就業規則の不備によるトラブル事例集
「就業規則に不備があると、労働トラブルの原因となってしまいます」といった事をよく聞きます。
確かに、就業規則に不備があると、それが原因でトラブルが起こってしまう場合があります。
では、実際に、就業規則にどのような不備があるとトラブルが発生してしまうのでしょうか?
本ブログでは、就業規則の不備による起こるトラブルの事例をまとめてみました。
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就業規則の不備によるトラブル事例① 従業員区分について
就業規則は、会社のルールを明確にして、秩序ある職場を形成するために作成されます。
それと同時に、労働トラブル防止するという目的もあります。
しかし、就業規則自体に不備があった場合には、かえってそれがトラブルの原因となってしまいます。
ルールを明確化するということは、裏を返せば、仮に不備があっても、それがルールとなってしまうので、トラブルが起こってしまった場合に、会社は非常に不利な立場に立たされてしまいます。
ですから、ここでは、就業規則の不備によるトラブル事例をご紹介していきますので、就業規則を作成・変更する際のご参考になさって下さい。
まず、ここでは「従業員の区分」についてお話ししていきたいと思います。
一般に市販されているモデル就業規則やインターネット上でダウンロードできる就業規則の雛型をご覧いただくとわかるのですが、就業規則の最初の部分に、「就業規則は、雇用されている従業員全員に適用する」といった文言が入っています。
就業規則は、会社内のルールを定めるものですので、その会社内に勤務する従業員全員が守る必要があります。
ところで、就業規則は、従業員が守るべきルールを定める一方、従業員の権利についても記載されます。
この権利についてですが、労働基準法等の法律で定められている事項については、全ての従業員に法律に則った権利を与えなければならないのですが、法律に定めがない事項、例えば、賞与、退職金、慶弔休暇等については、必ずしも全ての従業員に平等に適用する必要はありません。
ですから、「賞与や退職金、慶弔休暇については正規従業員のみ適用する」といった定めでも基本的には問題ありません。
ただし、ここで注意しなければならないのは、先に書きましたように、「就業規則は、全ての従業員に適用する」という規定があるわけですから、従業員の雇用の種類によって、与える権利に差を付けるということは、言わば「例外」となります。
どんな規定もそうですが、例外を設ける場合には、例外に該当する場合を明確化する必要があります。
就業規則も同じで、例外を明確にするには、従業員の区分をはっきりと定義する必要があります。
つまり、正規従業員は、こういう従業員で、パートタイマーやアルバイトはこういう従業員である、ということをはっきり区分する必要があります。
そして、例えば、賞与や慶弔休暇は、正規従業員のみに適用する場合にはその旨を、またパートタイマー、アルバイトは適用しない旨を明確化することが重要です。
もし、ここの部分が曖昧になってしまうと、本来、払うつもりのなかった賞与をパートタイマーやアルバイトまでにも支払う必要が出てきてしまう場合もあります。
就業規則の不備によるトラブル事例② 定額残業規定不備について
労働基準法により、従業員に法定労働時間を超えて働かせた場合には、時間外割増賃金を支払う必要があります。いわゆる残業代です。
ところで、残業時間を予め見込んで、営業手当や役職手当等、特定の手当を残業代の代わりとして一定額を支払う、定額残業制度を導入している会社もあります。
定額残業制度自体は、法律に反するものではないのですが、就業規則等への規定に不備があると大きなトラブルとなってしまいます。
営業手当や役職手当を残業代として支払う場合、まず、その手当が残業代であるということを就業規則に明記する必要があります。
さらに、残業代として支払っている、営業手当や役職手当の額が、実際の残業時間から計算した残業代より不足していた場合には、その不足額を支払う必要があります。
定額残業制度は、この2つの基準を満たしている場合に、初めて残業代としてみなされることとなります。
ですから、この2つの基準を、就業規則に正しく記載する必要があります。
この記載に不備がある場合には、いくら会社が、「営業手当を残業代として支払っている」と主張しても認められず、残業代を全く支払ってしないとみなされてしまいます。
労働基準監督署の調査や従業員が残業代不払いの訴えを起こした場合いおいて、定額残業制度が、正しい形で行われていなければ、過去に溯って残業代を支払わなければならない場合もあります。
実際、私の知っている会社で、500万円以上の残業代不払いがあったとして、労働基準監督署から支払命令を受けた会社もありますので、定額残業制の取り扱いには十分ご注意下さい。
就業規則の不備によるトラブル事例③ 手当について-1-
就業規則において、給料に関する事項は、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)となります。
従って、基本給以外に手当が支給される場合には、その手当の内容についても記載する必要があります。
ところで、従業員にとって給料は最も重要な労働条件なのですが、その支払い方等については、労働基準法で様々な規定がされているのですが、実際に支払う額については、最低賃金を上回っていれば、支払う額に関しては、会社が自由に決めることができます。
ですから、手当に関しても、その支給額や計算方法についても、任意に会社が決めることができます。
しかし、法律の制限を受けない手当ですが、就業規則を作成するにあたっては、いくつか注意すべき点があります。
まず、時間外割増賃金との関係です。
従業員を法定労働時間を超えて働かせた場合や休日または深夜に働かせた場合には、労働基準法で定められた割増賃金が必要となってきます。
この割増賃金を計算する場合には、基本給以外の各手当を含んだ額で計算する必要があります。
しかし、労働基準法では、家族手当、住宅手当、子女教育手当、通勤手当に関しては、割増賃金を計算する際に、それらの額を含めなくても良いとされています。
つまり、基本給20万円、業績手当10万円という形で支払うより、基本給20万円、家族手当5万円、通勤手当5万円として支払う方が、同じ30万円でも、割増賃金の額は少なくなります。
ただし、家族手当等の手当の額を割増賃金を計算する際に除くには、1つ条件があります。
それは、家族手当でしたら、家族の人数等に応じて手当が支払われ、また、住宅手当でしたら、家賃や住宅ローン残高に応じて手当が支払われる必要があります。
つまり、家族手当や住宅手当として単に一定額が支払われるいる場合には、たとえ、名称が、家族手当、住宅手当であっても、割増賃金を計算する際には、その額を含んで計算しなければならなくなってしまいます。
ですから、給料で、家族手当や住宅手当、通勤手当を支給する場合には、就業規則には、単に「家族手当を5,000円支給する。」というような形で無く、「家族1人につき3,000円を支給する」というような形で規定する必要があります。
この部分は、労働基準監督署の調査を受けた場合には、必ずと言って良いほどチェックされますのでご注意下さい。
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就業規則不備によるトラブル事例④ 手当について-2-
今、ご説明したように、手当の支払い額や支払い方法に関しては、特段、法律の制限を受けないので、どのような手当をいくら支給するかは、会社が、任意に決めることができます。
ただ、就業規則に手当に関しての規定を定める際に、1つ注意すべき点があります。
通常、就業規則を作成する時は、従業員を雇用していて、既に給料を支給している場合が、ほとんどであると言えます。
ですから、手当に関しての規定を定める場合も、現状の給料体系に沿った形で作成する場合が多いと言えます。
しかし、一度、定めた規定でも、後になって変更の必要性が出てくる場合も当然あります。
新たな手当を支給する場合には、従業員にとって有利になることなので、特別問題はありません。
逆に、手当を不支にする場合には、従業員の既得権を奪うこととなってしまうので、会社が、一方的に変更することはできません。
ただ、いずれにしても、手当の追加又は削除は、将来のことなので、就業規則を作成する時点では、そこまで考慮することはできません。
では、何を注意すべきかと言いますと、特別な事情で、特定の従業員に就業規則に定められている手当を支給しないというケースが考えられます。
ごく一部の従業員に手当を支給しないのですから、就業規則を変更する必要はありません。
しかし、ここで1つ大きな問題があります。
例えば、「就業規則に通勤費を支給する」との定めがあるにも関わらず、個別の雇用契約で「通勤費を支給しない」とした場合、どうなるでしょう?
実は、これに関しては、労働基準法に定めがあり、少し難しい内容ですが、就業規則の基準に達していない雇用契約は、その部分は無効になり、就業規則の基準が適用されます。
つまり、先程の通勤費の場合、「就業規則では支給する」と定められいるわけですから、雇用契約で「支給しない」とすることは、就業規則の基準に達していないこととなりますので、「支給しない」という部分は無効になってしまいます。
就業規則と雇用契約とはこのような関係にあります。
ですから、このような事を防ぐためには、就業規則に「各手当は、個別雇用契約の事情により支給しない場合もある。」というような規定を入れておくことが必要となってきます。
就業規則の不備によるトラブル事例⑤ 賞与について
日本社会において、賞与(つまりボーナスですね)は、通常の従業員にとって非常に馴染みの深いものです。
賞与は、通常の給料と違って、本来は、会社には支払いの義務はありません。
しかし、先程、書いたように賞与は、生活給の一部と考えられていて、支給されるのが当然、と思われている面もあります。
ところで、賞与は、本来は、会社の義務でありませんので、仮に賞与を支給するとなれば、その支給方法等については、会社が任意に定めることができます。
ですから、逆に、支給基準を明確にしておかないと、大きなトラブルとなりかねないのです。
賞与規定を定める場合で、まず注意しなければならないのが、支給対象となる従業員です。
従業員全員に支給するなら問題ないのですが、パートタイマーやアルバイトといった非正規従業員に支給しないのであれば、その旨を明確にしておく必要があります。
そして、それ以前に、従業員の区分を明確化しておく必要あります。
また、賞与を支給する際に、どの時点まで在籍している従業員に賞与を支給するかを定める必要があります。
通常は、支給日に在籍しことを支給条件にする場合が多いのですが、必ずしもそのように定める必要はありません。
ただ、どの時点まで在籍している従業員に賞与を支給するかを定めないと、賞与は、過去の一定の勤務期間の評価に応じて支給される場合が多いので、算定の対象となる勤務期間のうち一部でも勤務している場合に、どのように扱うかが非常に曖昧になってしまいます。
また、賞与の支給日に入社してから、期間が間もない従業員が存在する場合もあります。
ですから、入社後、どの位の期間が経過した場合に支給するかも定めておく必要があると言えます。
このように賞与を支給する場合は、注意すべき点がいくつもあります。
それらの規定に不備があると、先程も書きましたように大きなトラブルとなってしまう恐れがあり、また、従業員にとっても不信感や不公平感が持たれてしまうので、是非、ご参考になさって下さい。
就業規則の不備によるトラブル事例⑥ 管理監督者について
労働基準法により、従業員に法定労働時間を超えて働かせた場合や休日出勤をさせた場合には、割増賃金を支給しなければなりません。
ところで、労働基準法において、管理監督者については、法定労働時間や休日の定めの適用を受けない例外規定を設けています。
ですから、就業規則においても「労働基準法による管理監督者に該当する従業員は、法定労働時間、休日の適用は受けない」という趣旨の規定を定める場合があります。
この規定自体は、全く問題ないのですが、注意すべき点は、「管理監督者」としての判断は、その実態で判断されることです。
ここは、多くの経営者の方が誤解している点なのですが、管理監督者は、「部長」「課長」「店長」といった名称や地位によって判断されるものではありません。
管理監督者として認められるには、一定の人事権や時間に対しての裁量権を持ち、それ相応の手当等が支給されていることが必要です。
ただ、管理監督者の難しいところは、法律でその基準が明確にされていない点にあります。
ですから、会社は、管理監督者として取扱っていたが、従業員から訴えを起こされて、管理監督者としての地位を否定されることもあります。
実際、管理監督者に関しては、経営者の方が想像している以上にその判断は厳しい、と言えます。
もし、管理監督者として否定されてしまった場合には、過去に溯って、時間外割増賃金や休日割増賃金を支給しなけれならなくなります。
管理監督者については、その規定を就業規則に入れること自体は問題無いのですが、就業規則に定めたからといって、無条件で管理監督者となるわけではないということをご理解下さい。
また、繰り返しになりますが、管理監督者は、単に名称や地位によって判断されるのではなく、あくまで雇用の実態によって判断させることを是非覚えていただければと思います。
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就業規則の不備によるトラブル事例⑦ 休職制度について-1-
近年、休職制度にまつわるトラブルが、増加しています。
休職制度とは、業務外の病気や怪我等で、働くことができない状況でも、一定の期間、従業員の身分を保障する制度です。
休職制度は、本来は、会社の義務ではなく、必ずしも休職制度を設ける必要はありません。
しかし、不運にも病気や怪我に見舞われたしまった従業員を、直ぐに退職させてしまうのは、経営的にみても必ずしも良策とは言えません。
ですから、多くの会社では、福利厚生面からも休職制度を設けています。
近年、従来の休職制度では想定していなかった、うつ病等のメンタル的な病を患う従業員が増えてきました。
そのため従来の休職制度では対応できない状況が多々起きています。
ここでは、就業規則に休職制度を定める場合に、まず、注意しなければならない2つのポイントについてお話ししていきたいと思います。
従来では、病気や怪我をして休職制度を利用して、その病気や怪我が完治し職場復帰した場合、その病気や怪我で再度休職制度を利用するケースは、ほとんど考えられませんでした。
しかし、うつ病等の精神疾患の場合、完治したと思われても、再発するケースが多々起こります。
ですから、休職期間が満了する前に職場復帰し、再度、休職制度を利用、ということが繰り返される可能性があります。
しかし、従業員としての身分は維持されている訳ですから、会社としては、健康保険や厚生年金保険といった様々な経費の負担が発生してしまいます。
ですから、そのような事態を防ぐためにも、「類似の病気や怪我で休職制度を利用する場合には、その期間を通算する」といった規定を盛り込んだ方が、会社のリスクは軽減されます。
ただ、単に類似の病気や怪我と規定してしまうと、職場復帰後5年後に再発した場合でも、休職期間が通算されてしまうので、それではあまりに従業員にとって酷な面もありますので、通算される場合の再発期間は、職場復帰後1年程度以内に再発した場合とするのが、良いかと言えます。
就業規則の不備によるトラブル事例⑧ 休職制度について-2-
休職制度においてもう1つ注意すべき点は、復帰時です。
通常、怪我の場合は、その回復具合は、ある程度、客観的に判断がつきやすいと言えます。
しかし、病気、特にうつ病等の精神疾患の場合、外見からでは、回復の度合いは、非常にわかり難いと言えます。
まだ、復帰できる状態ではないもかかわらず、従業員が、復帰を希望する場合も当然考えられます。
ところで、休職していた従業員が、復帰する場合、経営者側は、医療知識等に乏しいため、医師の診断書が重要な判断材料となってきます。
しかし、従業員が治療等を受けている医師は、必ずしも従業員の就業実態を把握しているわけではありません。
当然、従業員からの説明により、就業可能かどうか判断せざる得なくなります。
ですから、場合によっては、従業員が、自分が職場復帰したいために、正確な状況を伝えない、というケースも考えられます。
ところで、従業員の職場復帰の可否を判断するのは、最終的には会社となります。
職場復帰を判断する場合には、従業員が提出する診断書だけではなく、会社の産業医あるいは会社が指定する医師の診断を受けさせることも必要です。
しかし、従業員に産業医や会社が指定する医師の診察を受けさせるためには何らかの根拠が必要となってきます。
就業規則の休職の規定に、そのような定めがなければ、会社が、産業医や会社が指定する医師の診察を受けるよう指示しても、拒否されてしまう場合もあります。
規定が無ければ、拒否されてしまえば、それに対抗するのが非常に難しくなってしまいます。
このように現在の社会においては、休職制度は、従来では想定されていないケースが本当に多々起こります。
休職規定に不備があると大きなトラブルが非常に起きやすいと言えますので、ご注意下さい。
まとめ
今回ご説明しましたように、就業規則に不備があると、様々なトラブルが起こってしまう場合があります。
就業規則は、「ただ作れば良い」というものではなく、いくつかのポイントに注意を払って作成する必要があります。
就業規則は、本来会社を守るために作成します。
しかし、その内容に不備があってしまうと、会社を守る就業規則が、会社を苦しめる結果となってしまいます。
是非、今後のご参考になさって下さい。
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