最低賃金の計算方法について
最低賃金制度とは、最低賃金法によって国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上を支払わなければならないとする制度です。
従って、労働者に支払っている給与が最低賃金額を下回っていると法律違反となってしまうため、経営者は、最低賃金の計算方法について正しく理解する必要があります。
ところで、最低賃金は種類が2つあり、また、最低賃金に含まれない手当等が規定されているなど、非常に複雑な制度です。
本ブログでは、前半部分で最低賃金の仕組みや最低賃金を計算する際の注意すべきポイントを解りやすく解説してあり、そして、後半部分では、給与形態ごとに、実際に最低賃金を上回っているかの計算事例をご紹介してありまので、本ブログをお読みになれば、最低賃金の計算方法について正しくご理解いただけるかと思います。
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最低賃金が適用される労働者
最低賃金を考える大前提として、最低賃金は、労働する全ての人に賃金の最低額を保障する制度であるため、年齢やパートタイマー、学生アルバイトといった働き方の違いに関わらず全ての労働者に適用されます。
まず、この点は、今一度ご確認下さい。
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地域別最低賃金と特定最低賃金
まず、最低賃金には、2つの種類あります。
一般的に広く知られているのが、地域別最低賃金で都道府県ごとに決められています。
令和1年5月1日現在の地域別最低賃金はこちらをご覧下さい。
>>地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)
例えば、東京都の地域別最低賃金は、985円となっておりますので、東京都の事業場で労働者を雇用する場合には、時間給当たり985円以上で雇用しなければなりません。
ところで、最低賃金には、もう1つ特定最低賃金が定められています。
特定最低賃金とは、特定の産業又は職業ごとに決められる最低賃金で、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定めることが必要と認められた場合に決められます。
令和1年5月1日現在の特定最低賃金はこちらをご覧下さい。
>>特定最低賃金の全国一覧(厚生労働省)
特定最低賃金も都道府県ごとに定められますが、産業又は職業は、都道府県ごとによって異なってきます。
そして、特定最低賃金が定められている産業又職業において、地域別最低賃金と比較して特定最低賃金の方が高い場合には、そちらを最低賃金として使用します。
例えば、千葉県の地域別最低賃金は895円ですが、鉄鋼業が、特定最低賃金として965円として定められています。
従って、千葉県内で鉄鋼業に従事する労働者に対しては、時間給にして965円以上の賃金を支払う必要があります。
それに対して、埼玉県では、鉄鋼業は特定最低賃金には指定されていませんので、埼玉県内で鉄鋼業に従事する労働者に対しては、埼玉県の地域別最低賃金である898円以上の賃金を支払えばよいこととなります。
最低賃金は事業場ごとに適用
最低賃金は、会社単位ではなく事業場ごとに適用されることとなります。
事業場とは、本社、支社、支店、営業所といった組織上、ある程度独立して業務が行われている単位を言います。
ですから、本社が東京都にあり埼玉県に支店がある場合には、本社の労働者は東京都の最低賃金、支店の労働者は埼玉県の最低賃金が適用されることとなります。
派遣労働者の最低賃金
派遣労働者の場合には、派遣先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用されます。
派遣元の事業場の都道府県ではありませんのでご注意下さい。
例えば、派遣元の事業場が埼玉県であっても、派遣先の事業場が東京都の場合には、東京都の最低賃金が適用されます。
また、派遣先の事業場に特定賃金が適用される場合には、その特定賃金額が適用されます。(ただし、地域別最低賃金の方が高い場合には、地域別最低賃金が適用されます。)
最低賃金の計算方法
最低賃金は、時間給額で決定されるため、支払っている給与が最低賃金を上回っているか計算するには、支給給与を時間給額に換算する必要があります。
給与が元々時間給で支給されている場合には、その額が最低賃金を上回っていれば問題無いのですが、給与が日給又は月給、歩合給等で支給されている場合には、先程お話ししましたように時間給額に換算しなければなりません。
ここでは、時間給額への換算する方法についてご説明したいと思います。
日給制の場合
給与が日給で支給されている場合には、日給額を1日の所定労働時間で除して時間給額へ換算します。
日給月給制・月給制の場合
給与が月額(月給制又は日給月給制)で支給されている場合には、「月の平均所定労働時間」という考え方を用いて、時間給額へ換算します。
なお、月給制と日給月給制の違いについては、是非こちらをお読み下さい。
「月の平均所定労働時間」は、年間の休日日数(又は勤務日数)と1日所定労働時間によって算出します。
ここでは具体的に、1日の所定労働時間が8時間、年間の休日日数が105日の会社を例に「月の平均所定労働時間」を算出してみたいと思います。
年間休日日数が105日ということは、年間の勤務日数は、365日-105日=260日となります。
次に1年間の総労働時間を計算します。
1年間の総労働時間は、1日の所定労働時間が8時間ですので、260日×8時間=2,080時間となります。
従って、1ヶ月の平均労働時間は、2,080時間÷12ヶ月=173.33時間となります。
この173.33時間を使用して、月額を時間給額に換算します。
例えば、上記のケースで、月額給与が160,000円の場合に最低賃金を上回っているか否か確認方法は、160,000円÷173.33時間=923円となりますので、最低賃金が923円以下の都道府県であれば、最低賃金額を上回っていることとなります。
歩合給制の場合
タクシー運転手等、給与が歩合給で支給されている場合には、また少し計算方法が異なります。
歩合給について、時間給額に換算する場合には、月間の総労働時間を用います。
ここで注意が必要な点は、歩合制の場合、先程ご説明した月の平均所定労働時間を用いるのではなく、その月に実際に働いた労働時間を使い、時間外労働の時間も含みます。
例えば、ある月の給与が160,000円とします。
そして、160,000円が全て歩合給で支給され、この160,000円を得るために時間外労働も含めて180時間労働したとします。
この場合の時間給額への換算方法は、160,000円÷180時間=888円となります。
しかし、別の月では、160,000円を得るために働いた時間が、時間外労働も含めて200時間だった場合には、
160,000円÷200時間=800円となります。
このように歩合給を時間給額へ換算する場合には、月の平均労働時間を使用するのではなく、その月の時間外労働を含めた総労働時間を用いますのでご注意下さい。
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最低賃金に含めない手当とは?
最低賃金を計算する際にもう1つ重要なポイントは、最低賃金の対象とならない賃金・手当等です。
具体的には、以下の賃金・手当等となります。
① 精皆勤手当、通勤手当および家族手当
② 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③ 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
④ 割増賃金(時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金等)
例えば、基本給160,000円と通勤手当10,000円が支給されていた場合には、最低賃金を計算する場合には、基本給の160,000円のみで計算されることとなります。
また、固定残業や定額時間外割増賃金等、割増賃金が固定給の形で支給されていても、最低賃金の対象外と取扱われます。
では、これまでご説明してきた、最低賃金を計算する際の注意点を基に、実際にいくつかの事例で最低賃金を計算してみたいと思います。
最低賃金の計算事例
ここでは、最低賃金の実際の計算事例をご紹介していきたいと思いますが、前提条件を以下とします。
① 事業所(本店)所在地:静岡県
② 業種:塗料製造業
③ 月の平均所定労働時間:168時間
④ 地域別最低賃金:858円(令和1年5月現在)
ケース① 基本給(月給)のみの場合
【給与条件】
基本給 120,000円
120,000円÷168時間=714円となり、最低賃金額858円を下回っていることとなります。
ちなみに、最低賃金を上回るには、858円×168時間=144,144円となるので、基本給を144,144円以上にする必要があります。
ケース② 基本給(月給)+ 各手当(月額) その1
【給与条件】
基 本 給 130,000円(月額)
資格手当 10,000円(月額)
役職手当 10,000円(月額)
合 計 150,000円
資格手当も役職手当も最低賃金の対象賃金に含めることができますので、150,000円÷168時間=892円となり、最低賃金額858円を上回っています。
また、塗料製造業は、静岡県では特定最低賃金には指定されていないので、地域別最低賃金を上回っていれば法律の基準を満たすこととなります。
ケース③ 基本給(月給)+ 各手当(月額) その2
【給与条件】
基 本 給 130,000円(月額)
資格手当 10,000円(月額)
家族手当 10,000円(月額)
合 計 150,000円
これは、先程の役職手当が家族手当となっているケースですが、家族手当は、最低賃金の対象賃金ではないため、140,000円(150,000円-10,000円)÷168時間=833円となり、最低賃金額858円を下回ることとなります。
ケース④ 基本給(時間給)+ 各手当(月額)その1
【給与条件】
基本給 800円(時間給)
資格手当 5,000円(月額)
役職手当 5,000円(月額)
基本給が時間給で手当が月額で支給されている場合には、手当を時間給額に換算します。
10,000円(5,000円+5,000円)168時間=59円となり、これを基本給に加算すると、800円+59円=859円となり、最低賃金額の858円を上回っていることとなります。
ケース⑤ 基本給(時間給)+ 各手当(月額)その2
【給与条件】
基本給 800円(時間給)
資格手当 5,000円(月額)
家族手当 5,000円(月額)
この場合、家族手当は最低賃金の対象にはなりませんので、資格手当だけを時間額に換算します。
5,000円÷168時間=29円となり、これを基本給の時給額に加算すると、800円+29円=829円となりますので、最低賃金額858円を下回ることとなります。
ケース⑥ 基本給(月給)+ 定額残業代(月給)
【給与条件】
基本給 130,000円(月額)
営業手当 30,000円(月額) ※定額残業代として支給
合 計 160,000円
時間外手当等の割増賃金は、最低賃金の対象にはなりません。
従って、定額で支給されていても、また名称の如何に関わらず、割増賃金の趣旨で支給されていれば、最低賃金の対象となりません。
従ってこのケースでは、130,000円÷168時間=773円となり、最低賃金額858円を下回っており、法律違反となります。
ケース⑦ 歩合給が含まれる場合
【給与条件】
基本給 100,000円(月額)
歩合給 50,000円(月額)
合 計 150,000円
当月の所定労働時間173時間
給与に歩合給が含まれている場合には、歩合給の部分については、月の総労働時間で計算します。
この場合に注意すべき点は、歩合給を計算する場合には、月の平均所定労働時間を用いるのではなく、当月の当月の総労働時間で計算します。
今回のケースでは、当月の所定労働時間173時間となっていますので、歩合給50,000円を173時間で割ります。
また、基本給については、これまでご説明したように、月の平均所定労働時間で割ります。
そして、それぞれ算出された額を合計します。
つまり、
基本給部分・・・100,000円÷168時間=595円
歩合給部分・・・50,000円÷173時間=289円
となりますので、595円+289円=884円となり、最低賃金額858円を上回っていることとなります。
しかし、もし、時間外労働を30時間していた場合には、当月の総労働時間は203時間(173時間+30時間)となるので、203時間で歩合給額を割ることとなります。
ですから、
基本給部分・・・100,000円÷168時間=595円
歩合給部分・・・50,000円÷203時間=246円
となりますので、従って、595円+246円=841円となり、最低賃金額858円を下回っており、法律違反となります。
このように、給与額に歩合給が含まれている場合には、計算に使う労働時間が異なってきますので、注意が必要です。
ケース⑧ 支店等勤務の場合
【給与条件】
基 本 給 130,000円(月額)
資格手当 10,000円(月額)
役職手当 10,000円(月額)
合 計 150,000円
【勤務地】 栃木県内の工場
ここでは、ケース②の給与条件の労働者が栃木県内の工場で勤務していた場合を考えてみます。
ケース②では、時間給額に換算すると、892円となり、静岡県の最低賃金額858円を上回っており、塗料製造業は、特定最低賃金にも指定されていないので、静岡県内で労働する場合には、法律の基準を満たして言います。
しかし、最低賃金は、事業場ごとに適用されるので、栃木県内の工場に従事している場合には、栃木県の最低賃金が適用されます。
栃木県の地域別最低賃金は826円ですが、塗料製造業が、特定最低賃金に指定されていて、943円となっていますので、このケースでは法律違反となってしまいます。
最低賃金の減額特例
ここでは、最低賃金の減額特例についてお話ししたいと思います。
これまでお話ししてきましたように、最低賃金は、全ての労働者に適用されますが、その一方で、通常の労働者より労働能力が著しく劣っている場合には、最低賃金を一律に適用してしまうと、逆に雇用機会が減少してしまう恐れがあるので、特定の労働者については、各都道府県の労働局長の許可を受けることにより、最低賃金の減額特例が認められています。
具体的には、以下の対象者に限定されています。
① 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
② 試の使用期間中の者
③ 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者
④ 軽易な業務に従事する者
⑤ 断続的労働に従事する者
ところで、最低賃金の減額特例には1つ注意すべきポイントがあります。
最低賃金の減額特例は許可制ですので、あくまで許可を受けて初めて最低賃金を下回ることが可能となります。
最低賃金の減額特例を申請する場合、一定期間の労働状況の報告が必要となります。
つまり、仮に上記の対象労働者を雇用したとしても、許可を受けることができるのは、雇用後一定期間の後となります。
従って、最低賃金の減額特例の許可を受けるまでは、通常の最低賃金が適用されることとなります。
そのため、最低賃金の減額特例を適用すると、現状の賃金より低下することとなりますので、その旨を労働者によく説明しておくことが重要と言えます。
罰則について
最後に罰則についてお話ししたいと思います。
最低賃金に関する罰則は、最低賃金の種類によって適用される法律と罰則額が異なっています。
地域別最低賃金以上を支払わなかった場合には、最低賃金法に50万円以下の罰金が定められていて、特定最低賃金以上を支払わなかった場合には、労働基準法に30万円以下の罰金が定められています。
ちなみに、会社及び労働者の双方合意で最低賃金以下の金額で雇用契約を締結したとしても、その部分については法律で無効となり、最低賃金と同額で契約したとみなされることとなります。
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まとめ
今回は、最低賃金の計算方法を中心にお話ししてきました。
最低賃金を計算する上でのポイントは、
① 最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。
② 最低賃金は、企業ごとではなく、事業場ごとに適用されます。
③ 家族手当、住宅手当、割増賃金等最低賃金の対象とならない手当等があります。
④ 最低賃金は、月の平均所定労働時間を用いて、時間給額に換算します。ただし、歩合給については、その月の総労働時間を用います。
などが挙げられます。
給与は労働者にとって最も重要な労働条件で、最低賃金はその根幹をなすものです。
従って、最低賃金を正しく理解することは、労務管理上において非常に重要な事項ですので、是非、今後のご参考になさって下さい。
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