シリーズブラック企業にならないための労務管理⑤ 割増賃金の基礎知識
今回から4回にわたって割増賃金について解説したいと思います。
割増賃金に対して誤った認識を持っていると、割増賃金の不払いや不足が生じてしまい多額な損害が発生してしまうケースがあります。
また、ブラック企業の特徴として割増賃金が正しく支給されない、このようなことが挙げられます。
そのため、ブラック企業にならないために、適正な労務管理を実現するためには、割増賃金に対して正しく理解することは、非常に重要なポイントとなります。
今回は、まず 割増賃金の基礎ということで、前半でどのような場合に割増賃金を払わなければいけないかついてご説明します。
そして、後半では、休日労働の割増賃金について注意すべき点がありますので、その点について分かりやすく解説したいと思います。
割増賃金とは?
労働基準法では。労働者に割増賃金を支払わなければいけないケースを3つ規定しています。
具体的には、法定労働時間を超えて労働させた場合、休日労働をさせた場合、深夜労働をさせた場合となります。
まず法定労働時間を超えて労働者に労働させた場合の割増賃金についてご説明したいと思います。
法定労働時間は、労働基準法で定められた労働者に働かせることができる上限時間のことを言います。
具体的には 1日8時間、1週間40時間(特例で44時間)となります。
ここで注意が必要なのが、割増賃金が必要となるのは、あくまで法定労働時間を超えて労働者に労働させた場合です。
ですから、1日の労働時間が7時間の労働者に、1時間だけ時間外労働させたとしても、割増賃金の支払いは必要ないこととなります。(時間外労働1時間分の基本賃金は当然必要となります。)
そして、割増率ですが、労働基準法では、最低でも2割5分増の割増賃金の支払いが規定されています。
ですから、時給1,000円の労働者に1時間 法定労働時間を超えて労働させた場合には、最低でも1,000円の2割5分増の割増賃金の支払い、1,250円の支払いが必要となります。
なお、法律改正があり、2023年4月以降は、法定労働時間を超えて労働時間(法定休日労働を除く)が、月60時間を超えた場合には、60時間を超えた時間に対しては、最低でも5割増の割増賃金が必要となっています。
次に休日労働の割増賃金についてご説明したいと思います。
実は、休日労働という書き方は、少し正確性に欠けます。
正しくは法定休日に労働者に労働させた場合となります。
労働基準法では、労働者に少なくとも1週間に1日、または4週間に4日の休日を与えないといけないとされています。
この休日のことを法定休日と呼びます。
例えば、日曜日を法定休日と定めている場合であれば、日曜日に労働者に労働させた場合には、休日労働の割増賃金が必要となります。
割増率ですが、労働基準法では、最低でも3割5分増の割増賃金の支払いが規定されています。
従って、時給1,000円の労働者に法定休日に1時間労働させた場合には、最低でも1,000円の3割5分増の割増賃金の支払い、1,350円の支払いが必要となります。
次に深夜労働の割増賃金についてご説明したいと思います。
深夜労働の深夜とは、午後10時から翌日の朝5時までの時間を言います
その時間に労働者を労働させた場合には、深夜労働の割増賃金が必要となります。
割増率は、最低でも2割5分増以上となります。
ところで、深夜労働の割増賃金は、法定労働時間を超えて労働させた場合、休日労働をさせた場合における割増賃金の考え方と、違うところがあります。
もちろん基本的な考え方は同じなのですが、深夜労働の割増賃金は、他の2つとは異なり、少しイレギュラーなケースがあります。
実は、その点が割増賃金の計算において非常に重要なポイントなのですが、第3回目のブログで詳しくご説明いたしますので、ここでの説明は割愛させていただきます。
法定休日労働と法定外休日労働の割増賃金について
ここでは、法定休日労働と法定外休日労働の割増賃金についてご説明したいと思います。
先程、労働者に法定休日労働させた場合に、最低でも3割5分増の割増賃金が必要とご説明しました。
しかし、1日労働時間が8時間の場合、週の法定労働時間との関係で、法定休日以外にもう1日休日が必要となります。
この法定休日以外の休日を、一般的に法定外休日と称します。
実は、労働基準法では、法定外休日労働としての割増率を定めてはいません。
先程ご説明したように、1日の労働時間が8時間の場合、法定休日以外にもう1日休日が必要となります。
仮に土曜日、日曜日を休日として、日曜日を法定休日とした場合、土曜日が法定外休日となります。
法定休日の日曜日は休んで、土曜日に出勤した場合には、週の労働時間が40時間を超えるため、今回ご説明した法定労働時間を超えて労働させた場合と同じ考え方となるため、土曜日の休日労働に対する割増率は、最低でも2割5分増で良いこととなります。
そのため、多くの会社の就業規則では、労働者に法定休日に労働させた場合には3割5分増の割増賃金、法定外休日に労働させた場合には、2割5分増の割増賃金を支払うと規定されています。
上記のような規定をした場合に、1つ注意すべき点があります。
1日の労働時間が8時間の場合で、年末年始やゴールデンウイークといった時期に、土曜日、日曜日以外にも休日を設ける場合があります。
例えば、ある週の休日が、金曜日、土曜日、日曜日だった場合で、土曜日、日曜日は休んだけど、金曜日に休日出勤した場合、たとえ金曜日に休日労働しても、週の労働時間は、法定労働時間をこえないこととなります。
また、1日の労働時間が5時間で、土曜日と日曜日が休日という労働条件で雇用されている労働者の場合、土曜日に休日労働しても、週の労働時間は、法定労働時間を超えないこととなります。(5時間×6日=30時間)
このように、法定外休日に休日出勤しても、週の法定労働時間を超えないケースがあります。
週の法定労働時間を超えないのであれば、法律上は割増賃金を支払う必要はないこととなります。
しかし、就業規則に、法定外休日労働に対して2割5分増の割増賃金を支払うと規定すると、週の労働時間数に関係なく、法定外休日に労働した事実に対して割増賃金を支払うこととなりますので、この点はご注意下さい。
また、最近の就業規則では、さすがに見かけなくなったのですが、少し年代が古い就業規則では、「休日労働に対して 3割5分増の割増賃金を支給する。」と規定されている就業規則が結構ありました。
単に「休日労働」と規定してしまうと、法定外休日も休日ですから、法定外休日に労働させた場合には、3割5分増の割増賃金が必要となってきます。
もしこのような規定となっている場合には、いくら法律が 2割5分増で良いとしていても、就業規則で、法律の基準を上回る規定を定めれば、労働者の権利となりますので、会社としては、3割5分増の割増賃金を払わなければいけないこととなります。
もし割増率を2割5分増に下げるのであれば、これは労働者にとって不利益な変更となりますので、会社が一方的に行うことは基本的にはできず、労働者の同意が必要となってきます。
会社の経営状況が苦しくて、どうしても割増率を下げなければいけないのであれば、そのようなところをしっかりと説明をして、誠意ある対応を持って、労働者の同意をもらうようにしていただければと思います。
また、今後独立、開業を考えている方であれば、休日労働の規定については、法定休日と法定外休日を分けて規定をする方が良いかと思いますので、今後のご参考になさって下さい。
割増賃金はパートタイマー、アルバイト等にも必要
よく経営者の方から、
「うちの会社ではアルバイトやパートタイマーには割増賃金を払っていない。」
「割増賃金の支払いが必要なのは正社員だけで良い。」
このような声を耳にすることがあります。
ところで、正社員やパートタイマー、アルバイト、これらは、実は法律用語ではありません。
労働基準法等の法律には、正社員やパートタイマー、アルバイトといった用語は出てきません。
労働基準法等の法律で使われる用語は、「労働者」です。
法律で労働者という用語しか使われないということは、正社員もパートタイマーもアルバイトも全て同じ労働者なのです。
つまり、たとえ パートタイマーやアルバイトであったとしても、正社員と同じ法律上の権利を持つということとなります。
ですから、たとえパートタイマー、アルバイトであったとしても、今回ご説明したケースに該当する場合は、当然に割増賃金の支払いが必要となります。
もし パートタイマーだからアルバイトだからという理由だけで、割増賃金を支払わなければ、明確な労働基準法違反となります。
冒頭にブラック企業の特徴として、割増賃金が正しく支給されないということを言いました。
パートタイマー、アルバイトという理由だけで、割増賃金を正しく支払わなければ、会社はブラック企業化していく可能性が非常に高いです。
ですから、パートタイマー 、アルバイトであったとしても、割増賃金の考え方は正社員と全く同じですので、是非正しくご理解下さい。
まとめ
今回は、割増賃金の基本的な考え方等についてご説明しました。
冒頭にも書きましたが、割増賃金に対して誤った認識を持っていると、割増賃金の不払いや不足が生じてしまい、多額な損害が発生してしまうケースがあります。
また、ブラック企業の特徴として割増賃金が正しく支給されない、このようなことが挙げられます。
そのため、ブラック企業にならないために、適正な労務管理を実現するためには、割増賃金に対して正しく理解することは、非常に重要なポイントとなりますので、是非正しくご理解下さい。