シリーズ労災保険⑩ え?社長も労災保険使えるの?
労災保険は、補償の対象を労働者に限定しているため、事業主や役員は、労災保険の対象とはなっていません。
しかし、中小企業の事業主や役員などの場合は、労働者と同様の仕事をしているケースが非常に多いため、業務中の事故によるけがのリスクが存在します。
そのため、労災保険では、中小企業の事業主や役員などが労災保険に加入できる制度を設けています。
これを特別加入制度と言います。
中小企業のリスクマネジメントにおいては、労働者だけではなく、事業主や役員などについても考えることは、重要なポイントとなってきます。
その意味で、特別加入制度は、中小企業の事業主や役員などのリスクマネジメントにおいて、重要な役割を果たしますので、
今回は、特別加入制度について分かりやすく、かなり細かい部分まで、ご説明したいと思います。
特別加入制度とは?
労働災害保険は補償の対象を労働者としているため、事業主や役員などが業務中にけがなどをした場合には、補償を受けることができません。
しかし、多くの中小企業の事業主や役員は、労働者と同じ業務に従事しているケースが多いため、事業主や役員などでも業務中のケガ等のリスクは高いと言えます。
そのため、労災保険では、中小企業の事業主や役員などが、労災保険の補償の適用を一部受けることができる制度を設けています。
それが、特別加入制度です。
特別加入は、事業主や役員などが、労働者と同一業務に従事している間にケガ等を負った場合に、労働者と同様の補償を行う制度です。
また、事業主や役員などが特別加入すると、業務中のケガ等だけではなく、通勤途中のケガ等に対しても、補償を受けることができるようになります。
ところで、事業主や役員などが特別加入すれば、どのような業務中の事故などによるケガでも補償を受けることができるようになるか、というと、必ずしもそうではありません。
補償を受けることができる条件が1つあります。
「労働者と同一の業務に従事中」という条件が付いてきます。
これはどういう意味かと言いますと、例えば、事業主であれば、事業主同士の会議、一般に言う経営者会議、このような会議に参加する場合があります。
このような経営者会議への参加は、経営者としての業務となってきます。
このような経営者としての業務は、労働者と同一の業務には該当しません。
例えば、経営者会議に参加中に、会場で転んでケガをした場合には、仮に特別加入していたとしても労災保険の補償の対象とはならなくなります。
このような考え方となります。
また、補償の対象とならないケースは別にもあります。
例えば、工作機械を作る会社の事業主が、特別加入していたとします。
ある時、納期が迫っていたため、労働者も午後8時頃まで残業したものの、その後はいったん帰宅させました。
その後、事業主が1人で残って仕事をしていて、翌日の午前1時頃に、仕事をしている際に何らかのケガをしたとします。
このような場合、労働者も工作機械を作る業務に従事しているわけですから、労働者と同一の業務に従事していたと思われるかもしれませんが、労働者が帰宅してから5時間以上たっていますので、これは事業主の責任として残って仕事をしていたと考えられます。
ですから、このようなケースでは、補償の対象にならない可能性が高いと言えます。
このようなケースの場合において、労働者が帰宅してから何時間まででしたら、補償の対象となるのか、基準が明確に定められていないので、一概には言えませんが、労働者が帰宅して5時間以上経過していれば、通常は労働者と同一業務に従事中とは見なされないケースが多いと言えます。
いずれにしても、特別加入した場合であっても、全ての業務中の事故に対して補償が受けられるわけではないことをまずご理解いただければと思います。
特別加入の区分について
ここでは特別加入の区分についてご説明したいと思います。
特別加入は大きく3つに区分されます。
1つ目が、中小企業事業主等が加入する特別加入です。
次に、一人親方や特定作業従事者、つまり1人で業務を行っている者を対象とする特別加入です。
そして最後に、海外派遣者です。
労災保険はあくまでも日本国内での事故などを補償の対象としており、労働者が海外で事故に遭った場合は、基本的には補償の対象とはなりません。
ですから、日本と同様に労災保険の制度が充実しているわけではなく、補償制度が不十分な国で仕事をする場合には、リスクが大きいので、特別加入の区分の1つとして海外派遣者を設けています。
なお、この海外派遣者は、転勤等により長期間海外で働く場合を想定していますので、出張等で一時的に海外に行く場合には対象としていません。
ですから、もし出張で海外へ行き、その間にケガ等した場合には、基本的には労災保険で補償を受けることができます。
中小事業主等が特別加入できる条件とは?
次に特別加入の各区分について、加入条件や注意点等をご説明したいと思います。
なお、3つの海外派遣者につきましては、ある程度イメージできるかと思いますので、今回は、ご説明を割愛させていただき、ここでは中小企業事業主等と一人親方等の特別加入についてご説明させていただきます。
まず、中小企業事業主等の特別加入についてご説明します。
中小事業主等とは?
「中小事業主等」と書かれていますので、特別加入できる前提として中小事業主等に該当する必要があります。
では、中小事業主等とは、どのような人のことを言うのかということですが、従業員数が業種ごとに定められている数以下の会社の代表者及び役員となります。
具体的には、
金融業・保険業・不動産業・小売業・・・従業員数50名以下
卸売業・サービス業・・・従業員数50名以下
上記以外の業種・・・従業員数300名以下
となります。
ですから、金融業を営んでいる会社で、従業員数が45名であれば、その会社の代表者や役員は特別加入することができますが、従業員数が60名の場合には、特別加入できないこととなります。
ところで、似たような区分に、中小企業の区分があります。
中小事業主等の区分と中小企業との区分では、何が違うかと言いますと、中小事業主等の区分は、あくまで業種と労働者数で区分しますが、中小企業の区分はそれに資本金または出資総額が加わります。
具体的には以下のようになります。
卸売業・・・資本金または出資総額が1億円以下または業員数が100人以下
小売業・・・資本金または出資総額が5千万円以下または業員数が50人以下
サービス業・・・資本金または出資総額が5千万円以下または業員数が100人以下
上記以外の業種・・・資本金または出資総額が3億円以下または業員数が300人以下
ここで注意すべき点は、資本金または出資総額か従業員数どちらかが該当していれば中小企業となります。
では、先程の中小事業主等の区分と比較してみたいと思います。
例えば、小売業の場合を考えてみたいと思います。
中小事業主等の区分で言えば、小売業の場合は、労働者数が50人以下という要件となります。
しかし、中小企業の区分の場合は、労働者数が50人以下または資本金(または出資総額)が5千万円以下という条件となります。
ですから、もし小売業で、労働者数が60人の場合は、中小事業主等には該当しませんが、資本金が3千万円であれば、中小企業には該当することとなります。
このように中小企業の区分と特別加入の場合の中小事業主等の区分は少し違いますのでご注意下さい。
労働者の雇用が必要!
では、次に中小事業主等が特別加入する際の重要なポイントについてご説明したいと思います。
先程、中小事業主等の区分をご説明しましたが、では、その区分に該当すれば、無条件で特別加入できるか?と言うと、実は違います。
例えば、小売業の場合、従業員数50名以下の会社の代表者および役員は、中小事業主等に該当します。
ところで、従業員数の条件は、50名以下となっていますので、0名も含むこととなります。
しかし、法律では、中小事業主等が特別加入するためには、労働者を雇用している必要があります。
つまり、労働者を雇用していない会社の代表者や役員は、特別加入をすることができないのです。
ところで、次に一人親方等の特別加入についてご説明しますが、一人親方等は、労働者を雇用せず1人で事業を営んでいる人のこと言います。
ですから、もし労働者を雇用していない会社の代表者や役員は、中小事業主等の特別加入でなく、一人親方等の特別加入を利用すれば良いのでは?と思われるかもしれませんが、一人親方等の特別加入は、個人タクシーの運転手、建築関係(大工、電気工事、水道工事等)あと 特定の農業というように業種が限定されています。
ですから、一人親方等の業種に該当しない業種で労働者を雇用していない会社の代表者や役員は特別加入することができないこととなります。
例えば、 建築設計を営んでいる会社の代表者の場合、 現場に行くことが多々あるため、特別加入したいと考えられるケースもあるかと思います。
しかし、建築設計は、一人親方等の対象の業種とはなっていません。
ですから、もしその建築設計会社に労働者がいない場合には、代表者は、特別加入できないこととなります。
ちなみに、一人親方等で特別加入している代表者が、もし労働者を雇用した場合には、一人親方等ではなくなります。
このような場合には、中小事業主等の特別加入に変更しなければならなくなります。
ところで、特別加入している会社の代表者の方から、「今 労働者を1人雇用しているのですが、もしその労働者が 退職してしまったら、その時点で特別加入できなくなってしまうのですか?」といった質問を時々受けます。
実は、特別加入では、労働者の雇用を、「毎日労働者がいる」というように定義しているわけではありません。
特別加入では、年間100日以上労働者を雇用していれば、労働者を雇用していると見なされます。
ですから、雇用している唯一の労働者が退職しても、すぐに労働者を雇用することができ、トータルで年間100日以上労働者を雇用していれば、その労働者が辞めた時点ですぐに特別加入から脱退する必要はありません。
いずれにしても、中小事業主等が、特別加入する場合には、労働者の雇用が条件となる点をまず押さえて下さい。
労働保険事務組合への事務委託
中小事業主等が特別加入できるためには、さらに条件があります。
その1つが、労働保険事務組合へ労働保険事務の委託をしていることです。
「労働保険事務組合」
聞き馴れない言葉かもしれませんが、中小事業主等の特別加入においては、この労働保険事務組合は、非常に重要なポイントとなってきますので、是非覚えておいていただければと思います。
まず、労働保険事務組合の労働保険ですが、これは労災保険と雇用保険の総称となります。
労災保険、雇用保険に加入する場合は、事業主が、直接加入手続きをできますし、事務手続きも、国に対して事業主自身が行うことができます。
ここでいう国とは、具体的には労働基準監督署やハローワークを指します。
労災保険や雇用保険に関する事務手続きは、直接会社、が労働基準監督署やハローワークで行うことができます。
しかし、会社が、労働基準監督署やハローワークで直接事務手続きを取る形態ですと特別加入することができません。
中小事業主等が、特別加入するためには、会社が、労働保険事務組合に労働保険の事務の委託をする必要があります。
労働保険事務組合に委託するということは、労働保険に関する事務手続きを、労働保険事務組合に代わりに行ってもらうことです。
なお、労働保険事務組合についての詳細については、後で詳しくご説明いたします。
ここではまず、中小事業主等が特別加入するには、労働保険事務組合へ労働保険の事務手続きの委託が必要ということを覚えておいて下さい。
包括加入について
中小事業主等が、特別加入する場合にもう1つ条件があります。
それが、包括加入です。
これはどういうことかというと、ある会社で、代表者の他に役員が数名いて、それぞれが労働者と同一業務に従事している場合に、代表者だけ特別加入することはできず、代表者がおよび他の役員全員も特別加入しなければいけないこととなります。
ですから、代表者だけあるいは役員の一部だけが特別加入という形は取れないこととなります。
ところで、会社の役員等で登記簿謄本に名前は載っているけど、実際に業務には全く従事していない、いわゆる非常勤の場合があります。
このような場合は、その旨を申告することによって特別加入する必要はなくなります。
あくまで、代表者、役員等が、労働者と同一の業務に従事しているのであれば、それらを全て包括して加入しなければいけないこのようなルールとなります。
以上が、中小事業主等が特別加入する場合の条件となります。
逆に言えば これまでご説明した条件を満たさないと特別加入できないこととなります。
今回ご説明した内容は、中小事業主等が特別加入する際には、重要なポイントとなりますので、是非正しくご理解下さい。
一人親方等の特別加入
では、次に一人親方等の特別加入についてご説明したいと思います。
一人親方等とは、労働者を雇用せずに常に一人で事業を行う形態を言います。
一人親方等の特別加入において、まず注意すべき点は、加入できる業種が、個人タクシー業者や個人貨物運送業者、建築に関する事業等に限定されていることです。(対象業種に付きましては労働基準監督署等に確認下さい。)
つまり、たとえ一人で事業を行っていても、対象業種に該当しなければ、特別加入できないこととなります。
一人親方等が、特別加入する際には、先程ご説明した中小事業主等と同じように直接国に特別加入することはできません。
一人親方等の特別加入の事務を扱っている団体を通して特別加入をする必要があります。
身近なところでは、各市町村の商工会議所が、その事務を扱っている団体となっている場合が多いです。
また、お住まいの商工会議所が、その団体となっていない場合には、労働基準監督署へ問い合わせれば、一人親方等の特別加入の事務を扱っている団体を教えてくれるかと思います。
いずれにしても、一人親方等の特別加入においては、特別加入できる業種が限定されている点が重要なポイントとなってきます。
特別加入の保険料について
では次に、特別加入した場合の保険料について、ご説明したいと思います。
当然、労災保険の補償を受けることが可能になるわけですから、保険料が発生します。
通常、労災保険の保険料は、労働者に支払った年間の賃金に保険料率をかけたものとなります。
保険料率は、業種ごとに定められています。
しかし、特別に加入する場合は、この年間の賃金を特別加入者自身が決めることができます。
これはどういうことかと言いますと、特別加入制度においては、給付基礎日額というものが定められております。
具体的には、3,500円から25,000円まで区分されていますので、この中からどの金額を選ぶのかは、特別加入者の自由となります。
そして、この場合実際に受け取っている報酬は、考慮する必要は全くありません。
例えば、実際には、月々100万円報酬を受け取っている事業主でも、特別加入の給付基礎日額を3,500円で加入しても全く問題ありません。
仮に給付基礎日額を3,500円で選んだ場合は、年間の賃金は3,500円に365日をかけた額が、保険料の基礎額となります。
例えば、運送業の社長が特別に加入したい場合、トラックなどの運送業は、保険料率が 9/1000となります。(※令和6年2月現在)
給付基礎日額を3,500円で選んだ場合、年間給与額は、3,500円×365日=1,277,500円となります。
これに保険料率の9/1000をかけると11,497円、これが年間の保険料となります。
保険料の計算の考え方は、労働者の場合と一緒なのですが、その基となる給料を、特別加入者自身が選ぶことができる、というのがひとつのポイントと言えます。
特別加入の補償内容について
では、次に特別加入した場合に受けられる補償についてご説明したいと思います。
特別加入の補償は、補償の種類および補償内容に関しては、労働者と同じで、治療費等の補償、休業補償、障害補償、遺族補償等を受けることができます。
ただし、補償額の考え方が、労働者とは異なってきます。
通常の労働者の場合は、例えば休業した場合、1日の補償額は、平均賃金に基づいて計算されます。
平均賃金についての詳しい説明は割愛させていただきますが、ケガ等を負った日前の3カ月間に、実際に払われた給料を基に算出されます。
しかし、先にご説明したように、特別加入者の給料は、実際に支払われている報酬の額ではなく、特別加入者自身が給付基礎日額を選びます。
ですから、休業補償の補償額も、特別加入者自身が選んだ給付基礎日額を基に補償額が決定されます。
当然、高い金額を選べば、休業補償の金額は多くなります。
しかし、その代わり、保険料も高くなることとなります。
ここで、給付基礎日額を選ぶ際の考え方を1つご紹介したいと思います。
例えば、給付基礎日額を最高額である25,000円を選んだ場合、休業補償、障害補償などの補償金額が最も大きくなります。
中小事業主等の場合、補償額がある程度高額である必要はあるかと思います。
しかし、特別加入の場合、先程ご説明したように、業務中に起こった全ての事故が補償の対象となるわけではありません。
例えば、経営者会議に出席している際に、会場で転んでケガを負った場合、補償の対象にはなりません。
ところで、労災保険の補償の基本は治療費となります。
労災事故でケガ等をして治療を受ける場合、治療費の支払いは必要ありません。
負担無しで治療を受けることができます。
これは特別加入した場合でも同様です。
その場合、給付基礎日額を3,500円で加入しても、25,000円で加入しても、治療費がかからないのは同じです。
ですから、そのような点を考慮して、給付基礎日額を25,000円でなく、10,000円で特別加入した場合には、保険料は半額以下になります。
そして、その差額で傷害保険などに加入することは1つの考え方です。
傷害保険であれば、どのような場合でも、ケガをした際には、補償を受けることができます。
給付基礎日額を決める場合、このような考え方も1つだと思いますので、ご参考になさって下さい。
労働保険事務組合とは?
先程、中小事業主等が特別加入するには、必ず会社が労働保険事務組合に、労働保険の事務の委託を行う必要があるとご説明しました。
では、労働保険事務組合とは一体どのような組織なのでしょうか?
ここでは、労働保険事務組合について詳しくご説明したいと思います。
労働保険事務組合というのは、事業主の委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて、厚生労働大臣の認可を受けた、中小事業主などの団体のことを言います。
ここで重要なのが、厚生労働大臣の認可が必要で、その認可基準が非常に厳しいということです。
では、なぜ労働保険事務組合の認可基準は厳しいのでしょうか?
労働保険の通常の事務手続きであれば、ある程度の法律知識を有していれば、正直どのような団体が行ってもさほど問題は起こらないのかもしれません。
しかし、労働保険事務組合に委託する事務の中には、保険料に関する事務も含まれています。
直接国に労災保険や雇用保険に加入している場合は、労働保険料を直接、国に支払う形となります。
しかし、労働保険事務組合に事務を委託すると、その労働保険料を、労働保険事務組合に支払う形となります。
つまり、労働保険事務組合は、国に代わって、会社から保険料を集め、そして集めた保険料を国に納める、このような業務を行うわけです。
労働保険料は、公金となりますので、公金を扱う団体となれば、当然それなりの信用と信頼が置ける団体である必要があるため、認可基準が非常に厳しいものとなっています。
ところで、労働保険事務組合に労働保険の事務委託をしようと思っても、そもそも労働保険事務組合がどこにあるのか?と思われるかと思います。
ここでは、労働保険事務組合は、どのようなところで運営されているのかについてご説明したいと思います。
労働保険事務組合は、私のこれまでの経験から、4つの形に区分されるのではないかと思っています。
まず1つ目のパターンとして、同業者が集まって労働保険事務組合を立ち上げる形があります。
例えば、小規模の建具店が何店舗かあったとします。
それぞれの建具店は規模が小さいため、各会社で労働保険の事務を行うのが大変だから、各建具店が、労働保険事務組合を立上げて、そこに職員を1人雇って、その職員にそれぞれの建具店の労働保険の事務をやってもらう、というような形で、労働保険事務組合を立ち上げるパターンがあります。
これに似た形として、同業者で協同組合を立ち上げるケースがあるかと思います。
協同組合は、共同で仕入れをしたりイベントを企画したりと、売上増大が主な目的とする場合が多いので、労働保険事務組合とは違いますが、協同組合の中に労働保険事務組合を立ち上げるケースもあります。
このように同業者で労働保険事務組合を立ち上げるケースは結構な数ありますので、もし特別加入を希望する場合には、同業種での労働保険事務組合を探すのが1つの方法です。
しかし、全ての業種が労働保険事務組合を立ち上げているわけではありませんので、労働保険事務組合がない業種はどうするか?という問題が出てきます。
我が国においては、多くの中小企業の会員を持つ様々な団体があります。
代表的な例が、商工会議所です。
このような中小企業の団体が、労働保険事務組合を立ち上げているケースがあります。
これが2つ目のパターンです。
特に多くの商工会議所が労働保険事務組合を立ち上げています。
事務委託をするには、商工会議所の会員になる必要がありますが、商工会議所は、どの市町村にも必ずと言っていいほどありますので、 最も身近な労働保険事務組合かもしれません。
3つ目のパターンとして、社会保険労務士が、労働保険事務組合を立ち上げるケースもあります。
一定数の顧問先を有しているなどの条件を満たしている場合に、社会保険労務士は労働保険事務組合を立ち上げることができるのです。
社会保険労務士事務所の看板で、「〇〇社会保険労務士事務所」の下に「〇〇労働保険事務組合」という名前が付いているケースがあると思います。
もし、そのような組合の名前が付いている場合は、その社会保険労務士は、労働保険事務組合も有しているということとなります。
顧問先の会社、もちろん顧問先以外の会社も、その社会保険労務士が立ち上げている労働保険事務組合を通せば特別加入できるという形となります。
ところで、先程も言いましたが、労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可が必要で、その認可基準は非常に厳しいので、社会保険労務士が、労働保険事務組合を立ち上げるのはなかなか難しく、労働保険事務組合を有していない社会保険労務士も数多くいます。
では、労働保険事務組合を有していない社会保険労務士の顧問先が、特別加入を希望する場合にどうするか?という問題が出てきます。
そのような場合、先程ご紹介した、同業種での労働保険事務組合や商工会議所等をご紹介するのが1つの方法です。
しかし、同業種での労働保険事務組合や商工会議所等に事務委託すると、実際に労働保険の事務を行うのはその労働保険事務組合の職員となります。
となると、特に商工会議所のように会員数が多い場合には、個々の会社の都合に対応できないケースが出てきます。
そのため、「どうしても本日中に雇用保険の離職票が欲しい」と言っても、なかなかそれに対応できないケースが出てきます。
ですから、会社によっては、特別加入する場合でも、労働保険の事務は顧問の社会保険労務士に任せたいというニーズがあります。
そのようなニーズに応える形で出来たのが、SR事務組合です。
これが4つ目のパターンとなります。
SR事務組合は、各都道府県に置かれ、SR事務組合の会員が、社会保険労務士となります。
社会保険労務士が、SR事務組合の会員になっている場合には、その社会保険労務士の顧問先は、その社会保険労務士を介して、SR事務組合に労働保険の事務を委託することができ、特別加入することができます。
しかも、SR事務組合に労働保険の事務委託する場合、実際の労働保険の事務を行うのは、SR事務組合の職員ではなく、顧問先の社会保険労務士となりますので、顧問先の個々の都合にも対応が可能となります。
労働保険事務組合は基本的に、このような4つのパターンに分かれると考えられます。
労働保険事務組合は、馴染みがない団体のように思えるかもしれませんが、実は身近に労働保険事務組合は存在するということご理解いただければと思います。都道府県には「SR事務組合」という組織が存在します。
労働保険事務組合に事務委託するメリットとは?
繰り返しになりますが、特別加入するには労働保険の事務を労働保険事務組合に委託する必要があります。
労働保険事務組合に事務委託すれば、特別加入できるようになりますので、まずそれが1つのメリット言えます。
しかし、労働保険事務組合に事務委託するということは、委託料等が発生する場合もあります。
また、商工会議所の労働保険事務組合に事務委託する場合、商工会議所の会員でなければ、新たに商工会議所の会員の費用も発生します。
ですから、費用対効果を考えた場合、特別加入だけのメリットでは、費用対効果に見合わないと思われる事業主等もいるかもしれません。
しかし、労働保険事務組合への事務委託は、特別加入以外にもメリットがありますので、ここでは特別加入以外の、メリットについてご説明したいと思います。
まず、労働保険事務の負担軽減のメリットが考えられます。
これは、顧問の社会保険労務士がいない会社に限られますが、顧問の社会保険労務士がいない場合には、労災保険や雇用保険の事務手続きは、事業主や総務の方が、ハローワークや労働基準監督署に行ったりして行います。
当然、それだけの時間と手間がかかります。
しかし、労働保険事務組合に事務を託すれば、実際にハローワークや労働基準監督署に行くのは、労働保険事務組合の職員となりますので、会社としては、労働保険事務の負担が軽減されることとなります。
労働保険事務組合に事務委託する場合のもう1つのメリットとして、労働保険料における概算保険料の分割があります。
労働保険料とは、労災保険料と雇用保険料の総称です。
労働保険料は、4月1日から翌年の3月31日までの1年間を単位に計算され、見込みの年間保険料をあらかじめ納める形となります。
そのあらかじめ納める保険料のことを概算保険料と呼びます。
ちなみに、1年経過後に、実際に払った給料を基に、正確な保険料を算出します。
その保険料のことを確定保険料と言います。
概算保険料は、その納める額が、労災保険と雇用保険の両方に加入している場合は40万円以上、労災保険あるいは雇用保険、どちらか一方にしか加入していない場合は20万円以上となれば最大で3分割して支払うことができるようになります。
つまり、労災保険と雇用保険の両方に加入している場合で概算保険料が、39万円の場合には、分割できないため1回で支払わなければいけなくなります。
しかし、労働保険事務組合に事務を委託すると、概算保険料はその金額のいかんにかかわらず、3分割ができるようになります。
例えば、概算保険料が9万円だった場合、労働保険料を国に直接支払う場合は、これを一括で納めなければなりませんが、労働保険事務組合に事務委託している場合には、9万円を3分割でき、1回の支払いを3万円に抑えることが可能となります。
そもそも概算保険料が、労働災害保険および雇用保険に入っている場合で、40万円以上の会社の場合には、メリットにはならないのですが、概算保険料が、35万円程度の会社であれば、十分なメリットがあると言えると思います。
まとめ
今回は、労災保険の特別加入についてご説明させていただきました。
中小企業の事業主や役員などの場合は、労働者と同様の仕事をしているケースが非常に多いため、業務中の事故によるけがのリスクが存在します。
従って、中小企業のリスクマネジメントにおいては、事業主や役員などの特別加入について考えることは、重要なポイントとなってきます。
特別加入は、今回ご説明したように、労働保険事務組合に事務委託をする必要があります。
ですから、まずどこに相談するかがポイントとなります。
もし 顧問社会保険労務士がいるのであれば、まず顧問社会保険労務士に聞いてみるのが一番良いかと思います
もし顧問社会保険労務士がいないのであれば、やはり、商工会議所が一番身近ですので、まず最初に相談してみるのが良いでしょう。
また労働基準監督署に行けば、同業種の組合等の情報等も教えてくれる場合もありますので労働基準監督署に問い合わせしてみるのも良いかと思いますので是非ご参考になさって下さい。