シリーズ労災保険⑥ 出張時の通勤とは?

今回は、出張と通勤との関係についてご説明したいと思います。

 

多くの会社で、従業員の出張が行われているかと思います。

 

従業員が出張する場合、一度会社に寄って出張する場合もありますが、自宅から直接出張先へ向かうケースも多く見られます。

 

出張する場合、その形態によって通勤としての考え方が変わってきますので、労災保険において重要なポイントの一つとなってきます。

 

今回は、出張と通勤との関係についてわかりやすくご説明していきたいと思います。

移動について

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まず、最初に労災保険における通勤の移動について、移動の定義を確認したいと思います。

 

労災保険では、以下に書いてある3つの行為を合理的な経路および手段で行うことを移動と定義しています。

 

1. 住居と就業場所との間の移動。

 

2. ダブルワークなどの場合の、就業場所から他の就業場所への移動。

 

3. 単身赴任などの場合における、赴任先住居と自宅や帰省先住居の間の移動。(一定の条件があります。)

 

 

ここでは、「住居」という言葉が重要なキーワードとなります。

 

「住居」というと、単純に「住まい」だと思われるかもしれません。

 

しかし、「住居」とは、一戸建ての住宅もありますし、マンションやアパートのような共同住宅もあります。

 

それぞれの構造は異なります。

 

従って、「住居」と一言に言っても、その通勤はどこから始まるのかということが問題となります。

 

一戸建て住宅の場合は、通常、敷地があり、その中に建物が存在します。

 

従って、住宅の玄関を出てから道路に出る間には、通路や庭などがあるケースが多いと思われます。

 

 

では、「どこから労災保険の補償対象となるのか?」ということですが、これは結論から申し上げると、道路に出たところからが通勤と考えられています。

 

つまり、玄関を出て、通路や庭を通っている間に転倒した場合、労災保険の補償対象にはならないこととなります。

 

一戸建て住宅の場合においては、通勤とは、基本的には私有地(敷地)から出たところから始まります。

 

 

それに対して、マンションやアパートの場合ですが、マンションやアパートの居住者の場合、ドアを開けると共用通路があると思います。

 

マンションやアパートの場合には、通勤が始まる時点は、専用部分から出たところから、つまり共有部分に足を踏み入れたところからが、通勤と考えられます。

 

 

ただし、マンションでも、高級分譲マンションの場合には、一戸建て住宅のように、自分の居室の玄関を出て、共有の通路に行くまでに自分専用の通路がある造りのマンションもあります。

 

そのようなマンションの場合は、先程の一戸建てと同じ考え方となります。

 

マンションやアパートの場合は、あくまで、共有部分に出たところから通勤となりますので、併せて覚えておいていただければと思います。

 

労災保険における出張の考え方

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それでは、労災保険における出張の考え方についてご説明していきたいと思います。

 

出張というのは、多くの労働者が日常的に行っている行為となっています。

 

出張があった場合には、どの部分が通勤になるかということですが、出張の場合は、通常住居から出張先に行き、その出張先から住居へ直接帰る、ケースがほとんどだと思います。

 

労災保険では、このような出張の形の場合、住宅から出て、住宅に帰ってくるまでの間を全て業務とみなします。

 

つまり、上記のような出張の場合は「通勤がない」という形になります。

 

 

例えば、ある労働者が普段、住宅から歩いて近くの電車の駅へ行き、そこから次の駅まで電車に乗り、そこから歩いて就業場所へ行く、このような通勤をしているとしますと、

 

通常は住宅から就業場所までが通勤経路となります。

 

しかし、ある出張へ行った場合に、通常利用する駅からいつもとは反対方向に電車に乗って出張先に向かって、出張先から直接自宅に帰った場合には、通常は通勤経路となる自宅から駅までの間の移動も業務中となります。

 

従って、万一、出張中に自宅から駅までの間に事故などが起こり、労働者が負傷した場合には、通勤災害ではなく、業務災害として取り扱う形となります。

 

出張は、多くの労働者が日常的に行っており、非常に身近な問題となりますので、出張時の通勤に関する考え方を覚えていただきたいと思います。

 

事例のご紹介

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先程も言いましたように、出張は多くの労働者が行う行為であり、労務管理において非常に身近な問題となってきますので、理解をより深めていただくために、ここからは事例を紹介しながらより詳しく説明したいと思います。

 

食事中のケガ

まず、1つ目の事例ですが、労働者が、出張中に宿泊したホテル近くの居酒屋で夕食をとる際、店内で転んでしまい、ケガをしてしまった例です。

 

先程も申し上げた通り、出張中は基本的に全て業務時間と考えます。

 

日帰りの出張の場合では、住居から出て出張先に行き、再び住居へ戻ることが、全て業務であるというのは、感覚的に理解しやすいかと思います。

 

 

しかし、出張には、宿泊が伴う場合もあります。

 

宿泊をする場合、当然、夕食を取ったり、お風呂に入ったり、睡眠を取ったりします。

 

出張中であっても、自由な時間が当然出てきます。

 

例えば、出張先で業務を行い、その後夜ホテルにて宿泊する場合で、ホテルに着いてからが自由な時間だったとします。

 

基本的な考え方として、たとえ 自由な時間であったとしても、お風呂に入ったり、あるいは食事をしたり、睡眠を取るといった日常的に行われる行為は行われます。

 

労災保険では、日常的に行われる同じような行為に関しては、自由時間中の事故であったとしても、労災保険の補償対象とする、考え方をします。

 

従って、今回の事例のように宿泊先の近くの居酒屋で食事するという行為は、それだけを見れば日常の行為とさほど変わらないこととなります。

 

ですから、今回の事例のように宿泊先のホテルの近くの居酒屋で食事中ケガをした場合には、基本的には労災保険の補償対象となると考えられるかと思います。

 

 

しかし、日常的に行われる同じような行為であったとしても、どのような場合でも労災保険の補償対象になるかというと、実は必ずしもそうではありません。

 

ここをご理解していただくための、1つのキーワードをご紹介したいと思います。

 

それが、積極的私的行為です

 

 

出張中であれば、プライベート時間に起きた事故であったとしても、日常的に行われる同じような行為は、基本的には労災保険の補償対象となるのですが、たとえ、日常的に行われる同じような行為であっても、それが積極的私的行為に該当する場合は、労災保険の補償対象とはなりません。

 

例えば、先程の事例のように、夜宿泊先の近くの居酒屋で食事をしたとなれば、ごくごく普通の行為と言えますが、同じ食事でも、5キロ離れた先にすごく美味しいお寿司屋さんがあるから、今日はどうしてもそこのお寿司を食べたいといって、お寿司屋さんで食事を取るケースは、積極的私的行為に該当してきます。

 

というのは、そのお寿司屋さんに行くには,5キロも離れているわけですから、当然わざわざタクシーか電車に乗っていくこととなります。

 

「わざわざ」行くわけですから、この行為は積極的に私的行為を行うこととなります。

 

つまり、出張とは全く関係がない行為とみなされることとなります。

 

労災保険では、このような積極的私的行為中のケガ等については、補償対象とはなりません。

 

このような考え方をします。

 

 

ところで、積極的な私的行為は、必ずしも場所が遠いとか、そういうことだけではなく、近くの居酒屋で飲食した場合であっても、酔いつぶれてしまうほど飲んでしまった場合には、通常の行為を超えていますので、積極的な私的行為に該当すると考えられます。

 

このように、出張中のプライベートな時間に起きた事故でケガ等をした場合には、その行為が積極的な私的行為に該当するかどうかによって、労災保険の補償対象になるか否かが判断されます。

 

お土産を購入中のケガ

次にもう1つ事例で考えてみたいと思います。

 

労働者が出張から帰る際、会社の同僚にお土産物を買うために、駅近くの売店に入り、そこで足を滑らせてケガをしてしまったケースです。

 

お土産物を買うという行為は、よく考えてみると、日常的な行為ではありません。

 

お土産を買うという行為は、先程の事例の際に少し触れたように、食事をする、お風呂に入る、眠るといった行為と比べれば、積極的に私的な行為にあたると考えられます。

 

 

しかし、お土産を買うという行為は、出張に行った際に、多くの労働者が行っている行為で、どの会社でも日常的に行われています。

 

そのため、基本的な考え方としては、会社の同僚等にお土産を買う行為は、積極的に私的な行為にまでは該当しないとされています。

 

従って、今回の事例で言えば、労働災害保険の補償対象となると考えられます。

 

 

ただし、同じお土産を購入する行為であっても、帰りの電車に乗る駅から10キロも先に離れたお店へ、何か特別なお土産をわざわざ買いに行ったということになれば、積極的な私的行為に該当するという考え方になるかと思います。

 

つまり、同じお土産購入であったとしても、駅の近くであるから労災保険の補償対象となりますが、遠くのお店まで買いに行く行為となれば、労災保険の補償対象とならないという形になります。

 

基準は一概には定められていないため、労災保険の補償対象となる範囲は一概には言えませんが、このような考え方があるということを覚えておいていただければと思います。

 

まとめ

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今回は、労災保険における出張中の補償についてご説明しました。

 

基本的な考え方としては、出張は、住居を出てから住居に戻る間を全て業務中と考えます。

 

ですから、基本的には出張には通勤という行為はないこととなります。

 

 

また、出張中の自由時間におけるケガ等に関しては、日常的な行為と同じ行為中であれば基本的には労災保険の補償の対象となります。

 

しかし、日常的な行為と同じ行為であっても、積極的私的行為とみなされる場合には、補償の対象とはならなくなりますので、ご注意下さい。

 

 

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