会社設立したら直ぐに社会保険への加入手続きが必要?
会社設立時に、多くの経営者が悩む問題に保険制度の加入があります。
社員であった時代には各保険制度に関しては、あまり関心を持っていないケースが多いため、会社を設立していきなり保険加入の問題に直面すると戸惑ってしまうと経営者が非常に多いと言えます。
各保険制度に正しく加入することは、適正な労務管理を行うにためには、非常に重要なことです。
本ブログでは、会社を設立した時の社会保険の加入についてわかりやすく解説してありますので、社会保険の概要と会社を設立した場合の保険加入の手続きの流れについてご理解できると思います。
そもそも社会保険とは?
経営者の方にとって、各保険制度が複雑で難しく感じる理由の1つに用語の曖昧さがあると思います。
特に「社会保険」という用語は、経営者の方にとって最も分かり難い用語ではないかと思います。
ただ、逆に言えば、社会保険やその他の用語を正しく理解できれば、各保険制度の全体像を掴みやすくなると言えますので、まず、ここでは「社会保険」という用語について解説したいと思います。
実は、社会保険は、狭義の意味で使われる場合と広義の意味で使われる場合があります。
一般的に労務管理における保険制度は、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の4つです。(なお、ここでは、介護保険は健康保険に含むものとして考えてきます。)
社会保険が狭義の意味で使われる場合には、健康保険と厚生年金保険の総称として使われます。
ちなみに、労災保険と雇用保険の総称は、労働保険と言います。
つまり、社会保険や労働保険という個別の保険制度があるわけではないのです。
それに対して、社会保険が広義の意味で使われる場合には、社会保障全体と言う観点から健康保険、厚生年金保険に加えて労災保険、雇用保険等を含めた全ての保険制度を総称して使われます。
なお、本ブログでは、会社を設立した場合に、狭義の意味での社会保険(健康保険と厚生年金保険)への加入についてご説明していきます。
会社設立の形態について
ここでは、会社設立について少し触れたいと思います。
会社設立と言えば、一般的には〇〇株式会社を設立した、というイメージを持たれるかもしれませんが、会社設立を広い意味で起業として考えれば、個人事業主で起業する場合も、会社設立の1つと言えます。
また、会社いわゆる法人も株式会社以外にも合同会社、合資会社、NPO法人等様々な形態があります。
何故、ここでこのような事を言うかといいますと、社会保険においては、個人事業主の場合と法人とで加入の条件が違うためです。
ここでは、会社設立の形態が、個人事業主と法人とに区分されることをご理解下さい。
では、個人事業主と法人の社会保険の加入条件についてそれぞれご説明していきたいと思います。
個人事業主の社会保険加入について
個人事業主の場合、雇用している労働者数が5人未満の場合には、社会保険への加入義務はありません。
ですから、例えば、雇用している労働者数が2名の個人事業主の事業所は、社会保険に加入していなくても法律的に問題ありません。
個人事業主で社会保険への加入義務が生じてくるのは、雇用している労働者数が5人以上になった場合です。
加入義務が生じる事業所を強制適用事業所と言います。
なお、労働者数ですが、これは単純に5人ではなく、あくまで社会保険に加入すべき労働者の数です。(労働者の加入条件につきましては後述します。)
ですから、個人事業主で雇用している労働者の数は10名であっても、加入条件を満たしている労働者の数が3名でしたら、加入義務は生じないこととなります。
ところで、個人事業主の場合で、社会保険への加入義務を満たしている労働者を5名以上雇用していても、全ての場合で加入義務が生じるわけではありません。
つまり、社会保険への加入義務を満たしている労働者を5名以上しても、事業の種類によっては社会保険の加入を義務付けていないのです。
具体的には以下の事業とされています。
①農業、牧畜業、水産養殖業、漁業
②サービス業(ホテル、旅館、理容、娯楽、スポーツ、保養施設などのレジャー産業)、
③法務(弁護士、会計士、税理士、社会保険労務士等)、
④宗教(神社、寺院、教会等)
従って、例えば、個人経営の旅館の場合には、労働者の数が何人になっても、社会保険への加入義務は生じないこととなります。
ただし、これは、あくまで個人事業主の場合であって、次にご説明する法人の場合には、逆に労働者を雇用していなくても加入義務が生じますので、ご注意下さい。
なお、個人事業主の場合には、社会保険に加入できるのは、労働者のみで個人事業主本人は、社会保険に加入することは出来ません。
また、加入義務が無い事業所であっても、社会保険への加入を労働者の半分以上が同意した場合には、任意で社会保険へ加入することができます。
このような事業所を、任意適用事業所と呼びます。
なお、任意適用事業所の手続き等につきましては、本ブログでは説明を割愛させていただきますので、詳しくお知りになりたい場合には、こちらをご参照下さい。
>>任意適用申請の手続き(日本年金機構)
法人の場合の社会保険の加入について
法人の場合には、労働者数、事業の種類に関係なく、原則全て強制加入となります。
従って、先程ご紹介した加入義務が生じない事業の種類であっても、法人で会社設立した場合には、労働者の人数に関係なく社会保険への加入義務が生じます。
法人の場合には、労働者を雇用せずに、代表者のみの場合でも、代表者が報酬を得ていれば加入義務が生じることとなります。
ちなみに、労災保険と雇用保険の場合には、労働者を雇用していなければ加入義務は生じませんが、社会保険の場合、法人の場合には、労働者に有無にかかわらず、原則、加入義務が生じることとなりますので、この点は是非正しくご理解下さい。
労働者の加入条件について
ここでは、労働者の加入条件についてご説明したいと思います。
社会保険では、社会保険に加入するにあたって労働時間と労働日数において一定の基準を定めています。
従って、雇用している全ての労働者を社会保険に加入させる必要はなく、あくまで労働時間と労働日数においての基準を満たしている労働者のみを加入させればよいこととなります。
ただし、法人の代表者や役員は、労働時間や労働日数に関わらず、報酬を得ている場合には加入義務が生じます。
なお、社会保険に加入している者を、法律用語で被保険者と言います。
では、社会保険の加入条件について具体的にお話したいと思います。
なお、社会保険では、基本的な加入条件による被保険者(加入者)数、が一定以上となると加入の範囲が広がるような仕組みとなっているため、最初に基本的な加入条件についてご説明したいと思います。
基本的な加入条件について
社会保険の基本的な加入条件は、まず、いわゆる正社員と呼ばれ、その事業所で始業時刻から終業時刻までフルタイムで労働する労働者は無条件で加入義務が生じます。
問題となってくるのが、正社員より労働時間や労働日数が少ない、正社員以外のパートタイマーやアルバイト等の加入です。
実は、パートタイマーやアルバイト等の社会保険の加入については、法律で基準が定められています。
具体的には、正社員の1日の労働時間と1か月の労働日数のそれぞれ4分の3を超える超える場合には、社会保険への加入義務が生じます。
少し分かり難いかと思いますので、具体例でご説明したいと思います。
仮に正社員の1日の労働時間を8時間、1ヶ月の労働日数を20日とすると、それぞれの4分の3は、6時間と15日となります。
ここで注意していただきたいのが、社会保険への加入義務が生じるのは、それぞれ4分の3を超える場合ですので、どちらか一方だけ超えていても加入義務は生じないこととなります。
例えば、1日7時間、1ヶ月18日間働くパートタイマーは、社会保険への加入義務が生じますが、1日の労働時間は正社員と同じ8時間ですが、1ヶ月の労働日数が13日の場合には、加入義務は生じないこととなります。
また、1ヶ月の労働日数は20日だけど、1日の労働時間が5時間の場合にも加入義務は生じないこととなります。
このように、社会保険への加入は、1日の労働時間と1ヶ月の労働日数によって判断されます。
そして、社会保険の被保険者(加入者)の数が、常時501人以上となると、加入条件の範囲が広がります。
では、次に、被保険者数が、常時501人以上の場合の加入条件についてご説明したいと思います。
被保険者が501人以上場合の加入条件
先程ご説明した基本的に加入条件により、社会保険の被保険者(加入者)の数が、常時501人以上となった場合には、以下の全ての条件を満たす労働者も社会保険への加入義務が生じます。
① 1週間の所定労働時間が 20 時間以上
② 1年以上の雇用期間が見込まれること
③ 給与月額が 8.8 万円以上
④ 学生でないこと
ただし、加入義務が生じるのは、①から④までの全ての条件を満たしている場合ですので、1つでも条件を満たさなければ、加入義務は生じないこととなります。
なお、被保険者(加入者)の数が、常時500人以下の会社でも、労使で合意(労働者の2分の1以上と会社が社会保険に加入することについて合意すること)がなされれば、上記条件を満たせば社会保険に加入することができます。
「106万円の壁」の誤解
ところで、社会保険への加入拡大が法律化された時に、「106万円の壁」という言葉が使われるようになりました。(なお、106万円の根拠は、8.8万円×12ヶ月=105.6万円です。)
以前から、「103万円の壁」「130万円の壁」といった言葉もあります。
要は、それぞれの金額を超えて働くと、税金が高くなったり、健康保険の扶養から外れなければならなくなったりで、かえって損をしてしまう、という意味合いで使われています。
この「106万円の壁」も、年収が106万円を超えれば、社会保険に加入しなければならなくなり、保険料が発生してしまい、かえって手取り収入が減ってしまうので、106万円を超えない範囲で働く人が増える、という意味でつかわれるようになったかと思います。
しかし、実は、これは正確でありません。
被保険者(加入者)が、常時501名以上の会社で、社会保険の加入義務が生じる場合は、先程、ご紹介した①から④までの条件を全て満たす場合です。
例えば、1週間の所定労働時間が15時間の労働者でも、時給額が2,000円としたら、月額給与額は、1ヶ月の週数を、4.2週として考えると、2,000円×15時×4.2週=12.6万円となり、月額8.8万円を超えます。
しかし、この労働者は、1週間の所定労働時間が 20 時間以上という条件を満たしていないために、社会保険の加入義務は生じません。
このように、106万円については、数字が独り歩きしている感がありますのでご注意下さい。
社会保険の加入手続きについて
ここでは、事業所として新規に社会保険に加入する手続きについてご説明したいと思います。
① 社会保険に加入する場合には、健康保険・厚生年金保険新規適用届(記入例)を作成します。
添付書類としては、以下の書類が必要となります。
法人の場合には、
・(商業)登記簿謄本 ※1
・法人番号指定通知書等の写し ※2
個人事業主場合には、
・事業主の世帯全員の住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)※1
※1 法人事業所の所在地が登記簿謄本の所在地と異なる場合、個人事業主の所在地が住民票の住所と異なる場合は、賃貸借契約書の写し等、当該所在地で事業が行われていることを確認できる書類を併せて提出する必要があります。
※2法人番号指定通知書の写しを添付できない場合は、国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報の画面を印刷しての添付でも可能です。
② 次に社会保険へ加入する労働者の書類を作成します。
健康保険・厚生年金保険被保険者取得届/厚生年金保険70歳以上被用者該当届
記入例はこちらをご覧下さい。
③ 配偶者、子供等を被扶養者にする場合には、以下の書類を添付します。
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
記入例はこちらをご覧下さい。
なお、健康保険の扶養家族に認定条件等につきましてはこちらをご参照下さい。
>>従業員が家族を扶養にするときの手続き(全国健康保険協会HP)
④ 上記提出書類を事業所を管轄する日本年金機構へ提出します。
なお、管轄の日本年金機構はこちらをご参照下さい。
>>全国の相談・手続き窓口(日本年金機構HP)
試用期間中等、被保険者(加入者)についての注意点
「うちの会社では、社会保険への加入は3ヶ月間の試用期間が終わってからにしています。」
「当社では、社会保険への加入は、準社員以上からとなっています。」
というようなことを時折耳にします。
しかし、これまでお話ししてきましたように、社会保険への加入の有無は、通常の労働者については、労働者の区分や身分、名称、役職等で判断されるのではなく、あくまで1日の労働時間と1ヶ月の労働日数で判断されます。
従って、試用期間中であっても、またパートタイマー、アルバイトといった労働者であっても、加入基準を満たしている場合には、社会保険への加入義務が生じますので、この点は、是非、正しくご理解下さい。
被保険者(加入者)とならない労働者について
社会保険では、今回ご説明した1ヶ月の労働日数と1日の労働時間が、加入基準を満たしていても、そもそも被保険者(加入者)にはならない者を定めています。
ここでは、主な被保険者(加入者)にならない者についてご説明したいと思います。
日々雇い入れられる者
日々雇い入れられる者、いわゆる日雇労働者は、被保険者(加入者)とはなりません。
しかし、日々雇い入れられる者であっても、1ヶ月を超えて引き続き雇用される場合には、その日から社会保険の加入が必要となります。
例えば、日々雇い入れられる者を4月1日から4月30日までの雇用でしたら、社会保険への加入は必要ありませんが、5月1日以降も引き続き雇用する場合には、5月1日より社会保険への加入が必要となります。
2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
雇用契約の期間が、2ヶ月以内の者は、社会保険の被保険者(加入者)とはなりません。
ですから、例えば、雇用契約が4月1日から6月30日までの2ヶ月間の労働者は、たとえ、1ヶ月の労働日数と1日の労働時間が加入基準以上であっても、社会保険に加入することはできません。
しかし、2ヶ月を超えて引き続き雇用される場合には、その日から社会保険への加入が必要となります。
上記の例で言えば、7月1日以降も引き続き雇用される場合には、7月1日より社会保険の加入が必要となります。
季節的業務に雇用される者
季節的業務に雇用される者は、たとえ、1ヶ月の労働日数と1日の労働時間が加入基準以上であっても、社会保険の被保険者(加入者)とはなりません。
ただし、季節的業務であっても当初から4ヶ月を超えて雇用が予定されている場合には、当初(雇用日)から社会保険への加入が必要となります。
なお、季節的業務には、清酒・ぶどう酒の醸造、製茶、製氷の業務などがあります。
臨時的事業の事業所に雇用される者
臨時的事業の事業所に雇用される者は、たとえ、1ヶ月の労働日数と1日の労働時間が加入基準以上であっても、社会保険の被保険者(加入者)とはなりません。
ただし、臨時的事業であっても当初から6ヶ月を超えて雇用が予定されている場合には、当初(雇用日)から社会保険への加入が必要となります。
なお、臨時的事業とは、博覧会やイベント等のように臨時的に開催される事業をいいます。
事業所の所在地が一定しない事業に雇用される者
巡回興行のように、事業所の所在地が一定しない事業に雇用される場合、どんなに長期間にわたって雇用されても、被保険者(加入者)にはなりません。
70歳以上の者、75歳以上の者
厚生年金保険の加入年齢の上限が70歳となっているため、70歳以上は健康保険のみの加入となります。
また、75歳以上の者は、後期高齢者医療制度への加入となるため、健康保険への加入はできないこととなります。
まとめ
今回は、会社設立した場合の社会保険への加入についてご説明してきました。
今回の内容をまとめますと、社会保険への加入は、法人か個人事業主かによって条件が異なり、被保険者(加入者)の人数が、常時501人以上となると、加入の範囲が広がります。
また、個々の労働者の加入は、1日の労働時間と1ヶ月の労働日数によって判断されますので、試用期間中であったとしても、またパートタイマーアルバイトとであっても加入条件を満たしている場合には、社会保険への加入義務が生じることとなります。
ところで、昨今、ブラック企業という言葉が頻繁に使われますが、労働者が、ブラック企業か否かを判断する要素に社会保険への加入があると聞いていいます。
事業経営を発展させていくためには、有益な人材の確保は必要不可欠です。
そのためには、適正な労務管理が、非常に重要な役割を果たします。
社会保険だけでなく労災保険、雇用保険への正しい加入は、適正な労務管理の一丁目一番地と言えますので、是非、今後のご参考になさって下さい。
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