シリーズ労働トラブル防止⑧ 休職制度について
今回は、休職制度についてご説明したいと思います。
休職制度とは、労働者が業務外の事由による病気やケガ等の理由で、長期間会社を休まざる得なくなった場合に、一定期間労働者としての身分を保障する制度です。
実は、労務管理において、この休職制度が、従来にも増して、重要度を増しています。
と言うのは、近年、うつ病等の精神的疾患を患って、休職制度を利用する労働者の数が、非常に増えてきています。
ところで、休職制度というのは、従来はケガや内臓の病気等の理由によって会社を休むケースを想定していました。
しかし、今お話しましたように、近年精神的疾患を患って休職制度を利用する労働者の数が非常に増えているため、従来の就業規則では対応ができないケースが、多々見られるようになってきました。
今回は、休職制度の注意点や就業規則における休職規定の見直しのポイントについて、分かりやすく解説していきたいと思います。
休職制度の概要について
最初に、休職制度の概要についてご説明したいと思います。
休職制度とは、業務外の事由による傷病等により、長期間労務の提供が不可能となった場合でも、一定期間労働者としての身分を保障する制度とされています。
何故、このような制度を企業が用いるようになったかということですが、元々、労働者は、労働力を会社に提供する義務があり、会社は、その対価として賃金を支払う、このような権利義務に基づいて労働契約(雇用契約)が結ばれています。
ですから、労働者が、適正な労働力を提供できないのであれば、契約違反となるため、会社は、その労働契約を解約することができます。
つまり、労働者を解雇することができることとなります。
しかし、労働者からすれば、病気やケガになった途端に解雇されてしまえば、いきなり生活の糧を失ってしまうわけですから、雇用の不安定につながってしまいます。
また、会社側も、一定期間の後病気やケガが治るのであれば、労働力を確保しておきたいという考えもありますので、このような休職制度が、多くの会社で用いられるようになりました。
次に休職制度について、基本的な事項を少しご説明したいと思います。
休職制度に関しては、元々法律の定めがありません。
つまり、休職制度は、会社に課せられた義務ではないため、休職制度を会社が設けなくても法律的には全く問題ありません。
さらに、仮に休職制度を設ける場合であったとしても、制度の内容は、会社が自由に決めて良いこととなります。
例えば、休職期間の長さや対象となる労働者の範囲などは、会社が、基本的には自由に決めることができます。
つまり、休職期間の長さを雇用年数によって区分して、入社3年以上10年未満の労働者が利用できる休職期間を6ヶ月と決めて良いし、12ヶ月と決めても良いこととなります。
また、雇用年数も必ずしも入社3年以上とする必要はなく、入社1年以上あるいは、入社時から利用できるとしても全く問題ないこととなります。
さらに、休職制度を利用できる労働者についても、必ずしも雇用している全ての労働者を対象とする必要はなく、正社員以外のパートタイマー・アルバイトは利用できないと規定しても法律上全く問題はありません。
また、休職制度では、休職期間満了時に病気やケガが治らず、従前の業務に復帰できない場合には、自然退職つまり自己都合退職とする規定を設けるのが一般的です。
先程も言いましたように、近年、うつ病等の精神的疾患で休職制度を利用する労働者の数が増えているため、休職制度が、労務管理において非常に重要度を増しています。
では、休職制度を設ける場合に、注意すべきポイントについてご説明したいと思います。
休職期間の通算について
最初に休職期間の通算についてご説明したいと思います。
ここでは、休職期間を6ヶ月利用できる労働者を例にご説明したいと思います。
元々、休職制度というのは、ケガや内臓の病気を患って会社を休むというケースを想定していました。
ですから、ケガや病気が治れば、同じケガや病気で再度休職制度を利用するというケースはまずありませんでした。
しかし、うつ病等の精神的疾患の場合は、再発するケースが多々見られます。
ですから、先程の例の労働者が、精神的疾患により5ヶ月間休職後職場復帰したが、しばらくして精神的疾患により再度休職した場合、休職期間の通算規定が無ければ、再度6ヶ月間休職制度を利用できることとなります。
もちろん、そのような制度でも法律上全く問題はないのですが、再度休職をしてまた5ヶ月で復帰して、しばらくしてまた休職、そしてまた5ヶ月で復帰と、このようなことを永遠繰返すことができることとなってしまいます。
万一そのような事態になってしまえば、会社の社会保険料の負担も高額になりますし、人事面においても問題が生じてしまいます。
ですから、このような事態を防ぐために、休職期間の通算と言う考えを規定に盛り込むケースが多くなってきました。
これは、どういうことかと言いますと
先程の労働者が6ヶ月間休職制度を利用できるところ、5ヶ月で復帰した場合に、例えば、1年とか半年の間に同じ病気あるいは類似の病気で再度休職制度を利用する場合は、従前の休職期間を通算するという考え方です。
つまり、先程の例の労働者の場合で、精神的疾患で5ヶ月間休職した後、一定期間内に再度精神的疾患で休職する場合には、あと1ヶ月間しか休職できないこととなります。
休職期間の通算に関しては、昔の就業規則には記載されていないケースが非常に多いので、一度ご確認いただければと思います。
休職期間中の経過報告
次に休職期間中の経過報告についてご説明したいと思います。
うつ病等の精神的疾患で休職する場合、その症状が外見からがよくわからないところがありますので、現在どのような具合なのかを定期的に会社に報告させる必要があります。
報告する方法や報告期間等については、会社が自由に決めることができます。
ただ、一口に精神的疾患と言っても、症状は労働者ごとに異なってくるかと思いますので、報告する方法や報告期間等は、労働者ごとに決めれば良いかと思います。
復職時の注意点
ここでは復職時の注意点についてご説明したいと思います。
休職規定には、労働者が復職際には、医師による診断書の提出をすることを通常規定します。
ところで、先程も書きましたが、休職制度には、休職期間が満了した場合に、従前の業務に復帰できない場合には、自然退職とするという規定を設けるのが一般的です。
ですから、労働者からすれば なんとか復職したいために、多少体調が回復していなくても、主治医に「もう元気で十分働けます。」というようなことを言う可能性も考えられ、その結果、主治医が、労務可能という診断書を発行するケースも考えられます。
会社としては、本当にその労働者が復職することができるまで回復しているのか?というのは、どうしても、わかりづらいところがありますので、労働者が提出した診断書を信用せざる得ないところがあります。
しかし、先程お話したように、本当復職できるまで回復していなかった場合には、再度会社を欠勤せざる得ない状況となってしまうことが考えられます。
ですから、休職中の労働者が、復職する場合には、会社指定の医師による診断書の提出を求めることも必要と言えますので、その旨の規定を定めることも重要と言えます。
リハビリ期間
休職理由が、ケガや内臓の病気であれば、復帰時は従来のように仕事ができなくても、ある一定期間を経過すれば、従来のように仕事ができるようになるというのはある程度予想が付きます。
しかし、精神的疾患の場合、たとえ会社指定の医師の労務可能の診断書があったとしても、従来のように働くことができるようになるのか、実際はわからないのが本当のところではないでしょうか。
そのため、復職時に一定期間のリハビリ期間を設けるのも1つの考えです。
一定期間働いてもらい、様子をみて、従来のように働くことが無理だったら、再度休職をする、あるいは休職期間が、すでに満了しているのであれば、その時点で退職とする、このようにリハビリ期間を置くことによって、復職時のトラブルを防ぐことができるようになると言えます。
休職制度の盲点とは?
ここでは、休職制度の盲点についてお話したいと思います。
この考え方は、個人的な見解となりますが、実は、休職制度において、非常に重要なポイントではないかと思っていますので、是非、ご参考になさっていただければと思います。
繰り返しになりますが、休職制度は、法律に規定がありませんので、休職期間の長さや対象となる労働者は、会社が自由に決めることができます。
ところで、多くのモデル就業規則やテンプレートでは、休職制度を利用できるのは、正社員のみで、それ以外の契約社員やパートタイマー、アルバイトを適用除外としています。
また、休職制度を利用できる正社員も、全ての正社員が利用できるのではなく、入社3年以上の正社員というように規定されているケースが多いと言えます。
もちろん、このように規定すること自体は法律上何の問題もありません。
ただ、私は、休職制度を利用できる労働者を雇用後一定期間経過後の正社員規定するように、休職制度を利用できる労働者を限定することに問題があると考えています。
というのは、会社と労働者との間には、労働者が適正な労働力を提供して、会社がその対価として賃金を支払う、権利義務の関係があります。
つまり、会社が労働者を雇用するということは、この権利義務関係を基に契約を結ぶことです。
この契約を一般的に労働契約または雇用契約と言います。
先程、休職制度は、病気やケガで働くことができなくなった場合、一定期間労働者としての身分を保障する制度と言いました。
もし労働者が病気やケガで労働力を提供することができなくなれば、労働契約に基づく労働者としての義務を果たすことができないわけですから、会社は労働契約を解約つまり解雇できることとなります。
つまり、休職制度というのは、会社が解雇権を行使する前に、一定期間労働者に猶予期間を与える制度となります。
しかし、もし休職制度の適用とならない労働者が、病気やケガで働くことができなくなってしまった場合には、会社は、労働者を解雇することとなります。
病気やケガで働くことができなくなってしまった労働者を解雇することを、一般的に普通解雇と言います。
通常、普通解雇の規定は、就業規則に規定されます。
ですから、会社は、病気やケガで労働力を提供できなくなった労働者を就業規則の普通解雇規定に則って解雇できるわけですが、ここで1つ大きな問題が発生します。
というのは、就業規則の普通解雇規定に、「病気やケガで労働力を提供できなくなった場合には普通解雇とする。」という規定があったとしても、解雇できる明確な基準がないのです。
つまり、労働者がどれだけ会社を休業すれば、解雇することに合理性、妥当性が認められるのか、その判断基準がないのです。
解雇は、民事的な争いとなりますので、そのケースごとに判断が下されます。
ですから、あるケースでは、3ヶ月間休業した労働者を解雇して、妥当性、合理性が認められても、別のケースでは否認されてしまうことも起こるわけです。
つまり、たとえ病気やケガで長期にわたり休業している労働者を解雇する場合には、常に不当解雇で訴えられてしまう可能性があるということとなります。
ところで、先程書きましたが、休職制度を設ける場合、休職期間が満了した際に、従前の業務に復職できなかった場合には、自然退職という規定を設けます。
つまり、休職期間を利用した労働者が、休職期間が満了した時点で労働力を提供することができなければ、退職、つまり終わりがはっきりとしていることとなります。
ということは、全ての労働者に休職制度適用させれば、普通解雇の問題は、発生しないこととなります。
もちろん、たとえ休職期間満了後、従前の業務に復職できなかった場合には自然退職とする、という規定があっても、すんなりいかないケースもあるかもしれません。
しかし、終わりがはっきりしている上で労働者と交渉することは、明確な基準がなく解雇する場合より、はるかに会社は主導権を持って交渉することができます。
もちろん、いくら主導権があるからと言って、強行的な態度を取るのは、問題がありますが、交渉をしやすくするというのは、これはある程度必要なことと言えます。
ですから、休職制度を利用できる労働者を限定し、その結果、解雇で揉めることを考えるのであれば、全従業員が 休職制度を利用できるようにした方が、会社にとって有利になるのではないかと考えています。
ただし、休職制度は、元々は正社員のための制度という考えが根底にありますので、パートタイマーやアルバイトが正社員と同じだけ休業できることに抵抗感を持つ経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
休職制度は、法律の制限を受けないので、労働者の区分によって、利用できる休職制度の期間を変えることも可能です。
ですから、パートタイマー、アルバイトの休職期間を正社員より短く、また雇用年数が長くなるに応じて休職期間を長くする等の工夫をすることで対応できるかと思います。
休職制度というのは、全ての労働者が利用できるとした方が、会社にとっても有利になりますし、そもそも全ての労働者が休職制度を利用できれば、福利厚生の向上にもつながりますし、1つの考え方として、是非ご参考になさっていただければと思います。
まとめ
繰り返しになりますが、近年、うつ病等の精神的疾患により、休職制度利用する労働者が非常に増えています。
そのため、労務管理において休職制度というのは、労働者にとっても会社にとっても、非常に重要な制度となってきます。
今回、休職時の注意点にいくつかご紹介しましたが、その前提として根拠、つまり休職規定の存在が非常に重要となります。
今回のブログの中でも、復職時には会社指定の医師の診断が必要と書きましたが、根拠がなければ、労働者に「あの医者の診断を受けてくれ」とはなかなか言えなくなります。
そのため、就業規則の休職規定の整備が、非常に重要となります。
現在では、休職制度のあり方が従来に比べて大きく変わってきていますので、就業規則を見直す際には、非常に重要なポイントとなります。
従来の就業規則では、現在の状況に対応できないケースが十分考えられますので、現在の就業規則が作成して、年月が経過している場合には、早急に見直すことをお勧めします。
また、新たに就業規則を作成する場合には、休職制度は労務管理において重要なポイントとなりますので、十分注意して作成いただければと思います。