シリーズ労働トラブル防止② 労働条件は必ず書面で明示

今回は、書面による労働条件の明示、いわゆる労働条件通知書、雇用契約書についてお話したいと思います。

 

実は、労働条件通知書、雇用契約書は、労働トラブルを防止する上で最も有益な手段なのです。

 

今回の動画では、労働条件通知書、雇用契約書を作成する際のノウハウ、そして実際に労働条件通知書、雇用契約書を交付する際の注意点についてわかりやすく解説します。

書面での労働条件明示の重要性について

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労働者を雇用した場合には、当然、労働条件を労働者に明示する必要があります。

 

実は、労働基準法では労働条件の明示に関して、法律の規定を定めています。

 

労働基準法第15条では、労働条件のうち賃金や就業場所、従事する業務内容、勤務時間等の事項については、必ず書面で明示しなければならない、とされています。

 

つまり、労働者を雇用した場合、賃金や就業場所、従事する業務内容 勤務時間このような重要な事項を明示するかと思いますが、これらの事項については、口頭ではなく書面で明示しなければいけないのです。

 

それが法律の規定となります。

 

しかし、残念ながら実際には書面ではなく、口頭で労働条件の明示を済ましているケースが多々見られます。

 

 

ところで、そもそも、労働トラブルが起こる原因として考えられることは、労働条件について会社側と労働者側との間で思い違いや行き違いがあります。

 

つまり、労働条件に関しての思い違いや行き違いの結果、労働トラブルが起こってしまう可能性が非常に高いのです。

 

ということは、逆に考えれば、労働条件に関して会社側と労働者側との間で思い違いや行き違いがなければ、労働トラブルを防ぐことができるわけです。

 

 

これは労働者の雇用に限ったことではありません。

 

私達は後になってのトラブルを防ぐために、様々な場面で書面を作成します。

 

書面を作成すれば、後で「言った、言わない」の思い違いや行き違いを防げるからです。

 

ですから、労働トラブルを防ぐためには、労働条件を書面で明示することは、非常に重要で最も有効的なこととなります。

 

 

ところで、労働条件の書面での明示は、何も私だけが言っていることではありません。

 

少し前のこととなりますが、私が所属している社会保険労務士会が、労働基準監督署の署長を呼んで研修会を開催したことがありました。

 

私もその研修会に参加したのですが、その時、労働基準監督署の署長は、「労働トラブルが起こる一番の原因は、労働条件を口頭で通知している。その結果、行き違いが起きてしまう。」とおしゃっていました。

 

また、別の研修会では、今度は、労働組合の職員の方を呼んで研修が行われたのですが、その時にも、労働組合の職員の方は、「労働者が、いろいろな労働相談を寄せてきますが、何で労働トラブルが起こってしまったか、その原因は、労働条件を書面で明示していない。

 

これが、やはり大きな原因です。」と言われていました。

 

そして、「ですから、社労士の先生方、是非、顧問先の社長さんには、労働条件はを必ず書面で通知するようにご指導下さい」と言われたのをよく覚えています。

 

 

このように、労働条件を書面で通知することは、労働トラブルを防ぐ上で、非常に重要なポイントとなってきます。

 

実際、私もこれまで数多くの労働トラブルを経験してきました。

 

これは、個人的な感覚ですが、労働トラブルの7割くらいは、しっかりと労働条件を書面で明示していれば防ぐことができたトラブルでした。

 

ですから、繰り返しになりますが、労働トラブルを防止する最も有効な手段は、労働条件を書面で明示する、ここをまず押さえていただければと思います。

 

労働条件通知書 雇用契約書 作成の注意点

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では、実際に労働条件通知書、雇用契約書を作成する場合に、どのような点に注意すべきか、私がこれまで経験したトラブルの事例をご紹介しながらお話していきたいと思います。

 

 

まず、給料(賃金)に関するトラブル事例をご紹介したいと思います。

 

ある顧問先で、労働者を雇った時に、「あなたの給料は月額30万円としますね。」とその会社の社長は雇用する労働者に通知しました。

 

ところで、給料を月額で払う支給形態としては、月給と日給月給 2つの方法があります。

 

日給月給とは、給料の支払い額は、月額で決められますが、ただ欠勤や早退した場合には、その日数や時間分の給料が控除されます。

 

また、賃金計算期間の途中で入社したり退社した場合には、日割り計算を行います。

 

このような支給形態を日給月給と言います。

 

 

それに対して月給は、どんな場合であったとしても、例えば、今言いましたように欠勤や早退があった場合や月の途中で入社したり退社した場合でも、あらかじめ決められた月額を支給する形態を言います。

 

ですから、完全月給と言われる場合もあります。

 

ところで、私の顧問先の会社で、どのようなトラブルが起こったかと言いますと、月額30万円という条件で雇用した労働者は、入社した時も退社した時も賃金計算期間の途中で入退社しました。

 

その会社の給料の締切日を仮に月末として、入社が9月15日で退社が11月15日します。

 

 

ここで問題となったのは、月額30万円です。

 

その社長は、月額30万円は、日給月給のつもりで言ったため、10月は1ヶ月分、9月と11月は、それぞれ月額の半分、トータルで2ヶ月分の給料60万円を支払いました。

 

そして、数週間後、その退職した労働者から内容証明が届いたのです。

 

その内容証明には、「雇用時に給料は月額30万円と言われた。月額だからどんな場合であっても、まるまる30万円支払う約束だったはずだ。在職した期間は、月単位で見れば、3ヶ月在籍したわけだから、3ヶ月分 90万円の給料を受取る権利がある。だから、差額の30万円を支払って欲しい。」といった内容が書かれていました。

 

つまり、その労働者は月額30万円を、完全月給で30万円と解釈したのです。

 

 

その内容証明が届いてすぐに私のところに相談がありました。

 

そして、私は、社長に「社長、労働条件を明示する時にどういう方法で行ったのですか?」と聞いたら「口頭で月額30万円と言っただけなんだ。」と言われたのです。

 

となってくると、日給月給も(完全)月給もどちらも実際に存在する支給形態であるので、「月額30万円」としか言っていないのであれば、その月額30万円が、日給月給での30万円なのか(完全)月給での30万円なのか、わからないこととなります。

 

私も、その場にいたわけではないので、社長がどうように話をしたのか、私にもわからないのです。

 

これはさすがに私も困りました。

 

 

ただ実際には、少しテクニックを使った回答書を出したら、それ以降、その労働者から連絡はなかったので、何とか解決することはできました。

 

しかし、この時に本当に、書面での労働条件の大切さを実感しました。

 

もし、労働条件通知書を交付あるいは雇用契約書を締結して、給与額のところに、日給月給という一言を書いておけば、このようなトラブルは起きなかったわけです。

 

また、仮に労働者からこのような請求があったとしても、「雇用契約書に日給月給と書いてあるから、会社が払った金額で間違いありません。」と明確に反論もできます。

 

 

さらに、別のトラブルをご紹介したいと思います。

 

ある運送業で労働者を雇った際に、運送業ですからドライバーとして雇用したわけですが、運送業の場合、倉庫の掃除等も行うことがあります。

 

そして、その労働者に実際に掃除をお願いしたら、その労働者から「私はドライバーとして雇用されたわけだから、倉庫の清掃は、雇用時の業務内容に入っていない。こんなことを無理矢理させられたのだから精神的苦痛を被った。だから慰謝料を払って欲しい。」と請求があったのです

 

そして、このケースも労働条件を書面で明示していなかったのです。

 

私もこの話を聞いた時に、運送業で倉庫を掃除すること自体、何の問題もない、思ったのですが、ただ「ドライバーとして雇われた」と言われてしまえば、ドライバー専門で雇用されたと解釈できないわけではないので、書面がなければ、雇用時にどうような約束で雇用したかは、後ではわからないのです。

 

 

もし法律に則って、労働条件通知書の交付または雇用契約書を締結していれば、このようなトラブルは未然に防ぐことができました。

 

労働条件を明示する書類には、従事する業務を書きますが、そこにドライバー及び付帯業務というように「付帯業務」という言葉を一言入れておけば、このようなトラブルが起こらなかったし、仮に起こったとしても「付帯業務」と書いてあり、付帯業務の中には、当然倉庫の清掃も入っているわけですから、と明確に反論することができます。

 

 

また、人事異動や配置転換もトラブルの原因となる可能性が高いので、労働条件を明示する書類に、人事異動や配置転換の可能性があることをしっかりと記載しておくのも重要なポイントとなります。

 

 

さらに、この記事を書いているのが、令和4年11月ですが、まだまだ、コロナウイルス感染拡大の問題が深刻化しています。

 

ですから、企業は、テレワークの導入を余儀なくされています。

 

ところで、労働者を雇った時の労働条件の明示事項の中に、業務に従事する場所があります。

 

ですから、業務に従事する場所に、テレワークの可能性を入れておけば、当然トラブルの確率は減ってきます.

 

 

このように労働条件を書面で明示することは、労働トラブルを防止することはもちろんですが、労働トラブルが発生してしまった場合でも、そのトラブルをスムーズに解決することができ、反論する根拠となってくるわけです。

 

ですから、労働トラブルを防止する上で、書面による労働条件の明示は、本当に重要なポイントとなってきます。

 

労働条件通知書と雇用契約書 どちらを使う?

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ところで、労働基準法では労働条件のうち賃金や業務内容等の事項については、書面で明示しなければならない、となっていますが、法律が求めているのは、書面での明示つまり一方的に通知するところまでです。

 

つまり、法律では労働条件通知書を交付すれば、法律の義務は果たしたこととなります。

 

しかし、労働トラブル防止の観点からすれば、雇用契約書の形を取ることをお勧めします。

 

 

契約書ですから、当然、使用者及び労働者の署名捺印等がなされます。

 

署名捺印がされているということは、契約書の内容に書かれていることについて、後で「知らなかった」ということは、もう言えなくなります。

 

労働条件通知書の場合は、一方的に通知するだけですから、あとで何かトラブルが起こった時に、「そんな書類はもらっていないし、私は知らない」と言われてしまう可能性があります。

 

もちろん、法律通りに明示していれば、法律上は問題ないのですが、現実問題として万一トラブルが起こった時に、「そんな書類はもらっていない」と言われた時に、労働条件通知書を渡したことを客観的に証明するのは、非常に難しいところがあります。

 

ですから、労働条件の明示は、雇用契約書で行う方が、はるかに労働トラブル防止の効果が高いと言えます。

 

別紙の活用

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さらに、私が、もう1つ顧問先の社長様にお勧めしているのが雇用契約書別紙の活用です。

 

労働条件を明示に雇用契約書を活用する場合、その雇用契約書の内容は、法律に規定されている事項は必ず書かなければなりません。

 

しかし、逆に考えれば、法律に規定されている事項さえ書けば、後はどのようなことを書いても基本的には良いわけです。

 

ですから、私がお勧めしているのは、雇用契約を締結する際に、法律で求められている事項にプラスして就業規則の服務規定とか懲戒解雇規定、休職制度、秩序ある職場環境を維持するのに大切な事項等を別紙として、雇用契約書に付けて、その別紙にも労働者の署名捺印をもらう雇用契約の方式です。

 

 

なぜ、このようなことをするのか?ということなのですが、例えば、就業規則に服務規定とか懲戒解雇規定が定められていて、その就業規則が法律通りに周知されていれば、その就業規則を労働者が読んでいる、読んでいないに関わらず、労働者に適用されることとなります。

 

しかし、先程の労働条件通知書と同じで、実際にトラブルが起こった時に、労働者が「そんな就業規則は知らないし、見たこともない」といったことを主張してくる可能性があります。

 

もちろん、法律通りに周知していれば、それは通らないのですが、現実問題、そのように言われてしまった時に、トラブルを解決するのが難しくなってきます。

 

 

また、就業規則を最初は見やすい場所に備え付けてあったけど、どこかの段階で、その就業規則がなくなってしまっていた、というようなケースも考えられます。

 

ですから、就業規則の中の服務規定とか懲戒解雇規定といった重要な事項については、契約書の時に一緒にそれを付けて署名、捺印をもらっておけば、雇用契約書と同じ考え方で、その事項については、もう「知らなかった」ということは、労働者は言えなくなります。

 

万が一、トラブルが起こったとしても、非常に解決しやすくなります。

 

 

そして、さらに雇用契約時に別紙を活用することは、労働トラブルを解決しやすくする、ということももちろんですが、服務規定とか懲戒解雇規定を契約時に労働者に周知させることによって抑止力も期待できます。

 

例えば、「飲酒運転した場合には懲戒解雇とする。」という規定があれば、うちの会社は飲酒運転をしたら懲戒解雇になってしまう、と労働者が認識すれば、そこは抑止力につながってきます。

 

このように、雇用契約を結ぶ時には、就業規則の中で従業員に必ず知っといて欲しい事項を書き出した別紙を活用することは、1つのテクニックかと思いますので、是非、ご参考になさって下さい。

 

パートタイマー アルバイトにも書面での明示を

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そして もう1つ重要なことをこれからお話します

 

正社員、パートタイマー、アルバイト、このような言葉はよく使われますが、実は、これらは法律用語ではありません。

 

労働基準法では 全て労働者という言葉が使われます。

 

ですから、正社員もパートタイマーもアルバイトも、全て平等に労働基準法等の適用を受けます。

 

 

ところで、労働者を雇用する場合は、必ずしも正社員だけではありません。

 

当然、パートタイマー、アルバイトを雇う時もあります。

 

ですから、パートタイマー アルバイトを雇用する場合でも、今回ご説明した書面による労働条件の明示が法律上必要となります。

 

よく、正社員は契約書交わしているけど、パートタイマー、アルバイトは口頭だけで済ましている会社も多いように聞いています。

 

パートタイマー、アルバイト等の正社員以外であったとしても、必ず書面による労働条件の明示を必ず行うようにして下さい。

 

 

パートタイマーやアルバイトを雇用した場合に、労働条件を書面で明示することは、法律順守の視点からだけでなく、労働トラブル防止の視点から考えても非常に重要とことと言えます。

 

というのは、パートタイマー、アルバイトであったとしても、先程も言いましたように正社員と同じ法律の適用を受けるわけですから、トラブルとなる可能性は、正社員と何ら変わらないわけです。

 

つまり、労働トラブルを防ぐということは、パートタイマー アルバイトであったとしても、正社員と同じレベルで考える必要があるのです。

 

このようなお話をすると、よく経営者の方から「パートタイマーやアルバイトは、本当に入れ替わりが激しいから、その都度、契約書を作ったり説明したりする時間が大変です」というような声を聞きます。

 

確かに、そのお気持ちは分かります。

 

しかし、何もしなければ、労働トラブルを防ぐことはできないわけです。

 

 

労働トラブル防止で重要な点は、テクニックやノウハウはもちろんなのですが、「当たり前のことを当たり前にやり続ける」この姿勢が大事なのです。

 

書面による労働条件の明示は、まさにこれに当たります。

 

どんなに手間がかかったとしてもやるべきことはやる。

 

つまり、労働条件通知書あるいは雇用契約書を交付、これをどんな労働者、パートタイマーやアルバイトであったとしても、必ず書面で労働条件を明示することをやり続ける。

 

これが重要なこととなります

 

まとめ

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今回は 労働条件通知書、雇用契約書等の重要性や具体的な注意点、テクニック的なこともご説明させていただきました。

 

書面での労働条件の通知は、労働トラブルを防止する上で最も重要なポイントとなります。

 

また、書面での労働条件の通知は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト等の全ての労働者を雇用する場合に行う、ここも重要なポイントとなりますので、是非、今後のご参考になさって下さい。

 

 

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