シリーズ労災保険① そもそも労災保険とは?
今回のシリーズでは、労災保険を取り上げたいと思います。
実はこのブログをご覧の経営者の方から、「労災保険制度が複雑で、どのような時に労災保険を使えるかよく分からないから、一度労災保険を取り上げて欲しい。」「実際に労災事故が起きてしまった時に、どのような対応すれば良いか分からなくて不安なので、一度手続きの流れを説明して欲しい。」といったご要望を多数いただいております。
確かに、労災保険は経営を行う上で、リスクマネジメントの基本となりますので、経営者の方が、労災保険に関して正しい知識を持つことは、非常に重要なこととなります。
そのような意味もあり、今回は、労災保険を取り上げていきたいと思います
ただし、労災保険は、非常に制度が複雑ですので、全てをお話しすることはなかなか難しいところがります。
と言うよりは、経営者の方が、労災保険の制度を全て理解する必要はないと思います。
ですから、今回のシリーズでは、経営者の方に、まずここだけは知っておいていただきたいポイント、あるいは経営者の方が「ここが知りたい」と思われるポイントにテーマを絞ってお伝えしていきたいと思います。
今回は、そもそも労災保険とはどういう制度なのか?ここをお話したいと思います。
実際、労災保険を理解するには、制度の基本的な事項、概要をまず押さえるのが非常に重要かと思います。
今回は、労災保険の基本的事項、概要についてわかりやすく説明していきたいと思います。
そもそも労災保険とは?
では、労災保険の制度についてご説明していきたいと思います。
まず、労災保険という言葉ですが、実はこれは正式な名称ではありません。
正式には、労働者災害補償保険、これが正式名称となります。
つまり、労災保険という言葉は、略称になってきます。
ただ、労災保険という言葉が、広く 一般に使われている言葉ですから、今回のブログでも労災保険という言葉を使っていきたいと思います。
次に労災保険の目的ですが、労災保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病 障害、死亡等に対して必要な保険給付を行う、これが労災保険の主な目的となっています
つまり、労災保険は、仕事中に起きた事故、あるいは通勤途中に起きた事故によって、労働者がケガを負ったり病気になったりした場合に必要な保険給付を行う制度となります。
ただし、仕事中あるいは通勤途中によるどんな事故でも保険給付がされるか?というと必ずしもそうではなくて、一定の条件があります。
ただ、どのような場合に労災保険が適用になるかについての条件等につきましては、今後のブログで詳しくお話していきたいと思います。
ところで、労災保険の目的の中で、キーワードとなってくるのが、「必要な保険給付を行う」です。
では、具体的にどのような保険給付が行われるか、つまり補償が行われるのかについてご説明。
まず、労働者が業務中に怪我をして、治療を受けなければいけなくなった場合に、労災保険から治療費の給付がされます。
労災保険の場合は、労働者が自己負担無しに、全額労災保険から治療費が保険給付されます。
また、治療費以外にも手術代、薬代も全額保険給付されることとなります。
なお、健康保険の場合は、労働者が、原則3割分を負担しなければいけないのですが、労災保険は、労働者の負担は、無しとなります。
さらに、その病気やケガ原因で、会社を休まなければいけなくなってしまった場合、有給休暇を使うことができれば良いのですが、もし、有給休暇を使うことができないのであれば休業している期間は、給料が発生しないわけですから、労災保険から、その休業している期間で、給料が支払われなかった期間に対して、一定額の休業補償が行われます。
また、病気やケガは治ったけれど、障害が残ってしまった場合には、障害の程度に応じて一定の障害の補償が行われますし、介護が必要となった場合には、介護に対する保険給付が行われます。
そして、万が一、病気やケガが原因で死亡してしまった場合には、遺族に対して一定額の遺族補償が行われます。
労災保険では、このような保険給付、補償が行われ、非常に補償が厚い制度と言えます。
民間の保険でこれだけ補償をセットしている保険商品はまずないと思います。
冒頭にもお話しましたようが、労災保険は、経営を行う上でリスクマネジメントの基本となってきます。
それは、労災保険は、補償が非常に厚い ここが所以なってくるかと思います。
労災保険は アルバイト1人でも加入義務が発生
では、労災保険について、もう少し細かい点、注意すべき点についてお話していきたいと思います。
労務管理において保険制度は、労災保険の他に雇用保険 健康保険 介護保険 厚生年金保険、このような保険制度がありますが、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険も加入すべき労働者の基準が決められています。
例えば、雇用保険であれば1週間20時間以上の労働時間、かつ31日以上雇用見込みがある労働者を雇用した場合には必ず雇用保険に加入させなければならないと定められています。(令和5年9月1日現在)
逆に言えば、1週間15時間しか働かない労働者を雇用した場合には、雇用保険に加入させる必要はありません。
ですから、ある人が会社を立ち上げて、初めて雇用した労働者が、1週間に15時間しか働かない労働者であれば、その会社は雇用保険に加入していなくても、法律的に何の問題もありません。
また、ここでの詳細についての説明は割愛させていただきますが、健康保険も介護保険、厚生年金保険も加入基準が、労働時間や労働日数等によって定められています。
ですから、その基準を満たさない労働者であれば、法律的に健康保険や介護保険、厚生年金保険に加入する必要はありません。
しかし、労災保険は、その点が他の保険制度と決定的に違います。
労災保険は、原則労働者1人でも雇用した場合には、強制加入となります。
そして、その労働者に関しては、加入基準がありません。
つまり、雇用している労働者が、1週間に1時間しか勤務しないアルバイト1人だけであったとしても、労災保険に加入しなければいけないこととなります。
ですから、先程の例のように、ある人が会社を始めて、初めて雇用した労働者が1週間に15時間しか働かない労働者であった場合、雇用保険は加入する必要はありませんが、労災保険には必ず加入しなければいけないこととなります。
繰り返しになりますが、労災保険の加入対象となる労働者は、原則全ての労働者となります。
雇用保険や健康保険等のように、労働時間や労働日数等によって加入基準が定められているわけではありません。
ですから、労働者を雇用したら原則必ず労災保険に加入しなければいけない、このような形となります。
なお、原則と書いてありますが、実は、労働者であっても労災保険に加入しなくてもいいケースというのがあります。
それは、農業 水産業 林業これらを営む事業、しかも個人経営で一定の規模以下の場合です。
ですから、ケースとしては非常に稀なケースとなりますので、労災保険は、どんな場合であったとしても、労働者を雇用した場合には加入しなければいけないとご理解いただければと思います。
労災保険の加入手続きについて
では、次に労災保険への加入手続きについてご説明したいと思います。
雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険は、加入する労働者の基準が決められていますので、その基準に該当する労働者を雇用した場合には、個々に加入の手続きを取る必要があります。
しかし、労災保険は、全ての労働者が対象となるために、一度会社として労災保険に加入した後には、労働者の個々の加入の手続きは必要ありません。
例えば、労災保険に加入している会社に、ある従業員が雇用され、何の手続きをしなくてもその雇用された労働者が、仕事中にケガをした場合には、労災保険を使うことができます。
労災保険料について
次に、労災保険料についてご説明したいと思います。
労災保険も保険ですから、当然保険料が、発生します。
労災保険の保険料は、労働者に支払った給料により算出されます。
なお、建設業や一部業種では、例外的に売上高等で保険料を算出する場合がありますが、基本的には労働者に払った給料を基に算出されます。
具体的には、4月1日から翌年の3月31日までの1年間に雇用している全ての労働者に支払った給料の総額を元に保険料を計算する形となります。
労災保険の概要につきましては、以上となります。
まとめますと、労災保険は、業務上の事由又は通勤による事故等で、労働者が負傷等した場合に必要な保険給付が行われます。
そして、労災保険の対象となる労働者は、正社員はもちろんですが、パートタイマー、アルバイトといった雇用している全ての労働者が対象となります。
保険料は、4月1日から翌年の3月31日までの1年間に雇用している全ての労働者に支払った給料の総額を元に保険料を算出されます。
労災保険の特殊性について
このブログをご覧のあなた様の会社が、万が一労働者を雇用しているけど、労災保険に入っていないのであれば、これからお話する内容は、是非知っていただきたい内容となります。
もし、法律通りに労災保険に加入しているのであれば、お知り合いの経営者の方で労働者を雇用しているけど、労災保険に入っていない方がいれば、これからお話しする内容を、是非お伝え頂きたいと思います。
繰り返しになりますが、労災保険は、労働者を1人でも雇用した場合には、原則全ての会社が加入しなければいけない制度となります。
日本には、労働者を雇用している会社は無数にあります。
つまり、理屈上は、それら全ての会社は、労災保険に加入していなければいけないこととなります。
しかし、現実には、労働者を雇用しているけど、労災保険に加入していない会社があります。
ところで、労災保険に加入すべきにも関わらず、労災保険に加入していない会社の多くが、中小零細企業となってきます。
労災保険に加入しない理由は、「保険料を払う余裕がないし、なかなかそこまでお金を回すことができない。」あるいは「うちの会社は、社員数が少ないから事故なんてまず起きない。だから、保険料がもったいない」といった理由が多いようです。
しかし、このような考えは、大きな誤りです。
実は、労災保険料を節約する、支払いを抑えるという考えは、会社にとって何のメリットもありません。
メリットがないどころか、実は大きなリスクを背負うこととなってしまいます。
その点をこれからお話していきたいと思います、
労務管理において保険制度は、先程も言いましたように雇用保険や健康保険、介護保険、厚生年金保険があります。
また、民間でも保険と名の付くものは、火災保険、自動車保険、傷害保険、生命保険と数多くあります。
ところで、これは、誰でも知っていることですが、保険というのは、保険へ加入していなければ、絶対に保険給付を受けることはできません。
例えば、家を新築して、明日火災保険の契約をする予定だったにもかかわらず、不幸に今日家が燃えてしまった場合、今日の時点では、火災保険に加入していないわけですから、非常に気の毒ではありますが、絶対に火災保険から保険金が下りることはありません。
いくら明日契約するつもりだったと言っても、保険制度に加入していないのであれば、絶対に保険金を受け取ることができない、これは当たり前のことかと思います。
実は労災保険は、その点が違います。
労災保険は、労働者保護の目的であるために、労働者が雇用されている会社が、労災保険に入っていなくても、万が一労働者が、業務上の怪我等を負った場合には、その労働者の申請によって、労災保険から保険給付を受けることができます。
労災保険は、このような制度なのです。
ところで、私がセミナー等で、このお話をすると、経営者の方は、逆にこのように言われます。
「労災保険に加入しなくても、保険給付を受けることができるのであれば、わざわざ保険料を払って、労災保険に加入する必要なんてないのではないですか?」
気持ちはそのように思われるかと思います。
確かに、労災保険に加入しなくても、労災保険から保険給付を受けることができれば、真面目に保険料を払って労災保険に加入している企業は、馬鹿をみる形となります。
しかし、当然法律は、その点を考えています。
その点を、具体的な事例を基にご説明していきたいと思います。
例えば、ある飲食店を営んでいる会社が、労働者を4名雇用していて、それぞれ月に20万円の給料を払っていて、労災保険に加入していなかったとします。
ある従業員が、厨房で作業中に、床が濡れていたため、滑って転んでしまって、腰の骨を折る事故が発生したとします。
業務中の事故が原因でケガをしたわけですから、労災保険の対象となります。
会社としては、労災保険に加入していないのですが、先程も言いましたように、労災保険は、労働者保護の制度のため、申請することによって、その労働者は、労災保険の給付を受けることができます。
しかし、このような場合は、労災保険は、会社に対して保険給付した金額に対して一定額を請求することができます。
具体的には、故意や重大な過失によって労災保険に加入していない会社で、労働者が、労災事故に遭って、保険給付された場合には、労災保険は、その労働者に対して支払った保険金のうち最大100%をその会社へ請求することができるとされています。
なお、その請求する金額の中には、治療費や介護に関する保険給付は除かれるとされています。
ですから、請求の対象となるのは、休業や障害、遺族補償が対象となります。
例えば、ケガをした労働者が、一定期間休業したために休業補償が支給され、さらに障害が残ったために、障害補償が支給され、それに対する会社に請求する金額が、もし500万円だった場合には、会社は、この金額を払わないといけなくなります。
なお、業務中のケガですから、健康保険を使うこともできません。
さらに、もっと大きな事故の場合には、請求額が1,000万円、最悪死亡事故の場合には、請求金額が、何千万円にのぼる可能性も否定できません。
もし実際にこのようなことが起ってしまえば、会社は、倒産の危機に見舞われてしまうかもしれません。
しかし、この会社が、もし法律通りに労災保険に加入していた場合には、そもそも支払うべき保険料は、いくらだったのでしょうか?
先程も言いましたように、労災保険の保険料は、4月1日から翌年の3月31日までの1年間に雇用している労働者に払った給料を基に算出されます。
具体的には、1年間の給与総額に、業種ごとに定められている保険料率をかけて算出します。
年間の給与総額は、4人×20万円×12ヶ月=960万円となります。
令和3年度の飲食店の保険料率は、3/1000ですので、年間の保険料は、960万円×3/1000=28,800円となります。
1ヶ月当たり、2,400円となります。
決して高い金額ではありません。
社有車を1台保有している場合に、1ヶ月にかかる自動車保険料より、はるかに安い金額となります。
実は労災保険料というのは、もちろん業種にもよりますが、決して高い金額ではありません。
そんなに高い金額でもないにも関わらず、厚い補償を受けることができるわけです。
もしこの会社が労災保険に入っていて、年間28,800円の保険料を納めていれば、500万円もの金額を請求されるということはないわけです。
いかに労災保険の保険料を惜しむことが、会社にとって何のメリットもないということがよく分かるかと思います。
このように、労災保険に加入しないことは、会社にとって何のメリットもないですし、それ以上に大きなリスクを背負ってしまうこととなりますのでご注意下さい。
まとめ
労働者を雇用した場合には、労災保険に加入する、実はこれは経営を安定化させるためには、非常に重要なこととなります。
労災保険は、保険料の割には補償が非常に充実していると言えます。
ですから、繰り返しになりますが、もしこのブログをお読みのあなた様の会社が、万が一労働者を雇用しているけど、労災保険に加入していないのであれば、すぐに労災保険に加入して下さい。
そして、お知り合いの会社で、労働者を雇用しているけど、労災保険に加入してない会社があれば、今回お話したような危険なことが起こるかもしれないということを是非お伝えしていただければと思います。