就業規則による労働トラブル解決事例集
就業規則の作成目的の1つに労働トラブルの防止があります。
確かに、就業規則によって、多くの労働トラブルを防ぐことができます。
しかし、その一方で、就業規則は、起きてしまった労働トラブルの解決にも大きな役割を果たします。
本ブログでは、就業規則により解決できる労働トラブル事例をご紹介したいと思います。
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就業規則による労働トラブル解決事例① 従業員の無断欠勤についての対応策
長い事業経営を行っていると、従業員が、突然、会社を無断欠勤する場合があります。
無断欠勤が1日、2日程度で済むのなら、さほど問題とはなりません。
しかし、無断欠勤が長期に及ぶと、何処かの段階で何らかの対応が必要となってきます。
ところで、従業員が、無断欠勤を続ける場合、問題となるのが、往々にしてその従業員と連絡が付かない場合があります。
無断欠勤を続ける従業員と連絡が付かない場合には、今後の対応について協議することが非常に困難となります。
ところで、無断欠勤が長期に及べば、「懲戒解雇の対象となるのでは?」と思われるかと思います。
確かに、無断欠勤が2週間以上にも及べば、懲戒解雇した後、万一、裁判等になっても、その懲戒解雇の正当性や妥当性は、認められる可能性は非常に高いと言えます。
しかし、従業員を懲戒解雇するには、解雇する旨を伝える必要があります。
逆に言えば、解雇する旨を伝えて、初めて懲戒解雇が有効となるのです。
つまり、無断欠勤を続ける従業員に連絡が付かなければ、その旨を伝えることができないので、
懲戒解雇したくても、懲戒解雇できない、という理屈となってしまいます。
「内容証明郵便を送れば?」と思われるかもしれませんが、内容証明郵便は、懲戒解雇するという内容の文章を届けた、という証明であって、本人がその内容を読んだ、という証明にはならないので、懲戒解雇の通知には該当しないこととなります。
となると、何とか本人に連絡を付ける必要が出てくるのです。
何度も電話したり自宅を訪ねたりしなければならないので、当然、無駄な時間や労力がかかります。
また、無断欠勤の期間が長期に及べば、それだけ社会保険料等の負担も増えてしまいます。
そのため就業規則に、「無断欠勤が、一定期間以上に及んだ場合には、退職の意思表示があったものとみなす。」というような規定を入れておくと、そのような事態を防ぐことができます。
「退職の意思表示があったものとみなす」とは、懲戒解雇ではなく、あくまで従業員本人が自主退社する意思がある、つまり、退職届が出されたものと同じとみなすわけですから、本人と連絡が取れなくとも、退職の手続きをすることが可能となります。
もし、このような規定が無くて、無断欠勤を続ける従業員を勝手に退職させてしまったら、後になって、訴えられてしまう場合もあります。
無用なトラブルを避けるために、従業員の無断欠勤についての規定は、重要なポイントなります。
ですから、就業規則を作成・変更する場合には、従業員の無断欠勤に対しての規定を検討すると良いでしょう。
労働トラブル解決事例② 休職制度における復職時の対応策
昨今、休職制度にまつわるトラブルが急増しています。
それは、従来にはあまり見られなかった、うつ病等の精神疾患により休職制度を利用する従業員が非常に多くなったことが大きな原因と言えます。
精神疾患の場合、外見からでは、その回復状態の判断が非常に難しいため、復職しても、従来の業務を行うことができない場合があります。
ところで、これは精神疾患に限ったことではないのですが、休職制度を利用した従業員が、復職をする時には、トラブルが起こりやすいと言えます。
通常、休職制度の規定を定める場合には、休職期間が満了した場合に、従来の業務を行うまでに回復できない場合には、自然退職とします。
そのため、十分に回復していない場合でも、従業員は、職を失いたくないため、無理をしてでも復帰しようとするケースも十分に考えられます。
さらに、休職制度の難しいところは、復職を判断する経営者が、当然ですが、医療についての知識が乏しいため、医師等の専門家に頼らざる得ないところにあります。
特にうつ病等の精神疾患の場合、外見からでは判断が難しいところがあります。
ですから、復職時には、従業員の主張や従業員が提出する診断書だけでなく、会社が指定する医師の診断を受けさせるとかあるいは、一定期間のリハビリ期間を設ける等の定めを休職制度の規定に盛り込む必要があります。
このように復職時の条件をいくつか課すことで、従業員の回復具合をより客観的に判断できる可能性が高くなると考えられます。
もし、従業員が、規定より会社からの指示に従わなかった場合等には、復職の条件を満たさなくなるわけですから、当然、復職を認める必要はなくなります。
休職制度の規定を充実させることで、休職制度における復職時にトラブルが起こる可能性を大幅に減らすことが可能となります。
いずれにしても現在のような社会情勢においては、従来のような休職制度の規定では、休職にまつわるトラブルを防止することが難しくなってきています。
休職制度は、就業規則においても最も重要視すべき事項の1つと言えますので、もし、貴社の就業規則において、休職制度が、長期期間見直されていないようでしたら、是非、就業規則の見直しをご検討下さい。
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労働トラブル解決事例③ 休憩時間に宗教勧誘する従業員
従業員が増えてくるに従って、これまでは想像も出来なかった事を言ったり、行ったりする従業員が出てくる可能性があります。
当たり前の事ですが、人間は、人によって考え方が様々なですので、経営者とは全く異なった考え方をする従業員がいても不思議はないのです。
しかし、会社は、多くの従業員が、共同で業務を行っているわけですから、秩序ある職場環境を保つためには、一定のルールが、必要となってきます。
それが就業規則における服務規程となります。
この服務規定をいかに充実させるかが、従業員が安心して働くことができる職場形成には非常に重要な役割を持ちます。
服務規程で注意すべき点は、会社として従業員に守ってもらいたい事項をより具体的に記載する事です。
経営者が、「こんなことは守るのが常識」と思っても、常識とは思わない従業員が出現することもあり得ます。
例えば、新しく入社した従業員が、休憩時間に宗教の勧誘を始めたらどうでしょう?
宗教の是非はともかく、社内での宗教勧誘を好ましくないと思う経営者も多いと思います。
では、「社内で宗教勧誘なんて非常識だ」とその従業員を注意しても、「規定に宗教の勧誘は禁止されていない」と反論されたらどうでしょう?
さらに、宗教の自由は、憲法で保障された国民の権利ですし、休憩時間は、従業員が自由に利用できる、と労働基準法で定められています。
このような理屈を並べられれば、反論が非常に難しくなってきます。
もし、その行為が業務に支障がでるのであれば、その支障を証明するのは、会社側となります。
ですから、もし、社内での宗教勧誘を禁止するなら、服務規定に「社内での宗教の勧誘は一切禁止する」というような規定を盛り込む必要があります。
人間は、明確な決まりが無ければ、自分の都合の良いように考えてしまうところがあります。
服務規程には、どんな些細な事でも、従業員に守ってもらいた事項については、1つ1つ記載することが非常に重要と言えます。
労働トラブル解決事例④ アルバイトの許可制
※当動画は、働き方改革法案制定以前のものです
昨今、ダブルワークという言葉が、使われるようになっています。
実際、勤務時間の終了後に別の会社で働く人の数は、増えているのが現状です。
ところで、従業員を雇用するということは、従業員に決められた時間(所定労働時間)働いてもらい、その対価として給料を支給する、契約(労働契約)を結ぶということとなります。
ですから、従業員は、本来、契約で決めら時間だけ働く義務があります。
もちろん、残業を命じられる場合もありますので、契約で決められた時間以上に働く必要ある場合もありますが、業務自体が終了すれば、従業員は、その後の時間をどのように利用しても、会社から干渉を受けることはありません。
つまり、勤務時間終了後に別の会社で働いても、それは、従業員の自由と言えます。
ですから、勤務時間終了後にアルバイト等をすることを無条件に禁止することは基本的にはできないとされています。
しかし、アルバイトの業種によっては、会社の信用を損なう可能性も考えられます。
また、従業員は、会社に対して適正な労働力を提供する義務があります。
ですから、勤務時間終了後にまた別の会社であまりに重労働を行うと翌日の勤務に影響が出て、適正な労働が出来ない場合もあります。
従って、本来、会社が干渉できない時間において、従業員が、アルバイト等で別の会社で働くことに一定の制限を課すことに関しては、ある程度の妥当性は認められると考えられています。
ですから、従業員のアルバイト等については、就業規則等で許可制にすれば、規定の妥当性も出てきますし、万一、無許可でアルバイトしていた場合には、懲戒処分の対象とすることも可能となってきます。
いずれにしても、近年の厳しい経済情勢の中では、1つの会社の収入だけでは生活を成り立たせることが困難な場合も多々考えられます。
しかし、会社としても、従業員には適正な労働を求める権利もあります。
ですから、アルバイトに関しては許可制を取るなどして、会社にも従業員にも納得のいく制度を設けることが重要となってきます。
なお、働き方改革の一環として、国は、社員のアルバイトについて、推奨する方向となっており、厚生労働省のモデル就業規則では、許可よりもハードルが低い、届出制の記載となっております。
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労働トラブル解決事例⑤ 適正な定額残業制
営業社員に対して、営業手当を残業代として支給している会社も多いと思います。
いわゆる定額残業制と呼ばれるものです。
残業代を営業手当等の手当で一定額支払う事自体は、違法とはされていません。
しかし、この定額残業制度につきましては、非常にトラブルが多いのが現状と言えます。
そして、定額残業制度に関するトラブルを防止するためには、就業規則が非常に重要となってきます。
定額残業制度が、法律に違法しないためには、まず、残業代として支払う営業手当等が、残業代であると明記することが必要となってきます。
逆に言えば、就業規則に営業手当等の手当が、残業代であるとの明記が無ければ、その手当は、残業代とはみなされません。
ここは非常に重要なポイントなのですが、もし、営業手当等を残業代のつもりで支給していて、就業規則にその旨の明記が無かったとしたらどうなるのでしょうか?
営業手当等は、単なる手当に過ぎなくなるので、結果的に残業代は、1円も支給されていないこととなってしまいます。
つまり、多額の残業代不払いが発生する可能性があるのです。
もし、何百万円もの残業代不足を請求されたら、経営の危機に陥ってしまう可能性も十分考えられるのです。
また、定額残業制度のもう1つの重要なポイントは、支給している額に不足が出た場合には、その不足分を支給する必要があります。
例えば、残業代として営業手当を5万円支給していて、ある月、実際の残業時間から計算した残業代が6万円であった場合には、不足の1万円を支給する必要があります。
つまり、定額残業制と言えども、毎月働いた時間を管理し、残業代に不足が生じていないかを管理する必要があります。
当然、その旨も就業規則に記載しておく必要があります。
このように定額残業制のトラブルを防止するには、制度自体を正しく理解するとともに、就業規則への記載が非常に重要なポイントとなってきます。
労働トラブル解決事例⑥ 解雇トラブルを防ぐ -1-
労働トラブルのなかで最も多発しかつ深刻な問題は、解雇に関するトラブルと言えます。
解雇は、従業員にとって生活の糧を奪われてしまうわけですから、他のトラブルとは比べものにならない位従業員にとっては深刻な問題と言えます。
現実問題として、解雇問題に関しては、裁判等で争った場合には、経営者に非常に厳しい結果となる場合が多いのです。
ですから、少しでも解雇トラブルを大きな問題に発展させないために、就業規則等で可能な限りで対策を講じておく必要があります。
まず、考えるべき事は、解雇規定の具体性です。
現在、解雇トラブルで裁判等でその正当性、妥当性を争った場合に、非常に重要視されるのが、解雇規定の存在です。
つまり、従業員を解雇するなら、その根拠が必要である、という考え方です。
もちろん、刑事事件等で重大な犯罪を犯した場合等、特別なケースでは、解雇規定が無くても、解雇の正当性、妥当性が認められる場合もありますが、それは、あくまで特殊なケースで、まずは、就業規則等による解雇規定の有無が重要視されます。
そして、その規程は、より具体的に書かれている方が良いのです。
少し解り難いので、事例を挙げて説明したいと思います。
例えば、従業員が、傷害事件を起こして逮捕され、それが報道されたとします。
その従業員を解雇しようとした場合に、解雇規定に、「会社の名誉を損ねた場合」という規定と「刑事事件等で逮捕され場合」という規定とでは、後者の方がより具体的に書かれているので、2つの規定を比較した場合には、後者の方が、解雇の正当性、妥当性が認められる可能性が高いという理屈です。
ですから、解雇規定は、可能な限り具体的に解雇事由を列挙することが重要となってきます。
ただ、全てを網羅することは不可能ですので、既述した「会社の名誉を著しく損ねた場合」といった包括的な規定を入れておくことも重要です。
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労働トラブル解決事例⑦ 解雇トラブルを防ぐ -2-
就業規則において解雇トラブルを防止するためにもう1つ考えておく必要があるのが、懲戒解雇以外の懲戒処分規定と言えます。
これはどういう事かと言いますと、解雇の正当性、妥当性が認められるためには、客観的な証拠が必要となってきます。
刑事事件や横領等重大な問題を起こした場合には、その事実が明確なのですが、能力不足や勤務態度不良といった理由が解雇理由の場合には、その事実が非常に曖昧なものとなってしまいます。
ただ、経営者が「あの社員は、能力が無い」と口で言っても、裁判等においては、何の信頼性のある証拠にはなり得ないのが実情です。
特に、能力不足や勤務態度不良といった理由で従業員を解雇する場合には、そこに至る過程が非常に重要となってきます。
ですから、いきなり解雇するのではなく、問題が起こった時に、始末書の提出、減給、降格、出勤停止等いくつかの懲戒処分を課せていくことが重要なのです。
このような処分が、客観的証拠として積み重なることとなります。
また、解雇で争う場合、従業員に対して、態度を改める機会の有無も重要なポイントとなってきます。
つまり、解雇される以前に、懲戒処分を受けていれば、その都度、従業員に態度を改める機会が提供させることとなります。
「態度を改める機会があったのにも関わらず、態度が改められなかったので、やむを得ず解雇に至った」と経営者が側は主張することができます。
ですから、就業規則において、懲戒解雇規定だけでなく、それ以外の懲戒規定もより具体的に規定する必要があります。
日本では、従業員保護の風潮が強ため、解雇は、経営者にとって非常に厳しい判断が下されるのが実情です。
たとえ、客観的証拠を積み上げても、その正当性、妥当性が認められない場合が多々あります。
しかし、逆に言えば、客観的証拠が無ければ、全く解雇の正当性、妥当性が認められる可能性は、ほとんど無い、ということとなってしまうこととなります。
労働トラブル解決事例⑧ 試用期間中の解雇について
試用期間は、雇った従業員の能力や技術力等が、正社員にふさわしいかを見極める期間として広く利用されています。
しかし、この試用期間に関して、試用期間中に従業員の能力や技術が不足していた場合に、無条件で試用期間終了後に、退職させられる、と多くの経営者の方が勘違いしています。
しかし、たとえ試用期間であっても、試用期間終了後に正社員にしないということは、解雇に該当し、通常の解雇同様にそれ相応の理由が必要となってきます。
通常の解雇より、若干解雇の正当性、妥当性が認められやすい程度のイメージと言えます。
特に重要なポイントは、試用期間終了後に正社員へ登用しない場合の理由です。
解雇の時にもお話しましたが、解雇の正当性、妥当性がより認められやすくなるのは、解雇規定がより具体的に規定されている事が重要です。
これは試用期間の場合も同じです。
試用期間後に正社員へ登用しない場合の理由をより具体的に定めることが、よりその正当性、妥当性が認められるためには重要となってきます。
モデル就業規則の多くは、この試用期間における正社員への不登用の理由が、「能力、勤務態度等正社員登用への基準に満たない場合」といった曖昧で簡単に記載されているものが多いので、注意が必要と言えます。
規定例を記載しますのでご参考になさって下さい。
【本採用拒否理由】
試用期間中の社員が次の各号に該当し、社員として不適当であると認めるときは、会社は採用を取り消し、本採用は行わない。ただし、改善の余地がある等、特に必要と認めた場合には会社はその裁量によって試用期間を延長し、解約権を留保することがある。
① 遅刻及び早退並びに欠勤が多い等出勤状況が悪いとき
② 上司の指示に従わない、同僚と協調性がない、やる気がない等勤務態度が悪いとき
③ 必要な教育は施したが会社が求める能力に足りず、また改善の見込みも薄い等能力が不足すると認められたとき
④ 経歴を偽っていたとき
⑤ 必要な書類を提出しないとき
⑥ 健康状態が悪いとき(精神の状態を含む)
⑦ 当社の社員としてふさわしくないと認められるとき
⑧ その他上記に準じる、又は解雇事由に該当する場合
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まとめ
今回のブログでご説明したように、就業規則を作成する時にいくつかのポイントを意識することで、トラブルが起こった場合に、スムーズに対応できる場合があります。
もちろん、トラブルには相手がいるので、全で会社側の思う通りにはいかない場合もありますが、就業規則の規定を整備することで、会社側が主導権を持って対応できる場合が出てくることも十分考えられます。
是非、今後のご参考にしていただければと思います。
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