就業規則での副業容認規定の意外な盲点とは・・?
働き方改革の一環として、副業が容認される動きとなっています。
これまで、わが国では、正社員が、勤務している会社以外で働くこと、いわゆる副業又は兼業について否定的な考えがされていました。
「退社後のアルバイトが見つかって、会社を解雇された。」といった話を聞いたことがあるかと思います。
しかし、近年、働き方改革に伴い、副業・兼業(以下は副業と称します。)に対する国のスタンスが大きく変わり、これでの否的なスタンスから肯定的なスタンスへと変わりました。
何故、肯定的なスタンスへと変わったのか?そもそも国のスタンスとは?等については、後で詳しくお話しますが、いずれにしても、今後、副業を行う労働者の数は増加するでしょう。
しかし、副業には、現時点では大きな問題点があります。。
実は、これは以前から問題でしたが、先程も言いましたが、副業自体が否定的に考えられていた関係で、副業する絶対数が決して多くはなかったために、あまり問題視されてこなかったのかもしれませんが、今後、副業人口の増加で必ず問題となってくるはずです。
しかも、それは、経営者の方はもちろん、むしろ副業をする労働者の方に是非知っておいて欲しいのです。
本ブログでは、その問題点の他に、副業についての考え方や副業が肯定的に考えられるようになった背景等についてわかりやすく解説してありますので、本ブログをお読みになれば、副業に関して正しく理解できますので、是非、お読みいただければと思います。
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何故、副業は否定的に考えられてきたのか?
副業とは、生計維持のために主となる会社以外に別の会社に勤務することです。(広い意味で自ら事業を行う場合も含むでしょう。)
従来からわが国では、副業は否定的にものとして考えられてきました。
しかし、副業自体は、以前からごく当たり前のように行われている面もあります。
複数のアルバイトを掛け持ちする学生や昼と夜と違う職場で働くパートタイマーなどは、極々当たり前にいますし、特別否定的と考えられることも無かったと言えます。
副業で問題となるのは、いわゆる正社員が副業する場合です。
では、何故、正社員の副業は否定的に捉えられてきたのでしょうか?
後でご説明しますが、副業を禁止する具体的な理由はいくつかありますが、これは私の個人的な見解ですが、それ以前に、わが国では、終身雇用制の元、正社員が働く会社は1社だけという(上手く表現できませんが)、何か漠然とした考えが支配的ということが大きく影響していたのではないでしょうか?
理由はともかくとして、「正社員は、副業をするのもではない」そして労働者自身も「副業はやってはいけないもの」といったイメージが少し前までは色濃く残っていたのは、事実かと思います。
では、法律的に考えた場合、「副業はやってはいけないもの」なのでしょうか?
法律上副業を禁止することは可能なのか?
多くの会社では、就業規則等で副業を禁止しています。
しかし、法律的に考えた場合、副業を禁止することは可能なのでしょうか?
ここでは、副業を法律的な視点から考えてみたいと思います。
労働者は、会社と雇用契約(労働契約)によって、働くべき時間(所定労働時間)を会社の指示命令を受けて適正に働く義務があります。
しかし、所定労働時間以外については、労働者は、労働する義務はなく、基本的に自由に利用できます。
これは、ごく当たり前のことで、会社を退社した後や休日に何をするのか?何処へ行くのか?誰と会うのか?いちいち会社に報告する人はいないはずです。
それは、所定労働時間以外は、会社の指示命令を受ける義務は基本的には無いからです。
もちろん、所定労働時間以外でも残業をする場合もありますが、しかし、残業を終えて退社すれば、基本的に自由です。
つまり、労働者は、会社で労働すべき時間以外は、自由に利用できる権利があります。
実際、労働基準法等の法律で、副業に関する規定は一切ありません。
ですから、就業規則に副業を禁止することは、本来はできないはずです。
しかし、現実には多くの会社で副業を禁止していて、裁判でも副業禁止を有効とした裁判例もあります。
では、どのような場合に副業を禁止することができるのでしょうか?
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そもそも、何故副業を禁止するのか
会社が、労働者の副業を禁止する理由は、労働者の副業を自由に認めてしまった場合に、会社が損害を被る場合が考えられるからです。
ですから、会社が損害を被る可能性があることを禁止することは、それはそれで合理性があります。
では、どのような場合に副業を禁止できると考えられているか、代表的な具体例でご説明したいと思います。
業務に支障が出ると考えられる場合
労働者は、雇用契約により適正な労働力を提供する義務があります。
例えば、会社に来ても居眠りばかりや単純なケアレスミスを繰り返しているようでは、適正な労働力を提供しているとは言えません。
従って、退社後や休日がいくら自由なことができると言っても、深夜まで副業をしていたりして、翌日の本業の業務に支障がでるのは、決して好ましくありません。
ですから、会社は、そのような事態を防ぐ意味で、副業を禁止しているケースが多々あります。
秘密漏洩防止のため
労働者が副業をする場合、本業の業務と関連する会社で副業をする場合も考えられます。
そのような場合には、当然、その労働者が、副業先の会社で本業で培ってきた技術やノウハウを活用する場合も考えられます。
その結果、情報が漏洩してしまう可能性があります。
情報漏洩は、企業にとって重大な問題となりますので、そのリスクを防ぐために副業を禁止する会社が多くあります。
会社の信用失墜を防止するため
会社が、副業を禁止する理由の1つに、会社の信用の失墜を防ぐこともあります。
労働者が副業をする場合に、副業先の業種が、風俗店や反社会的勢力と関連する会社の場合には、本業の会社の信用が損なわれてしまう場合が考えられます。
もし、そのような場所で副業をしていて、それが本業の会社との取引先等に発覚すれば、会社の信用は、大きく損なわれてしまう可能性が高いと言えます。
そのようなリスクを回避するために副業も禁止するケースも考えられます。
何故、国のスタンスは変わったのか?
これまで、お話してきましたように、副業に関しては、元々、それを禁止する法律はもちろん、副業に関する法律もありません。
そして、会社の指示命令が基本的に及ばない勤務時間外において、労働者が、基本的に自由に利用できる権利があります。
しかし、その一方で、副業によって会社に損害が生じる可能性がある場合に、副業を禁止することにもある程度合理性があります。
つまり、副業は、法律的な観点からは自由であるが、一定の場合は、会社はそれを制限できる、という考えとなります。
問題は、そのバランスです。
副業は、自由が前提で、例外的に副業を禁止するのか?
副業は、禁止が前提で、例外的に副業を認めるのか?
これまでの国のスタンスは、後者と言えます。
ただ、1つここで確認しておきたいのですが、先程も言いましたように、副業に関しての法律が特別あるわけではないので、国のスタンスといっても、法的に効力を持っているわけではありません。
しかし、厚生労働省が公開しているモデル就業規則には、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」といった趣旨の規定が定められていました。
もちろん、厚生労働省のモデル就業規則であっても、法的効力はありませんが、ただ、国が公表してるモデル就業規則にこのような規定があれば、当然、社会全体は、副業に対して否定的な立場を取るようになります。
そして、この規定を根拠に、多くの会社では、副業を原則禁止としてきました。
ちなみに、このような流れの根底には、先にお話した、終身雇用制度における正社員の在り方も大きく影響しているのでは?と個人的には考えます。
しかし、近年、政府が進めている働き方改革の一環として、副業に対して肯定的、積極的に推し進めるスタンスに変わりました。
その理由としては、所得が増えることはもちろん、自社では得ることができないスキルや経験を積むことができ、労働者のキャリアアップに繋がり、また、転職時にも有利になる、といったことが挙げられています。
つまり、副業人口が増えれば、労働市場の弾力化に繋がる、といった考えです。
そのため、厚生労働者が公表しているモデル就業規則も、原則、副業を認め、特定の場合禁止する、という内容に変更されました。(モデル就業規則の規定については、後で詳しくご説明します。)
もちろん、これも先程と同じで、法的拘束力はありませんが、国がこのような立場を取る以上、副業に対して肯定的な、もう少し表現を変えれば、今後は、正社員であっても副業することが、当たり前の社会となって来るのではないでしょうか。
このような動きが良いのか悪いのかは別として、企業としては、副業に関してのこのような動きに対してしかるべき対応をする必要があります。
では、ここからは、副業について企業として、どのような対応をしていく必要があるのか、どのような点に注意していく必要があるのかについてお話ししていきたいと思います。
最初に就業規則の改定についてお話ししたいと思います。
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就業規則の改定は必要なのか?
副業について国が容認のスタンスを取るようになり、それを受けて、厚生労働省が公開しているモデル就業規則が、改定されました。
先程もご紹介したように従来のモデル就業規則では、
・許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
といった、副業を禁止とした内容でした。
それが、平成30年の改定では、
第〇〇条
1 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
となり、労働者は、副業をできることを前提に、会社は、例外的に会社に損害を与えると考えられる場合に禁止することができる内容となっています。
ところで、繰返しになりますが、副業に関しての特別な法律は無く、モデル就業規則自体も法律的な拘束力はないので、会社の就業規則を必ずモデル就業規則のような変更しなければいけないというものではありません。
ただし、今後、社会全体が副業について容認の流れとなっていくかと思いますので、従来のように副業を原則禁止としていると、労働者との間でトラブルが起きてしまう可能性が高くなります。
これは個人的な見解ですが、就業規則を変更しなくて、従来のように許可制のままでも、許可の基準を下げて運用してしまえば、特別問題ないとも言えます。
ただし、モデル就業規則のような内容に変更した方が、労働者にとってもわかりやすい、ということはあると言えます。
次に、本ブログの最も重要なポイントですが、副業容認の動きの中で、あまり意識されていないのですが、副業には意外な盲点があります。
実は、これは非常に重要な問題と言えます。
副業の意外な盲点とは?
冒頭にも書きましたが、副業に関して現時点では大きな問題点があります。。
実は、これは以前から問題でもありましたが、副業する人口が少なかったこともあり、あまり問題視されてこなかったののですが、今後、副業人口の増加で必ず問題となってくると言えます。
それは、副業中における労災事故の問題です。
ご存知のように、労働者を1人でも雇用した場合には、会社は、労災保険に加入しなければなりません。
そして、万一、労働者が業務中又は通勤中に負傷又は疾病を負ったら、労災保険より保険給付を受けることができます。
その労災保険の給付の中に休業補償があります。
これは、業務中又は通勤中の負傷又は疾病により、働くことができなくなり、給与を受けることができなかった場合、労災保険から給与の約8割が支給されるものです。(ここでは、計算方法等については省略させていただきます。)
ところで、休業補償の給付額の算出は、現在の法律では、事故が起こった会社からもらっている給与額を基に計算されます。
となると、例えば、本業の会社で月に40万円の給与をもらっている労働者が、月に3万円の給与の会社で副業をしていて、副業先で業務中に怪我を負って、1ヶ月入院した場合、当然、副業の会社はもちろん、本業の会社も休まざる得ません。
この場合の休業補償の額は、副業先での給与を基に計算されますので、1ヶ月約2.4万円となります。
ここで問題なのは、本業の会社も休んでいるわけですから、有給休暇等を取得できなければ、当然、月40万円の給与は支払われないこととなります。
もし、休業が長期化すれば、労働者にとっては、死活問題となってしまいます。
実は、この点については、法律の改正の動きがあり、今後は改善される可能性はありますが、現時点では、上記のような取扱いがされます。
ところで、これは、会社というより、むしろ労働者が正しく認識する必要があります。
ただ、現実問題として多くの労働者は、このようなことを知らないまま副業そしてしまうでしょう。
ですから、モデル就業規則にもあるように、副業には何らかの届出を要する規定を定めている会社が多いので、その際に、労働者に周知させることも必要なのではないかと思います。
解雇も問題になるのでは?
私は、労災事故での休業補償以外にも、もう1つ問題があると考えます。
それは解雇の問題です。
副業先での業務中の負傷又は疾病によって休業を余儀なくされた場合に、当然に、本業の会社でも業務を行うことはできません。
労働基準法では、業務上の負傷又は疾病により休業する期間およびその後30日間については、会社は労働者を解雇することはできない規定がありますが、この法律が適用されるのは、あくまで副業先です。
本業の会社にとっては、あくまで支配命令が及ばない勤務時間外のことであるので、労働者から適正な労務が提供されなければ、雇用契約違反となり、解雇の問題も生じてきます。
もちろん、負傷や疾病は、私生活上でも起こる可能性はありますが、例えば、運送業や介護業等業種によっては、私生活上より何倍も負傷、疾病の危険度は高まります。
確かに、個々の労働者からみれば、副業先での負傷又は疾病が原因で、本業の会社からの解雇の問題に直面する可能性は決して高くないのかもしれませんが、副業する人数が増えれば、発生する確率は間違いなく高まります。
ですから、副業にはこのようなリスクも潜んでいるということを、労働者は、認識する必要があると言えます。
ここまでは、労働者が副業について認識すべきリスクについてですが、会社側にも注意すべき点があります。
では、会社は、副業についてどのような点を注意しなければならないのでしょうか?
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労働時間の管理について
労働基準法により、労働者に法定労働時間を超えて労働させた場合には、割増賃金の支払いが必要となります。
法定労働時間とは、具体的には1日8時、1週間40時間(一定の業種で常時労働者数が10人未満の場合には44時間)とされています。
ところで、この法定労働時間の考え方ですが、複数の会社に勤務する場合でも、労働時間は通算されるとされています。
つまり、法定労働時間は、会社ごとで判断されるのではなく、労働者個人が、1日何時間働いたかで判断されるのです。
例えば、A社に6時間、B社に4時間労働した場合には、合計で10時間労働となりますので、法定労働時間の1日8時間を超えた、2時間分の割増賃金の支払いが必要になります。
問題は、上記の事例の場合、A社とB社のどちらが、割増賃金を支払う必要があるか?です。
このような場合には、後で雇用契約を結んだ会社に割増賃金の支払い義務があるとされています。
これは、後で雇用契約を結ぶ会社は、その労働者が他の会社に勤務していることを確認した上で雇用契約を結ぶべきであるという考えによるものです。
つまり、正社員が副業する場合、副業先で法定労働時間を超える可能性が高いので、副業先は、雇用する労働者に、既に働いた労働時間を申告させることが必要となってきます。
ところで、これは少し余談ですが、労働時間の管理義務は、会社側にあります。
正社員が副業する場合には、多くの場合、退社後の時間帯となるため、ある程度の予測が付きますが、パートタイマーやアルバイトの場合には、日中に複数の会社で勤務する場合も考えられます。
もし、その労働者の1日の労働時間が8時間を超えた場合に、最後に雇用契約した会社に割増賃金の支払い義務があります。
ですから、会社は、労働者を雇用する場合には、常に自社以外の勤務先の有無及び労働時間の把握を行う必要があると言えます。
健康管理について
さらに、会社が副業について注意すべき点としては、労働者の健康管理にあります。
安全衛生法という法律により、会社は、労働者の健康を守るために必要な措置を講じる義務があります。
労働者が副業をすれば、当然長時間労働の可能性が高まります。
そのため、会社としては、労働者が副業を行っている場合には、それを前提に必要な健康確保措置を行う必要があります。
ただ、問題は、本業の会社と副業との会社は、通常は全く無関係な場合が多いため、例えば、本業の会社が、副業の会社の様子をする知るのは、労働者からの情報に頼るしかないと言えます。
そのため、会社は労働者のコミュニケーションを十分に図る必要があります。
ただし、労働者が、副業先に追っている守秘義務には十分注意する必要があります。
労働者の副業先での働き方に関する安全配慮義務に関しては、現時点では明確な司法判断が出ていないので、会社してどこまでの責任を負うべきかを判断するのは、難しいところもありますが、ただ、会社としては、副業を含めて労働者の健康確保についての義務を負うていることだけは留意すべきと言えます。
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まとめとここがポイント
今回は、副業についてお話ししてきました。
今回、お話ししてきたように、今後、正社員が副業することが、一般的になってくると言えます。
確かに、労働者のスキルアップが進んで、雇用の流動化により、経済が活性化する面はあるでしょう。
しかし、副業の背景には、副業をしなければ生活が出来ない、という貧困問題があるのは事実でしょう。
そのため、副業が拡大すれば、長時間労働等の労働問題がさらに深刻化する可能性もあります。
これは個人的な見解ですが、今回ご紹介した労災の問題や会社の安全配慮義務等法律の整備が追い付いていない面があることも否めないと思います。
今後、副業に関しては会社だけでなく、労働者もさらに注視していく必要があるでしょう。
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