傷病手当金 丸ごと解説 -2-
今回は、傷病手当金の支給額と支給期間についてご説明したいと思います。
傷病手当金は、いくらもらえるのか?この点に関しては、実際に会社を休業して、収入がなくなった場合には、非常に関心が高い事項となるかと思います。
また、支給期間に関しては、2022年に法律改正があり、労働者にとっては非常に有利な制度に改正されました。
病気やケガ等で会社を休業せざる得ないときにおいては、傷病手当金は、労働者にとっては非常に重要な制度となってきます。
ですから、経営者、事務担当者の方も傷病手当金について、正しい知識を持つことは、労務管理において重要なことと言えますので、是非最後までお読み下さい。
傷病手当金の支給額
では、傷病手当金の支給額についてご説明したいと思います。
傷病手当金の支給額は、給与額の約67%となります。
ただし、この書き方は正確ではありません。
実際には、傷病手当金は「標準報酬月額」を基に計算されます。
標準報酬月額とは、健康保険に加入している方の給与を基に、それぞれ設定されているものです。
ただし、今回はその標準報酬月額の詳細な説明は割愛させていただきます。
もしご自身の標準報酬月額がいくらなのか知りたい場合は、ご自分の会社の給与計算を行っている部署にお尋ねいただければと思います。
そして、その標準報酬月額に支給率を掛ける計算式があるのですが、計算式が非常に複雑で、詳細を説明すると難しくなります。
ですので、今回は大まかに給与額の67%と理解していただければと思います。
ところで、この支給額について注意すべき点があります。
それはどういうことかというと、傷病手当金を受給するには、労務不能であることが前提となります。
労務不能であれば、当然会社に行くことはできなくなります。
通常、会社に行かなければ給与は発生しませんが、有給休暇を取得したり、会社が恩恵的に給与を支払ったりする場合があります。
このような労務不能の日に、給与が支給された場合には、傷病手当金の取り扱いには注意が必要です。
労務不能の日に、給与が支給されるケースは、2つのケースが考えられますので、それぞれ具体的にご説明したいと思います。
まず、支給された給与報酬の額が傷病手当金より大きい、または同額の場合です。
その場合、傷病手当金は、支給停止され、全く受給することができなくなります。
傷病手当金は1日の支給額を計算し、休業した期間に応じて支給されるのですが、例えば、傷病手当金の日額が7000円、給与の日額換算が8000円だった場合、このケースでは給与額の方が多いため、傷病手当金は支給されません。
次に、給与が支給されたが、その額が傷病手当金より少ない場合です。
この場合には、差額が支給されることとなります。
このケースは実際によく起こります。
例えば、給与が支給される際、様々な手当が含まれることがあります。
代表例として家族手当があります。
家族手当は、家族がいることで支給されるものとして考えられます。
例えば、業務外の病気や怪我で労務不能となり、半月間会社を休んだとします。
ところで、家族手当は、会社を休んだとしても、家族が減るわけではないので、月額で決められている場合が多いです。
もし家族手当の額が、月額3,000円と決められていた場合、半月間会社を休んだとしても、家族手当は、全額の3,000円が支給されることとなります。
ところで、月額3,000円ということは、日額に換算すると、3,000円÷30日=100円となります。
もし傷病手当金の日額が7,000円とすると、1日当たり、差額の7,000円-100円=6,900円が支給されることとなります。
ですから、傷病手当金の申請手続きをする場合、その申請期間内に給与が支払われていた場合には、このような取り扱いがされますので、ぜひ覚えておいていただければと思います。
ここで少し余談になりますが、こちらのブログでは、傷病手当金をもらうための条件として、①業務外の②病気やケガで③労務不能の状態であり、④待期期間が完成しているという4つの条件を満たしている必要があるとご説明しています。
ところで、傷病手当金について解説している動画やブログでは、この支給条件の中に「給与が支給されていない」という条件を含めて説明しているものもあります。
実際に、先程ご紹介したブログをお読みになった方の中には、「条件の中に給与が支給されていないという条件が含まれていないのでは?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかと思います。
ここについて少しお話したいと思います。
私は、先程ご紹介したブログでは、傷病手当金の支給条件の中に「給与が支給されていない」ということを入れませんでした。
実は、私は、傷病手当金の支給条件に、給与の受給の有無を入れても入れなくても、どちらも正しいと考えています。
その理由は、これは考え方の問題なのですが、この支給条件を傷病手当金を実際に受給するための条件として捉えた場合には、給与が支給されていなければ、傷病手当金は受給できないこととなりますから、「給与が支給されていない」という条件を入れることとなります。
しかし、この支給条件を、傷病手当金をもらうための権利が発生する条件として捉えた場合には、傷病手当金の支給条件は、あくまで先程ご紹介した四つの条件だけであり、給与が支払われても傷病手当金をもらう権利自体はなくなりません。
つまり、四つの条件を満たしていれば、仮に給与が支給されていても、傷病手当金をもらう権利自体は発生するということです。
そのため、法律でも「支給停止」という言葉が使用されています。
このように、傷病手当金の支給条件を「実際にお金をもらうための条件」と捉えるか、もしくは「権利の発生条件」と捉えるかで、考え方が異なってくるかと思います。
私は後者の「傷病手当金をもらう権利が発生するための条件」として捉えていますので、支給条件の中に「給与が支給されていない」という条件は入れていません。
この点につきましては、ご理解いただければと思います。
傷病手当金の支給期間について
では、次に傷病手当金の支給期間についてご説明したいと思います。
傷病手当金は、いつまで受け取ることができるのか?についてですが、実は、支給期間につきましては、2022年4月に法律が改正されました。
改正前の取り扱いでは、傷病手当金は支給開始日から1年6ヶ月経過した時点で支給が終了するという制度でした。
ですから、支給開始日から1年6ヶ月の間に傷病手当金を10日しかもらっていなくても、1年6ヶ月が経過した時点で支給期間は終わってしまう、という制度だったのです。
ただ、この制度では労働者にとってあまりにも不利益であるため、法律が改正され、現在は、支給開始日より、通算で1年6ヶ月間受け取ることができるようになりました。
これはどういうことかと言いますと、例えば、支給開始から6ヶ月間傷病手当金を受け、その後一旦会社に復帰し、半年ほど働いた後に再び体調が悪くなった場合、最初の6ヶ月間を受け取っているので、残り1年間(12ヶ月)分をもらうことができる、という考え方です。
ここで、一つ実務的なことをお話ししたいと思います。
休業期間が長期間にわたる場合、どこまで傷病手当金をもらうことができるのか不安に思われる方もいらっしゃると思います。
特に、途中で出勤していた場合には「通算で1年6ヶ月」がどこまでかが分かりづらいことがあります。
参考までに覚えておいていただければと思いますが、健康保険では一般的に1ヶ月を30日として計算します。
ですから、1年6ヶ月は、18ヶ月、すなわち18ヶ月×30日=540日分もらえるのかというと、実はそうではありません。
あくまで暦の日数で1年6ヶ月と計算します。
つまり、2月のように28日しかない月も1ヶ月、3月のように31日ある月も1ヶ月として計算しています。
ですから、大体540日前後にはなりますが、必ずしも540日になるとは限らないのです。
そのため、通算で1年6ヶ月がいつになるのかは分かりづらいかと思います。
この点に関しては、会社の管轄の都道府県の健康保険協会に確認すれば「あなたはいつまで傷病手当金をもらうことができるか」を教えてもらえますので、自分で調べる必要はありません。
ですから、長期間休業している方は、大体500日ほど経過した時点で、いつまで受け取ることができるのかを確認すれば良いと思います。
ここに関しては、経営者や事務担当者の方も覚えておいていただければと思います。
この点は従業員からよく質問を受けるところです。
ただし、経営者や事務担当者が健康保険協会に問い合わせても、個人情報のため教えてもらえない可能性が高いので、従業員本人に問い合わせてもらう必要があります。
しかし、このような情報を社員の方に伝えてあげれば喜ばれるかと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
まとめ
今回は、傷病手当金の支給額と支給期間についてご説明いたしました。
傷病手当金において、支給額と支給期間に関しては、多くの労働者が関心を持つ事項と言えます。
ですから、実際に傷病手当金を受給することとなった労働者から、支給額と支給期間については、質問が寄せられるケースが非常に多いと言えます。
従って、経営者、事務担当者の方が、傷病手当金はいくらもらえるのか?いつまでもらえるのか?支給額と支給期間に関して正しい知識を持っておくことは、労務管理上において重要と言えますので、是非今後のご参考になさって下さい。