Q 就業規則で有休取得による皆勤手当不支給の規定は違法ですか?
【質問】
当社では、社員の遅刻、早退、欠勤を防ぐ目的と社員のモチベーションを高めるために、1ヶ月間、無遅刻、無早退、無欠勤だった社員に皆勤手当を支給しています。
ただ、就業規則では、有給休暇で休んだ場合も皆勤手当を支給しない規定となっています。
これまでほとんど有給休暇を取得する社員がいなかったので、あまり意識してこなかったのですが、先日、有給休暇を取得した社員がいて、就業規則の規定通りに皆勤手当を支給しませんでした。
すると、その社員から、有給休暇を取得した者に対して、賃金カット等の不利益な取扱いをするのは労働基準法違反だから、皆勤手当を支給するよう請求がありました。
本当に、有休取得を取得した場合に皆勤手当を支払わないのは、法律違反となるのでしょうか?
もし、法律違反とした場合に、罰金等の処罰を受けるのでしょうか?
【回答】
皆勤手当の額が、相対的に高額でない限り、有給休暇取得による皆勤手当の不支給は、違法とはならないとされています。
【解説】
皆勤手当は、昔から使用されている手当で、今でも特に中小企業では、好まれて使われている手当の1つです。
ところで、労働基準法等の法律では、手当の支給方法や支給額等についての規定は一切ありません。
従って、どのような手当をどのような名称でどのような基準でいくら支払うか等については、経営者が任意に決めることができます。
ですから、今回、ご質問にある皆勤手当も、会社によって支給基準が異なっていても、また皆勤手当以外の名称で支給しても法律的に何の問題もありません。
では、皆勤手当の条件を有給休暇を取得した場合には支給しないと規定した場合の問題点について考えてみたいと思います。
先程、お話しましたように、皆勤手当の支給の基準は自由に決められます。
しかし、その一方、労働基準法で「使用者は、有給休暇を取得した者に対して、給与を減らす等の不利益な取扱いをしてはならない」という規定があります。(労働基準法136条)
どんなに手当の内容を自由に決めれると言っても、法律に反する内容にするのは、問題があります。
では、有給休暇を取得した場合に皆勤手当を支給しない規定が、この労働基準法第136条に違反するかどうかですが、一見、皆勤手当支給しないわけですから、給与の減額に当たり法律に反しているように思えますが、実は、有給休暇取得による皆勤手当不支給については、最高裁の判決が出ています。(沼津交通事件 H5.6.25最高裁第二小法廷判決)
この判決では、労働基準法136条は努力義務規定であって、また、皆勤手当の額が、相対的に高額でないため、有給休暇の取得を抑制するほどの大きな力はないと判断され、結果的に、有給休暇を取得した場合に皆勤手当を支給しない行為は、法律には反していないといています。
ですから、皆勤手当の額が、給与額全体から判断して、相対的に高額でなければ、法律違反とはならない可能性が高いと言えます。
なお、労働基準法第136条に関しては、罰則が定められていませんので、仮に、法律違反とみなされたとしても、罰金等処罰されることはありません。
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【ここがポイント】
先程、ご紹介した最高裁の判決で注意すべき点は、皆勤手当の額が相対的に高額ではなかった点が、重要視されている点です。
つまり、皆勤手当の額が高額であれば労働者が受ける損失も大きくなり、結果的に有給休暇取得の抑制に繋がってしまうため、違法となってしまう可能性が出てきます。
ただ、皆勤手当の額がいくらであれば違法とならないかは、明確な基準がないので判断が難しいところがありますが、あくまで個人的な考えですが、皆勤手当の額が、1万円以下であれば、違法とは判断されない可能性が高いのではないかと思います。
最後に余談ですが、皆勤手当と精勤手当の違いについてお話したいと思います。
皆勤手当は、文字通り「皆勤」、給与支払い対象期間の全て出勤した場合(無遅刻、無早退、無欠勤)に支給されるケースが多いと言えます。
それに対して、「精勤」は、勤に精を出すという意味ですので、勤に精を出した、ということみなされれば支給される、つまり、多少の遅刻、早退、欠勤があっても支給される場合が多いと言えます。
ただし、今回、お話したように、手当についての法律の規定がないので、皆勤手当や精勤手当の内容が法律で規定されているわけではないので、多少の遅刻、早退、欠勤があっても皆勤手当の名称で支給する会社もありますし、支給、不支給の基準となる遅刻、早退、欠勤の回数等も会社によってまちまちです。
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