Q 社有車の弁償金を給料から控除するのは違法なのですか?
【質問】
当社では、営業社員には社有車を与えています。
先日、業務中にある社員が、交通事故を起こしてしまい、社有車を破損させてしまいました。
事故の過失割合等を基に、その社員の弁償金額を算出し、その弁償額を給料から控除しました。
すると、その社員から「給料から弁償金を控除するの法律違反であるので、労働基準監督署に訴える」と言ってきました。
給料から弁償金を控除するのが、一番確かだし、労働者にとっても手間も省けると思うのですが、弁償金を給料から控除することは、本当に労働基準法に違反するのでしょうか?
【回答】
労使間で控除協定を締結すれば、組合費、寮費、購買費等の事理明白なものであれば給料から控除できますが、弁償金や修理費等は事理明白なものには該当しないため、弁償金や修理費等を給料から控除すると労働基準法違反となります。
【解説】
労働基準法第24条では、給料の全額払いの原則を規定しています。
つまり、元々、法律では、給料から一切控除することは認められておらず、その全額を労働者に支払わなければならないとされています。
これは、労働者にとって生活の糧である給料が確実に全額を労働者に渡るようにするための労働者保護の規定です。
しかし、この規定をあまりに厳格に適用してしまうと、かえって労働者にも不都合が生じてしまうため、例外規定が設けられています。
まず、「法令に特段の定めがある場合」があります。
例えば、源泉所得税や健康保険料は、所得税法や健康保険法によって、税金や保険料を控除できる旨が規定されています。
このように「法令に特段の定めがある場合」には、特別な手続きを経るこなく、給料からの控除が可能となります。
もし、給料の全額払いを厳格に適用してしまうと、税金や保険料を労働者自らが納付しなければならなくなり、これは労働者にとっても大変な不便となってしまいます。
そして、同じような観点から、税金や保険料のように「法令に特段の定めがある場合」以外のものであっても、給料から控除する方が、支払い等の手間が省け労働者にとって都合が良い場合もあります。
例えば、寮費や弁当代、自動車保険料、購買費、組合費などが考えられます。
ただし、「法令に特段の定めがある場合」以外のものを控除するのは、2つの条件を満たす必要があります。
まず、労使間による控除に関する協定の締結です。
そして、控除できるのは、寮費や弁当代、自動車保険料、購買費、組合費といった事理明白なものに限られます。
つまり、たとえ、労使間で控除に関する協定を締結しても、事理明白なもの以外を給料から控除することはできないのです。
では、今回のご質問にある、社有車の修理費用や弁償金は事理明白なものに該当するのでしょうか?
結論から言いますと、社有車の修理費用や弁償金は、事理明白なものには該当しません。
従って、社有車の修理費用や弁償金を給料から控除することは、労働基準法第24条違反となってしまいます。
なお、社有車の修理費用や弁償金は、元々、法律で控除できないものとなりますので、仮に労使間の控除に関する協定に社有車の修理費用や弁償金を控除できる旨を規定しても、その部分については無効となりますので、ご注意下さい。
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【ここがポイント】
なお、今回お話ししている内容は、あくまで、社有車の修理費用や弁償金を給料から控除できないのであって、その実損額に応じて労働者に修理費用や弁償金を請求し、労働者から直接支払いを受けることは差し支えありません。
ところで、社有車の修理費用や弁償金を請求する場合で、今回の内容とは別で注意すべき点があります。
よく、労働者に社有車の修理費用や弁償金を負担させる場合に、労働者に予め自動車保険の免責金額を支払う旨の約束をさせる場合があります。
しかし、労働基準法第18条では、損害賠償額を予定する契約を禁止しています。
従って、自動車保険の免責金額を支払う旨の約束は、免責金額が予め決まっているため、この法律に違反することとなってしまいますので、この点も併せてご注意下さい。
なお、給料に関しては、今回お話しした「全額払い」の他に4つの原則があり、一般的に「賃金支払いの5原則」と呼ばれています。
給料は労働者にとっても、最も重要な労働条件でありますので、その支払いについての法律を正しく理解することは、労務管理上非常に重要となります。
こちらのブログでは、「賃金支払いの5原則」(労働基準法第24条)についてわかりやすく解説してありますので、是非、お読み下さい。
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