シリーズ労働トラブル防止⑩ 解雇トラブルを防ぐ

今回は、解雇についてお話したいと思います。

 

解雇は、労働者にとって、突然生活の糧を奪われてしまうため、深刻な労働トラブルに発展する可能性が非常に高いものです。

 

実際過去に多くの解雇をめぐっての裁判が起こされています。

 

ですから、経営者の方が、解雇に関して正しい知識を持つということは、非常に重要なこととなります。

 

間違った知識で安易に労働者を解雇してしまうと、大きな労働トラブルになってしまい、その解決には多大な労力と時間を失ってしまいます。

 

 

さらに、場合によっては、多額な損害賠償金を支払わなければならないケースも出てきます。

 

今回は、解雇トラブルを防ぐにはどうすればいいか?というところを話していきたいと思います。

 

ただ、解雇は非常に難解で複雑な事項がたくさんあるため、全てお話しするのは、なかなか難しいところがありますので、今回は、経営者の方に、解雇に関してここだけは知っておいていただきたいポイントを2つに絞ってお話していきたいと思います。

そもそも解雇とは?

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最初に、そもそも解雇とはどういうものなのかについて簡単にお話したいと思います。

 

解雇の前提に雇用というものがあります。

 

実は、多くの経営者の方が、雇用についてあまり意識されていないところがあります。

 

会社が、労働者を雇用するということは、実は労働者と会社との間で契約を結ぶことなのです。

 

契約ですから、当然権利と義務が発生します。

 

 

では、会社と労働者には、どのような権利と義務が発生するのでしょうか?

 

労働者側から見てお話したいと思います。

 

労働者の義務というのは、会社の指示に従って適正な労働力を提供することが、労働者の義務となります。

 

それに対して労働者の権利は、提供した労働力に対して対価、賃金つまり給料をもらう権利です。

 

会社が、労働者を雇用するということは、このような権利と義務関係に基づいた契約を締結するということとなります。

 

この契約を、一般的に雇用契約あるいは労働契約と言います。

 

そして、解雇というのは、この契約を会社側から解約する行為を言います。

 

 

多くの方が、労働者を解雇することは法律に反する行為と思われていますが、それは基本的には間違いとなります。

 

元々、契約ですから解約できないということはありません。

 

つまり、解雇というのは、労働契約の解約で、この行為自体は違法行為ではありません。

 

しかし、違法行為ではないから 何も問題が起こらないか?というと、実は、そうではありません。

 

ただ、その点につきましては、後で詳しくお話ししますので、まずここでは、解雇自体は、違法行為ではないというところを押さえておいていただければと思います。

 

解雇予告について

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先程ご説明したように、解雇は、会社側が一方的に行うことができ、違法行為ではありませんが、労働者にとっては、生活の糧を突然奪われてしまいます。

 

従って、解雇が、何の制限も無く自由に行われてしまうと、労働者にとって生活が不安定になり、また雇用の不安定にもつながるため、労働基準法では、一定の制限を設けています。

 

労働基準法第20条では、会社が、労働者を解雇する場合には、30日以上前に予告するか、即日解雇する場合には、平均賃金の30日分以上の支払いをしなければならないと定められています。

 

なぜ、このような法律が定められたかと言いますと、先程も言いましたように、解雇というのは、労働者の生活の糧が、突然奪われてしまいますので、会社が、労働者を解雇する場合には、30日以上前に予告するか平均賃金の30日分以上の支払いを定めることにより、会社に、労働者の1ヶ月間の生活の保障を確保させるためです。

 

なお、平均賃金につきましては、労働基準法で決められた計算方法がありますが、ここでの説明は割愛させていただきます。

 

平均賃金につきましてはこちらのブログをご参照下さい。

 

平均賃金の原則的な計算方法

 

 

ところで、今ご説明しましたように、労基準法第20条では、労働者を解雇する場合には、30日以上前に予告するか平均賃金の30日分以上の支払いをしなければいけないと規定しています。

 

ここが今回のポイントの1つ目なのですが、実はこの法律の意義を誤解される経営者の方が、非常に多いのです。

 

この労働基準法第20条の規定は、いわば労働者を解雇する際の手続きの規定となります。

 

つまり、この規定を基に「労働基準法に則って、正しく手続きをすれば、労働者を解雇しても何の問題もない。自由に労働者を解雇できる。」と思われるしまう経営者の方が多いのです。

 

実は、これは間違えとなります。

 

 

確かに労働基準法の観点からすれば、それは正しと言えますが、実際に労働者を解雇した後に、労働者が訴えを起こし、解雇に関する裁判にまで発展してしまうケースが非常に多いのです。

 

よく不当解雇裁判という言葉を耳にされると思います。

 

これはどういうことかと言いますと、労働者を解雇する場合に、当然それなりの理由があります。

 

労働者が、その理由で解雇されたことに納得できなかった場合には、解雇の取り消しを訴え裁判を起こすこととなります。

 

裁判でその解雇理由について、妥当性、正当性の有無を争うこととなります。

 

 

そして、裁判の結果、確かに労働者に問題もあったかもしれないけど、ただそれでも解雇するのは厳しすぎるという判断がされる場合があります。

 

つまり、解雇した行為が否認されてしまうわけです。

 

もし裁判で解雇が不当と判断されてしまえば、どのようなことになるかというと、解雇が無効になるわけですから、労働者は、そのままその会社で働くことができるようになります。

 

 

しかし、一度解雇させられた会社で続けて働きたいと思う労働者も少ないですので、多くの場合は、金銭的な解決を図る形となります。

 

会社が、労働者に損害賠償金を支払って、その解雇裁判を終えるという形となります。

 

なお、損害賠償金の金額は、ケースバイケースによって一概には言えないのですが、経営者の方が、想像している以上に高額となりますので、ここは是非覚えておいていただきたいと思います。

 

 

労働基準法第20の規定は、あくまでも解雇を行う時の手続きに関する規定です。

 

確かに、この手続きを行わなければ、労働基準法違反となってしまいますが、逆に正しく手続きをしたからといって、労働者に不当解雇と訴えられ、裁判で不当解雇と判断される場合もあります。

 

さらに、労働基準法第20条の規定通りに、30日以上前に予告するか、あるいは即日解雇する場合は、平均賃金の30日分以上の支払いをしたからといって、その行為自体が、解雇裁判に影響を与えることはありません。

 

ですから、ここで是非覚えておいていただきたいのが、労働者を解雇する場合、30日以上前に予告する、あるいは平均賃金の30日分以上の支払いさえすれば、自由に労働者を解雇でき、何の問題もないという考えは、誤った考えとなります。

 

能力不足や問題行動の多い労働者の解雇

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では、次に解雇トラブルを防ぐために、是非知っておいていただきたいポイントの2つ目をお話したいと思います

 

多くの経営者の方が、頭を抱える問題として、能力不足や問題行動の多い労働者の解雇があるかと思います。

 

実際、私も能力不足や問題行動の多い労働者の解雇について相談を受けることが多々あります。

 

ここでは、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合の注意点についてご説明したいと思います。

 

 

ただし、その前に1つご了解いただきたいことがあります。

 

ご存知の通り、我が国では非常に労働者保護の風潮が強いと言えます。

 

そのため、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇した場合に限らず、労働者を解雇した場合において、裁判になった場合には、会社側の主張が、認められることが非常に少なく、多くの裁判では、会社側にとって厳しい判決が出ています。

 

ですから、今回お話しすることは、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合に、重要なことなのですが、これからお話することを実行していただければ、裁判で間違いなく会社側の主張が認められるか?と言えば、必ずしもそうではありません。

 

正直言って、 今回お話することを実行したからといって、解雇が認められる可能性は、決して高くないと思います。

 

しかし、逆に言えば、これからお話することをやらなければ、裁判で争うことすらできなくなってしまう、このようにも言えます。

 

ですから、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合には、少なくともこれからお話することは、実行していただければと思います。

 

 

では、具体的に能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合の注意点についてご説明したいと思います。

 

能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合の注意点は、多くの解雇裁判の判例を基に考えると、私は2つあると考えています。

 

解雇裁判において、客観的証拠と改善の機会、この2つが非常に重要視されます。

 

客観的証拠と改善の機会とは、どういうことなのか?それぞれご説明していきたいと思います。

 

まず、客観的証拠についてですが、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合には、当然、何らかの能力不足や問題行動に該当する行為が存在するわけです。

 

ここで重要となってくるのが、能力不足に該当する行為、例えば、誰でも出来るような業務を続けてミスをしたり、また問題となる行動を起こした場合、例えば、繰り返し遅刻したり、会社の風紀を乱す行動を度々起こしたりした場合には、その事実を記録しおくことです。

 

裁判になった場合に、客観的な証拠の有無です。

 

何月何日にこういうことが起こって、その結果こういう問題が起きた。

 

このようなことを細かく記録をしておくことが、非常に重要となるのです。

 

 

能力不足や問題の労働者の問題で、経営者の方から相談を受けることが多いですが、実際に相談を受ける場合、多くの経営者の方が、「あの労働者はこうで、こういうことがあった。それでこんなに困った。」ということを、30分くらいとうとうと話されます。

 

本当に熱心にお話されます。

 

しかし、最後まで聞いて、「では、それを証明する証拠や記録はありますか?」と聞くと、ほとんどの経営者の方は、「いや証拠も記録もありません。」と言います。

 

 

私も経営者の方が言っていることを、決して嘘とは思わないのですが、裁判になった場合には、口頭だけの証拠というのは、どうしても信憑性に乏しくなります。

 

そのため、解雇裁判において客観的な証拠がなければ、まず会社側の主張が認められることはないと言えます。

 

ですから、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合には、客観的証拠や事実の記録を残しておく、ここを日頃からやっておくことが重要なポイントとなります。

 

 

そして、もう1つのポイントが、改善の機会です。

 

ここはどういうことかと言いますと、我が国では労働者保護の風潮が強いため、会社が、どれだけ労働者の雇用を維持することに努力をしたかが、重要視されます。

 

つまり、会社としては、これだけ労働者が直るための機会を与えてきたけど、それでも直らなかった、だから、解雇せざるを得なかったという形になって、 初めて裁判で争うことができる、このように形となると思っていただければ結構です。

 

 

では、改善の機会というのは、具体的にどのようなことかと言いますと、ひとつの考え方として段階的な懲戒処分が挙げられます。

 

通常、懲戒処分としては、始末書の提出、減給、降格、出勤停止、このようなものが考えられます。

 

ですから、能力不足と言える事実が発生した場合や何らかの問題行動を起こした場合には、まず始末書を書かせてそして改善させる。

 

それでも駄目だったら減給をして、改善の機会を与える。

 

それでも直らなければ、降格や出勤停止を行って、「今度こそは、心を入れ替えて真面目に業務に取り組んで下さい。」とその都度、改善の機会を与えます。

 

それでも直らなかったら、最後はやむを得ず解雇せざる得ない形となります。

 

つまり、解雇にいたるまでの間に、会社は、労働者にどれだけ改善の機会を与えたかが、裁判では重要視されます。

 

また、このように可能な限り改善の機会を与えるということは、それだけ客観的な証拠も積み重なってくることとなります。

 

 

労働者を解雇する場合に、労働者が、重大な悪質な事件を起こせば、その事件1つをもって解雇できる場合もありますが、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する場合には、問題の1つで解雇が認められるケースはまずありません。

 

ですから、客観的な証拠と改善の機会の積み重ねが重要となってくるのです。

 

 

能力不足や問題行動の多い労働者の問題が生じた場合に、経営者の方は、その労働者に対して、1回くらいは注意しますが結局 その後はそのまま放っておくケースが圧倒的に多いと言えます。

 

そして、いざ本当に解雇せざる得ないくらいまでの状況になった時に、何の証拠もないし、

 

改善の機会も与えていない状況にとなってしまうのです。

 

それでも、労働者を解雇してしまえば、労働者が不当解雇と訴えてくれば、ほぼ裁判で負けてしまうこととなってしまいます。

 

 

先程も言いましたように、客観的な証拠や改善の機会を与えたからと言って、必ず解雇が認められるというわけではありません。

 

しかし、これらがなければそもそも裁判の土俵にすら上ることができないと言えます。

 

ですから、能力不足や問題行動の多い労働者を解雇するには、このようなプロセスを踏まなければいけないというところを、是非ご理解していただければと思います。

 

 

なお、このような考え方は、試用期間中の労働者を解雇する場合も同じです

 

試用期間だからといって、試用期間ということを理由に解雇ができるわけではありません。

 

当然、試用期間において解雇する場合にも、客観的証拠や改善の機会の考え方が必要となってきますので、この点も是非覚えておいていただければと思います。

 

就業規則の重要性

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最後に就業規則との関係についてお話ししたいと思います。

 

労働者を解雇する場合に、就業規則の重要性が挙げられます。

 

現在の解雇裁判では、労働者を解雇する場合には、その根拠の存在を非常に重要視します。

 

つまり、労働者を解雇するのであれば、その根拠となる規定、いわゆる解雇規定がまずあるべきという考え方です。

 

 

解雇規定は、通常は就業規則の中に定めます。

 

ですから、労働者を解雇する場合には、就業規則が必要不可欠となってきます。

 

もしこのブログをお読みのあなた様の会社で、現在就業規則がないのであれば、万一能力不足や問題行動の多い労働者を解雇する事態が発生した場合には、非常に不利な形となってきますので、ご注意いただければと思います。

 

まとめ

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冒頭にも書きましたが、解雇をめぐっての数多くの裁判が起こされています。

 

間違った知識で安易に労働者を解雇してしまうと、大きな労働トラブルになってしまい、その解決には多大な労力と時間を失ってしまいます。

 

さらに、場合によっては、多額な損害賠償金を支払わなければならないケースも出てきます。

 

ですから、経営者の方が、解雇に関して正しい知識を持つということは、非常に重要なこととなります。

 

今回ご説明した内容は、解雇トラブルを防ぐうえでは、重要なポイントばかりです。

 

是非、今後のご参考になさっていただければと思います。

 

 

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