シリーズ労働トラブル防止⑨ 就業規則だけが会社を守る
今回は、就業規則についてお話したいと思います。
就業規則は、労働トラブルを防止する上で必要不可欠なものとなります。
会社は、人間の集合体です。
人間は、それぞれ考えや思想を持っているため、それぞれの考えや思想に基づいて、自分勝手に行動してしまうと、当然、問題が起きてしまいます。
その結果、職場の秩序は乱れてきます。
そのため、人間が集まる会社には、当然一定のルールが必要となります。
それが、就業規則となります。
ですから、会社にとって就業規則は、非常に重要な事項となります。
今回は、就業規則の重要性と労働トラブルを防止する上で、是非知っておいていただきたいポイントをお話していきたいと思います。
就業規則の重要性について
実は、就業規則に関しては、重要なポイントがたくさんあります。
ですから、今後就業規則に関しては1つのシリーズをお届けしたいと思いますので、今回は、就業規則の重要性についての大枠についてお話していきたいと思います。
先程も言いましたように、人間が集まる所には一定のルールが必要となります。
もし、ルールがなければ、それぞれの人間が好きな勝手な行動をしてしまう、その結果秩序が乱れてトラブルが起こってしまいます。
ルールが必要ということを、例でお話してみたいと思います。
人間が集まる所は どういう所があるかと言いますと、大きな所で言えば、国がそうです。
例えば、日本には憲法、民法始め様々な法律があります。
我々は、その法律に従って日々の行動していく必要があります。
さらに、もう少し規模が小さいとこでは、学校です。
学校には、校則があります。
学校に来る時の服装とか時間の管理いろいろなことを決めておく必要があります。
また、マンションも人間の集合体と言えます。
マンションには、たくさんの人間が住んでいます。
もし、一定のルールがなければ、夜中に大きな音で音楽を聴いたりする住人や悪臭を放つペットを飼う住人が出てくる可能性もあります。
ですから、そのようなこととならないために、マンション規約等のルールが必要となります。
さらに、規模が小さいところでは、自治会があります。
自治会にも、自治会規約があります。
このように大小関係なく人間が集まれば、ルールが必要となります。
会社も人間の集まり、労働者の集まりですから、当然ルールが必要です。
それが、就業規則です。
労働者は、人間ですから様々な考えや思想を持っています。
労働者の個々の考えや思想で行動を起こしてしまえば、当然労働トラブルが発生してしまいます。
さらに、トラブルが起こってもルールがなければ、それを解決する根拠がないこととなってしまいます。
従って、就業規則がなければ、労働トラブルを防止することもできないし、起ったトラブルを解決できないこととなってしまい、職場環境の秩序の維持ができなくなってしまいます。
つまり、就業規則は労働トラブルを防止して秩序ある職場環境を維持するための根幹となってくるため、非常に重要な役割を果たすわけです。
多くの経営者の方が、憲法、民法、校則等のルールの重要性は認識しているのですが、ご自分の会社にとって就業規則の重要性をなかなか認識されない経営者もいらっしゃいます。
就業規則は、会社を守るために最も重要で適正な労務管理を行う上で必要不可欠であることを、まずここで確認していただければと思います。
就業規則と懲戒規定
就業規則の重要性について、少し別の点からお話したいと思います。
例えば、就業規則を作る場合に、通常その中に懲戒規定を設けます。
なぜ、懲戒規定を設けるかというと、労働トラブルを起こした労働者に対して、懲戒規定に基づいて何かしらの罰則(懲戒処分)を与えることによって、再発を防止したり労働者の意識を改善したりするためです。
また、他の労働者の手前の問題もあります。
問題を起こしても何も罰せられないのであれば、他の労働者も問題を起こしてしまう可能性も考えられます。
そのため、懲戒処分というのは、秩序ある職場環境を維持するために必要な行為となります。
ここで重要なのが、懲戒処分を行う場合には、根拠の重要性が問題となってきます。
これはどういうことかと言いますと、懲戒解雇等の裁判では、懲戒解雇等の懲戒処分をするのであれば、懲戒処分の規定があって当然という考え方をする傾向が非常に強いのです。
もちろん、懲戒規定があれば、全ての懲戒処分が認められるか?というと、必ずしもそうではありませんが、「そもそも懲戒規定がないのであれば、懲戒処分ができない。」という考えを裁判等では基本的にします。
ですから、懲戒規定というのは、懲戒処分を行う上では、なくてはならないものとなります。
懲戒規定は、当然就業規則の中に定めるものですから、就業規則は、その意味でも必要なものとなってきます。
従業員数10人未満の会社と就業規則
これはご存知かと思いますが、労働基準法では、常時雇用する労働者数が、10人未満の会社には、就業規則の作成義務を課してはいません。
つまり、従業員の数が、常に7、8人の会社は、就業規則を作らなくても、労働基準法の違反にはなりません。
では、そのよう10人未満の会社には、就業規則は必要ないのか?ということなのですが、
あくまでも法律上必要ないだけであって、たとえ10人未満の会社であったとしても、人間が集まる所には変わりありませんので、一定のルールが必要となります。
10人未満の会社であったとしても、ルールがなければ。労働者は、それぞれ勝手な行動をしてしまい、トラブルになってしまう可能性があります。
ですから、たとえ10人未満の会社であったとしても、一定のルール、つまり就業規則は、当然必要となります。
また、先程懲戒処分を行うなら、懲戒規定が必要不可欠と言いましたが、この考えは、就業規則の作成義務がない企業でも同じです。
例えば、労働者数が8人の会社で、ある労働者を懲戒解雇した結果、労働者から不当解雇と訴えられて裁判となった場合に、就業規則の作成義務がないから会社だからといって、先程のご説明した、懲雇規定の存在の重要性について考慮してくれるかというと、基本的にそのような考え方はされません。
つまり、たとえ労働者数が、10人未満の会社であったとしても、懲戒処分をして裁判等になれば、懲戒規定の存在が重要視されるということは、常時労働者数が、10人以上の就業規則の作成義務がある会社と同じように扱われます。
つまり、就業規則は、会社規模にかかわらず全ての会社にとって必要不可欠なものとなります。
就業規則だけが会社を守る
就業規則の重要性について、もう1つ別の視点からお話したいと思います。
会社は、労働者を雇用していますが、労働者を守る法律というのは労働基準法を始め、労働契約法、最低賃金法、労働者災害補償保険法と本当にたくさんあります。
では、会社、経営者を守る法律というのはどうでしょう?
実は、会社、経営者を守る法律というのは1つもありません。
しかし、会社、経営者を守るものが1つあります。
それが、就業規則です。
ところで、先程も言いましたが、労働者を守る法律は、たくさんあります。
しかし、法律というのは、労働者個人が作ることはできません。
法律を作るのは、国会です。
しかし、就業規則は、経営者自身で作ることができます。
実は、ここは非常に重要なポイントで、経営者自身が、就業規則を作ることができるということは、非常に大きなメリット、利点となります。
私は、よくセミナーでこの話をする時に、あまり良い例えではないのかもしれないのですが、こんなお話をします。
就業規則が、唯一会社を守るもので、その就業規則を作ることができるのは、経営者自身です。
経営者には、就業規則を作るという武器が与えられているわけです。
しかし、その権利を行使しないで、唯一会社を守る就業規則を作らないということは、戦場で武器や弾薬がたくさんあるのに、あえてそれを使わないで、素手で戦場に飛び込んで行くのと一緒です。
現在の労務管理においては、労働者の権利意識は、非常に強くなってきています。
さらに、インターネット等の普及で、労働者は、法律に関する知識を容易に入手することができます。
ですから、そのような非常に厳しい状況の中で、就業規則を作る権利を放棄してしまうということは、会社を経営していく上で非常に大きなマイナスとなってしまいます。
就業規則は、先程も言いましたように、会社の大小に関係なく必要です。
ですから、現在、御社に就業規則がないようでしたら、早急に就業規則を作成することをお勧めします。
また、就業規則も時間が経てば、現状に合わなくなってくるところも当然出てきます。
武器も時間が経てば、どんどん古くなってしまい、効力が期待できなくなってしまいます。
就業規則も同じです。
就業規則も定期的に見直すことにより、就業規則の効力を維持することができます。
ですから、就業規則を作成してかなりの時間が経っているのであれば、一度就業規則の見直しをお勧めします。
就業規則の周知について
就業規則に関して、労働トラブルを防止するために重要なポイントをお話したいと思います。
労働トラブルを防止する上で、就業規則の内容を吟味するということはもちろん重要なのですが、それとは全く別な次元で重要なポイントが1つあります。
労働基準法第106条において、就業規則の周知義務が定められています。
就業規則の周知義務とは、使用者は、就業規則を作成又は変更した場合には、適正な方法で労働者に周知させなければいけないとされています。
就業規則の周知は、労働トラブルを防止する上で非常に重要なポイントとなります。
というのは、就業規則は、作成しただけでは効力を有しないのです。
就業規則は、労働者に適正な方法で周知して、初めて効力を発するとされています。
ここで、注意が必要なのですが、就業規則を労働基準監督署に届出すれば、効力が発生うると思われている経営者の方が多くいますが、それは間違いです。
就業規則の労働基準監督署への届出は、あくまで労働基準法における手続き上の義務に過ぎず、就業規則の効力には全く影響を与えません。
ですから、就業規則を労働基準監督署へ届出し、労働基準監督署の受付印を押された就業規則であっても、適正な方法で労働者に周知されていなければ、全く効力を有していない、つまり、就業規則が存在していないことと同じ状況となってしまいます。
就業規則を作る目的は、労働トラブルを防止して、秩序ある職場環境を維持するためです。
そして、万が一労働トラブルが起こった場合には、その就業規則に書かれている内容によって解決をする、そして必要に応じて懲戒処分を行う、このようなために就業規則を作るわけです。
しかし、せっかく時間と労力をかけて作った就業規則を経営者の机の中にしまっておいてしまえば、いざ何か労働トラブルが起こって、その就業規則を机の中から持ち出して、労働者を懲戒処分しようとしても、周知義務を果たしていないわけですから、その就業規則は効力も持たず、何の役にも立たないこととなります。
ところで、有給休暇や割増賃金といった労働者の権利が、労働者にわかってしまうのが嫌だから、就業規則を労働者に見せたくないと考える経営者の方 いらっしゃるかと思います。
しかし、現在のようにインターネットが普及した情報化社会では、たとえ就業規則を労働者に見せなくても、労働者は、有給休暇や割増賃金等の労働者の権利についての情報は、で容易に入手することができます。
先程も言いましたように、就業規則は、会社を守る唯一のものです。
ですから、会社を守る唯一のものである就業規則が、効力を持たないというのは、非常に大きなデメリットとなってしまいます。
つまり、労働者の権利が知られてしまうより、就業規則を労働者に見せないデメリットの方が、はるかに大きいと思います。
就業規則の周知の重要性を正しくご理解していただいて、就業規則を作成、変更した場合には、必ず適正な方法で周知をすることを、是非覚えておいていただければと思います。
まとめ
繰り返しになりますが、会社は、人間の集合体です。
人間は、それぞれ考えや思想を持っているため、それぞれの考えや思想に基づいて、自分勝手に行動してしまうと、当然、問題が起きてしまいます。
その結果、職場の秩序は乱れてきます。
そのため、人間が集まる会社には、当然一定のルールが必要となります。
それが、就業規則となります。
ですから、就業規則は、労働トラブルを防止し、秩序ある職場環境を維持するためには、必要不可欠なものとなります。
そして、就業規則だけが、唯一会社を守るものです。
その意味で、就業規則は、適正な労務管理、会社発展において非常に重要な位置付けの者と言えますので、是非ご参考になさって下さい。