Q 欠勤中の未成年者従業員の父親に給与を渡しても良いでしょうか?
【質問】
当社では、給料を現金で直接従業員に渡しているのですが、給料支払日に、病気療養のため欠勤している未成年従業員の父親が給料を取りに来ました。
その従業員の父親は、「親権者は法律で定められている法定代理人なので、未成年者に代わって給料を受け取ることは問題がないはずだ。」と言っています。
本当に父親に給料を渡しても良いのでしょうか?
【回答】
未成年者であっても、独立して給料を請求する権利を有しているので、親権者である父親であっても、父親に給料を支払うことは、労働基準法第24条の直接払いの原則に違反します。
ただし、父親が親権者でなく、使者の場合には、父親に給料を支払うことは可能です。
【解説】
ご質問の中にありますように、未成年者の両親は法定代理人として、不動産の売買等、未成年者に代わって法律行為を行うことができます。
しかし、賃金の請求行為については、労働基準法第59条により、未成年者であっても、独立して賃金を請求することができる、と定められています。
ところで、労働基準法第24条に、「賃金は直接労働者本人支払わなければならない」とされていて、代理人への支払いを禁止しています。
従って、親権者であっても、未成年者の父親に給料を支払うことは、労働基準法に反することとなります。
ところで、労働基準法では、使者に対して給料を支払うことは認めています。
ここで問題となってくるのが、代理人と使者の違いです。
代理人とは、本人(今回の場合では、未成年従業員)の委任を受けて、自らの意思で本人に代わって法律行為を行う者を言います。
それに対して使者は、本人に代わって法律行為を行うのでなく、使者は単に本人の意思表示を伝達するだけの者を言います。
賃金の支払いについて言えば、病気療養中の未成年従業員に、父親に自分の代わりに給料をもらってきて欲しいと頼んで、父親が子供の意思表示を会社に伝えて、意思通りに給料を受け取るのであれば、直接払いの原則違反とはならないとされています。
ですから、今回のご質問のケースで言えば、未成年従業員の父親が親権者としてではなく、単に「子供の代わりに給料を受取りに来た」と言えば、父親に給料を支払っても問題ない可能性が高いと言えます。
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【ここがポイント】
ただし、現実問題として、代理人と使者との区別をするのは、非常に難しいと言えます。
今回のご質問のケースで、仮に父親が、「子供から代わりに給料を受け取ってきて欲しいと言われた。」と言っても、本当に本人が父親にその意思を伝えたかどうか、本人に確認しないとわかりませんし、従業員本人と父親で共謀している可能性もゼロではありません。
もし、結果的に父親が使者ではなく、後から、従業員本人から給与の支払いを請求されれば、会社はそれを拒むことはできません。
ですから、無用なトラブルを避けるためには、使者に対してでも給料を支払うことは絶対にやめるべきと言えます。
ただし、ここで1つ問題があります。
労働基準法では、給料に関して、毎月1回以上の支払い及び一定期日の支払いを定めています。
今回のご質問のように、給料を現金で支給している場合に、労働者が給料支払日に欠勤していると給料を支払うことができず、先の法律に反する状況となってしまいます。
もちろん、今回のケースのように病気療養による欠勤のため、給料を渡すのが多少遅くなってしまっても、本人と連絡が付く可能性が高いので、事情を説明すれば、さほど問題となることはありませんが、無断欠勤や行方不明の場合には、本人と連絡が取れなければ、給料未支払いの状況が長く続いてしまいます。
ただ、無段欠勤も行方不明も会社に非があるわけではないので、会社の責任が問われるケースは少ないのかもしれませんが、トラブルが起こる可能性がある状態が続くのも決して好ましいとも言えません。
給料の直接払いでのトラブルを避けるには、給料の支払いを現金渡しではなく、金融機関への口座振込にすることが最も有効です。
口座振込であれば、労働者が無断欠勤になっても行方不明となっても、給料支払日に所定の口座に振込めば、会社の義務はそこで果たしたこととなります。
ただ、給料の金融機関への口座振込には従業員の同意が必要となります。
しかし、金融機関への口座振込の方が安全面等でのメリットも多いので、従業員にメリットと必要性を十分に説明して、従業員の理解を得るようにして、給料支払いは金融機関への口座振込で行うことをお勧めします。
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