと思います。
まとめ
労働時間は、労務管理の根幹と言える事項です。
ですから、法定労働時間を遵守できる労務管理体制を構築することは、労務管理において非常に重要なポイントの1つとなります。
そして、法定労働時間を遵守するには、休日の日数を正しく設定する必要があります。
このように法定労働時間と休日とは密接な関係にあり、労務管理において非常に重要な事項となってきますので、是非今回のブログ、今後のご参考になさって下さい。