労務管理用語シリーズ⑨ 労働保険と社会保険
今回は、労働保険と社会保険についてお話したいと思います。
経営者の方にとって、労務管理に関する用語は難しいものが多いですが、今回お話する労働保険と社会保険は、その最たるものではないかと思います。
この労働保険と社会保険は、労務管理を行う上で日常的によく出てくる用語です。
しかし、経営者の方は、この労働保険と社会保険が意味することを正しく理解していないために、労働保と 社会保険という言葉に戸惑いを覚えるケースが、非常に多いと思います。
ですから、逆に考えれば、労働保険と社会保険の持つ意味を正しく理解すれば、労務管理は非常にすっきりしてくる可能性があります。
今回は、労働保険と社会保険についてわかりやすく解説していきたいと思います。
「労働保険」「社会保険」とは?
本題に入る前に、1つだけお断りしておきたいことがあります。
これから労働保険と社会保険についてご説明していきますが、労働保険はいいのですが、社会保険については、最初にあくまでも労務管理における社会保険をご説明していきたいと思います。
というのは 社会保険という言葉自体が、どの視点から考えるかによって、その意味するものが違ってきます。
ですから、まずは最初に労務管理においての社会保険について、ご説明したいと思います。
なお、別の意味での社会保険については、後半の方で少しお話したいと思います。
では、労働保険と社会保険についてご説明したいと思います。
まず、何故経営者の方が、労働保険と社会保険について難しく感じてしまうのか?
ここについてお話したいと思います。
労働保険と社会保険には、「保険」という言葉が付いています。
「保険」という言葉が付いていれば、通常は、何らかの保険制度を想像するかと思います。
例えば、労働保険と聞くと「労働保険という保険があるのだ」というように思われるかもしれません。
しかし、労働保険も社会保険も、労働保険という保険制度があるわけでもありませんし、社会保険という保険制度があるわけではないのです。
ですから、経営者にとっては、非常に紛らわしい言葉となってきます。
実は、労働保険も社会保険もどちらも総称なのです。
では、何の総称かと言いますと、労働保険は、労災保険と雇用保険の総称で、社会保険は、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称となります。
ところで、労務管理においては、労働保険という言葉も使うし、労災保険、雇用保険もそれぞれ単独で使われる場合があります。
そのため、余計に混乱してしまう形となります。
しかし、労働保険は、労災保険と雇用保険の総称で、社会保険は、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称であることを理解すると、労務管理は、非常に整理されてくるかと思います。
ちなみに、労働保険料という言葉を使った場合には、労災保険料と雇用保険料を合わせたものを言います。
同じように、社会保険料と言えば、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を合わせたものを社会保険料と言います。
労働保険料、社会保険料 このような言葉もよく出てきますので、労働保険と社会保険の仕組みを理解していただければ、容易にご理解いただけるかと思います。
各保険制度の概要について
ここでは、各保険制度の概要について簡単に説明したいと思います。
まず、労災保険ですが、労災保険は、業務上あるいは通勤途上でケガまたは病気を負った場合に保険給付を行う制度です。
雇用保険は、労働者が退職した後に、安定的な生活を送るために一定期間保険給付を行うことを主な目的としている制度です。
「ハローワークで失業保険をもらう。」というような言い方をするかと思いますが、まさにあれです。
ただ、「失業保険」は、正しい言い方ではなく、正式には、「失業等給付」と言います
健康保険は、業務外における病気やケガ、あと出産等の場合に保険給付を行う制度です。
介護保険は、要介護状態等になった場合に、必要な保険給付を行う制度です。
厚生年金保険は、老後や障害を負った場合や遺族になった時に保険給付を受けることができる制度となります。
労働保険と社会保険は、非常に紛らわしい用語ですが、「総称」ということを覚えていただければ、そんなに難しいものではないかとは思います。
ところで、最初に「社会保険を労務管理における前提でご説明します。」と言いましたが、実は この「社会保険」という言葉を広い意味での社会保険という意味で使った場合、健康保険、介護保険、厚生年金保険にプラスして国民健康保険や国民年金、このような自営業者等が加入する制度を含めて使う場合もあります。
さらに、もっと広い意味で、労災保険や雇用保険も含める場合もあります。
ですから、社会保険というのは、通常労務管理においては、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称ですが、広い意味で使った場合には、雇用保険や労災保険あるいは国民健康保険 、国民年金このようなものも含めて社会保険と言う場合もあります。
各制度の加入基準
ここでは、各保険制度の加入基準についてご説明したいと思います。
なお、これからご説明する加入基準は、あくまでも原則論となります。
実際、各保険制度には、例外規定がいくつか定められていますが、今回は、例外規定の説明は割愛させていただき、ここでは原則的な加入基準についてのみご説明させていただきます。
労災保険
労災保険は、原則労働者全員を加入させなければいけない制度となります。
労働者全員ですから、当然パートタイマー、アルバイトも含みます。
つまり、1週間に1時間しか働かないアルバイトの労働者を雇用した場合でも、労災保険は、必ず加入しなければいけないこととなります。
この点は十分ご注意下さい。
雇用保険
次に雇用保険ですが、雇用保険は、1週20時間以上の労働かつ31日以上の雇用見込み、この2つの条件を満たした労働者を雇用した場合に加入する必要があります。
ですから 例えば、1週間の労働時間は、40時間だけど雇用見込みが20日間の労働者を雇用した場合には、雇用保険に加入させる必要はありません。
しかし、1週間に20時間以上の労働かつ31日以上の雇用見込みがある労働者を雇用した場合には、本人の意思には関係なく、必ず加入させる必要があります。
ちなみに、以前は、新規に65歳以上の労働者を雇用した場合には、雇用保険の加入義務はなかったのですが、その法律は 既に改廃されていまして、現在では、年齢に関係なく加入条件を満たす労働者を雇用した場合には、雇用保険への加入義務が生じますのでご注意下さい。
社会保険
最後に、社会保険の加入基準についてご説明します。
健康保険、介護保険、厚生年金保険の加入基準は、基本的には同じ考え方をします。
ただし、令和4年10月時点では、 被保険者(加入者)が、100人以下と101人以上では、加入条件が違います。(令和6年10月より50人以下と51人以上)
今回は 加入者が100人以下(令和6年10月よりは50人以下)の場合についてご説明したいと思います。(原則的加入条件)
社会保険の加入基準は、その企業で勤務する正社員の1週間の労働時間そして1ヶ月の労働日数のそれぞれ 4分の3以上ある場合に社会保険に加入しなければならないとされています。
ただし、健康保険、介護保険、厚生年金保険の各制度には、上記条件以外に年齢に関する条件がそれぞれ付帯されています。
健康保険の場合は、75歳未満の労働者が対象となります。
介護保険の場合は、40歳以上65歳未満の労働者、そして厚生年金保険の場合は、70歳未満の労働者がそれぞれ対象となります。
ところで、先にも書きましたが、社会保険の加入基準は、労働者が正社員の1週間の労働時間および1ヶ月の労働日数が、それぞれ4分の3以上ある場合に加入しなければならないのですが、言葉だけではよくわからないかと思いますので、具体的な数字を使ってご説明したいと思います。
例えば、ある会社で正社員の1週間の労働時間が40時間で1ヶ月の労働日数が20日であったとします。
それぞれ4分の3は、1週間の労働時間が30時間、1ヶ月の労働日数が15日となります。
加入基準は、あくまで1週間の労働時間及び1ヶ月の労働日数のそれぞれ4分の3以上ですから、両方4分の3以上ある場合に、社会保険に加入しなければならないとされていますので、どちらか一方が、4分の3より下回っている場合には加入義務がなくなります。
ですから、例えば、1週間の労働時間は、正社員と同じ40時間ですが、1ヶ月の労働日数が、12日しか働かない労働者の場合は、社会保険に加入する必要はなくなります。
逆に、1ヶ月の労働日数は、正社員と同じ20日ですが、1週間20時間しか働かない労働者の場合も社会保険への加入は必要ありません。
ちなみに、社会保険の加入基準というのは、その会社の正社員の1週間の労働時間及び1ヶ月の労働日数を基にしますので、会社によって加入基準が、微妙に違う場合があります。
社会保険の加入基準は このように考えます。
加入基準の意味
繰り返しになりますが、労災保険は、原則労働者全員加入ですが、雇用保険の加入基準は、1週間20時間以上労働と31日以上の雇用見込み。
そして、社会保険は、正社員の1週間の労働時間及び1ヶ月の労働日数のそれぞれ4分の3以上となります。
ところで、
「うちの会社ではパートタイマー アルバイトには社会保険には加入させない」
「雇用保険に入るのは正社員だけだ」
このようなことを言う経営者の方が、たまにいます。
しかし、これまでご説明してきたように。雇用保険、社会保険の加入基準は、あくまでも1週間の労働時間、 1ヶ月の労働日数 雇用期間、雇用期間できまります。
正社員、パートタイマー、アルバイトこのような労働者の区分や名称によって決まるわけではありません。
ですから、パートタイマー、アルバイトだからといって、加入基準を満たしている労働者を社会保険あるいは雇用保険に加入させないことは、法律違反となります。
ここは、多くの経営者の方が、誤った認識を持たれているところです。
残念ながら実際、パートタイマー、アルバイトだからという理由で、社会保険や雇用保険に加入させていない企業は、現実、存在しています。
しかし、このようなことは、コンプライアンス的に大きな問題となり、労働トラブルの原因となりますので、加入基準が持つ意味を正しく理解して、適切な運用を行うことが非常に重要となります。
まとめ
今回は、労働保険と社会保険について解説しました。
冒頭にも言いましたが、労働保険と社会保険の持つ意味を正しく理解すれば、労務管理は非常にすっきりしてくるかと思います。
ただ、労働者を各保険制度に加入させるか否かの判断は、あくまでも1週間の労働時間、 1ヶ月の労働日数 雇用期間、雇用期間できまります。
決して、正社員、パートタイマー、アルバイトこのような労働者の区分や名称によって決まるわけではありません。
この点は正しくご理解いただければと思います。
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