有給休暇5日取得義務をわかりやすく徹底解説

我が国における有給休暇の取得率の低さは、長年の社会問題となっており、有給休暇の取得促進が課題とされていました。

 

そのため、働き方改革の一環として、労働基準法が改正され平成31年4月1日より、全ての企業において5日間の有給休暇取得が義務化されました。

 

今回の法律改正には、罰則規定も定められているため、企業にとっては、否応なく有給休暇の問題に取組む必要があります。

 

今回のブログでは、有給休暇の5日取得義務についてわかりやすく解説してありますので、本ブログをお読みになれば、今回の法律改正の概要がおわかりになるかと思います。

 

有給休暇の基本的なルールについて

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今回の改正の趣旨は、簡単に言えば、労働者に1年間に有給休暇を必ず5日取得させる、ということですが、1年間の起算日や対象となる労働者等において非常に複雑な制度と言えます。

 

従って、今回の改正を正しく運用するには、有給休暇に関する基本的なルールについて正しく理解しておく必要がありますので、最初に有給休暇の基本的なルールをについてご説明したいと思います。

 

なお、今回の法律改正についてのみ、お知りになりたい場合には、こちらかお読み下さい。

 

有給休暇の発生条件について

労働基準法では、労働者は、雇用された日から6ヶ月間継続雇用され、その6ヶ月間の全労働日の8割以上出勤した場合には、10日間の有給休暇が付与されるとされています。

 

つまり、有給休暇の発生条件は、以下の2つの条件を満たす必要があります。

 

① 6ヶ月間の継続雇用

② 全労働日の8割以上の出勤

 

ここで注意が必要なのは、有給休暇は単に6ヶ月間雇用されていれば付与されるのではなく、全労働日の8割以上出勤して初めて付与されることとなります。

 

なお、全労働日の8割以上の出勤の計算については、ここでのご説明は割愛させていただきますが、出勤率の計算方法等については、こちらのブログで詳しくご説明してあります。

 

法律では、全労働日含めない日や出勤していないが出勤したとみなす日等細かく規定が定められていますので、是非、お読み下さい。

 

>>有給休暇の出勤率の計算方法について教えて下さい

 

有給休暇の付与日数について

次に付与日数ですが、原則的に有給休暇は雇用されてから6ヶ月経過した時点で10日付与され、その後は、1年経過ごとに新たな有給休暇が付与されていきます。(下記図参照:出典 厚生労働省)

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また、労働基準法では、労働時間又は労働日数が少ないパートタイマー等に対しては、有給休暇の付与日数は所定労働日数に応じて比例付与されるとされています。(下記図参照:出典 厚生労働省)

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比例付与の対象となるのは、1週間の所定労働時間が30時間未満かつ1週間の所定労働日数が4日以下又は年間の所定労働日数が216日以下です。

 

ここで注意が必要なのですが、比例付与の対象となるには、1週間の所定労働時間と1週間の所定労働日数(又は年間労働日数)の両方同時に満たす必要があります。

 

ですから、1日の労働時間が1時間であっても、1週間の所定労働日数が5日のパートタイマー等は、比例付与には該当しないこととなりますので、原則的な付与日数が適用されます。

 

有給休暇の繰り越しについて

労働基準法では有給休暇は、翌年度に限り繰り越すことができるとされています。

 

この点は少し分かり難いので、具体的な数字を挙げてご説明したいと思います。

 

ある労働者(正社員)が、令和1年5月1日に入社した場合、6ヶ月経過後の令和1年11月1日に10日間の有給休暇が付与されます。

 

そして、さらに1年経過後の令和2年11月1日に新たに有給休暇が11日付与されます。

 

ところで、もし、令和1年11月1日に付与された10日の有給休暇を1日も消化せずに、令和2年11月1日を迎えた場合、10日の有給休暇の権利は、この時点で消滅するのではなく、1年間に繰り越すことができます。

 

従って、令和2年11月1日においては、新たに付与された11日の有給休暇と繰り越し分の10日との合計で21日の有給休暇の権利を有することとなります。

 

さらに、1年間経過後の令和3年11月1日には、新たに12日の有給休暇が付与されます。

 

ここで先程と同じように前年において1日も有給休暇を消化せずに令和3年11月1日を迎えた場合、令和1年11月1日に付与された10日の有給休暇は、その時点で時効により、権利が消滅してしまいます。

 

しかし、令和2年11月1日に付与された11日の有給休暇を繰り越すことができるので、令和3年11月1日においては、23日の有給休暇の権利を有することとなります。

 

以降、同じような計算をしていきます。

 

なお、有給休暇の付与日数は20日が最大ですので、繰り越し分を合わせて有給休暇の権利は、最大で40日となります。

 

半日単位及び時間単位の有給休暇

有給休暇は、1日単位で取得することが原則ですが、半日単位又は時間単位で取得することが可能です。

 

しかし、半日単位と時間単位とでは取扱いが大きく異なります。

 

半日単位の有給休暇の取得は特別な手続きは必要なく、1日単位取得の阻害とならない範囲であれば、会社が同意すれば取得することができ、取得できる日数も法律上規制がありません。

 

それに対して時間単位の有給休暇の取得は、労働者代表等との労使協定の締結が必要となり、時間単位で取得できる日数も5日までと上限が定められてします。

 

計画的付与

有給休暇の計画的付与とは、計画的に有給休暇の取得日を定めることにより、有給休暇の取得の促進を図る制度です。

 

有給休暇の計画的付与を行うには、労働者代表等との労使協定を締結する必要があります。

 

また、計画的付与できる日数に制限が定められていて、付与されている日数の5日を超える分しか計画的付与の対象とできません。

 

つまり、最低5日については、各労働者自らが請求できる権利を残す必要があります。

 

なお、有給休暇の計画的付与についてはこちらのブログに詳しく解説してありますので、是非、お読み下さい。

 

>>Q54.有給休暇の計画的付与とは、どのような制度なのでしょうか・・・?

 

それでは、いよいよ今回法律改正された、有給休暇5日の取得義務についてご説明したいと思います。

 

有給休暇5日取得義務について

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今回の有給休暇に関する労働基準法改正は、要は、会社は1年間に最低5日は有給休暇を取得させなければならない、というものですが、必ずしも全ての労働者が対象となるわけではなく、また法律適用の時期も一律ではない等、制度自体が複雑なところがあります。

 

ここでは、法律改正の重要なポイントを個々にわかりやすく解説していきたいと思います。

 

個々の労働者に対する法律適用の時期について

今回の法律改正は、平成31年4月1日施行ですが、個々の労働者に対して法律が適用される時期は、必ずしも平成31年4月1日ではありません。

 

先程、有給休暇の基本的なルールの中で、有給休暇は入社が6ヶ月経過後に最初に付与されて、その後は、1年経過ごとに付与されていくと書きました。

 

ですから、有給休暇は、入社後6ヶ月経過後の日に毎年1回付与されることとなります。

 

例えば、4月1日に入社した場合には毎年10月1日、7月15日入社の場合には毎年1月16日に有給休暇は付与されることとなります。

 

この有給休暇が付与される日を基準日と言います。

 

 

基準日は、入社日によって決まるので、個々の労働者によって異なってきます。

 

今回の法律改正により、個々の労働者に実際に法律が適用されるのは、平成31年4月1日以降の個々の労働者の基準日以降となります。

 

例えば、4月1日に入社した労働者の基準日は10月1日となるので、令和1年10月1日から法律適用となるので、会社はこの労働者に対しては、令和1年10月1日から1年間の間に最低5日以上の有給休暇を取得させなければならないこととなります。

 

このように今回の法律改正は、一斉に法律が適用されるのではなく、個々の労働者によって法律の適用の時期が違うので、個々の労働者の基準日を明確にすることが必要となります。

 

対象となる労働者

有給休暇5日取得義務は、全ての労働者が対象となるわけではありません。

 

対象となる労働者は、平成31年4月1日以降の基準日において、付与される有給休暇の日数が10日以上の労働者に限ります。

 

逆に言えば、基準日に有給休暇が付与される日数が、10日未満の労働者については、会社は、有給休暇を取得させる義務は生じないこととなります。

 

ここは重要なポイントなので少し詳しくご説明します。

 

 

先程ご説明しましたように、比例付与に該当しない、有給休暇の原則的な付与日数は、入社後6ヶ月経過時点で10日、その後1年経過ごとに、11日、12日と増えていきます。(下記表参照:出典厚生労働省)

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上記の表で分かるように、比例付与に該当しない労働者は、基準日には必ず新たに10日以上付与されるため、全て有給休暇5日取得義務の対象となります。

 

 

注意しなければならないのは、比例付与に該当する労働者です。

 

比例付与に該当する場合には、週の所定労働日数又は年間労働日数によって、有給休暇の付与日数が決まります。

 

今回の法律改正の対象となるのは、あくまで平成31年4月1日以降の基準日において、新たに付与される有給休暇の日数が10日以上の労働者であって、付与日数の中には前年度の繰り越し分は含まれません。

 

従って、比例付与に該当する労働者で、今回の法律改正の対象となってくるのは、下記表の太枠で囲った部分に該当する労働者となります。(出典:厚生労働省)

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有給休暇の時季指定について

今回の法律改正による、有給休暇5日取得義務においては、会社の取得時季の指定義務、という考えが方取られています。

 

しかし、これは会社が一方的に有給休暇の取得の時季を指定するのではなく、まず、労働者の意見を聞いて、可能な限り希望に沿った取得時季になるよう努めた上で、取得時季を指定することとなります。

 

イメージとしては、下記の図のようになります。(出典:厚生労働省)

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また、時季指定しなければならないのは、あくまで5日ですので、時季指定した日数が5日に達した場合には、それ以上の時季指定は必要なく、また、することもできない、ということとなります。

 

時季指定が必要ない場合について

ところで、有給休暇の時季指定を行う必要ない場合が考えられます。

 

今回の法律改正の趣旨は、あくまで労働者に最低でも年に5日は有給休暇を取得させる、というものですので、時季指定を行わなくても有給休暇の取得日数が5日を超えれば、当然、時季指定を行う必要はありません。

 

例えば、労働者自ら有給休暇を請求し取得していた場合や計画的付与により、既に有給休暇の取得が5日を超えていれば、その労働者に対しては、時季指定の必要はないし、また時季指定することもできないこととなります。

 

また、既に労働者自ら有給休暇を請求し取得した日数が3日場合には、2日について時季指定する必要があり、またできることとなります。

 

実際の運用について

ここでは、有給休暇5日取得義務における時季指定について、実際の運用面から考えてみたいと思います。

 

繰返しになりますが、今回の法律改正の趣旨は有給休暇の取得率上げるために、1年間に最低でも労働者に5日の有給休暇を取得させるために、取得時季の指定義務が法律で規定されたわけです。

 

ですから、毎年必ず有給休暇を取得する労働者とそうでない労働者とでは対応が異なってきます。

 

毎年必ず5日以上有給休暇を取得する労働者に対しては、通常は、取得状況を管理するだけで良いと言えます。

 

例年通り有給休暇を5日以上取得すれば、その年度は、もう、その労働者に対しては取得時季の指定を行う必要はなくなります。

 

 

しかし、普段からあまり有給休暇を取得しない労働者に対しては、早い段階から取得時季の指定を行う必要があります。

 

ただし、どの時点から取得時季の指定を行うかは、法律で特段の定めが無いので、会社が適時行えば良いこととなります。

 

 

例えば、最初の半年間位は、時季指定ではなく、有給休暇取得の促進を喚起させるだけにとどめ、それでも取得が進めなければ、半年経過した時位から取得時季の指定を行う、という流れが考えられます。

 

要はどういう形であれ、対象となる労働者が、年に5日以上の有給休暇を取得すれば法律の基準に達するわけですから、やみくもに取得時季の指定を行使するのではなく、取得時季の指定を上手に活用しながら有給休暇を取得させることが大切かと思います。

 

有給休暇管理簿作成の義務化

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今回の法律改正では、労働者ごとに有給休暇管理簿の作成が義務化されました。

 

有給休暇管理簿には、取得時季や取得日数、基準日等を記載して、3年間保存しなければなりません。

 

有給休暇管理簿は法律で様式が定められているわけではなく、必要な事項が明記されていれば、労働者名簿や賃金台帳等併せて調製すること可能です。

 

なお、有給休暇管理簿のひな型は、こちらの福井労働局のホームページにアップされていますので、ご参考になさって下さい。

 

>>福井労働局HP

 

ところで、これまで有給休暇の管理は、会社にはその義務はありませんでした。(そのため、有給休暇管理簿の作成義務もありませんでした)

 

しかし、今回の法律改正で、給休暇管理簿作成が義務化されたことにより、今後、労働基準監督署等の調査が行われた場合には、必ず給休暇管理簿が調査されると考えられますのでご注意下さい。

 

  • 就業規則への規定

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有給休暇は、就業規則を作成した場合に必ず作成しなければならない休暇に該当するため、時季指定を行う場合には、対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について就業規則に記載する必要があります。

 

記載内容につきましては、厚生労働省のモデル就業規則に記載例が公表されていますので、ご参考になさって下さい。

 

>>厚生労働省モデル就業規則(第5章 休暇等)

 

  • 罰則について

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今回の有給休暇5日取得義務において注目すべき点は、罰則規定が設けられた点でしょう。

 

罰則内容は、労働者に対して年5日の有給休暇を取得させなかった場合には、30万円以下の罰金となっています。

 

しかも、対象となる労働者1人につき1罪となりますので、厳しい内容と言えます。

 

 

ただ、労働基準監督署も「原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図ってもらう」としているので、いきなり罰則を課すことはないのでしょうが、罰則規定がある以上、「うちの会社では、年間に5日も有給を取られたらやっていけない」といったことで済まされるものではありませんので、会社としていかにして法律を遵守するか、対策を講じる必要があります。

 

先程、ご説明した就業規則への記載についても罰則規定(30万円以下の罰金)が定められているのでご注意下さい。

 

まとめ

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今回の有給休暇の5日取得義務化は、会社規模を問わず、対象となる労働者を雇用している全ての会社が対象となるため、働き方改革関連法案の中でも、最も影響が大きく、特に中小零細企業にとっては、大きな負担となると言えます。

 

 

しかし、我が国おける長時間労働、有給休暇の取得率の低さは、決して好ましい状態ではありません。

 

また、有給休暇を取得できるようになれば、労働者の心労の回復、モチベーションの向上により、生産性の向上が期待できます。

 

つまり、有給休暇の取得は、労働者・会社双方にとってメリットがあると言えます。

 

ですから、今回の法律改正を1つのチャンスと捉え、有給休暇の取得率の向上に努めていただければと思います。

 

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