知って得する就業規則の作成7つのポイント
就業規則を作成する場合に、少し視点を変えたり、ちょっとした1文を加えるだけで会社のリスクを大きく減少させることが出来る場合があります。
本ブログでは、就業規則を作成する際に、知っておくと得をするいくつかのポイントをまとめてみました。
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知って得する就業規則作成のポイント① 入社時等の提出書類の充実
従業員とのトラブルを防ぐために、最も有効な手段は、雇用する時に、いかに優秀な従業員を採用するかです。
ただ、これは当たり前のことですが、人材不足と言われる現在の状況で、中小企業にとっては、従業員を選ぶという余裕は無いと言えます。
ですから、「優秀な従業員を雇用する」ということを目標にするのは、それはそれで正しいことなのですが、それと同時に「いかに問題を起こさない従業員を雇用するか」という視点も持つことが重要と言えます。
実際、雇った従業員が優秀かどうかは、働かせてみないとわからないところがありますが、問題を起こしそうな従業員を雇わない、ということはある程度可能となってきます。
そのために、まず考えるべきことは、入社選考や入社後に提出させる書類の充実です。
入社面接の場合は、履歴書を持参させ、それに基づいて面接をすることが多いと言えますが、そもそも履歴書は、本人が書くわけですから、極端な話し嘘や偽りを書くことも可能です。
もちろん、入社後に、履歴に重大な偽りがあった場合には、解雇することも可能ですが、しかし、一度、従業員を雇用してしまうと、労働基準法等の制限を受けてしまうので、労力と時間がかかってしまいます。
ですから、履歴書の他に前の会社での退職証明や厚生年金保険の加入履歴等を提出させると良いでしょう。
また、運転免許証は、入社後に提出させる場合が多いのですが、例えば、ドライバーで雇った従業員が、いざ仕事をさせようとしたら、免停だった、というケースも考えられますので、入社選考の段階で運転免許証の提出を求めることも必要となってきます。
ただ、ここで注意しなければならないのは、これらの書類は個人情報にもかかってきますので、提出させるには、その根拠が必要となってきます。
重要なのは、就業規則に、入社選考時や入社後に提出させる書類を、いかに問題を起こさない従業員を雇用するか、という視点で記載することです。
そして、可能な限り、記載しておけば良いと思います。
と言うのは、「場合によっては、一部の書類の提出を省略する場合がある」といった一文を入れておけば、従業員ごと提出させる書類を選ぶことが出来るからです。
つまり、書いてあれば省略することもできるのですが、書いて無ければ、提出させる根拠が無くなってしまうからです。
就業規則には、可能な限り提出書類を記載することが重要なポイントとなってきます。
知って得する就業規則作成のポイント② 試用期間について
試用期間は、雇った従業員の能力や技術力等が正社員にふさわしいか、判断する期間として多くの会社で導入されています。
しかし、この試用期間に関して、多くの経営者の方が、試用期間中に従業員の能力や技術が不足していた場合に、無条件で試用期間終了後に、退職させることができると勘違いしています。
試用期間についての詳しい説明は、ここでは割愛させていただきますが、たとえ試用期間であっても、試用期間終了後に正社員にしないということは、解雇に該当します。
ですから、解雇するには、それなりの理由が必要となってきます。
つまり、「試しに雇ってみただけだから、試用期間が終われば無条件に解雇することができる」というわけにはいかないのです。
イメージとしては、正社員を解雇する場合より、若干、解雇が認められやすい程度と思っていただければ良いでしょう。
さて、この試用期間ですが、試用期間を設けるのは、就業規則に定める必要があります。
試用期間の長さについては、特別法律の定めがありませんので、会社が自由に決めることができるのですが、あまりに長すぎると、従業員にとって不安定な身分の期間が長期にわたってしまうので、3ヶ月から6ヶ月程度が無難と言えます。
そして就業規則において、試用期間を定める時に、最も注意することが、正社員に本採用しない場合の理由をより具体的に記載することです。
先程も書きましたが、試用期間であっても、正社員にしないということは解雇に該当します。
解雇において、いかに解雇規定が具体的に書かれているという点は、非常に重要視されます。
ですから、試用期間でも同じ考え方がされ、正社員に本採用しない場合の理由が具体的に書かれていればいるほど、その正当性が認められる可能性が高くなります。(ただし、あくまで可能性が高まるのであって、具体的に記載されていても、正当性が、否認される場合もあります。)
市販されている、モデル就業規則では、単に「能力や技術が不足している場合に、正社員にしない場合がある」とだけ書かれている場合が多いのですが、トラブルを防止するためには、正社員に本採用しない場合の理由をより具体的に記載することをお勧めします。
以下に参考例を記載しておきますので、ご参考になさって下さい。
試用期間中の従業員が次の各号に該当し、従業員として不適当であると認めるときは、会社は採用を取り消し、本採用は行わない。ただし、改善の余地がある等、特に必要と認めた場合には会社は、その裁量によって試用期間を延長し、解約権を留保することがある。
①遅刻及び早退並びに欠勤が多い等出勤状況が悪いとき
②上司の指示に従わない、同僚と協調性がない、やる気がない等勤務態度が悪いとき
③必要な教育は施したが会社が求める能力に足りず、また改善の見込みも薄い等能力が不足すると認められたとき
④経歴を偽っていたとき
⑤必要な書類を提出しないとき
⑥健康状態が悪いとき(精神の状態を含む)
⑦当社の社員としてふさわしくないと認められるとき
⑧その他上記に準じる、又は解雇事由に該当する場合
知って得する就業規則作成のポイント③ 休職期間の開始時期について
うつ病等の患者の増大で、休職規定は、今後、益々会社にとって重要な位置付けとなってきます。
従って、休職制度を定める場合に、いくつか注意すべきポイントがあります。
まず、第一に考えなければならないのは、休職となるまでの期間です。
通常、病気や怪我で休職制度を利用する場合には、一定期間、働くことができない状態が続き、そしてしばらく回復の見込みが無い場合に、休職となります。
休職制度は、元々、法律的には、会社に求められた義務ではないので、制度の内容は基本的には、自由に決めることができます。
従って、病気や怪我を患ってから、休職となる期間も、会社が任意に定めることができます。
この休職となるまでの期間ですが、一般に市販されているモデル就業規則では、病気や怪我で欠勤状態が、1ヶ月間続いた状態で休職となる、と規定されているものが多いです。
ところで、休職は、必ずしも従業員が取得を希望する場合だけではなく、従業員は、その意志がなくても、会社が、従業員に休職を命じる必要がある場合もあります。
そのような場合、「欠勤状態が1ヶ月続いた場合に休職となる」というような規定ですと、1ヶ月欠勤状態が続かなければ、休職を命じることが出来ないこととなります。
もし、20日欠勤した後復帰し、また欠勤してまた復帰するというようなことを繰り返されると、業務に支障が出てくる可能性があります。
ですから、中小企業の場合には、就業規則に休職制度を定める場合に、休職となるまでの期間を2週間程度にする方が良いでしょう。
また、必ずしも連続する場合だけでなく、断続しても、トータルで欠勤した期間が、2週間になった場合も、休職となるような定め方をする方が、会社にとってリスクが少なくなると言えます。
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知って得する就業規則作成のポイント④ 休職制度の復職について
休職制度において最も難しい問題は、復職時だと言えます。
従業員が、病気や怪我が回復すれば、従来の仕事に戻ることとなります。
しかし、休職期間が満了しても、従来の仕事ができるまでに回復しなければ、通常は、自然退職となります。
そのため、従業員は、完全には回復していなにも関わらず、休職期間満了前に、復職を希望する場合があります。
このような場合、多少不安はあるものの、しばらくすれば従来の状態に戻ることが、ある程度予想できれば良いのですが、場合によっては、従来の仕事ができるまでには、とても回復しているとは思えない場合もあります。
病気や怪我の場合、医療的な問題となるので、会社では、判断が難しいケースが十分考えられます。
このような場合、復職が可能かどうかの判断に大きな影響を及ぼすのが、医師の診断書です。
経営者の方は、医療の専門家ではないので、医師の診断にある程度頼らざる得ないのが実情です。
この場合、従業員が、診察を受けている医師の診断書だけですと、必ずしも正確な判断が出来ない場合があります。
従業員が診察を受けている医師では、従業員がどのような業務に就いているのかを正確に把握することが難しく、どうしても従業員の意向に沿った診断書となってしまう可能性が捨てきれません。
つまり、従業員が、復職したいがために、まだ完全に回復していないにも関わらず、「回復した」と医師に告げれば、その通りの診断内容となってしまう場合もあります。
ですから、復職時には、従業員からの診断書だけではなく、時には、会社が指定する医師の診断も受けさせる必要があります。
ただ、単に会社が指定する医師の診断を受けろと命じても、従業員が、拒否する場合も当然考えられます。
そのため、就業規則に、「復職時には、会社が指定する医師の診断を受けることを命じることがあり、従業員は、これは拒んではいけない」といった規定を盛り込んでおく必要があります。
これは休職規定に限ったことではないのですが、従業員に何かを命じた場合に、それを従業員が素直に受け入れてくれればいいのですが、全ての従業員が、そうとは限りません。
必ず異論を言う従業員が出てきます。
そのような時に、命令できる根拠があるということは、労務管理を行う上で非常に重要なこととなってくるのです。
就業規則とは、「会社が従業員に命じる事ができる根拠」の積み重ねでもあります。
知って得する就業規則作成のポイント⑤ 定年について
数年前に、定年に関する法律が改定され、現在、定年に関する基準は少し複雑となっています。
ところで、就業規則において、定年に関しては、必ず記載しなければならない事項とされています。
ですから、就業規則の定年の条項に関しては注意が必要となってきます。
現在の法律では、会社は、従業員を65歳まで雇用する義務が課せられています。
ただ、ここで注意しなければならないのは、定年自体を65歳にする必要はありません。(もちろん、定年を65歳にしても全く問題ありません。)
これはどういうことかと言いますと、法律が、改正される前までは、定年は、60歳と定められていました。
現在も、定年自体の年齢は、60歳でも法律上は、問題ありません。
ただ、60歳以降も65歳までは、雇用を維持しなければならないと法律が改正されました。
つまり、60歳以降は、雇用さえ維持できれば、賃金や、労働条件を下げても基本的には問題ありません。
少し専門的になってしまいますが、60歳の定年で、一旦、退職して、翌日から、新たな雇用契約を締結する、という形になります。
一般的に、「継続雇用制度」と言われています。
新たな雇用となるわけですから、新たな労働条件で雇用契約を結ぶことが出来るというわけです。
さて、就業規則の記載の方法ですが、もし、定年を65歳と定めてしまうと、65歳までは正社員としての身分が保障されることとなるの、60歳になったからといって、賃金等の労働条件を下げることが出来なくなってしまいます。
もちろん、定年が65歳になれば、従業員にとっては、安定的な身分が、5年間延びるわけですから、それはそれで良いのかもしれません。
しかし、一度、65歳に定年を定めてしまうと、後になって、継続雇用制度に変更しようとすると、従業員にとっては、不利益な変更となってしまうので、会社が、一方的に変更することができなくなってしまいます。
65歳定年と継続雇用制度のどちらが、良い悪いではなく、それぞれの意味をしっかり理解した上で、就業規則に定めることが重要なのです。
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知って得する就業規則作成のポイント⑥ 手当不支給について
多くの会社では、給料に基本給の他に様々な手当が支払われています。
ところで、法律では、手当に関しての特別な制限が無く、手当の額や支払い方法は、会社が任意に定めることができます。
ですから、例えば、通勤手当を支払う場合に、会社から自宅までの直線距離に応じて支給しても、実際の通勤手段に応じて支給しても、会社がその支給の方法を自由に決めることができます。(もちろん、公平性が保たれているのが前提です。)
ところで、会社は、長い年月の中で多くの従業員を雇用します。
その中には、何らかの理由で就業規則に定められている、手当を支給しないで雇用する場合も考えられます。
これは、実際に私が経験したことなのですが、就業規則に通勤手当の定めがあったのですが、従業員との話し合いで、基本給のみの給料で合意しました。(実際には、基本給の額が、通常より多く、通勤手当の額も含んでいる形でした)
しかし、その従業員が退職後、通勤手当の支給を要供してきたのです。
入社する時には、会社と従業員との間で、基本給のみで合意していたので、理不尽な要求に思えます。
しかし、結論から言いますと、いくら入社する時に通勤手当は支給しない、という合意があっても、会社は通勤手当を支給する必要があります。
少し専門的な内容になってしまいますが、入社する時に、会社と従業員との間で給料や労働時間についての取り決めを雇用契約(又は、労働契約)と言います。
就業規則の内容と雇用契約の内容のどちらを優先するかと言いますと、実は、就業規則の内容を優先するのです。
つまり、少し難しい表現になってしまいますが、就業規則の内容に劣る雇用契約は、その部分において無効となります。
先の例で言えば、就業規則に通勤手当を支給する定めがあるわけですから雇用契約で通勤手当を支給しないという約束は、たとえ従業員との合意があっても、それは無効となってしまうという考えなのです。
ですから、このような事態を防ぐために、就業規則自体に、「各手当については、雇用条件等により支給しない場合がある。」という規定を盛り込んでおけば、手当を支給しない場合でも、就業規則の内容に劣ることが無くなると言えます。
このように、わずか一文ですが、少し工夫をすることで、無用なトラブルを防ぐことができますので、ご参考になさって下さい。
知って得する就業規則作成のポイント⑦ モデル就業規則の注意点
現在では、就業規則に関する書籍等が多数販売されていて、またインターネット上でも、モデル就業規則等が簡単に取り出すことができます。
ですから、経営者ご自身でも就業規則を作成することは可能です。
しかし、モデル就業規則を利用する場合にはいくつか注意すべき点があります。
まず、就業規則には労働基準法等の法律の制限を受ける部分と基本的には法律の制限を受けない部分があります。
労働基準法等の法律の制限を受けるものとしては、労働時間、休憩時間、有給休暇などがあります。
その一方で、法律の制限を受けないものとして、服務規程、休職制度、慶弔休暇、解雇規定などがあります。
ところで、モデル就業規則を利用する場合に、この法律の制限を受ける部分と受けない部分とをしっかり区別することが重要です。
つまり、経営者自身が、ある程度法律の知識が必要となってきます。
例えば、慶弔休暇については、本来は、会社に求められた義務ではありません。
ですから、就業規則に、慶弔休暇を定めなくても法律上全く問題ありませんし、また仮に慶弔休暇を定める場合でも、その日数や親族の範囲も自由に決めることができます。
しかし、モデル就業規則を使って就業規則を作成する経営者の方が、よく勘違いすることなのですが、慶弔休暇は、モデル就業規則に書かれている日数を与えなければならない、と思ってしまうのです。
つまり、モデル就業規則に書かれている内容は、そのまま使わないと法律違反となってしまうと誤解し、先程書きました慶弔休暇の他に休職制度の休職期間や服務規程や解雇規定の内容もモデル就業規則の内容をそのまま引用してしまうケースが非常に多いのです。
もちろん、それ自体は、決して間違った事ではないのですが、通常、モデル就業規則は、ある程度の規模以上の企業を想定して作成されている場合が多いので、中小企業がそのままの内容を自社の就業規則に使ってしまうと負担が大ききなってしまう場合が、十分想定されます。
さらに、注意しなければならないのが、一度、就業規則に定めてしまうと、従業員にとって既得権となってしまって、会社が、一方的に変更することができなくなってしまいます。
このようにモデル就業規則を利用する場合には、法律がどこまで要求しているのかをしっかりと理解した上で利用する必要があります。
まとめ
今回のブログでは、就業規則を作成する場合に、知っておくと役立つポイントをご紹介しました。
就業規則を作成する場合に、条文の表現を少し変更したり、1文を追加するだけで、効果が大きく高まる場合もあります。
また、今回ご紹介した以外にも、就業規則に有益な事項は、まだ多数あるかと言えます。
就業規則は、一度作成したら、そこがゴールではなく、作成後であっても、有益な事項が出てきたら、その都度、追加、修正していく必要があります。
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