労務管理用語シリーズ① 法定労働時間と所定労働時間

経営者の方から、「先生 労務管理って本当に難しいですね。よくわからないです。」といったお声を聞くことがあります。

何故 難しいのか?

原因は色々あるかと思いますけど、大きな理由の1つに用語が非常に難解だというところがあります。

確かに労務管理に出てくる用語は非常に難しいです。

そして 更に悪いことに、似たような紛らわしい用語が出てきます。

ですから、似たような紛らわしい用語のため、勘違いして意味を捉えてしまうケースが多々あります。

ということは、逆に言えば、用語をしっかり正しく理解すれば、労務管理を正しく行うことが可能となってくると言えます。

ここでは、何回かにわたって、紛らわしい間違いやすい用語を解説していきたいと思います。

今回は、法定労働時間と所定労働時間についてお話したいと思います。

労働時間は、労務管理において非常に重要なポイントとなってきますので、法定労働時間と所定労働時間が、それぞれ持つ意味を正しく理解することは非常に重要と言えます。

法定労働時間について

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法定労働時間は、労働基準法により使用者(使用者というのは、会社あるいは経営者と思っていただければ良いかと思います)、その使用者が労働者を働かせることができる上限時間のことを言います。

具体的には、1日8時間、1週40時間、これが上限とされています。

ですから 使用者は、労働者を1日8時間以上働かせることは法律上できない、というのが原則となります。

ただし 1週間の法定労働時間については、労働者数が常時10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業(介護事業所、医療機関等)、接客・娯楽業に関しては、44時間まで緩和措置が設けられています

ところで、法定労働時間は、使用者が労働者を働かせることができる上限時間ですが、「世の中 1日8時間以上働いている労働者たくさんいるじゃないですか?10時間、15時間働いている労働者もいますよね?」というような疑問を持たれるかと思います。

確かに現実的には、そのような労働者がいるのも事実です。

それは 何故かと言いますと、例えば、36協定(正式名称は、時間外労働及び休日労働に関する協定届)を管轄の労働基準監督署に提出することにより、法定労働時間を超えて労働させることが可能となります。

ただし ここで注意が必要なのは、あくまでも36協定という手続きを踏んで、初めて法定労働時間を超えて労働させることができるようになります。

また、変形労働時間制を用いることにより、法定労働時間を超えて労働させることが可能となります。

変形労働時間とはどのような制度かと言いますと、先程も言いましたように、法定労働時間は、1週間40時間と定められています。

もし 1日の勤務時間が8時間の場合、完全週休2日制が必要となります。

中小零細企業の場合、完全週休2日制が困難な場合も多々ありますので、そのような企業のために変形労働時間制と言いまして、一定期間を通じて平均して1週間の労働時間を40時間以内にするという制度が法律で定められています。

この変形労働時間制を適用することによって、特定の日あるいは特定の週に労働時間が、法定労働時間を超えたとしても法律違反にならなくなります。

ただし この変形労働時間制も、必要な書類を作成し、場合によっては、管轄の労働基準監督署に届出る必要があります。

つまり、36協定にしても、変形労働時間制にしても必要な手続きを取って初めて1日8時間 、1週40時間の法定労働時間を超えることができることとなります。

あくまでも、結果として可能となります。

従って、労働者が「私は稼ぎをたくさんにしたいから、1日10時間又は1週間50時間働いても大丈夫です。」というように、労働者が法定労働時間を超えて労働することに同意したとして、このような労働契約を結ぶことは、法律違反となります。

36協定 変形労働時間制によって、労働時間が、結果的に法定労働時間を超えることがあっても、最初から、法定労働時間を超える契約をすることは違法になりますので、注意が必要となります。

また、法定労働時間の重要なポイントとして、法定労働時間を超えて労働させた場合には、一定の割増率を付加した時間外割増賃金を支払う必要があります。

所定労働時間について

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次に所定労働時間についてご説明したいと思います。

まず、所定労働時間の「所定」という言葉ですが、これはどういう意味かと言いますと、「決められていること」という意味を持っています。

ですから、所定労働時間というのは、決められた時間、つまり労働者が働くべき時間のことを言います

ところで、会社によって始業時刻と終了時刻は、まちまちです。

午前8時に始まって、午後5時に終わる会社もあれば、午前9時に始まって午後5時に終わる会社もあります。

もし 休憩を1時間取るのであれば、午前8時から午後5時まで働けば、労働時間は8時間です。

しかし 午前9時から休憩1時間取って、午後5時に終わるのであれば、労働時間は7時間となります。

最初の会社に勤めている正社員であれば所定労働時間は8時間ですが、後の会社に勤めている正社員であれば所定労働時間は、7時間となります。

つまり、所定労働時間は、会社によって異なってきます。

さらに、同じ会社でも、正社員以外のパートタイマーやアルバイトで、1日6時間しか働かないあるいは1日3時間しか働かない労働者もいるかと思います。

1日6時間しか働かないパートタイマーの所定労働時間は6時間となりますが、1日3時間しか働かないアルバイトの所定労働時間は、3時間となります。

このように、所定労働時間は、同じ会社でも労働者の区分によって異なる場合もあります。

法定労働時間と所定労働時間の関係で1つ注意すべきポイントとして、所定労働時間は、必ず法定労働時間よりも同じか短くなっている必要があります。

法定労働時間を超えて労働させることはできないわけですから、本来働くべき時間、労働契約で決められた時間である所定労働時間が、法定労働時間より多くなるのは法律違反となってしまいます。

従って、必ず所定労働時間は、法定労働時間と同じかそれより少なくなっている必要があります。

ここは、所定労働時間と法定労働時間との関係を理解するには重要なポイントとなります。

ところで、所定労働時間の「所定」という言葉は、実は労務管理において非常によく使われます。

所定労働時間以外にも、例えば「所定労働日」というように使います

所定労働日とは、あらかじめ働くべき日で、パートタイマーで月曜日と木曜日が勤務の労働条件であれば、月曜日と水曜日がそのパートタイマーの所定労働日となります。

もう1つ 所定労働日数というような使い方もされます。

例えば、「1年間の所定労働日数」というような言い方をすれば、1年間に働くべき日数、それが230日であれば、「その従業員の1年間の所定労働日数は230日です。」

このような使い方をします。

「所定」という言葉は、労務管理において重要な単語となりますので、是非、覚えていただければと思います。

法定労働時間 所定労働時間と時間外割増賃金との関係について

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ここでは、法定労働時間、所定労働時間と時間外割増賃金との関係についてご説明します。

労働者に時間外労働をさせた場合には、時間外割増賃金が必要となる場合があります。

労働基準法では、労働者に法定労働時間を超えて労働させた場合には、最低でも2割5分増以上の割増賃金を支払わなければならないとされています。

ただし、割増賃金が必要となってくるのは、あくまでも法定労働時間を超えて労働させた場合です。

ここは、少し分かり難いと思いますので、事例でお話したいと思います。

AさんとBさんという従業員がいるとします。

Aさんは、所定労働時間が1日8時間 、時給1,000円。

Bさんは、所定労働時間が1日6時間、時給は同じ1,000円。

ある日、Aさん、Bさんも10時間労働した場合に、時間外割増賃金がどうなるか、計算してみたいと思います。

Aさんは、所定労働時間が8時間ですから、時間外労働は2時間となります。

所定労働時間が 8時間ということは、1日の法定労働時間の上限時間となりますので、10時間労働したということは、2時間 法定労働時間を超えた形となります。

割増率を2割5分とすると、時間外労働時間に対する賃金は、

2時間×1,000円×1.25=2,500円となります。

それに対してBさんは、1日の所定労働時間が6時間なので、1日の法定労働時間まであと2時間分余裕があります。

従って、時間外労働自体は4時間ですが、 この4時間の内2時間については、法定労働時間内となりますので、この2時間については、割増賃金は必要ありません。

一般的に法定内残業と呼ばれているものです。

従って、この2時間については、時給1,000円分だけ払えば良く、もう2時間分については、法定労働時間を超える形となりますので、割増賃金が必要となります。

従って、時間外労働4時間に対する賃金は、

2時間×1,000円+2時間×1,000円×1.25=4,250円

となります。

ところで、時間外労働と割増賃金との法的関係は、今はご説明した通りですが、就業規則や労働契約に所定労働時間を超えた場合には一定の割増賃金を払うというように規定してしまうと、法定内残業を含む所定労働時間を超えた全ての時間外労働に対して、割増賃金を支払わなければならない、という解釈となります。

このように規定を定めること自体は、法律より上回っている形となりますので、それは問題無いのですが、ただ 本来 法律上払わなくて良い手当を払う必要となります。

法律を上回る規定自体を定めることは、推奨されることですが、思わぬ負担となってしまう場合もありますので、就業規則や雇用契約書を作成する場合には、ご注意下さい。

まとめ

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今回は、法定労働時間と所定労働時間についてご説明させていただきました。

法定労働時間も所定労働時間も労務管理においては、頻繁に使われる用語です。

また、労働時間の正しい理解は、適正な労務管理を行うで重要なポイントの1つとなりますので、是非、今後のご参考になさって下さい。

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