シリーズ労働トラブル防止⑥ 自家用車の業務使用
今回は、自家用車の業務使用についてお話したいと思います。
労働者が、自身の自家用車を業務に使用することは、多くの会社で行われているかと思います。
しかし、自家用車を業務で使用することは、実は、大きなリスクが潜んでいるため、本来は慎重な対応を取るべきと言えます。
自家用車の自動車保険の契約者は、通常、労働者本人となります。
従って、手続き忘れや補償額の不足といったことが考えられます。
もし、このような状態で、万一労働者が、自家用車を業務に使用中に、事故を起こしてしまうと、会社は、多額な損害賠償金を支払わなければならなくなってしまうケースが考えられます。
労働者が、業務で自家用車を使用する場合には、車両規程の整備等、十分な対策を行う必要があります。
今回は 自家用車の業務使用におけるリスクとその対策について、分かりやすく解説していきたいと思います。
会社には使用者責任があります
ご存知かと思いますが、業務中に労働者が第三者に損害を与えた場合には、もちろんその労働者個人にも責任はありますが、会社にも使用者責任が発生します。
従って、労働者が業務中に自身の自家用車を運転している中に、交通事故を起こし第三者に損害を与えてしまった場合にも、たとえ労働者の自家用車であったとしても、当然に会社に使用者責任が生じます。
となると、交通事故の被害者は損害賠償の請求を、労働者ではなく会社に行うこともできます。
ところで、「自動車事故であれば 自動車保険から保険金が出るから、会社は責任を免れるのではないですか?」という疑問を持たれるかもしれないです。
確かに道義的な問題は別として、労働者個人が加入している自動車保険から保険金が支払われれば、会社はその賠償に対する責任を負うことはありません。
しかし、ここで注意が必要なのですが、業務で自家用車を使用する場合であっても、その自家用車の自動車保険の契約者は、労働者個人になります。
ですから、その労働者が、自動車保険の更新の手続きを忘れていたり、あるいは補償額が不足しているケースが、当然考えられます。
しかし、労働者が、交通事故を起こした場合で、たとえ自動車保険に加入していない状況であっても、会社は、その責任を負わなければいけないわけです。
万一不幸に死亡事故でも起こしてしまった場合には、損害賠償金は、億単位になってきます。
たとえ、労働者が、自動車保険の更新の手続きを忘れていたとしても、会社は億単位の損害賠償金を支払わなければならないのです。
つまり、労働者が、業務で自家用車を使用することは、非常にリスクが高いのです。
私は、個人的には安易な自家用車の業務使用は避けるべきと考えています。
しかし、費用等の問題で、なかなかそうも行かないのが実情かと思います。
ですから、もし自家用車を業務に使用するのであれば、会社が、自動車保険に積極的に関わるべきです。
会社が、積極的に自動車保険に関わることによって、更新の手続き忘れによる自動車保険への未加入状態や補償額の不足等を避けられるかと思います。
このような状態を避けることができれば、金銭的な損害は、極力抑えることができます。
しかし、自動車保険の契約者は、あくまでも労働者個人ですので、もし会社がその契約に関与するのであれば、根拠が必要となります。
それが、車両規程となります。
つまり、労働者が業務で自家用車を使用する場合には、その自動車保険に関しては補償を十分なものにする。
そして、更新忘れによる未加入状態を防ぐために、自動車保険の証券を必ず提出させる。
このようなことを規程に定めて、それを労働者に守るように徹底する、このようなことが必要となります。
このように車両規程を整備することによって、会社が被る損害を極力抑えることが可能となります。
ところで、このお話をよくセミナーでするのですが、「自動車保険が未加入の状態で、事故が起こる確率は低いのではないですか?」というような質問を受けたりします。
確かに、普通はそのように思われるかもしれません。
ところで、実は、私社会保険労務士の仕事を始める前、サラリーマンの時代に3年間位、保険代理店業務に従事していたことがあります。
勤務していた保険代理店は、結構大きな保険代理店でしたので、自動車保険の契約数が結構多かったです。
そのため、毎月一定数の自動車事故が発生して、かなりの数の事故処理にあたってきました。
その経験からして、実は、相手方が自動車保険に未加入というケースが意外に多かったのです。
ですから、私、経験上自動車保険に未加入というケースは、決して稀なものではないと思っています。
ですから、その経験から、自家用車の業務使用というものに対して危機感を持っていますので、セミナーや今回のブログ等で、自家用車の業務使用についての対策をお勧めしています。
会社は、経営を行っていく上で多くのリスクを抱える形となります。
確かに、その全てのリスクに対して対策を取るということは、不可能なのかもしれません。
実際、リスクが現実のものになったとしても、それが許容できる範囲のものであれば、それを受け入れるというのも1つの考え方なのかもしれません。
しかし、今回お話しているような、自動車保険に未加入の状態で交通事故が発生するケースは、稀かもしれません。
しかし、万一それが現実のものとなってしまったら、億単位の損害賠償金を支払わなければならなくなる可能性も考えられます。
中小零細企業で、いきなり億単位の損害賠償金を払ったら、会社が倒産する危機に見舞われる可能性も十分考えられます。
ですから、たとえリスクが現実化する確率は低くても、万一そのリスクが現実になってしまった場合に、会社が存続の危機に見舞われるものであれば、私は、対策を取るべきかと思います。
自家用車での通勤のリスク
ここでは、自家用車での通勤におけるリスクについてお話したいと思います。
地方では、自家用車での通勤は、ごくごく当たり前に行われています。
通勤は 業務ではありませんので、通勤途上で労働者が交通事故を起こしてしまって第三者に損害を与えた場合でも、基本的には、会社に責任はないと考えられます。
しかし、自家用車での通勤において、1つ盲点が考えられるのです。
例えば、労働者が会社から自宅に帰る途中に、取引先に寄って何か書類を届ける、あるいは朝出勤する途中に取引先に寄って何か商品を届ける、このようなケースはごくごく普通にあるかと思います。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、会社から取引先へ行く間、あるいは取引先から会社へ行く間は、たとえ通勤経路であったとしても、当然業務となります。
従って、万一この間で事故が起こって第三者に損害を与えた場合には、使用者責任が生じます。
つまり、通勤途上であったとしても、会社がリスクを負うという可能性が十分に考えられます。
さらに、先程、通勤途中の事故においては、会社の責任は基本的にはないと言いましたが、実際裁判では、取引先へ寄る等の業務中ではなく、純粋な通勤途上での事故であって第三者に損害を与えてしまった場合に、会社の責任を認める判決があります。
具体的には、会社が、駐車場を提供するなど、労働者の自家用車での通勤に積極的に関与していたとみなされる場合には、通勤途上の事故であっても、会社の責任を認めています。
ですから、労働者が自家用車で通勤する場合には、その自動車保険について、会社は、積極的に関与すべきと言えます。
ただし、それには、当然根拠が必要となってきます。
特に、通勤目的の車両に対してどこまで強制力を持たせることができるかは、議論の余地はありますが、ルールを定めれば、一定の強制力を持たせることは可能ですので、後は労働者にリスクに対する理解を求めことが重要と言えます。
労働トラブル防止の考え方
最後に、余談になりますが、労働トラブルを防ぐ上で大切なものは、もちろん、ノウハウやテクニックもありますが、1番大切なものは、当たり前のことを当たり前にやり続ける姿勢です。
実は、労働トラブル防止するテクニックやノウハウというのは、そんなに難しいものではありません。
大切なのは、それをやり続けることです。
実は、今回お話した自家用車の業務使用における対策も、それが当てはまります。
車両規程を整備するもちろん重要が、車両規程を整備しただけでは、実際には意味がありません。
重要なのは、毎回、毎回必ず自動車保険に加入した保険証券を労働者に提出させて、会社がそれを確認する、この行為が大切なので。
自動車保険の保険期間は、 通常1年あるいは長くても3年契約がほとんどです。
ですから、必ず保険証券を出させることは、労働者が多いと大変なことかもしれません。
しかし、必ずこれをやり続ける、実はここが重要なのです。
ところで、自動車保険には、満期があります。
できれば 会社が、その満期日を管理して満期日2ヶ月位前になったら「あなたは 2ヶ月後に自動車保険が満期を迎えるから、必ず更改の手続きして下さい」
と会社の方から注意喚起を促す、これくらいの姿勢が必要かと思います。
ところで、保険証券を提出させる、あるいは契約更新の注意喚起を行うこと自体は、決して難しいことではありませんが、やり続けることは大変ことです。
しかし、このようなことをやり続けることによって、今回お話しました、自家用車の業務使用における損害賠償のリスク、あるいは通勤における損害賠償のリスクを極力ゼロに抑えることができるのです。
まとめ
自家用車の業務使用における損害賠償のリスク、あるいは通勤における損害賠償のリスクを防ぐには、まず車両規程を整備し、会社が積極的に自動車保険に関与することが重要となります。
交通事故により会社に使用者責任が発生すると、賠償額が高額になる可能性があります。
もし、保険未加入あるいは補償額が不足していると、最悪会社が倒産してしまう可能性も否定できませんので、今回の内容ぜひ今後のご参考になさって下さい。