裁判例より固定残業制度の危険を考える

一定時間の残業代を、あらかじめ定額で支払う、固定残業代制(又は定額残業制)と呼ばれる制度は、様々な業界、会社で導入されています。

 

しかし、固定残業制は、一定のルールを守らないと適法とはされず、多額な残業代不払いが発生してしまう危険があります。

 

また、ブラック企業による「制度の悪用」が後を絶たないため、裁判例では厳しい態度が示され続けています。

 

今回は、裁判例を基に固定残業制について解説したいと思います。

 

固定残業制が適正になるには、ルールを守る必要があります

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朝日新聞の記事によりますと、ネットカフェ大手「マンボー」の元社員が、同社に未払い残業代の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は、制裁金を含め1,200万円の支払いを命じました。

 

この事案のポイントは、会社側の「給料の内訳が、残りの半額が、基本給で残りの半額が固定残業」と主張が認められなかった点にあります。

 

労働基準法では、労働者に対して法定労働時間を超えて労働させた場合には、法律で規定された割増賃金を支払う必要があります。

 

 

ところで、割増賃金の支払いは、一般的には、法定労働時間を超えた時間外労働時間に対して支払われますが、労働基準法では、割増賃金の支払い方そのものの規定が無いため、今回の事案のように予め一定額の時間外割増賃金を支払う、いわゆる固定残業による支払いそのものは、違法とはされていません。

 

しかし、固定残業制度の全てが適法とされるわけではありません。

 

固定残業制度が適法とされるには、守るべきルールに則って運用される必要があります。

 

もし、正しく運用されなければ、今回の事案のように固定残業制度が適法と認定されず、その結果として多額の残業代の不払いが生じてしまうこととなってしまうのです。

 

 

では、固定残業制度が、適法とされるには、どのようなルールを守らなければならないのでしょうか?

 

まず、固定残業制度を行うには、その旨を就業規則等に明記する必要があります。

 

固定残業制度を導入する場合、営業手当等の何らかの手当てを固定残業代とする方法と基本給の一部を固定残業代として支給する方法が一般的です。

 

何らかの手当てを固定残業と支給するのであれば、○○手当を固定残業代とする等の規定を就業規則等へ明記する必要があります。

 

もし、就業規則等への明記がなければ、いくら経営者が、「この手当は残業代として支給している」と主張しても、認められないこととなります。

 

 

また、基本給の一部を残業代として支給するのであれば、何時間分に相当する額が残業代であるのかをはっきりと明記する必要があります。

 

つまり、固定残業制度が適法と認められるか否かの大きなポイントが、支払われる給料のうち、固定残業として支給される額が、はっきり区別でき、そして、の旨が就業規則等に明記されている必要があります。

 

今回の判決では、「入社面接時に給与のどの部分が固定の残業代か説明をせず」とありますように、基本給の一部が残業代として支給されていたようですが、まさに、その区分が不明確であったために固定残業が適法とみなされなかったと言えます。

 

なお、この記事においては就業規則等の明記については触れられていませんが、これまでご説明してきましたように、固定残業制度が、適法とされるためには、就業規則等への明記は必要不可欠な要件です。

 

 

また、固定案業制度でよく経営者の方がから「もし、残業がなかった場合には、固定残業代は、支給しなくても良いのですか?」といった質問を受けます。

 

固定残業制度は、残業代として予め一定額の支給を約束するものです。

 

ですから、「残業時間が無かった」あるいは「残業時間が、支給額相当時間より少なかった」という理由で固定残業代の支給額を変えてしまうのと、そもそも固定残業制度では無くなってしまいます。

 

もし、月によって固定残業代の額が変わるのであれば、当然、適法な固定残業代制度とは言えなくなってしまいます。

 

従って、残業が全く無い月であっても、決められた額の固定残業代を支給する必要があります。

 

 

また、月によっては、実際に残業した時間で計算した割増賃金が、固定残業代では不足する場合もあります。

 

実は、この点が、固定残業制度を適法にするためのもう1つの大きなポイントとなります。

 

もし、固定残業代に不足が生じた場合には、その不足分を支給する必要があります。

 

つまり、固定残業制度を導入しても、毎月時間管理をしっかり行い、不足が生じた場合には、不足額を支払わなければならないのです。

 

 

固定残業制度の場合、固定残業代の額が、実際の残業代の額より上回っていっても、固定残業代の額を減らすことができませんが、固定残業代の額が、不足していた場合には、その不足額を支給しなければならない、という少し理不尽に思えますが、固定残業は、このようなルールを守って初めて適法となるのです。

 

先に述べたように、固定残業制度そのものは、違法でありませんが、近年、裁判例等を見ても固定残業制度に対して非常にシビアとなってきています。

 

固定残業制度は、誤った方法運用してしまうと、今回の事案のように多額の残業代不払いが生じてしまう可能性ありますのでご注意下さい。

 

 

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