労務管理用語シリーズ③ 労働条件通知書と雇用契約書
今回のブログでは、労働条件通知書と雇用契約書との違いについてお話したいと思います。
労働条件通知書も雇用契約書も、どちらも労働者を雇用した時に使う書類ですが、この違いを正しく理解している経営者の方は、なかなか少ないのではないかと思います。」
実際 経営者の方から「労働条件通知書 雇用契約書 どちらを使ったらいいのですか?」といった質問も受けたりします。
今回のブログでは、労働条件通知書と雇用契約書との違いについて、分かりやすく解説してきたいと思います。
ところで、実は、労働条件通知書 雇用契約書、これらは適正な労務管理を行っていく上では非常に重要なポイントとなります。
ですから、それぞれの違いを正しく理解していただくことはもちろんですが、それ以上にそれぞれが持っている役割そして運用の仕方等についても、正しく理解していただきたいと思います。
賃金等の労働条件については書面での明示が必要
冒頭でお話しましたように、労働条件通知書も雇用契約書も、どちらも労働者を雇用した時に使う書類となります。
ですから、それぞれの違いを正しく理解するためには、労働者を雇用した場合には、どのような法律の規定があるかを、まず正しく理解していただきたいと思います。
労働基準法では、使用者(使用者というのは、会社 経営者と思っていただければ結構です)は 労働者を雇用する場合には、労働者に対して賃金その他の労働条件を明示しなければならない、と規定されています。
ここでポイントとなってくるのが、「明示」という言葉です。
「明示」というのは 「通知する」とか「知らせる」このような意味となります。
つまり、使用者は、労働者を雇用した場合には、賃金その他の労働条件を労働者に通知する必要があります。
では、具体的にどのような事項を明示するか?ということですが、明示すべき事項は2つに分けることができます。
絶対的明示事項と相対的明示事項の2つが、明示しなければいけない事項とされています。
まず絶対的明示事項は、必ず明示しなければならない事項のことを言います。
具体的には以下の事項となります。
①労働契約の期間
②就業の場所・従事する業務の内容
③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
④賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項・昇給に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
つまり、賃金や従事する業務内容等上記の事項については、労働者を雇用した場合には必ず明示する必要があります。
それに対して相対的明示事項は、定めがある場合には必ず明示しなければならない事項で以下の事項となります。
①退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
②臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
③労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
④安全・衛生に関する事項
⑤職業訓練に関する事項
⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦表彰、制裁に関する事項
⑧休職に関する事項
相対的事項は、定めがある場合に明示しなければいけない事項ですから、逆に言えば、定めがない場合は明示する必要がありません。
つまり、退職金や賞与、休職制度は、本来法定義務は無く、会社の制度として無くても法律的には全く問題ありません。
労働条件通知書について
では、次に実際に労働条件を明示する方法についてご説明したいと思いますが、実は、ここは非常に重要なポイントとなります。
労働基準法では、絶対的明示事項のうち昇給に関する事項以外の事項については、必ず書面で労働条件を明示しなければならないとされています。
つまり、賃金や従事する業務内容等を口頭のみで明示することは、労働基準法違反となります。
ただし、書面での明示についてですが、2019年の4月からメールあるいはFAXでも可能となっています。
ただ メールやFAXで労働条件を明示する場合には、1つ注意する点があります。
労働条件を書面で明示する場合は、直接、労働者本人に労働条件が記載された書面を渡すわけですから、当然 労働者が受け取ったことがわかります。
しかし メールやFAXの場合は、労働者が確実に受け取ったかどうかわからないことが考えられます。
ですから、メールやFAXで労働条件を明示する場合は、必ず労働者が受け取ったことを確認しなければいけないとされています。
メールの場合には、相手が開封したかどうかを知らせる機能がありますし、ラインであれば既読が付きます。
ですから、そのようなものを証拠として残しておけば良いかと思います。
しかし、FAXの場合には、相手方に到達しても、必ずしも労働者本人が受け取ったかを確認する昨日はありません。
従って、労働条件をFAXで明示する場合には、受領確認のFAXを返送してもらうとか、FAX送信後、直接労働者へ到達の確認を行うなどをする必要があります。
それに対して、絶対的明示事項の内、昇給に関する事項と相対的明示事項については、口頭のみの明示で済ませても法律上問題はありません。
ただし、実務的に労働者を雇用する場合に、絶対的明示事項の中で昇給以外について書面で通知して、それ以外のものについては口頭で通知する、ということは通常考えられません。
結局は、労働条件の明示は、法律で書面での明示が求められていない昇給や相対的明示事項も含めて、全て書面で交付するのが一般的です。
そして、その明示する書面のことを、労働条件通知書と言います。
雇用契約書について
次に雇用契約書についてご説明したいと思います。
繰り返しになりますが、労働条件の明示について、絶対的明示事項の内、昇給以外の事項については、書面での明示が必要ですが、その書面の形態についてまでは、法律で定められていません。
これは、どういうことかと言いますと、明示というのは、先程も言いましたように「知らせる」「通知する」という意味ですので、一方的に相手方に明示すれば良いこととなります。
ですから、労働条件通知書を労働者に渡せば、法律の基準を満たしたこととなります。
それに対して、雇用契約書は、前提は同じく、労働基準法における労働条件の明示の基準を守るための書面です。
ですから、雇用契約書も、必ず必要な事項を記載する必要があります。
しかし、労働条件通知書と違う点は、契約書ですから、当然 会社、労働者双方の署名 捺印が必要となります。
ただし、先程も言いましたように、労働基準法では、書面での一方的な明示までしか求めていないので、契約書と言う形態を用いることは、法律が求めている以上の形態を用いている場合となります。
つまり、労働条件通知書と雇用契約書の違いは、両方とも労働基準法の基準を満たすために使う書面ですが、「形態が違う」ただそこだけとなります。
労働条件通知書と雇用契約書 どちらを使うべきか?
では、労働条件通知書と雇用契約書、どちらの形態を使ったら良いのでしょうか?
これは、圧倒的に雇用契約書の方をお勧めします。
というのは、もし 労働者との間で労働条件について何らかのトラブルが起こった場合、労働条件通知書により労働条件を明示していた場合、労働条件通知書は、先程も言いましたように、一方的に書面を渡すだけですので、後になって労働者が、「俺はそんなのもらってないよ」とか「そんな事は知らない」と言うケースが考えられます。
もちろん、必要な事項を書面で通知していれば、法律上の義務は、果たしていることにはなりますが、現実問題として、「俺はそんなのもらってないよ」とか「そんな事は知らない」と労働者が言う可能性はあります。
しかし、雇用契約書の形を取れば、先程も言いましたように、契約書ですから、通常、2枚作成して、それぞれに会社、労働者双方の署名 捺印をして、それぞれが1通ずつ保持します。
ですから 仮に労働者が、その契約書を失くしたとしても、会社側が、その契約書を保管していれば、その契約書には、その労働者の署名 捺印があります。
署名 捺印があるということは、当然 記載してある内容については、同意、承諾していることとなりますので、「俺はそんなのもらってないよ」とか「そんな事は知らない」ということはもう言えなくなります。
ですから、労働者を雇用する場合には、労働条件の明示は、雇用契約の形をとることが非常に重要なポイントとなります。
しかし、雇用契約の形を取ると、現実的に手間が増えてしまうのも事実です。
ですから、労働条件通知書の形態を用いる場合であっても、その労働条件通知書に署名だけでももらって、その写しを保管しておく、このようなことだけをしておくだけでも、単に一方的に書面を渡すより、格段に労働トラブル防止に効果もありますので、ご参考になさって下さい。
まとめ
冒頭で、労働条件通知書と雇用契約書は、適正な労務管理を行う上で、非常に重要なポイントと書きましたが、労働条件通知書又は雇用契約書のどちらを使用したとしても、「必ず書面で労働条件を明示する」、ここが労働トラブルを防止する上で、非常に重要な意味を持ちます。
実は、労働トラブルが起こる最も大きな原因というのは、労働条件の明示を口頭で済ましていることによります。
実は これは私が言っているだけではなくて、以前 私が住んでいる管轄の労働基準監督署の署長さんのセミナーを聞いた時に、その署長さんも「労働トラブルが起こる最もの原因は書面で労働契約を結ばない、それが1番の理由です」と言っていました
実際 私もこれまで数多くの労働トラブルを経験してきましたが、自分の経験では、もし書面で労働条件を明示していれば、7割位の労働トラブルは、起こらなかっただろう、と思っています。
ですから、労働条件通知書、雇用契約書のどちらを使うかはともかくとして、書面で労働条件を明示することが、労働トラブルを防ぐ上で、最も有益な手段となりますので、労働条件の明示は必ず書面で行うようにして下さい。
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