就業規則の根本!絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項とは?
就業規則には、法律で定められたいくつかのルールがあります。
就業規則を作成・変更するには、まず、労働基準法で定められているルールの基準に適した形とする必要があります。
本ブログでは、就業規則を実際に作成・変更する際に最も重要なルールである絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項について解説したいと思います。
本ブログをお読みになれば、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項について正しく理解することができ、就業規則の全体像がお分かりになるかと思います。
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就業規則を3つに分ける? 記載事項の区分について
就業規則には、数多くの条文が規定されます。
通常は、60条前後ですが、中には、条文の数が100を超える就業規則もあります。
ところで、条文の数がいくつあっても、就業規則の各条文は、3つの種類に区分することができます。
その区分が、①絶対的必要記載事項と②相対的必要記載事項と③絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項以外の事項(任意記載事項)となります。
実は、就業規則のこの記載事項の区分を正しく理解すると就業規則の全体像が分かるようになり、就業規則を作成・変更する際にスムーズに行うことができます。
では、まず、絶対的必要記載事項についてご説明したいと思います。
就業規則の最重要ポイント! 絶対的必要記載事項とは?
絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければいけない事項を言います。
つまり、就業規則を作成する場合には、少なくとも絶対的必要記載事項だけは記載する必要があります。
仮に絶対的必要記載事項の一部でも記載されていないと法律違反となってしまいます。
絶対的必要記載事項は、具体的には以下の項目となります。
① 始業及終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業転換に関する事項
② 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払い時期並びに昇給に関する事項
③ 退職(解雇事由含む)に関する事項(退職手当を除く)
絶対的必要記載事項と労働基準法等との関係
さて、就業規則を作成する場合、絶対的必要記載事項については、必ず就業規則に記載しなければならない点についてはご理解いただけたかと思います。
ところで、絶対的必要記載事項については、もう1つ労働基準法等の法律との関係を考える必要があります。
つまり、絶対的必要記載事項は、どんな内容であって良いわけではなく、労働基準法等の法律の基準を満たしている必要があります。
ここでは、絶対的必要記載事項を規定する場合における労働基準法との関係についてご説明したいと思います。
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業転換に関する事項
絶対的必要記載事項は、①労働時間に関する事項 ②賃金に関する事項 ③退職に関する事項の3つに分かれます。
まず、最初に①労働時間に関する事項に関して、始業及び終業の時刻についてからご説明していきたいと思います。
始業及び終業の時刻について
始業及び終業の時刻についてですが、これは、会社が始まりと終わりの定時の時刻を記載しますが、労働基準法との関係で、法定労働時間内であることが必要です。
法定労働時間は、1日8時間、1週40時間とされているため、始業から終業までの時間は、8時間以内とする必要があります。(ただし、労働者数が、常時10人未満の小売業、保健衛生業等の一定の業種は特例で週の法定労働時間は、44時間となります。)
ただし、変形労働時間制等を用いる場合で、特定の日に1日8時間を超えて労働させることができる場合でも、1週間の労働時間は、平均して40時間以内にする必要があります。
また、始業及び終業時刻が、複数ある場合は、その全てを記載する必要がありますが、労働者によって始業及び終業時刻が異なる等の理由で、全てを記載することが困難な場合には、最もよく使用される時刻を記載し、勤務形態によって、始業及び終業時刻が異なる場合がある等の文言を記載すれば良いでしょう。
休憩時間について
次に休憩時間についてですが、休憩時間は、労働基準法により、労働時間が、6時間を超え8時間未満の場合には少なくとも45分間、8時間を超える場合には少なくとも1時間与える必要があります。
なお、休憩時間については、分割についての規定はないので、必ずしもまとまって与える必要はなく、15分間と45分間というように分割して与えることもできます。
ところで、休憩時間については注意点が2つあります。
まず、休憩時間は、必ず労働時間中に与える必要があります。
例えば、勤務時間が8時間の場合、労働時間中に30分休憩し、終業前に15分間休憩してそのまま退社するのは労働基準法の違反となります。
ですから、就業規則においても、休憩時間は、必ず労働時間中に規定する必要があります。
次に、休憩時間には、一斉付与の原則があります。
これは、休憩時間は、各労働者に個別に与えるものでは、全労働者一斉に与える必要があるということです。
ですから、この原則によれば、就業規則に休憩時間を規定する場合には、休憩時間は、何時から何時までと明確に規定する必要があります。
しかし、これを全業種に一律に適用したり、あまりに厳格に適用していますと、業務に支障が生じてしまう恐れがあります。
そのため、休憩時間の一斉付与には、2つの例外が規定されています。
まず、一斉付与しなくてもよい業種が規定されています。
具体的には以下の業種となります。
①運輸交通業 ②商業 ③金融広告業 ④映画・演劇業 ⑤通信業 ⑥保健衛生業⑦接客娯楽業 ⑧官公署
上記の業種については、休憩を一斉に付与しなくても良いので、例えば、⑦の接客娯楽業の飲食店で就業規則を作成する場合に、休憩時間について、例えば、「休憩時間は、勤務時間内で交代制により、1時間とする。」といった規定でも、良いこととなります。
また、上記の業種以外でも、労働者代表との労使協定を締結すれば、休憩時間を一斉に付与しなくてもよいとされています。
例えば、製造業は、上記の例外業種ではないので、休憩時間は、一斉に付与しなければなりませんが、労使協定を締結すれば、一斉に付与しないで、労働者ごとに時間をずらして休憩時間を与えることができるようになります。
休日について
次に休日と労働基準法との関係についてご説明したいと思います。
労働基準法では、休日については、最低でも1週間に1日又は4週間に4日与えなければならない、とされています。
ですから、就業規則に、「休日は1週間に1日とする。」と規定した場合、休日と労働基準法との関係だけで考えれば、法律の基準を満たしていることとなりますが、実は、休日については、法定労働時間との関係を考慮する必要があります。
例えば、1日8時間の勤務時間の会社では、1週間に1日しか休日を与えないと、6日勤務することとなるため、週の労働時間が、48時間となり、法定労働時間を超えてしまいます。
ですから、週の休日は2日以上(週休2日制)設ける必要があります。
また、週休2日制を導入できない場合には、変形労働時間制等を用いて、勤務時間が、法定労働時間内に収まる必要があります。
なお、変形労働時間制については、ここでの詳しいご説明は割愛させていただきます。
休暇と就業転換について
最後に、休暇と就業時転換についてお話ししたいと思います。
休暇については、有給休暇、産前産後休暇、生理休暇等の休暇について、記載する必要があり、これらの休暇には、労働基準法に規定がありますので、その基準を満たさなければなりません。
就業時転換については、交替期日、労働者の交替順序等を記載する必要があります。
②賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払い時期並びに昇給に関する事項
次に賃金に関する事項についてご説明したいと思います。
賃金は、労働者にとっても最も重要な労働条件となりますので、賃金に関する事項については、就業規則に正しく記載する必要があります。
賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払い時期について
労働基準法では、賃金に関して、いわゆる「賃金支払いの5原則」と呼ばれる規定を定めています。
具体的には、①通貨払いの原則 ②毎月1回以上払いの原則 ③一定期日払いの原則
④直接払いの原則 ⑤原則払いの原則 となります。
この中で、就業規則への記載、という視点から考えた場合に、関係してくる規定は、①通貨払いの原則 ②毎月1回以上払いの原則 ③一定期日払いの原則の3つと言えますので、ここでは、この3つの規定についてお話ししたいと思います。
①通貨払いの原則
通貨払いの原則とは、賃金は、「通貨」、国内で強制的に通用する貨幣(銀行券、鋳造貨幣)で支払うことが原則です。
つまり、いわゆる現金払いが基本となります。
ただし、労働者の同意を得た上で、労働者が指定する金融機関へ振り込む場合や労働組合と労働協約を締結して現物給与で支給する場合などでは、通貨払いの原則の例外が認められています。
ですから、金融機関への振込を前提で就業規則の規定を定めると、厳密に言えば、労働基準法違反となる恐れがあります。
また、小切手や外国通貨は、「通貨」とは認められてはいませんのでご注意下さい。
②毎月1回以上払いの原則
賃金は、暦日で1日から月末までの間に少なくとも1回以上支払う必要があります。
ですから、2ヶ月に1回支払う等の規定は、労働基準法違反となります。
③一定期日払いの原則
賃金は、「毎月10日」や「毎月月末」というように、一定期日で支払う必要があります。
但し、「毎月第4週の金曜日」という定め方は、月によって前後7日の差が生じてしまうため、認められないのでご注意下さい。
昇給に関する事項
昇給に関して、昇給の時期や昇給の条件を記載する必要があります。
ところで、昇給については、昇給を必ず行うことまでは、法律は求めていないので、昇給を行わなかったとしても法律違反とはなりません。
しかし、その場合には、昇給を行わない場合もある旨を必ず記載する必要があります。
③退職(解雇事由含む)に関する事項(退職手当を除く)
労働基準法による退職に関する事項とは、退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項と解されていて、任意退職(自己都合退職)、解雇、契約期間の満了、定年等が考えられます。
これらについての手続きや解雇となる事由等を記載する必要があります。
ただし、退職手当については、元々、事業主の義務ではないため、退職手当を支給しなくても法的に問題がないため、除かれています。
なお、退職手当は、相対的必要記載事項となります。
では、次にその相対的必要記載事項についてご説明したいと思います。
▼就業規則の見直しをご検討の方はこちら
育児・介護休業について
ここでは、特に育児・介護休業についてご説明したいと思います。
先程、ご説明しましたが、就業規則の絶対的必要記載事項として「休暇」がありますが、この「休暇」の中には、育児・介護休暇も含まれるものとされており、育児・介護休業法による育児・介護休業もこの育児・介護休暇に含まれます。
つまり、育児・介護休業法による育児・介護休業は、就業規則の絶対的必要記載事項となるため、対象となる労働者の範囲や付与要件、育児・介護休業取得に必要な手続き、休業期間については、就業規則に記載する必要があります。
ただし、育児・介護休業法においては、それらについて具体的に規定されているので、「育児・介護休業法の定めにより、育児・介護休業を与える。」等の規定があれば、記載義務は果たしたことと解されています。
また、別途、育児・介護休業規程を定めている場合には、「育児・介護規程の定めにより、育児・介護休業を与える。」といった旨の規定を記載すれば良いでしょう。
定めがある場合に必要?相対的必要記載事項について
相対的必要記載事項とは、定めるか定めないかは自由ですが、定めた場合には、必ず記載しなければ事項を言います。
労働基準法では、以下の項目を相対的必要記載事項と定めています。
① 退職手当に関する事項
② 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品などの負担に関する事項
④ 安全衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰、制裁に関する事項
⑧ その他全労働者に適用される事項
例えば、①の退職手当に関する事項ですが、先にも少し触れましたが、退職手当つまり退職金は、法律的には、事業主に支払いの義務はありません。
しかし、退職手当に関して定めをした場合、つまり、退職金制度を導入した場合には、その内容を就業規則に必ず記載しなければならないのです。
このように、相対的必要記載事項は、元々、定めが無ければ就業規則に記載する必要はないのですが、もし、一度、定めをした場合には、必ず就業規則に記載する必要があります。
ところで、就業規則とは少し離れますが、退職手当や賞与などは、法律的には、事業主に支払いの義務はありません。
しかし、一度、制度を設けた場合には、就業規則に記載する必要があり、つまり、労働者の権利となります。
ですから、一旦、制度を設けてしまえば、事業主が、一方的に制度の廃止、労働者にとっての不利な変更を行うことはできなくなりますので、注意が必要です。
任意記載事項について
任意記載事項は、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項以外の事項で、就業規則に記載義務がない事項を言います。
例えば、就業規則の基本来な考え方や、業務に対する経営者の考え方(社是、社訓等)、就業規則の適用の範囲などがあります。
任的記載事項については、原則的には、法律の制限がありませんので、公序良俗に反しない範囲内で任意に規定することができます。
就業規則は全ての会社が作成する必要がある・・・?
労働基準法は、全ての会社に就業規則の作成義務を求めてはいません。
就業規則を作成しなければならない場合、常時労働者を10人以上雇用している事業場とされています。
就業規則の作成義務については、2つの点に注意が必要となります。
まず、ここで言う、「労働者」には、正社員だけでなくパートタイマーやアルバイトも含まれます。
ですから、正社員が、1人しかいない会社でも、パートタイマーやアルバイトを合わせて、常時10人以上の労働者を雇用している場合には、就業規則を作成しなければなりません。
もう一点は、就業規則を作成するか否かの判断は、会社単位ではなく、事業場単位となります。
事業場とは、本社、支社、営業所、工場といった建物単位となります。
例えば、本社では、常時雇用する労働者数が15名で支社には5名しかいない場合には、就業規則は、本社だけが作成義務が生じることとなります。
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そもそも、就業規則は何故作成する?
今、お話ししましたように、法律的には、就業規則の作成義務がある事業場は、常時雇用する労働者数が10名以上の事業場となります。
逆に言えば、これに満たない事業場は、就業規則を作成しなくても法律的には問題ありません。
では、常時雇用する労働者数が10人未満の事業場は、就業規則を作成しなくても良いのでしょうか?
就業規則を作成する目的は、労働トラブルを防止し、秩序ある職場環境を維持することにあります。
労働者を雇用していれば、その人数にかかわらず労働トラブルが発生する可能性は、必ずあり、また一定の職場ルールが必要となります。
そのため、経営的に考えれば、たとえ、就業規則の作成義務が無い事業場であっても、就業規則は必要不可欠と言えます。
実は・・・周知は最重要ポイント!
最後に就業規則の周知についてお話ししたいと思います。
就業規則は、作成しただけでは不十分で、作成した就業規則を適正な方法で周知して初めてその効力を有します。
周知する方法は、労働者全員に就業規則の写しを配布することが最適と言えますが、法律は、そこまで求めておらず、食堂、休憩室等の見やすい場所への掲示又は備え付けや就業規則の内容を電子データとして、労働者が、常時確認できる機器の設置等でも可能です。
つまり、労働者が、就業規則の内容をいつでも確認できれば、周知義務は果たしたこととなります。
就業規則において、周知は非常に重要なポイントです。
就業規則を作成した場合には、必ず適正な方法で周知するようにして下さい。
就業規則と法令、労働契約との関係について
就業規則を作成する場合、労働基準法等の法令と労働契約(雇用契約)との関係に注意する必要があります。
労働基準法等の法令との関係については、先にも触れましたが、就業規則の内容が法令の基準に達していない場合は、その部分について無効となり、法令で定める基準によることとなります。
例えば、就業規則で1日の所定労働時間が8時間で休憩を30分間と定めた場合には、労働基準法の基準(労働時間が6時間を超える場合には45分間以上の休憩が必要)に達していないので、就業規則で休憩時間が30分とされていれも、45分間以上与える必要があります。
なお、無効となるのは、あくまで法令の基準に達していない部分のみであって、就業規則全体が無効となるわけではありません。
また、就業規則の基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分で無効となり、無効となった部分については、就業規則の定めによることとなります。
例えば、就業規則で給与が1日7時間労働で10,000円と定められている場合に、ある労働者と1日8時間労働で10,000円という労働条件で労働契約を締結した場合には、1日8時間労働という部分が無効となり、1日7時間労働という就業規則の基準に置き換えられることとなります。
この場合も労働契約全体が無効となるわけではなく、無効となるのは就業規則の基準に達していない部分のみとなります。
まとめ
今回のブログでは、就業規則の記載内容の区分を中心にお話ししてきました。
就業規則の記載内容は、絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項、任意記載事項に区分されます。
冒頭にも書きましたが、就業規則を作成する場合、この区分を正しく理解できれば、適正で有益な就業規則を作成することができますので、是非、今後のご参考にして下さい。
▼就業規則の見直しをご検討の方はこちら
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