労務管理用語シリーズ⑩ 休憩時間と手待ち時間
今回は、休憩時間と手待ち時間についてお話したいと思います。
手待ち時間に関しては、多くの経営者の方が誤った認識を持たれていて、実際は手待ち時間なのに休憩時間として取り扱うケースが多々見られます。
しかし、この手待ち時間について誤った認識を持ったまま運用してしまうと、労働基準法の違反状態になってしまい、大きな労働トラブルに発展する可能性があります。
ですから、手待ち時間について正しく理解して正しい運用を行っていく必要があります。
労働時間とは
休憩時間と手待ち時間を正しく理解するには、その前提として労働時間について、正しく理解する必要がありますので、まず最初に、労働時間についての定義を考えてみたいと思います。
法律的に労働時間とは、労働者が使用者(会社、経営者)の指揮命令下に置かれている時間を労働時間と言います。
ここで重要なポイントとなるのが、「指揮命令下」という言葉です。
通常、労働者は、会社等に出勤をして上司の指揮命令に従って働くこととなります。
ですから、この「指揮命令下」は、通常の状態を考えれば、すぐイメージはできるかと思います。
しかし、ここで注意が必要なのが、法律で言う「指揮命令下」は、直接的な指揮命令下だけではなくて、直接指示命令が行われなくても、実態が指揮命令下と同じ状態であれば、労働時間とみなされます。
例えば、時間外労働を削減するために、「ノー残業デー」といった制度を設ける会社も結構あるかと思います。
ノー残業デーですから、労働者は、その日は残業しないで退社するわけです。
しかし、実際は、労働者が自宅で仕事をしているケースというのをよく耳にします。
会社としては、「仕事をしないで帰りなさい」と言っているわけであって、労働者が自宅で仕事をするというのは、会社の指示命令でなくて、労働者が自発的にやっている、というように会社としては考えたいところです。
実際、その労働者は 形は自発的に仕事をしているために、使用者の指揮命令下に入っていないように見えるかもしれません。
しかし、指揮命令下というのは、直接的な指揮命令だけでなく、間接的あるいは暗黙的な指揮命令も含むとされています。
ノー残業ディに、自宅で仕事をするということは、通常は自宅で仕事をしなければ業務に支障が出ると考えられます。
つまり、仕事をせざる得ない状況に置かれていると言えます。
そのようなケースは、指揮命令下に置かれている時間と考えられるのです。
ですから、労働時間というのは、指揮命令下に置かれている時間を言いますが、その指揮命令下というのは、直接的な指揮命令だけではなく、間接的、暗黙的指揮命令を含みます。
まずここを押さえていただきたいと思います。
休憩時間とは
それに対して休憩時間は、労働者が権利として労働から離れることが保障された時間とされています。
労働時間は、先程も言いましたように、使用者の指揮命令下に置かれている状態ですから、使用者の指揮命令下から離れて自由に利用することができる時間のことを言います。
ですから、休憩時間は、基本的に労働者が何をしても良い時間とされていて、自由に利用することができます。
ただし、完全な自由利用を認めてしまうと業務に支障が出る場合が考えられます。
例えば、自由だからといって、労働者が昼休みにパチンコ店や風俗店に行ってしまって、それを見た取引先の人が、労働者だけでなく会社に対しても悪い印象を持ってしまい業務に支障が出てしまうケースも考えられます。
ですから、休憩時間に自由利用を阻害しない程度であれば、一定の制限を設けることは可能と考えられますが、あくまでも原則は自由利用となります。
休憩時間は、労働から離れることが保障された時間、自由に使える時間ということを押さえておいていただきたいと思います。
手待ち時間について
では、労働時間と休憩時間の概念を基に手待ち時間について考えてみたいと思います。
手待ち時間というのは、例えば、運送業の積荷待ち時間が代表的なものとして挙げられます。
具体的には、例えば、午後3時に工場に部品を積みにドライバーが向かったとします。
しかし、予定より早く着いてしまった場合、通常ドライバーは車の中で待つこととなります。
このようなものを積荷待ち時間と言います
また、昼休憩の電話当番もよくあるケースです。
昼休憩の間でも、取引先等から電話がかかってくることは、当然あります。
ですから、交替制で電話当番をするケースが考えられます。
このような時間も、手待ち時間と言えます。
では、手待ち時間が、労働時間なのか?休憩時間なのか?ということですが、例えば、運送業の積荷待ち時間ですが、午後3時の約束だったけど、予定より早く午後2時30分に着いた場合には、先程お話したように、ドライバーは、通常はトラックの中で待っています。
労働者は、トラックの中で待っている間は、飲み物を飲んだり、スマホを見たり、通常は特段労働をしていません。
ですから、このような時間は、休憩時間と思われるかもしれません。
しかし、通常、その労働者は、「約束は午後3時だけどそれより前に積荷をすることが出来るような状態になるかもしれない。」と思うかと思います。
また、工場の方からしても準備ができたら早く荷物を積んで、出発してもらいたいと思うので、その労働者は、トラックの中から離れることができないこととなります。
もし、トラックの中から離れることができないのであれば、自由利用が保障されていないわけですから、休憩時間とは言えないこととなります。
つまり、トラックの中から離れることができない状態は、使用者の指揮命令下に入っていることとなります。
また、同じように昼休憩の電話当番も、いつ電話がかかってくるかわからないわけですから、その場所から離れることができません。
ですから、電話が全くかかってこなかったとして、昼休憩の間、全く労働せずに、休憩を取った形となっても、自由利用が保障されていなかったわけですから、休憩時間とは見なされないわけです。
労働から離れることが保障されていないわけです。
つまり、使用者の指揮命令下にあったと解されることとなります。
ですから 休憩時間にはならないわけです
つまり、自由利用が保障されていないのであれば、実際に労働していなくても、手待ち時間は、労働時間となるわけです。
ですから、手待ち時間を休憩時間として取り扱ってしまうと、労働基準法の違反となってしまうケースが考えられますので、手待ち時間の取り扱いには十分注意する必要があります。
手待ち時間と労働基準法違反
ここでは、実際に 手待ち時間を誤って運用してしまった場合にどのような問題が起こるか?について事例で考えてみたいと思います。
従業員を交代制で昼休憩に電話当番をさせていたケースで考えてみたいと思います。
始業時刻が午前8時で、終了時刻が午後5時とします。
本来の昼休憩が、午後12時から午後1時までの1時間とした場合に、ある従業員が電話当番になりました。
電話当番の時間は、休憩時間とはならないわけですから、昼休憩の時間であっても、電話当番をしている時間は、労働時間となります。
ここでまず何が考えられるかと言うと、電話当番をしていた時間は、労働時間ですから、当然に賃金が発生します。
しかし、経営者の方が、電話当番の時間を休憩時間と考えていて、本来の給料しか払わないのであれば、賃金未払いが発生することとなります。
さらに、本来休憩時間であった時間が労働時間となると、午前8時から午後5時まで、トータルで9時間労働したこととなり、1日の法定労働時間である8時間を1時間超えています。
ですから、1時間分については、割増賃金の支払も必要となってきます。
このように電話当番の時間を休憩時間として扱ってしまうと、賃金の未払いが発生してしまうこととなり、明らかな労働基準違反となってしまいます。
まずこの点をご理解いただきたいと思います。
ところで、このようなお話をある経営者の方にしたら、こんな質問を以前受けたことがあります。
「うちの会社は人手不足で、どうしてもお昼の休憩時間に電話当番が欲しいから、もし従業員に電話当番をさせるのであれば、その分の割増賃金を払えば良いのですね?」
しかし、それは駄目なのです。
実は、たとえ割増賃金を支払っても、もう1つ重要な問題があるのです。
労働基準法では、労働者に6時間超えて労働させた場合には、少なくとも45分間、8時間を超えて労働させた場合には、少なくとも1時間の休憩を与えなければいけない、とされているのです。
実は、法律には、「休憩時間に対して賃金を払ったら、休憩を与えなくても良い」とは書かれていないのです。
つまり、法律では、休憩はどんな場合でも 必ず与えなければいけないとされているのです。
ですから、賃金を払ったから休憩を与えなくても良いということにはならないのです。
もし、必要な休憩時間を与えなかったら、これも労働基準法違反となります。
さらに、休憩時間というのは、労働時間の間に取らせなければいけないという規定も法律で定められています。
ですから、もしお昼休憩の時間に電話当番をさせたのであれば、必ず勤務時間の間のどこかで、休憩を取らなければいけないこととなります。
このようなことは、労務管理の面から考えると、非常に煩雑で煩わしい結果となってしまいます。
ですから、このように手待ち時間を休憩時間として誤って取り扱ってしまうと、様々な問題が、起ってしまう結果となりますので、手待ち時間の取り扱いについては、十分ご注意していただければと思います。
まとめ
今回ご説明したように、手待ち時間は、労働者が自由に利用することができないため、労働時間と解されます。
ですから、手待ち時間を誤って休憩時間として取り扱ってしまうと、賃金の不払いや休憩時間に関して労働基準法違反の状態になってしまう可能性が非常に高いので、十分な注意が必要となります。
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